2023
■クロス・スケジュール
++++
「カオちゃん」
「はい」
「改めて年末についてお願いがあります」
会社での昼休み、カズお手製の弁当を食いながらやることは互いのスケジュールの確認だ。ウチの会社はイベントの企画運営などをやっている性質上、必ずしも世間の休みと歩調が合うとは限らない。と言うか、人様の休みにこそ動いていることも往々にしてある。
一般企業では仕事納めだとか年末年始の冬休みという言葉も聞かれるところもあるだろうが、ウチに仕事納めという概念はなかった。いや、あってほしいとは特段思っていなかったけれども。休み自体はその分他のときにちゃんともらえてるし。
で、伊東さんから出される年末のお願いとやらだ。いや、彼女の仕事外での動きを見ていればもちろんわかるんだけど。年の瀬に東都で行われる超ビッグイベント、コミフェにサークル参加するので有給を取りたい。それが彼女の言うお願いだろう。
「30、31! どうかこの通り! 有給をば~っ」
「ああうん、わかってる。平気平気」
「ありがとうございます! お土産買って来るね!」
「ああ、それと別に頼みがあるんだけど」
「何でも言ってくださいよ」
「俺も水面下で本を作ってたんだよ。それを雨宮先生のスペースに置いていただくことは」
「喜んで置かせていただきます!」
俺たちは同じ部署で同じチーム、今は実質的バディとして仕事をしている。まあ、1年目のペーペー社員だから2人で1人前の働きになれば儲け物くらいの感覚でそうなっているのかもしれない。そういった関係上、極力2人同時にいないことは避けられるなら避けてくれと上の人から言われている。
なので、コミフェに出るとか、前もって有給を取りたいポイントがわかっているときにはこうやってスケジュールを擦り合わせるのも大事な仕事というワケだ。まあ、雨宮先生のスペースを当てにして俺も本を作っていた感はある。
「ああ、ところで伊東さん」
「はいはい?」
「俺も有給を取りたいポイントが、しばらく先になるんだけどちょこちょこあって」
「一応今のうちに聞いとこっか。いつ?」
「3月のここと、4月のここ」
「ホントにしばらく先だねえ。でもカオちゃんが有給入れるレベルの用事って珍しいね。最近じゃ出先ですら仕事してるのに」
「まだ内緒でお願いしたいんだけど、この日カミツレでイベントやることになってて」
「えーっ!? とうとうカミツレでオフイベですか!?」
「3月が星港と水堀で、4月は東都かな。結構デカめのアリーナでやるっぽい。配信チケットっていうのもあるらしくて、全国どこからでもリアルタイムにステージを楽しめるとか。3月のイベントはもうすぐ動画で告知するし、グッズラインナップも追って発表って感じで」
「はえ~」
このイベントでは俺は演者だけども、もちろんこのイベントにもイベンターという物は存在しているので俺はその仕事を間近に観察してこれからの仕事に生かすつもりだ。活動者としても俺はペーペーだけど、周りの大先輩のおかげでデカい仕事に関わらせてもらえるので、その運と縁は大事にしていきたい。
「あれっ。てかうち気付いちゃったんですけど」
「うん」
「カオちゃんがカミツレでイベントに出てる時、こっちではうちが働いてますよね?」
「まあ、出勤日ならそうなると思います」
「そしたらさ、うちがカミツレのイベントに行こうとしても行けないし、ましてやオンラインでのリアタイ試聴すらさせてもらえないじゃん! それはちょっと解せない! うちだってカミツレのファンの1人なんですが!?」
「本当にすみません!」
「まあでも、うちが働くことでレイ君がイベントに出られるんだもんねえ。大人しく配信チケット買ってアーカイブ見るけど、これはグッズにレイ君のサイン入れてもらうくらいのことはしてもらいたいですよね」
「喜んで入れさせていただきます。と言うかそれでいいんですか」
「それがいいです。あっ、グッズはちゃんと自分で買いますんで」
一般の人であればたまたま1回は完全に予定が合わずに現地参戦が出来ないとかリアルタイムで配信を見れないこともあるかもしれない。だけど伊東さんの場合、俺が有給を取る以上絶対にリアルタイムでイベントを楽しむことが出来ないんだ。たまたまその日が仕事自体休みであることを祈るしかないという状況だ。それでも絶対に現地参戦は出来ないもんな。
「って言うか伊東さん休みの申請年末だけだけど、正月はいいの? 実家とか、カズん家とかいろいろあるんじゃないの」
「カズも仕事上盆正月だから絶対休みってワケでもないし、星港市営地下鉄って大晦日終夜運転やるでしょ? 結構忙しいっぽい」
「あ~、そうか、そういや終夜運転やるっつってたな。そりゃ忙しいか」
「って言うか、年末年始関係ない人って案外いるんだよね。うちらもそうだし、よっぺさんもそういう職種の人でしょ?」
「ああ、まあ、そうだな。確かに、俺の周りだと年末年始がちゃんとあるのは……あれっ、USDXって俺以外全員年末年始あるな? えー、あと高崎に」
「USDXって全員年末年始あるんですか!? ソルさんて社畜してないんですか!?」
「あの人は社畜キャラだけど実際は結構効果的に有給使ってる模範的社員らしい。忙しい時は深夜まで働いてたそうだけど、今はそんなことも無くなったとかで」
「へ~、そうなんですか~」
京川さんは別の意味で年末年始も何もないような人だけど、塩見さんのところは冬休みのある会社だし、リン君と菅野はそもそもが大学院生だ。菅野は……まあ、アイツも音楽関係でバタバタ走り回ってはいるんだろうけど、会社自体は冬休みがあるっていう話だったな。今年も例の音楽祭があるとは聞いたけど仕事だろうなとは思ってたし、書く物は書いて壮馬に投げた。
「ところで、オフイベってことはレイ君、顔出すんです?」
「検討中。USDXレイ仕様の白いフード付きローブは一応作ってもらってあるんだけど」
「作ったんだ!?」
end.
++++
慧梨夏が年末に有給を取るのでその頃の行事を悩むことになるPさん。
結局年末の音楽祭に参加出来るようになるのはいつになるやら。
(phase3)
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「カオちゃん」
「はい」
「改めて年末についてお願いがあります」
会社での昼休み、カズお手製の弁当を食いながらやることは互いのスケジュールの確認だ。ウチの会社はイベントの企画運営などをやっている性質上、必ずしも世間の休みと歩調が合うとは限らない。と言うか、人様の休みにこそ動いていることも往々にしてある。
一般企業では仕事納めだとか年末年始の冬休みという言葉も聞かれるところもあるだろうが、ウチに仕事納めという概念はなかった。いや、あってほしいとは特段思っていなかったけれども。休み自体はその分他のときにちゃんともらえてるし。
で、伊東さんから出される年末のお願いとやらだ。いや、彼女の仕事外での動きを見ていればもちろんわかるんだけど。年の瀬に東都で行われる超ビッグイベント、コミフェにサークル参加するので有給を取りたい。それが彼女の言うお願いだろう。
「30、31! どうかこの通り! 有給をば~っ」
「ああうん、わかってる。平気平気」
「ありがとうございます! お土産買って来るね!」
「ああ、それと別に頼みがあるんだけど」
「何でも言ってくださいよ」
「俺も水面下で本を作ってたんだよ。それを雨宮先生のスペースに置いていただくことは」
「喜んで置かせていただきます!」
俺たちは同じ部署で同じチーム、今は実質的バディとして仕事をしている。まあ、1年目のペーペー社員だから2人で1人前の働きになれば儲け物くらいの感覚でそうなっているのかもしれない。そういった関係上、極力2人同時にいないことは避けられるなら避けてくれと上の人から言われている。
なので、コミフェに出るとか、前もって有給を取りたいポイントがわかっているときにはこうやってスケジュールを擦り合わせるのも大事な仕事というワケだ。まあ、雨宮先生のスペースを当てにして俺も本を作っていた感はある。
「ああ、ところで伊東さん」
「はいはい?」
「俺も有給を取りたいポイントが、しばらく先になるんだけどちょこちょこあって」
「一応今のうちに聞いとこっか。いつ?」
「3月のここと、4月のここ」
「ホントにしばらく先だねえ。でもカオちゃんが有給入れるレベルの用事って珍しいね。最近じゃ出先ですら仕事してるのに」
「まだ内緒でお願いしたいんだけど、この日カミツレでイベントやることになってて」
「えーっ!? とうとうカミツレでオフイベですか!?」
「3月が星港と水堀で、4月は東都かな。結構デカめのアリーナでやるっぽい。配信チケットっていうのもあるらしくて、全国どこからでもリアルタイムにステージを楽しめるとか。3月のイベントはもうすぐ動画で告知するし、グッズラインナップも追って発表って感じで」
「はえ~」
このイベントでは俺は演者だけども、もちろんこのイベントにもイベンターという物は存在しているので俺はその仕事を間近に観察してこれからの仕事に生かすつもりだ。活動者としても俺はペーペーだけど、周りの大先輩のおかげでデカい仕事に関わらせてもらえるので、その運と縁は大事にしていきたい。
「あれっ。てかうち気付いちゃったんですけど」
「うん」
「カオちゃんがカミツレでイベントに出てる時、こっちではうちが働いてますよね?」
「まあ、出勤日ならそうなると思います」
「そしたらさ、うちがカミツレのイベントに行こうとしても行けないし、ましてやオンラインでのリアタイ試聴すらさせてもらえないじゃん! それはちょっと解せない! うちだってカミツレのファンの1人なんですが!?」
「本当にすみません!」
「まあでも、うちが働くことでレイ君がイベントに出られるんだもんねえ。大人しく配信チケット買ってアーカイブ見るけど、これはグッズにレイ君のサイン入れてもらうくらいのことはしてもらいたいですよね」
「喜んで入れさせていただきます。と言うかそれでいいんですか」
「それがいいです。あっ、グッズはちゃんと自分で買いますんで」
一般の人であればたまたま1回は完全に予定が合わずに現地参戦が出来ないとかリアルタイムで配信を見れないこともあるかもしれない。だけど伊東さんの場合、俺が有給を取る以上絶対にリアルタイムでイベントを楽しむことが出来ないんだ。たまたまその日が仕事自体休みであることを祈るしかないという状況だ。それでも絶対に現地参戦は出来ないもんな。
「って言うか伊東さん休みの申請年末だけだけど、正月はいいの? 実家とか、カズん家とかいろいろあるんじゃないの」
「カズも仕事上盆正月だから絶対休みってワケでもないし、星港市営地下鉄って大晦日終夜運転やるでしょ? 結構忙しいっぽい」
「あ~、そうか、そういや終夜運転やるっつってたな。そりゃ忙しいか」
「って言うか、年末年始関係ない人って案外いるんだよね。うちらもそうだし、よっぺさんもそういう職種の人でしょ?」
「ああ、まあ、そうだな。確かに、俺の周りだと年末年始がちゃんとあるのは……あれっ、USDXって俺以外全員年末年始あるな? えー、あと高崎に」
「USDXって全員年末年始あるんですか!? ソルさんて社畜してないんですか!?」
「あの人は社畜キャラだけど実際は結構効果的に有給使ってる模範的社員らしい。忙しい時は深夜まで働いてたそうだけど、今はそんなことも無くなったとかで」
「へ~、そうなんですか~」
京川さんは別の意味で年末年始も何もないような人だけど、塩見さんのところは冬休みのある会社だし、リン君と菅野はそもそもが大学院生だ。菅野は……まあ、アイツも音楽関係でバタバタ走り回ってはいるんだろうけど、会社自体は冬休みがあるっていう話だったな。今年も例の音楽祭があるとは聞いたけど仕事だろうなとは思ってたし、書く物は書いて壮馬に投げた。
「ところで、オフイベってことはレイ君、顔出すんです?」
「検討中。USDXレイ仕様の白いフード付きローブは一応作ってもらってあるんだけど」
「作ったんだ!?」
end.
++++
慧梨夏が年末に有給を取るのでその頃の行事を悩むことになるPさん。
結局年末の音楽祭に参加出来るようになるのはいつになるやら。
(phase3)
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