2023
■Cultural Inheritors
++++
「ねえねえカノーン」
「んー?」
「これってどーゆーこと?」
「どれだー?」
「これ。冬至カレーうどん大会って」
サークルの書記ノートに目を通していたらしいいろはが、懐かしいページを開いて俺の前に持って来た。去年の今頃は書記の仕事をしていたのは俺だ。と言うか、去年の今頃はこのサークルにいたのも4年生の先輩を除けば奈々先輩と俺だけだ。去年のことを聞くならやっぱ俺になるんだろうな。
で、冬至カレーうどん大会だ。これはまあ冬至にカレーうどんを食べたっていう、字面通りの行事だったんだけど、これをちゃんと説明するにはまあまあ長いあらすじから入ることになる。まずは夏至カレーの話からになるんだけど。いろはがどこからの説明を求めるのかっていうところからだ。求めてきそうだな~。
「冬至にカレーうどんを食べたんだよ。そのまんま」
「冬至にカレーうどん? カボチャじゃなくて」
「何か、そもそもが2年前のことがきっかけらしいんだよ」
「2年前だったら、カノンもいなかった感じ?」
「そうだな、まだ入学前」
「へー。じゃあ何でカレーうどんかはわからない感じかあ」
「いや、それは知ってるけど」
「じゃあ教えて!」
やっぱり食い付いてきた。いろはは俳句・短歌同好会からMMPに移って来た奴で、俳句や短歌でよく言われる季語みたいなことを俺たちにもよく教えてくれる。いろはがいるから俺たちは季節の移り変わりをちょっと意識するようになっていると言っても過言じゃない。そんないろはだから、サークルで行われていた季節の行事が気になったのかもしれない。
「えっと、夏至カレーっていう行事がまずあるんだけど、それっていうのが奈々先輩の姉ちゃんがイベントMCをやってたとかでMMPにその話が持ち込まれたんだって」
「夏至カレーって、夏至にカレー食べるみたいなこと?」
「えっとー、確か、太陽の時間が長い夏至サイコー! カレーサイコー! みたいなノリの人が個人で始めたイベントがデカくなってきてるとかナントカ。夏至カレーについては俺もそんな詳しくないから知りたかったら奈々先輩に聞いて」
「了解」
「で、夏至カレーに対抗する冬至○○って何だろうって話になったんだって」
「カボチャじゃなくて?」
「カボチャじゃなくて」
今はまあまあ陽の空気も流れてるなあとは4年生の先輩たち談だけど、昔は陰の空気が極まるサークルだったらしい。自分たちは夏至じゃなくて、太陽の時間が短い冬至にこそ盛り上がるべきだ、とかナントカ。4年生以上の先輩たちのノリって正直俺にはハイレベル過ぎる。とにかく柔軟だよなあって思う。
「冬至に食べる物って何かいろいろ決まりがあるらしいじゃん」
「冬至の七種でしょ、それはもちろん知ってるよ」
「うん、実際それはいろはの方が詳しいと思うわ」
「“ん”の字が2つある食べ物を食べて、たくさんの運を呼び込もう! とも言われてるね。カボチャも南瓜って言うでしょ」
「あ~、確かに」
「うどんも、うんどんっていうんで、一応んが2つってことだね」
「ほー」
「あ、それでカレーうどんみたいなこと?」
「MMP的には、カレーうどんはカレー南蛮とも言うしそれでいいんじゃないか、って結論に達したらしいよ。カレーのスパイスで体をあっためて寒さに負けない体を作ろう! 的な」
「聞いたら普通に正しいこと言っててバカにも出来ないし笑うところでもないし、感心しか出来ないじゃん」
カレー南蛮かー、なるほどなーと感心しているいろはの様子には、きっとその手のことに関する知識が多いからこそわかることもあんのかなって。俺からすれば何が何だかなんだけど。知識の有無って、ちょっとした話に対する理解度を深めるんだなっていうのを感じる。俺も何か専門的な知識が欲しいなー。
冬至に食べる物なんてカボチャくらいのイメージしかないし、あとは精々ゆず湯くらい? だけどいろはからは冬至の七種とかいう新しい用語がポンと出て来るんだもんなー。春の七草とは別物なのかって聞いたらそれとは別の小豆粥を食べるそうだよって返って来るんだもんよ。四季ガチ勢つよっ。
「ねえねえカノン、今年も冬至カレーうどん大会やろうよ」
「去年の会は卒業してった先輩たちが土鍋持って乱入してきたから実行されたんであって、今年やるとしたらどーするんだ?」
「それはほら、殿に頼むとかあるじゃない。スパイスだったらパロの方が強いのかな? ね~え~、カレーうどん食べようよお~、ね~え~」
「急に駄々っ子になるなっての! まあ、去年ロビーで火を焚けたってことは今年も許可を取ればできるだろうし、やりたかったらいろはが今日のサークルで提案してみればいいんじゃね?」
「よぉーしやろう! 言ったよねカノン!」
「言った」
「俺さあ冬至カレーうどん大会の項目を読んで感動しちゃって! こうやって季節を感じたり、祝ったりする行事をMMPでもやってるんだーって! 真面目にラジオやるのもいいけど、うまい棒レースやカレーうどん大会みたいなMMPらしい行事も積極的に残していくべきだよ。文化の継承って大事だよ? 知ってる人がいなくなったら何をどうしたらいいかわかんなくなっちゃうんだから」
MMPの文化か。奈々先輩がいなくなると、昔ながらのそれを知ってるのは俺だけになるんだもんな。悪乗りだとか、悪ふざけをベースにしたラブ&ピースって言われるそれをいかに繋いでいくかってことか。知ってる人がいなくなったら何をどうしたらいいかわからなくなるっていうのは割と直近そういう話になったもんな、学祭で。
――って、いろははそれらしいことを言ってるけど、まあ結構バカバカしい行事だと思うけどな。特にうまい棒レースは。文化って言っちゃうとちょっと高尚になっちゃう感があるけど。でも、4年生の先輩たちが現役で、その1コ上の先輩たちが遊びに来てたときの、ああいう緩くて激しくて、バカバカしい空気も好きだったな。
「よし! 冬至カレーうどんやるぞ! やるんならすがやんも呼ぼう! アイツもMMP文化の継承者だ!」
「いいねー! 人数は多い方が楽しいよ!」
end.
++++
なんなら後発組の春風・奏多よりちゃんとラブピしてたのはすがやん。
いろはにももっと色を付けて2年生4人でのわちゃわちゃも見てみたい
(phase3)
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「ねえねえカノーン」
「んー?」
「これってどーゆーこと?」
「どれだー?」
「これ。冬至カレーうどん大会って」
サークルの書記ノートに目を通していたらしいいろはが、懐かしいページを開いて俺の前に持って来た。去年の今頃は書記の仕事をしていたのは俺だ。と言うか、去年の今頃はこのサークルにいたのも4年生の先輩を除けば奈々先輩と俺だけだ。去年のことを聞くならやっぱ俺になるんだろうな。
で、冬至カレーうどん大会だ。これはまあ冬至にカレーうどんを食べたっていう、字面通りの行事だったんだけど、これをちゃんと説明するにはまあまあ長いあらすじから入ることになる。まずは夏至カレーの話からになるんだけど。いろはがどこからの説明を求めるのかっていうところからだ。求めてきそうだな~。
「冬至にカレーうどんを食べたんだよ。そのまんま」
「冬至にカレーうどん? カボチャじゃなくて」
「何か、そもそもが2年前のことがきっかけらしいんだよ」
「2年前だったら、カノンもいなかった感じ?」
「そうだな、まだ入学前」
「へー。じゃあ何でカレーうどんかはわからない感じかあ」
「いや、それは知ってるけど」
「じゃあ教えて!」
やっぱり食い付いてきた。いろはは俳句・短歌同好会からMMPに移って来た奴で、俳句や短歌でよく言われる季語みたいなことを俺たちにもよく教えてくれる。いろはがいるから俺たちは季節の移り変わりをちょっと意識するようになっていると言っても過言じゃない。そんないろはだから、サークルで行われていた季節の行事が気になったのかもしれない。
「えっと、夏至カレーっていう行事がまずあるんだけど、それっていうのが奈々先輩の姉ちゃんがイベントMCをやってたとかでMMPにその話が持ち込まれたんだって」
「夏至カレーって、夏至にカレー食べるみたいなこと?」
「えっとー、確か、太陽の時間が長い夏至サイコー! カレーサイコー! みたいなノリの人が個人で始めたイベントがデカくなってきてるとかナントカ。夏至カレーについては俺もそんな詳しくないから知りたかったら奈々先輩に聞いて」
「了解」
「で、夏至カレーに対抗する冬至○○って何だろうって話になったんだって」
「カボチャじゃなくて?」
「カボチャじゃなくて」
今はまあまあ陽の空気も流れてるなあとは4年生の先輩たち談だけど、昔は陰の空気が極まるサークルだったらしい。自分たちは夏至じゃなくて、太陽の時間が短い冬至にこそ盛り上がるべきだ、とかナントカ。4年生以上の先輩たちのノリって正直俺にはハイレベル過ぎる。とにかく柔軟だよなあって思う。
「冬至に食べる物って何かいろいろ決まりがあるらしいじゃん」
「冬至の七種でしょ、それはもちろん知ってるよ」
「うん、実際それはいろはの方が詳しいと思うわ」
「“ん”の字が2つある食べ物を食べて、たくさんの運を呼び込もう! とも言われてるね。カボチャも南瓜って言うでしょ」
「あ~、確かに」
「うどんも、うんどんっていうんで、一応んが2つってことだね」
「ほー」
「あ、それでカレーうどんみたいなこと?」
「MMP的には、カレーうどんはカレー南蛮とも言うしそれでいいんじゃないか、って結論に達したらしいよ。カレーのスパイスで体をあっためて寒さに負けない体を作ろう! 的な」
「聞いたら普通に正しいこと言っててバカにも出来ないし笑うところでもないし、感心しか出来ないじゃん」
カレー南蛮かー、なるほどなーと感心しているいろはの様子には、きっとその手のことに関する知識が多いからこそわかることもあんのかなって。俺からすれば何が何だかなんだけど。知識の有無って、ちょっとした話に対する理解度を深めるんだなっていうのを感じる。俺も何か専門的な知識が欲しいなー。
冬至に食べる物なんてカボチャくらいのイメージしかないし、あとは精々ゆず湯くらい? だけどいろはからは冬至の七種とかいう新しい用語がポンと出て来るんだもんなー。春の七草とは別物なのかって聞いたらそれとは別の小豆粥を食べるそうだよって返って来るんだもんよ。四季ガチ勢つよっ。
「ねえねえカノン、今年も冬至カレーうどん大会やろうよ」
「去年の会は卒業してった先輩たちが土鍋持って乱入してきたから実行されたんであって、今年やるとしたらどーするんだ?」
「それはほら、殿に頼むとかあるじゃない。スパイスだったらパロの方が強いのかな? ね~え~、カレーうどん食べようよお~、ね~え~」
「急に駄々っ子になるなっての! まあ、去年ロビーで火を焚けたってことは今年も許可を取ればできるだろうし、やりたかったらいろはが今日のサークルで提案してみればいいんじゃね?」
「よぉーしやろう! 言ったよねカノン!」
「言った」
「俺さあ冬至カレーうどん大会の項目を読んで感動しちゃって! こうやって季節を感じたり、祝ったりする行事をMMPでもやってるんだーって! 真面目にラジオやるのもいいけど、うまい棒レースやカレーうどん大会みたいなMMPらしい行事も積極的に残していくべきだよ。文化の継承って大事だよ? 知ってる人がいなくなったら何をどうしたらいいかわかんなくなっちゃうんだから」
MMPの文化か。奈々先輩がいなくなると、昔ながらのそれを知ってるのは俺だけになるんだもんな。悪乗りだとか、悪ふざけをベースにしたラブ&ピースって言われるそれをいかに繋いでいくかってことか。知ってる人がいなくなったら何をどうしたらいいかわからなくなるっていうのは割と直近そういう話になったもんな、学祭で。
――って、いろははそれらしいことを言ってるけど、まあ結構バカバカしい行事だと思うけどな。特にうまい棒レースは。文化って言っちゃうとちょっと高尚になっちゃう感があるけど。でも、4年生の先輩たちが現役で、その1コ上の先輩たちが遊びに来てたときの、ああいう緩くて激しくて、バカバカしい空気も好きだったな。
「よし! 冬至カレーうどんやるぞ! やるんならすがやんも呼ぼう! アイツもMMP文化の継承者だ!」
「いいねー! 人数は多い方が楽しいよ!」
end.
++++
なんなら後発組の春風・奏多よりちゃんとラブピしてたのはすがやん。
いろはにももっと色を付けて2年生4人でのわちゃわちゃも見てみたい
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