2023

■法治国家でなければ

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「……山口、そろそろこのクソ野郎をぶっ殺していいか」
「ぶっ殺すのはもうちょっと我慢してもらえると嬉しいな~。俺もまだ親友を亡くしたくないからね~」
「だったらコイツをどうにかしろ」
「高崎ー、お役所の人間がしていい顔じゃねーぞ」
「うるせえ」

 盆頃に拳悟と万里の3人で飲むのが毎年の行事になりつつあって、今年も例に漏れずいつものように飲むかといつもの店に集まった。すると今年は拳悟が山口に、万里が大石にそれぞれ声をかけ、あとそこで会った朝霞を交えた6人で飲むことになった。
 ……までは良かったが、朝霞とかいうクソ野郎が自分の弱さをわかってねえのかというハイピッチで飲み続けた結果、早々にぐだって絡まれる始末。俺に抱きつきながら寝ているのか起きているのか、とにもかくにも泥酔状態をキメこんでやがる。

「これだけふりほどいてもがっちりホールドしてやがるんだ、実は起きてんだろ」
「朝霞クンのこれって割とデフォルトなんだよね~。力もまあまあ強いし~。どうにか出来るのは雄平さんだけだよね~」
「チッ。ウザくてしょうがねえ。あークソ、法治国家じゃなきゃ腕ねじ切って首へし折るのに」
「公務員として問題しかない発言だぞ」
「あ? てめェからやるぞ万里」
「うわー元ヤンの脅しだー」
「ヤンキーだったことはねえっつってんだろうが」

 このクソ野郎にしがみつかれている場所から伝わる熱が不快感しか生まねえ。何が悲しくてこのクソ暑い夏に密着されなきゃいけねえ。方々からコイツはヤバい奴だとは聞いているが、聞こえてくる話はコイツの才能に関する話が主だ。俺が味わっているヤバさのベクトルとは違う。
 俺はパーソナルスペースが他の奴より広めだという自覚はある。家にはよっぽどの事がないと他人を上げない主義だし、物理的距離もやっぱりある程度は取っておきたい。が、背中がムカついてしょうがねえ。今ここで立ち上がってそのまま背負い投げでもしてやろうか。

「でも、高崎の顔が昔に戻ってる感はあるよ。これは本当に怒ってる。洋平クン、薫クンの命乞いをした方がいいかも」
「命乞い!? えっと~、盛ってるとか大袈裟な例えとかじゃなくて~」
「ガチなヤツだね」
「あ~えっと~高崎クン、朝霞クンを背中から剥がしたら許してくれる~?」
「お前に礼は言うがコイツの事は許さねえ。今すぐ剥がせ」
「頑張りま~す。ちょっと失礼しますね~」

 山口に連帯責任を被せてこのクソ野郎をどうにかさせながら、卓の上の飯を食う。あークソ、コイツがいなけりゃもっと美味かった。これまでに経験した性質の悪い絡み方の中でも群を抜いてクソだコイツは。伊東だの菜月だのとは比較にならねえ。

「あ~! あ~あ~あ~! それはダメ~!」
「おい山口、背中が冷てえぞ。何かこぼしたんじゃねえだろうな」
「あ~、え~と……とりあえず、剥がしますね~?」

 力任せにやるより力が掛かってませんよ~って風にそ~っと外すのが多分正しい方法なんだよね~。そんな風に言いながら、山口は俺にしがみつくクソ野郎の体を指先から慎重に外していく。動かしていることがバレるとまた振り出しだ。……時限爆弾の解体かよ。
 しかし背中が冷てえ。ある一点だけがじんわりと濡れているような気色悪さを覚える。どうせ濡れるんなら全身濡れた方がマシだ。だが、如何せん背中だけに何が起きているのか視認することは出来ないし、今は山口の作業の邪魔になる。
 山口の作業が続いている間は俺も騒がしくすることは出来ねえ。万里と大石は盆明けからの仕事の確認を始めてしまった。台風の進路がどうした、荷物の入荷がどうしたと、いよいよ繁忙期に突っ込んでいく連中は休みでもなかなか休まらないようだ。

「高崎クン待っててね~、もうちょっとで外れそう……」
「頼むぞマジで」
「よし! 出来た~!」
「ふー……やっと自由だ」
「え~と高崎クン、外れたモノはどうします~?」
「その辺に転がしとけ」
「了解で~す」
「あと背中どうなってる? さっきお前ダメだの何だの騒いでただろ」
「え~っとねえ……朝霞クンて、寝てるときのお口がたま~に緩くてね? 油断すると……ネ?」
「あーもうはっきり言いやがれ」
「高崎クンのTシャツがよだれでべったべたになりました!」
「山口、コイツぶっ殺していいか」
「俺に聞いたら否定の返事が返って来ちゃわな~い?」
「拳悟」
「高崎、前科者になるのはさすがにマズい」
「万里」
「星港市が炎上する! やめとけ!」
「大石」
「うーん。朝霞がシラフの状態で現実を突きつけて、その反応を見た上で決めたら? 今やると高崎が一方的に悪くなっちゃうでしょ」

 ――と、ここまで聞いて唯一「殺すな」的なことを言わなかったのが大石だということに気付いて一瞬引いた。今いるメンツの中だったら一番平和主義と言うか、物事を穏便に済まそうとしそうなイメージがあったからだ。
 奴の意見を端的に解釈すると「まずは朝霞に罪を自覚させろ」くらいだろうか。確かに自分が何をしたのか理解しないままやられるのでは納得がいかないだろう。自分のしたこととその結果をきちんと突きつけさせ、罪を認めさせて謝罪させた上で処す。これだ。
 俺も頭に血が上っていたが、今回の事案に関する大石の話は割と素直に受け入れられる。何と言うか、うっすらと拓馬さんの気配を感じた。それこそ俺が荒れていた頃、拓馬さんに良くしてもらっていた頃の記憶がフラッシュバックする。……ロクでもねえ。

「あーもうマジで気持ち悪りぃ。冷房が当たると濡れてんのが際立つ」
「高崎、災難だったね」
「災難どころじゃねえ」


end.


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そしてこの後聖域の家にも上がり込まれてしまうのであった

(phase3)

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