2023

■ハニワのハニー

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「春風」
「徹平くん。向舞祭の練習、お疲れさまです」
「ありがとう。春風も対策委員で忙しいだろ? カノンがひーひー言ってるよ」
「私も対策委員は忙しいと思っていましたが、希くんを見ているとこの程度でへこたれてなどいられません」
「ホントにそれなんだよなー。ムリだけはすんなとはみんな言ってるんだけど」

 夏はみんなそれぞれの忙しさがあるけど、大学での授業がない分それなりに時間は取れる。サークル関係の行事にバイト、勉強のことにバタバタ走り回りながら、2人の予定が合うタイミングを見計らって顔を合わせている。
 インターフェイスの夏合宿や、定例会がスタッフとして駆り出されている向舞祭の話になると、カノンは本当に大変だなあというところに着地してしまう。定例会と対策委員を兼務しているとこれほどまでに大変なのかとゾッとする。

「希くんは講師のダイさんとの打ち合わせなども精力的に行っていますし、対策委員のメンバーは全員班長として打ち合わせなども行わなければなりませんからね……」
「春風の班はどんな感じ?」
「私は夏合宿の経験がないので、その辺りのことはまつりさんに補完してもらいながら何とかやっているという感じで」
「そっかそっか。班の雰囲気とか、人間関係はどう?」
「今のところ良好だと思います。まつりさんをはじめ、野球好きの人が多いのでその話題で盛り上がることが多いのです。ほら、今は高校野球の大会がやっているでしょう?」
「あー、そうだな」
「野球の話には疎いなりに奏多に教えてもらいながら少し見てみたのですが、奏多は締まった守備が好きなようで。本人のバドミントンは超攻撃的なスタイルだったように思うんだけど」
「奏多のバドミントンかー。見たこと無いけど、超攻撃的なスタイルっていうのは何か解釈に一致するわ。嫌らしいことしてきそ~」
「嫌らしいプレーと言うよりは、正々堂々真っ向勝負と言う方がそれらしいかもしれません」

 奏多も奏多で高校野球に関してはハナ先輩にいろいろ教えてもらってるようだ(ハナ先輩は高校野球が好きな人らしい。プロ野球はそこまででもないみたいだけど)。奈々先輩はプロ野球を見てる人で、サンダースのガチ勢だから今年は結構上機嫌な日が多いとか。
 そう言えば俺はスポーツ観戦はあんまりしないなあと、この件を振り返って思い返してみる。レナがバスケを見に行くことがあるって話を聞いたときは意外だったけど、バスケロボットっていうのがあってね、と切り出された時にはその場にいた同期全員が納得した。

「そう言えば、春風って体育会系だったんだよな? えっと、やってたのって水泳と空手だっけ」
「そうですね。あと、去年は体育で合気道とヨガを。如何せん個人スポーツばかりなので、チーム競技だとか、球技はからっきしですよ。そう言えば、徹平くんのその手の話は聞いたことがなかったと思うんだけど、何かスポーツの経験は」
「それが、ちゃんとやったスポーツはないんだよ」
「ええと、これまでに所属した部活動などは」
「高校の時は歴史部で、中学は生活文化部っていう」
「歴史部は何となくわかるのですが、生活文化部とは」
「まあ、何つーか、特に入りたい部がない人だとか、学外での活動がある人が入る部って感じで。俺は特に入りたい部がなかったタイプで、ひたすら読書したり陶芸の真似事っぽいことしてて」
「陶芸ですか! お茶碗など?」
「あ、いや、作ってたのは俺なりの解釈をした土器とか埴輪な? 意味や実用性のある趣味の陶芸ではなかったよ」
「ですが、土をこねた経験があるのであれば、いつか一緒に陶芸などもやってみたいですね」
「それもいいね。良さそうなトコ調べとくよ」

 中学でも高校でも部活の時間は本当に好き勝手に趣味のことをやってたなあと思う。スポーツや吹奏楽、美術一本に打ち込むっていう感じでは全然なかった。よく言えば多趣味だけど、興味関心が散らばりすぎてるのは今でもそうだ。

「あー、何か昔のことちょっと思い出してゾッとしてきた」
「どんなことを思い出したか聞いてもいいですか?」
「中学の時、俺が作った埴輪を眺めるのに窓際に並べまくってたらさ、グラウンドで部活やってた子たちが何だアレっつってちょっとした騒ぎになったー、みたいなことがあってさ」
「……確かに、窓から多数の埴輪がこちらを覗いていると、少し怖いと言うか、不思議な感じがしますね……」
「以来俺は生文の変な子とか埴輪の子みたいな感じでみんなに認識されてさ」
「仕方ありませんよ。そんなことがあれば私でもあの埴輪の子ですね、と認識しますよそれは」
「埴輪作って喜んでる割に歴史の成績そんな良くなくね? みたいに言われてさー。仕方なくね? 近代史はそこまでだったし何なら親の影響で数学と理科の方が強かったもんなー。地学最高」
「菅谷先生のお子さんですもんね、何となくわかります」
「や! でも埴輪事件は悪いことばっかでもなかったんだよ」
「そうなんですか?」
「人と話すきっかけになったんだ。当時は今ほどいろんな人と話す方じゃなかったんだけど、それまであんまり関わりがなかった運動部の子だとか、美術部で造形やってる子にも話しかけられたかなー。あと、歴史の先生とちょっと仲良くなった。何にせよ、あの時の埴輪のおかげで今の俺があると言っても過言じゃない」

 何であれ、人に覚えてもらうためのポイントがあるといいですよね、と言う春風の声にはとても実感が乗っているように思う。それを聞いてみると、北星に顔と名前を一致させてもらうことの大変さが……と返ってきた。自分は星の子として割とすぐに覚えてもらえたけど、と。
 それでササは未だに悩んでいるようだし、その北星と番組でペアを組むジュンもどうしようと考え込んでいたようだ。結局ジュンは自分で短いアニメーションを作ってしまうという力業に出たワケだけど、それが功を奏して意志疎通が取れるようになってきたとか。

「埴輪の子だとか星の子だとか、これという特徴があるのはいいことだなと思うのです。それをきっかけにしてその人ときちんと付き合っていけば、他の面も見えてきますしね」
「そうだな。それはホントにそう。班でツッツの様子を見てて思うよ」
「そう言えば、ツッツの様子はどうですか? ちゃんとやれていますか?」
「なーんにも心配要らないよ。奏多っつー厳しくも頼れる兄貴分がいるし、1年生3人はホントに仲いいから。それこそ人見知りの子とかDIYの子から一歩踏み出せてるよ」


end.


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すがやんて中高で何やってたんだろっていうのが今まで謎だったけど、はにわ作ってたのか
ハナちゃんと高校野球。昨年度ではエイジに地元チームの守備がと苦言を呈してたっぽいけど、今年はどうだったのかしら

(phase3)

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