2023

■運と実力の10点

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「はーい。そしたらぁ、みんな大好きミキサーテストの結果を発表しまーす」

 夏合宿の醍醐味のひとつがこれ、ミキサーテスト。これはその名の通りミキサーを対象にしたペーパーテストで、ミキサーに関する基礎知識みたいなことをちゃんとわかってるかどうか、的なことを確認するためのテストとして毎年行われている。
 アナウンサーにはこんなテストはないって聞いたときには不公平だって思ったけど、対策委員として夏合宿の準備に走り回ってると「ミキサーテストはどうする?」って自分から振ってしまうくらいには気になる行事と言うか。やらないっていう選択肢は小さかったもんなあ。
 1日目に行われたテストはダイさんが採点をしてくれて、2日目の昼飯の時間に結果発表。ちなみに今年のテストは野坂先輩に作ってもらった。これまでと違う点としては、パソコンの扱いが試験範囲に入ったこと。この分野の問題には高木先輩の手も入っているそうだ。

「今年のテストは平均69点で全体的にちょい低めだったけど、これは多分問題作ってるのが向島の野坂っていう、ペーパーテストに対する難易度の基準が頭おかしいヤツの所為だね。なんで俺の独断で合格ボーダーをちょっと下げます!」

 ダイさんはさすが、向島のOBだからか問題作成者の野坂先輩に対しても内輪っぽいマイルドなノリで「これは難しすぎだ」と言えてしまうんだろう。まあ、勉強の成績がオールSとかいう、ササでもやれないことをやってる人が作るテストとか、冗談じゃねーんだよ。
 合格のボーダーラインがダイさんの神通力で10点下がった。多分、そうでもしないとラインに乗らない奴がたくさんいたんだろう。元々ミキサーテストは不合格の奴が罰ゲームを受けるのを眺めて楽しむためのイベントって聞いたけど、ほどほどの人数だから楽しいんだろうな。

「そしたら第1位ー、89点ー」
「1位が89点!? マジで低くね!?」
「緑ヶ丘の」

 俺か!?

「サキー。おめでとー」

 違ったわ。
 チラッとサキの方を見てみると、机の下で小さく拳を握ってガッツポーズをしているようだ。何だかんだ去年俺に負けたの相当根に持ってるっつーか、引きずってたんだろうなあ。実はめちゃくちゃ負けず嫌いっぽいし。

「2位ー、84点ー」
「次は絶対俺が取る! せめてMBCCでワンツーフィニッシュするんだ」
「シノがMBCCの2年生で表彰台独占ーなんて言わないでくれて助かったよ!」
「いや、くるみお前も頑張れよ!」
「もう頑張りましたー」
「向島の松兄!」
「はーい、あざーす」
「マジかよ奏多!」
「いやー、俺って実はペーパーテストも出来ちゃうんだわー。優秀でごめんなシノー」
「悔しー!」
「はーっ……」
「どの口が言うんだか」
「いやいやいや春風!? サキちー!? 俺がデキるのは事実だろーが! 現にこのキャリアで2位! よくやってんだろ!」
「出来る出来ないの話ではなく、調子のいいことを自分で言わないでと言っているの」
「まあ、何にせよこの2人が機材面で支える定例会、インターフェイスは安泰だねえ」

 ダイさんが上手いことまとめてくれて、順位発表は続く。俺は実技タイプだからペーパーテストは正直おまけみたいなモンだし、サキとか奏多みたいなガチで頭いい奴と紙の上で本気で張り合えるとは思ってない。普段よりは戦える気がするから威勢のいいことを言ってるだけで。
 ……とは言え高木先輩が去年のテストで満点取ってる以上、同じタイプだと言われ続けてる俺もそれなりの成績を取ってないとヤバいんだよ。しかも今回のテストは高木先輩が作ってる範囲もある。あ! つかサキと奏多が強いのってパソコンの分野があるからじゃね!? それじゃん!

「それじゃあ第3位ー」
「俺、俺、俺、緑ヶ丘、み、み、み」
「80点ー。青敬の当麻ー」
「ありがとうございます」
「あー!? 当麻ー!?」
「さすが当麻~。すご~い」
「うんうん! 対策委員の機材管理担当だもんね!」
「4位ー、79点で、シノー」
「やっと呼ばれたぁー! 80点割ると途端に見栄え悪いな!?」
「まあまあ。今年のテストは実質プラス10点よ? 第5位ー。ここで1年生ー。緑ヶ丘のちむりー! 78点! おめでとー」
「えー!? ちむりーすごーい!」
「あっぶね! さすがに1年には負けられねーよ」

 ちむりーは今の時点ですげー頭いいっつーことがわかってて、高木先輩ともちむりーの春学期の成績によっちゃゼミに来られた場合めっちゃ驚異になるっつー風に話してる存在だ。難しいって言われてる今年のミキサーテストでしっかり上位入賞してくる辺り、知力はガチなんだな。
 そして順位発表はどんどん続いていく。くるみと北星は「映像の分野があればもうちょっと頑張れたよね」なんて言っている。いや、北星はわかるけどくるみは緑ヶ丘でバリバリやってんだからミキサーだけのテストでもやれるだろっていう。実際そこまで悪くはなかったし。

「何か、今年のテストってラッキーが出なかったんだなって思う」
「実際去年のシノは、ある程度運で点数を取ってたと思うよ」
「言うなあサキ」
「でも、今は多分違う。ちゃんと知識の上でも伸びてる。……俺は実技でも負ける気はないけど、現状まだシノの方が上手いから。せめてペーパーテストで勝ってトントンにしとかなきゃでしょ」
「ま、俺はまだまだ伸びるけどな!」
「俺だって」

 ミキサーとしての技量を紙の上だけで測られてたまるか、みたいなことを前にも思った記憶があるけど、あれは確か佐藤ゼミに入るときのエントリーシートだ。やっぱ俺は実際ミキサー触ってナンボ、音出してナンボ。ひたすら練習あるのみだ。それにみんなを巻き込んで、みんなで伸びていく。多分それを切磋琢磨っていうんだろう。

「シノー! もうちょっとしたら昼講習の準備だってー!」
「おーう!」
「あっサキ! テスト1番とれてよかったね! じゃーねー!」
「うん。対策委員、頑張って」


end.


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サキが机の下で小さくグッてしてるのだけがやりたかった話。奏多のアレは通常運転。

(phase3)

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