2023
■カエルの子はケーキ
++++
「あ~……もームリ……」
「すがやん頑張ってくれたよね! ホントにありがとう!」
「くるみ、何か甘くない物ある?」
「コーヒーか紅茶ならあるよ」
「欲しいです」
「どっち? 紅茶?」
「あー……苦い方がいいからコーヒーで」
「ちょっと待ってね」
今日はちょっと遅めのクリスマスパーティー、厳密にはくるみが動画のために切ったケーキをひたすらに食べまくる大会にお呼ばれしている。サークルの時には8ホール切るよって聞いてたけど、蓋を開けてみれば予定より増えて10ホールのケーキを切っていたらしいので、みちるの部屋に並べられたケーキの圧が物凄かった。
男子には5ピース以上というノルマが課せられていて、女子はお腹の容量が許すまでと言われていたけどまあまあ頑張って7ピース食べた。その結果腹がパンパン過ぎてマ~ジで苦しい。何かが間違えば食ったモンが戻って来そう。もうしばらく甘いものはいいし、口の中も早いところリセットしたい。
「徹平くん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです」
「本当に苦しそう」
「腹がマジでパンパン。苦しい。詰め込むだけ詰め込んだからすっごい出てる」
「ホントにパンパン」
ケーキでいっぱいになった腹を春風と一緒にさする。ちなみに春風は今日用意されていたケーキを全種類食べ回った上で、みんなそれなりに苦しくなってきた頃合いでも普通にケーキを食べ続けていた。合間にみちるが作ってくれた箸休めのミネストローネと、北星が持って来てくれたチキンを挟みながらだ。さすがの春風様、頭が上がりません。
「息するのも苦しい」
「こういう時に楽になる呼吸法なんかがあればいいんだけど」
「戻さないようにだけ頑張ります」
「6つで止めておけば良かったですね」
「ホントに」
「はいすがやんコーヒー。苦い方がいいって言ったから砂糖もミルクもなしだけど」
「あんがと」
「何かそうやってると赤ちゃんが生まれるの待ってる新婚夫婦みたいだよ」
「や、腹さすられてるの俺なんだけど?」
「その辺は、科学技術の進歩で? 男の子ですかー、女の子ですかー?」
「元気に生まれて来て下さいねー」
「や、春風が乗るのか」
「あたしもビックリした。とりぃ、そういう冗談に乗るんだね」
「私も全く冗談が通じないわけではないのですよ、奏多には堅物扱いされますけど」
しかしながら今の俺にはその冗談に対して適切に応対するだけの余裕が全くない。胃に頑張ってもらうしかないんだ。漢方的な胃薬持って来とけばよかった。6つ食べた時点でそろそろ危ないかなと思ったんだけど、自分が向島留学中にたなべの満腹セットを食べた経歴からまだもうちょっとだけイケると思ってしまった。10代と20代の壁かこれが…!
「って言うか春風って俺の倍くらい食べてんじゃん」
「そうですね、サイドメニューも含めればそれくらいにはなっているかと」
「ちょっとごめんな? ……食ったのどこにいった? ぺったんこなんだけど?」
「ウソ!? とりぃちょっとごめんね? ……ホントだ! ぺったんこだ!」
「さすがに少しは出ていますよ」
「出てる感があんまりないような気が」
「とりぃ、ちなみにお腹いっぱい? まだ入る?」
「まだ入りますよ」
あれだけ食ってまだ入るのがマジで凄いし、どれだけ食べてもずっと美味そうに食ってるのが可愛いんだけども。本人曰くさすがに満腹感は覚えるらしいけど、どこまで食ったら満腹になるのかを俺はまだ見たことがない。俺の知ってる人だと果林先輩のヤバさが強調されてるけど、春風も十分四次元胃袋って言われるレベルだよなあ。
「でも、すがやんととりぃの子供だったらどんな学問に興味を持つんだろうね?」
「つか学問縛りなのかよ」
「子は親の鏡って言うじゃん。何かしらにどっぷり興味を持ちそうだけど。あ~、宇宙と、地面の他だったら海とか! 釣りに行った延長とかで!」
「海にも解き明かされていない謎がたくさんありますからね。非常に興味深いです」
「それは間違いない……って、そんな話してたのバレたら真宙さんにぶっ飛ばされそうだ」
「兄さんのことは気にしなくていいんですよ」
「あー……とりぃの家ってお兄ちゃんがすっごい厳しいんだったね」
結婚をすっ飛ばして子供の話なんて、と怒り狂う真宙さんのイメージが湧いてしまう。多分春風と奏多の影響で想像がエスカレートしてるんだろうけど。付き合い始めの大事にします宣言から少~しずつ段階も進んでるけど、間違いだけは起こらないようにより一層の注意を。
「厳しいと言うか、過保護なんですよ。歳の離れた妹なので、いつまで経っても子ども扱いなんです」
「お父さんとかお母さんもすがやんのことは知ってるんでしょ?」
「そうですね。家族ぐるみの付き合いとまでは行きませんが、如何せん菅谷先生には兄共々お世話になっているので、バーベキューにお招きしたりはしましたよ」
「あっ! 何だっけ、2人って実際出会う前にすがやんのお母さんつてに本の上で運命的な出会いしてたってヤツだよね!? レナから聞いた!」
「いや、そんな大層な話じゃない」
「先生から貸していただいた地質学の本に息子さんがメモ書きした付箋がたくさん付いていた、というエピソードですよね」
「すごいよね~、いくら同じエリアって言ってもそうそうある話じゃないよ~」
「それはそうでしょうけど」
「出会うべくして出会ったって感じ! だってすがやんの地層の話をニコニコして聞ける人なんてとりぃくらいしかいないよ! すがやんいい? 地面の断面とスイーツの断面は似てるようで全っ然違うんだからね! すがやんのレベルで断面の話をされてもあたしじゃちんぷんかんぷんなんだから!」
「ミルクレープの話はしてもいいですか」
「それは大歓迎!」
自分の趣味の話をあんまりゴリゴリしないように気を付けてはいたつもりだけど、スイーツの断面フェチのくるみにはついちょっと踏み込んだ話をしがちになるみたいだ。地層とスイーツの断面は似ているようで全然違う。頭ではわかってるんだけど。でもミルクレープの層を重ねる時間のロマンはガチだ。
「はー、やっとちょっと楽になった」
「くるみ、まだ残っているケーキを食べても大丈夫ですか?」
「いいよー、みんなもう苦しいみたい」
「ではいただきますね」
「それだけ食べても太らないの羨ましいなー」
「えっ、太りますよ! 太ります! 食べた後はしばらく意識的に運動量を増やすようにしているんですよ」
「あー、やっぱり運動かー」
「私は食べても太らない特異体質ではないのですよ」
end.
++++
鳥居兄妹はたくさん食べるから塩見さん的にも見ていてさぞ気持ちが良かろうと
すがやんの食べる量は人並みくらいなので、満腹セットは食べ切れてもかなり苦しい。
(phase3)
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「あ~……もームリ……」
「すがやん頑張ってくれたよね! ホントにありがとう!」
「くるみ、何か甘くない物ある?」
「コーヒーか紅茶ならあるよ」
「欲しいです」
「どっち? 紅茶?」
「あー……苦い方がいいからコーヒーで」
「ちょっと待ってね」
今日はちょっと遅めのクリスマスパーティー、厳密にはくるみが動画のために切ったケーキをひたすらに食べまくる大会にお呼ばれしている。サークルの時には8ホール切るよって聞いてたけど、蓋を開けてみれば予定より増えて10ホールのケーキを切っていたらしいので、みちるの部屋に並べられたケーキの圧が物凄かった。
男子には5ピース以上というノルマが課せられていて、女子はお腹の容量が許すまでと言われていたけどまあまあ頑張って7ピース食べた。その結果腹がパンパン過ぎてマ~ジで苦しい。何かが間違えば食ったモンが戻って来そう。もうしばらく甘いものはいいし、口の中も早いところリセットしたい。
「徹平くん、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです」
「本当に苦しそう」
「腹がマジでパンパン。苦しい。詰め込むだけ詰め込んだからすっごい出てる」
「ホントにパンパン」
ケーキでいっぱいになった腹を春風と一緒にさする。ちなみに春風は今日用意されていたケーキを全種類食べ回った上で、みんなそれなりに苦しくなってきた頃合いでも普通にケーキを食べ続けていた。合間にみちるが作ってくれた箸休めのミネストローネと、北星が持って来てくれたチキンを挟みながらだ。さすがの春風様、頭が上がりません。
「息するのも苦しい」
「こういう時に楽になる呼吸法なんかがあればいいんだけど」
「戻さないようにだけ頑張ります」
「6つで止めておけば良かったですね」
「ホントに」
「はいすがやんコーヒー。苦い方がいいって言ったから砂糖もミルクもなしだけど」
「あんがと」
「何かそうやってると赤ちゃんが生まれるの待ってる新婚夫婦みたいだよ」
「や、腹さすられてるの俺なんだけど?」
「その辺は、科学技術の進歩で? 男の子ですかー、女の子ですかー?」
「元気に生まれて来て下さいねー」
「や、春風が乗るのか」
「あたしもビックリした。とりぃ、そういう冗談に乗るんだね」
「私も全く冗談が通じないわけではないのですよ、奏多には堅物扱いされますけど」
しかしながら今の俺にはその冗談に対して適切に応対するだけの余裕が全くない。胃に頑張ってもらうしかないんだ。漢方的な胃薬持って来とけばよかった。6つ食べた時点でそろそろ危ないかなと思ったんだけど、自分が向島留学中にたなべの満腹セットを食べた経歴からまだもうちょっとだけイケると思ってしまった。10代と20代の壁かこれが…!
「って言うか春風って俺の倍くらい食べてんじゃん」
「そうですね、サイドメニューも含めればそれくらいにはなっているかと」
「ちょっとごめんな? ……食ったのどこにいった? ぺったんこなんだけど?」
「ウソ!? とりぃちょっとごめんね? ……ホントだ! ぺったんこだ!」
「さすがに少しは出ていますよ」
「出てる感があんまりないような気が」
「とりぃ、ちなみにお腹いっぱい? まだ入る?」
「まだ入りますよ」
あれだけ食ってまだ入るのがマジで凄いし、どれだけ食べてもずっと美味そうに食ってるのが可愛いんだけども。本人曰くさすがに満腹感は覚えるらしいけど、どこまで食ったら満腹になるのかを俺はまだ見たことがない。俺の知ってる人だと果林先輩のヤバさが強調されてるけど、春風も十分四次元胃袋って言われるレベルだよなあ。
「でも、すがやんととりぃの子供だったらどんな学問に興味を持つんだろうね?」
「つか学問縛りなのかよ」
「子は親の鏡って言うじゃん。何かしらにどっぷり興味を持ちそうだけど。あ~、宇宙と、地面の他だったら海とか! 釣りに行った延長とかで!」
「海にも解き明かされていない謎がたくさんありますからね。非常に興味深いです」
「それは間違いない……って、そんな話してたのバレたら真宙さんにぶっ飛ばされそうだ」
「兄さんのことは気にしなくていいんですよ」
「あー……とりぃの家ってお兄ちゃんがすっごい厳しいんだったね」
結婚をすっ飛ばして子供の話なんて、と怒り狂う真宙さんのイメージが湧いてしまう。多分春風と奏多の影響で想像がエスカレートしてるんだろうけど。付き合い始めの大事にします宣言から少~しずつ段階も進んでるけど、間違いだけは起こらないようにより一層の注意を。
「厳しいと言うか、過保護なんですよ。歳の離れた妹なので、いつまで経っても子ども扱いなんです」
「お父さんとかお母さんもすがやんのことは知ってるんでしょ?」
「そうですね。家族ぐるみの付き合いとまでは行きませんが、如何せん菅谷先生には兄共々お世話になっているので、バーベキューにお招きしたりはしましたよ」
「あっ! 何だっけ、2人って実際出会う前にすがやんのお母さんつてに本の上で運命的な出会いしてたってヤツだよね!? レナから聞いた!」
「いや、そんな大層な話じゃない」
「先生から貸していただいた地質学の本に息子さんがメモ書きした付箋がたくさん付いていた、というエピソードですよね」
「すごいよね~、いくら同じエリアって言ってもそうそうある話じゃないよ~」
「それはそうでしょうけど」
「出会うべくして出会ったって感じ! だってすがやんの地層の話をニコニコして聞ける人なんてとりぃくらいしかいないよ! すがやんいい? 地面の断面とスイーツの断面は似てるようで全っ然違うんだからね! すがやんのレベルで断面の話をされてもあたしじゃちんぷんかんぷんなんだから!」
「ミルクレープの話はしてもいいですか」
「それは大歓迎!」
自分の趣味の話をあんまりゴリゴリしないように気を付けてはいたつもりだけど、スイーツの断面フェチのくるみにはついちょっと踏み込んだ話をしがちになるみたいだ。地層とスイーツの断面は似ているようで全然違う。頭ではわかってるんだけど。でもミルクレープの層を重ねる時間のロマンはガチだ。
「はー、やっとちょっと楽になった」
「くるみ、まだ残っているケーキを食べても大丈夫ですか?」
「いいよー、みんなもう苦しいみたい」
「ではいただきますね」
「それだけ食べても太らないの羨ましいなー」
「えっ、太りますよ! 太ります! 食べた後はしばらく意識的に運動量を増やすようにしているんですよ」
「あー、やっぱり運動かー」
「私は食べても太らない特異体質ではないのですよ」
end.
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鳥居兄妹はたくさん食べるから塩見さん的にも見ていてさぞ気持ちが良かろうと
すがやんの食べる量は人並みくらいなので、満腹セットは食べ切れてもかなり苦しい。
(phase3)
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