2023

■作業と時間と間食の配分

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「あーおなかすいたー」

 今日も今日とて残業残業アンド残業、5時半に鳴る定時のチャイムが休憩という意味に変わって久しい。この時間になると、事務所にやってきた大石が腹が減ったとへたる光景がよく見られる。今日はさすがに夕飯を出前する程じゃないはずだから、あと1時間半か2時間くらいか。
 今の時期は出荷も多いけど、10月から始まるダウンの出荷に向けた準備にも忙しい。倉庫に入ってきたモンをまずは整頓して片付けといて、検品票を貼ったり入荷登録をしたりする。実際出荷する前には入庫作業。現場に並べなきゃいけない。
 ダウンの他にも大石は他の会社から回ってきたアパレル製品の扱いでもめんどくせーことになってて、その対処に追われている。日々の出荷作業にも人は欲しいけど、大石は頼むから入庫だの在庫補充だの、庫内整理を優先してくれと言われるレベルだ。

「大石君相変わらず死んでんねー」
「長岡君、出荷どう? 今どれくらい?」
「まー何とか7時までには終わりそうかな」
「おー、すごいねー」
「7時に終わってもお前の病気が発症して7時半になるヤツだな」
「言ってもだよ越野君、現場を荒れたままにはしときたくないんだよ。きれいな現場、カートンが揃った状態で明日を迎えるのが大事。本当はA棟全部回ってその辺に放置されてる空箱とかつぶしとか拾って回りたいくらいなんだから」
「長岡君の精神は俺も見習わなきゃなー」

 作業がマメな長岡に対して、大石は案外手を抜くところは抜いているということが最近になってわかってきた。正社員1年目といえキャリアは5年目。任せられている仕事量が1年目のそれじゃないということもあるからだろう。
 とは言え長岡がマメに仕事をすることで守られている平穏、的な物も少なからずあるとは事務の山田さん談。みんなの精神衛生というのは繁忙期を乗り越える上で非常に重要らしいし、朝イチでスッと作業に入れることで時間制限がより厳しいパートさんをフルに使うことが出来る、と。

「大石君は今どこで仕事してるの?」
「B棟1階だね。今は高井さんと塩見さんとひたすらダウンの入庫をやってるよ」
「1階!? 大石君は仕事が手広いねー」
「1階はパレットに積んだまま置いとける物は置いとけるんだけど、直置きしなきゃいけない物もまあ多くてさ。2階より規模も大きいから体もより動かすでしょ。もーうおなかすいて」
「大石、俺のサラダチキン食うか」
「えっ、それって越野の非常食でしょ。さすがに申し訳ないよ、サラダチキンなんて贅沢品じゃない」
「腹減ったって喚かれる方がうるせーんだよ」

 残業の日々の中で、晩飯を出前するほどでもないけどそれなりに遅くなる日だとか、俺も現場に駆り出される日に備えて非常食という物を用意するようになった。手軽に食えるサラダチキンを冷蔵庫に入れてあって、いざという時に食って体力を繋いでいる。

「サラダチキンが贅沢なんだったら、俺の豆腐バー食べる? ちょっと質素になっちゃうけど」
「そんな! 長岡君からなんて申し訳なくてもらえないよ! 出荷作業も大変でしょ、長岡君こそ食べないと」
「つかお前自分で非常食用意してないのかよ。ずっと残業だってわかってんのに」
「今日は特別おなかがすいて3時に食べちゃったんだよ」
「うわ」
「えっ、越野ドン引きしてる?」
「前々からお前の燃費は悪すぎると思ってたけど、さすがに異常だぞ。あれだけの昼飯食って、3時に食って、5時にもう腹減ったとか」
「しょうがないじゃない、おなかはすくんだよ」
「だからサラダチキン食えっつってるだろ」
「サラダチキンはもらうには高いって言ってるでしょ」

 コイツは5時に食っても普通に晩飯を食うんだろう。そんなことやっててよく太らないなと思うけど、その分仕事で体を動かしてるし、休みの日にはプールで泳いでるからだろう。半事務の俺が同じ食事量になったらいくらバスケやってても間違いなく太る。

「あー、腹減った」
「オミ、お前ゆで卵しか食わないから腹減るんじゃねーの」
「ゆで卵は腹持ちいいっすよ。ちょっとしたときにもつまみやすいんで超優秀な食い物っす」
「そーゆーモンかね」
「高井さん塩見さんお疲れさまでーす」
「長岡、出荷の方はどうだ」
「7時までには終わりそうですね」
「そうか、想定より早かったな。じゃ2個でいいか」

 大石と一緒に作業をしていた先輩たちも休憩をしに事務所にやってきた。長岡から出荷作業の進捗を聞き、今日の全体終了時間を割り出し作業行程を逆算する。そんな話をしながら塩見さんはいつも食べている塩味のゆで卵の殻を剥く。

「その卵って塩見さんの晩飯ですか?」
「いや、これは間食だ。どうした長岡、腹でも減ったか。卵食うか?」
「あ、いや、自分は非常食持ってるんで大丈夫っす! 塩見さんて晩飯も全部ゆで卵なのかなーと思って」
「俺を何だと思ってるんだ。ゆで卵以外の物も食うぞ」
「ゆで卵の印象が強すぎてですね…?」
「つか千景はどうしたんだ。あの程度の作業でくたばるタマでもねえだろうに」
「あー……大石君はですねー」
「大石は腹が減り過ぎて死んでるトコっす。俺と長岡が非常食やろうかっつってんのにお前らからはもらえないの一点張りですよ。バカなんすよコイツは。サラダチキンなんて200円もしねーのに」
「そういや3時になけなしの非常食とやらを食ってたな」

 そう言うと塩見さんは給湯室の冷蔵庫を開き、また戻ってきた。大石の前に置いたのは、ゆで卵2個。

「千景、それ食って7時までもたせろ」
「えっ、いいんですか塩見さん」
「お前の残り体力とモチベーションは今日の作業の進捗に関わる。さっさと食え」
「すみません、いただきます」
「塩見さんの卵は素直に食うのな」
「仕事に関わるって言われたら、我慢してる場合じゃないでしょ」
「ゆで卵はサラダチキンより単価も安いし、俺はコイツの直属の先輩に当たる。「食え」っつー言葉にかかる圧だとか命令じみた力は同期のそれより強い。……とは言え。千景、お前も日持ちする非常食を置いとくことを勧める」
「そうですねー、前向きに考えます」

 ゆで卵を食ってちょっとは回復したのか、大石はよしっと気合いをひとつ。バカだなあと思いつつ、お前の状態で作業の進め方が変わるよ、進捗を左右するよっていうのは戦力としてきちんと計算されて、期待されているということだから、やっぱり負けてられないな。

「あー、45分だ」
「続き行くかぁー。越野君は?」
「事務の人内山以外帰ったし、アイツも現場行ってるから俺は留守番。データ上でもダウン関係の仕事あるし」
「千景、俺らも行くぞ」
「はい」


end.


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今一番熱い3人組かもしれない。向西倉庫の同期たち。
ちーちゃんとか多分繁忙期はどれだけ食べてもすぐ消費しちゃってお腹空いてどうしようもなくなってそう

(phase3)

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