2023
■Yes, clean up.
++++
「おざまーす」
「おはようござ……ジュン!? 何をしているのですか?」
「ああ、春風先輩奏多先輩おはようございます。見ての通り掃除です」
「ええ、まあ、見ての通り掃除ですね」
ウェットタイプのフローリングワイパーで床の掃除をするジュンの様子がとても異質に感じられたのですが、特に業者などが掃除に入るわけでもないサークル棟では、利用している私たちが自分たちで掃除や片付けをしなくてはなりません。
異質に感じられたのは掃除という行為というより、フローリングワイパーという道具の方なのかもしれません。部屋の隅にほうきとちりとりがあるのは見たことがありますが(申し訳ないのですが触ったことはありません……)、そんな物ありましたっけと。
「見てください。ミキサー席の下をちょっと撫でただけで、ほら。真っ黒ですよ」
「うわっ、ヤベっ」
「これはすごいですね……」
ほら、と見せてもらった取り替え式のシートは真っ黒。普段土足で歩く部屋ですし、あまり掃除の習慣があるとは言えないサークルなので、突きつけられた現実に胸が痛みます。これには普段からミキサー席に座る奏多もこの部屋では珍しく深刻な顔をしています。
「いや、それはいいんだけど何で急に掃除なんか始めたんだよ」
「収納班の活動の一環として、これという収納術を学ぼうと動画を見始めたんです。それでおすすめで出てきたゴミ屋敷掃除の動画を見たら、掃除しないとって」
「お前、堅物そうに見えて実は結構影響されやすい奴なんだな」
「ですが掃除をしなければと思い立って実行するのは素晴らしいことだと思います。みんなが揃うまで私にもお手伝いさせてください」
「でもワイパーは1本しか用意してませんよ。……ああ、そしたら、そこに積んであるジャガイモの下を掃除しましょう。俺が一旦芋を動かすので、空いたところを春風先輩が掃除をお願いします」
「わかりました。奏多、あなたもジャガイモを動かすのを手伝って」
「俺もやんのかよ!」
「この量のジャガイモをジュン1人で動かせと言うの?」
「へーへー、やりゃいーんだろ」
大学祭で出店する食品ブースのために、希くんがジャガイモを大量に仕入れてくれました。一旦サークル室の壁際に寄せてあるのですが、その裏や下の壁や床は掃除をしていません。保管しているのは食品ですから、少しでも衛生的な環境にしてあるに越したことはありません。
ジュンによれば、先に言っていた動画では部屋の天井までゴミでいっぱいになった所謂ゴミ屋敷の様子が紹介されているそうです。食品の食べ残しやコンビニ弁当の容器、空き缶やペットボトルなどがそのまま放置され、とんでもないことになっていると。
その映像を見て、自分の部屋に片付け忘れている物はないか、無駄な物はないかと身の回りを確認することを始めたそうです。自分の部屋の確認を終え、次に気になったのはサークル室でした。そう言えば、この部屋の掃除は誰がやっているのだろう。そう疑問に思ったそうです。
「うまい棒レースの後に床の掃き掃除はしましたけど、本当にそれくらいじゃないですか。普段はどうしてるんだろうと思って」
「確かにそう言われりゃそうだな。他の大学は私立なら業者が入ったりすんだろな」
「あー、業者が入ってくれればいいですね」
「いえ、さすがにサークル室に業者は入らないそうですよ。ええと、緑ヶ丘の話では、ですけど」
「緑ヶ丘が入らねーなら向島じゃぜってームリだな」
「そうですね」
「向こうって誰か掃除とかするような奴いんのかね」
「1年か2年に1人、結構な綺麗好きの人がサークルに入ってくるようで、今だとエージ先輩が定期的に掃除の時間を設けているそうですよ」
「確かにエージ先輩は結構な綺麗好きで神経質だという話はササ先輩から聞いたことがあります。ゴミの不始末だとか、だらしないことをしてたらシバかれるそうですよ」
一方MMPは、特段綺麗好きの人がいるという話も聞いたことがなく、こうしてジュンが思い立ってくれるまで掃除のその字もなかったようなサークルです。ですからワイパーシートがひと拭きで真っ黒になってしまうのですね。
そうして思い出したのは、天文部の部室です。去年磐田先輩たちと片付けをしたことがありましたが、あれも結構な惨状でした。パーティーの後の食べ残しやゴミ、お酒を飲んだままの缶や瓶、それにペットボトルが散乱して積み上がっていました。
「そう言えば、去年天文部の部室を掃除したことがあったのです。あれは結構な惨状でした……」
「ここと比べるとどうですか?」
「とてもではありませんが比べられる物ではありませんよ。部室でパーティーをやることがあったようで、食べ物のゴミが山積みになって観測会で使う道具を完全に隠してしまっていました。臭いも凄かったですし、暗幕が引いてあったので鬱蒼として、嫌な空気が溜まっていると言うか」
「天文部のイメージ通りだけどな」
「それと比べると掃除前でもこのサークル室はとてもいい空間だと思うのですが、ジュンが掃除を始めてくれたことでより居心地のいい場所になると思います。ありがとうございます」
「春風先輩、床が見えました。どうぞ」
「はい。では失礼します」
ジャガイモを置いてあった場所の床と壁をワイパーでひと拭き。きれいになったような気がします。そしてジュンと奏多が元あったようにジャガイモを戻してくれます。その間私はフローリングワイパーで床一面を掃除します。
「あっ、春風先輩」
「どうしましたか?」
「その辺はまだ天井の掃除が終わってないんです」
「天井? 天井まで掃除していたのですか?」
「クモの巣を取る程度ですけど」
「そこまでやってくれていたのですね」
「奏多先輩や殿も目には付いてたんじゃないですかね」
「殿は知らねーけど、正直俺はそこまで気にしてなかった」
「えっ。でも、いざ存在を意識すると結構気になりますよ」
「いや、意識させんなっつーの」
作品制作を通じても少し感じていたのですが、ジュンはこだわり始めるととことん突き詰めてしまう人なので、このまま掃除に目覚めてしまうととんでもないことになってしまうような気がします。収納班改め清掃班と呼ばなければならない日もさほど遠くないのかもしれません。
end.
++++
昨年度は「流される」と表現していたのだけど、影響されやすい一面もあるらしいジュン。
菜月さんがいた頃は昼放送収録前の待ち時間とかに掃除をしていたらしいけど、それ以降は……
(phase3)
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「おざまーす」
「おはようござ……ジュン!? 何をしているのですか?」
「ああ、春風先輩奏多先輩おはようございます。見ての通り掃除です」
「ええ、まあ、見ての通り掃除ですね」
ウェットタイプのフローリングワイパーで床の掃除をするジュンの様子がとても異質に感じられたのですが、特に業者などが掃除に入るわけでもないサークル棟では、利用している私たちが自分たちで掃除や片付けをしなくてはなりません。
異質に感じられたのは掃除という行為というより、フローリングワイパーという道具の方なのかもしれません。部屋の隅にほうきとちりとりがあるのは見たことがありますが(申し訳ないのですが触ったことはありません……)、そんな物ありましたっけと。
「見てください。ミキサー席の下をちょっと撫でただけで、ほら。真っ黒ですよ」
「うわっ、ヤベっ」
「これはすごいですね……」
ほら、と見せてもらった取り替え式のシートは真っ黒。普段土足で歩く部屋ですし、あまり掃除の習慣があるとは言えないサークルなので、突きつけられた現実に胸が痛みます。これには普段からミキサー席に座る奏多もこの部屋では珍しく深刻な顔をしています。
「いや、それはいいんだけど何で急に掃除なんか始めたんだよ」
「収納班の活動の一環として、これという収納術を学ぼうと動画を見始めたんです。それでおすすめで出てきたゴミ屋敷掃除の動画を見たら、掃除しないとって」
「お前、堅物そうに見えて実は結構影響されやすい奴なんだな」
「ですが掃除をしなければと思い立って実行するのは素晴らしいことだと思います。みんなが揃うまで私にもお手伝いさせてください」
「でもワイパーは1本しか用意してませんよ。……ああ、そしたら、そこに積んであるジャガイモの下を掃除しましょう。俺が一旦芋を動かすので、空いたところを春風先輩が掃除をお願いします」
「わかりました。奏多、あなたもジャガイモを動かすのを手伝って」
「俺もやんのかよ!」
「この量のジャガイモをジュン1人で動かせと言うの?」
「へーへー、やりゃいーんだろ」
大学祭で出店する食品ブースのために、希くんがジャガイモを大量に仕入れてくれました。一旦サークル室の壁際に寄せてあるのですが、その裏や下の壁や床は掃除をしていません。保管しているのは食品ですから、少しでも衛生的な環境にしてあるに越したことはありません。
ジュンによれば、先に言っていた動画では部屋の天井までゴミでいっぱいになった所謂ゴミ屋敷の様子が紹介されているそうです。食品の食べ残しやコンビニ弁当の容器、空き缶やペットボトルなどがそのまま放置され、とんでもないことになっていると。
その映像を見て、自分の部屋に片付け忘れている物はないか、無駄な物はないかと身の回りを確認することを始めたそうです。自分の部屋の確認を終え、次に気になったのはサークル室でした。そう言えば、この部屋の掃除は誰がやっているのだろう。そう疑問に思ったそうです。
「うまい棒レースの後に床の掃き掃除はしましたけど、本当にそれくらいじゃないですか。普段はどうしてるんだろうと思って」
「確かにそう言われりゃそうだな。他の大学は私立なら業者が入ったりすんだろな」
「あー、業者が入ってくれればいいですね」
「いえ、さすがにサークル室に業者は入らないそうですよ。ええと、緑ヶ丘の話では、ですけど」
「緑ヶ丘が入らねーなら向島じゃぜってームリだな」
「そうですね」
「向こうって誰か掃除とかするような奴いんのかね」
「1年か2年に1人、結構な綺麗好きの人がサークルに入ってくるようで、今だとエージ先輩が定期的に掃除の時間を設けているそうですよ」
「確かにエージ先輩は結構な綺麗好きで神経質だという話はササ先輩から聞いたことがあります。ゴミの不始末だとか、だらしないことをしてたらシバかれるそうですよ」
一方MMPは、特段綺麗好きの人がいるという話も聞いたことがなく、こうしてジュンが思い立ってくれるまで掃除のその字もなかったようなサークルです。ですからワイパーシートがひと拭きで真っ黒になってしまうのですね。
そうして思い出したのは、天文部の部室です。去年磐田先輩たちと片付けをしたことがありましたが、あれも結構な惨状でした。パーティーの後の食べ残しやゴミ、お酒を飲んだままの缶や瓶、それにペットボトルが散乱して積み上がっていました。
「そう言えば、去年天文部の部室を掃除したことがあったのです。あれは結構な惨状でした……」
「ここと比べるとどうですか?」
「とてもではありませんが比べられる物ではありませんよ。部室でパーティーをやることがあったようで、食べ物のゴミが山積みになって観測会で使う道具を完全に隠してしまっていました。臭いも凄かったですし、暗幕が引いてあったので鬱蒼として、嫌な空気が溜まっていると言うか」
「天文部のイメージ通りだけどな」
「それと比べると掃除前でもこのサークル室はとてもいい空間だと思うのですが、ジュンが掃除を始めてくれたことでより居心地のいい場所になると思います。ありがとうございます」
「春風先輩、床が見えました。どうぞ」
「はい。では失礼します」
ジャガイモを置いてあった場所の床と壁をワイパーでひと拭き。きれいになったような気がします。そしてジュンと奏多が元あったようにジャガイモを戻してくれます。その間私はフローリングワイパーで床一面を掃除します。
「あっ、春風先輩」
「どうしましたか?」
「その辺はまだ天井の掃除が終わってないんです」
「天井? 天井まで掃除していたのですか?」
「クモの巣を取る程度ですけど」
「そこまでやってくれていたのですね」
「奏多先輩や殿も目には付いてたんじゃないですかね」
「殿は知らねーけど、正直俺はそこまで気にしてなかった」
「えっ。でも、いざ存在を意識すると結構気になりますよ」
「いや、意識させんなっつーの」
作品制作を通じても少し感じていたのですが、ジュンはこだわり始めるととことん突き詰めてしまう人なので、このまま掃除に目覚めてしまうととんでもないことになってしまうような気がします。収納班改め清掃班と呼ばなければならない日もさほど遠くないのかもしれません。
end.
++++
昨年度は「流される」と表現していたのだけど、影響されやすい一面もあるらしいジュン。
菜月さんがいた頃は昼放送収録前の待ち時間とかに掃除をしていたらしいけど、それ以降は……
(phase3)
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