2023
■こわい人こないで
++++
テスト期間近くになると、情報センターの利用者も少しずつ増えてきてるなーって感じがする。レポート課題をやる人が多いのかな。テスト期間に入ったらもっと大変なことになるぞ、とは春山さんから脅されている。内容はまだ聞いてないけど、何がどうなるんだろう。
今は受付の時間だ。自習室には林原さんがいる。今日はこの後春山さんがやってきて、テスト期間に何が大変なのかを教えてもらうことになってる。よくよく考えたらテスト期間と言うか、繁忙期って初めてだもんなあ。いろいろ気を付けることがあるんだろうなー。
「うーい」
受付のアクリル板越しにこっちを覗いてきたサングラスの人。丸いレンズのサングラスをして、髪はオールバック。細かい柄の入った真っ赤なシャツを着ていてどう見ても星大の学生っぽくはない。……とか考える前に、恐怖でドキッとして。そしたらその人が事務所に入ってくるんだもん。
「わーっ! ふっ、不審者ーっ! 林原さーん! 助けてー!」
「おい、テメーの目は節穴か、アーン?」
「ごめんなさいすみません助けて殺さないでーっ!」
「川北テメー、ワザとやってんならそろそろぶん殴るぞ。どこからどう見ても人畜無害なバイトリーダーの芹サンだろーがよ」
「え…?」
「お前は私が何に見えたっつーんだ」
見た目はいつもより怖かったけど、声はしっかり春山さんだったので先の失礼についてはしっかり謝って。でも本当に怖かった。アルバイトの面談の時くらい怖かったなあ。
「おい川北、何を騒いでいる」
「あ、すみません林原さん。春山さんを怖い不審者の人だと勘違いしちゃいまして」
「ああ、よくあることだな。しかし柄シャツだけならともかく、アンタがその髪型にそのサングラスで歩いていたら堅気ではないと去年あれほど言わなかったか」
「知るか。私だって暑いんだ」
春山さんは何が怖いってまず目つきなんだけど、それがサングラスで隠れてるはずなのに何となく怖さが増すんだよね。しかも髪型もいつもと違うし。オールバックでバチッと決まってたら、うん、まあ、何とは言わないけど何かを海に沈めそうな雰囲気はある。
「川北、お前はこの程度で騒いでいるが、喫煙所に行くとこれが煙草を咥えている」
「わー、こわいですねー」
「しかし、テスト期間を迎える前にこの春山さんを体験出来て良かったな」
「どういうことですかー?」
「テスト期間に入ると普段センターを使わん層の利用者が増える。すると、無理を押し通そうとしたり、飲食禁止や私語禁止といった最低限のセンター利用規約を守れん者も増える。連中が悪質なクレーマーと化してスタッフに詰め寄ることも少なくない」
「ま、大体は1回注意されれば改めるんだがな。たまーにいるんだ、クソみてーな奴が」
「とは言え、そこらの連中は春山さんを知っていればカス当然だ。何か喚いているなあ。という程度に過ぎん」
「何だこの野郎。トラブルの大半はテメーがデカくしてんだろーがよ。その処理をしてやってんのはこっちだぞ」
「一度注意しても態度を改めん奴に慈悲など無用かと」
先輩たちの話によれば、テスト前は友達同士で一緒に勉強をしようとやってくる人が増えるんだそうだ。まず受付で席を隣にしてくれって言ってくるんだけど、席は基本的に人が散らばるようにしてるから出来ないんだよね。
そうやって友達と席が離れると、片方の人がもう片方の人の席まで言ってお喋りを始めることがあるんだとか。それを注意したら席が遠いのが悪いだとか、こっちは勉強をしてるんだーって文句を言われることがあるんだって。
林原さんは何度か注意をしてこの人はダメだと思ったら容赦なく自習室からつまみ出しちゃう。レポートを書いてる最中だろうが何だろうが、保存もさせずにそのままブチッとやっちゃう。そうやってつまみ出された人がまた受付に詰め寄ってくることもあるとかで。
「そういうことだから、テスト期間中の受付はリンのケツ拭きが主な仕事だな」
「妙な表現をするな」
「え、えっと……俺にそんな怖い人の相手が出来ますかねー?」
「だから言っているだろう。春山さんに比べればそこいらの連中など雑魚だ」
「何でもかんでも私を引き合いに出すな」
「えっと、そういう怒ってる人たちってまともに話して通じる物ですか?」
「まあ通じねーな。頭に血が上ってっから」
「春山さんはそういう人たちの相手はどうやってるんですか?」
「まあ、さすがのリンでも一応初回でつまみ出すことはしねーからな。お前が何かしらやったんだろ、最低限の規則は守れよっつって、つーか仕事増やしてんじゃねーよクソがっつー恨み辛みを乗せて睨みつけりゃ大体は解決する」
「春山さん、アンタの目力は川北には無い。全く解決策になっとらん」
「うるせーなクソ野郎」
春山さんの鈍くて重い視線の圧はもちろん、林原さんの鋭く刺すような視線も俺にはない。だから目力での解決法は全く参考になりませんでした。そもそも俺はセンター的には愛想担当、みたいな感じでとにかくニコニコしてろっていう風に先輩たちからは言われてるもんね。
「川北、もしそういう状況になっても事務的に仕事をしていればいい。受付にはアクリル板がある。直接殴られることはあるまい」
「な、殴るとか殴られるとかがあるんですか…!?」
「リン、確かお前1回殴りかかられたことなかったか?」
「避けましたけどね」
「よく避けれますね。俺は鈍臭いんで殴られちゃうと思いますー」
「殺気の類の物はこのバイトリーダーのセクハラで嗅ぎ慣れている」
俺は頭をわしゃわしゃと粗っぽく撫でられるだけなんだけど、春山さんは時々癒しと称して林原さんのお尻を狙ってるんだよね。何でも、林原さんのお尻は弾力がいいのでたまに揉みしだきたい、とかで。確かにそれを避けてたらセンター利用者の殺気にも気付く物なのかなあ。うん、俺にはわかんないや。
「えっと、受付の時の対処の仕方はわかったんですけど、B番の時ってどうしたらいいんですかね?」
「規約を守らん利用者には必ず注意に行け。悪質ならつまみ出せ」
「まあ、なるようになるだろ」
「ええーっ!? どうにかしてくださいよー!」
end.
++++
丸サングラスの春山さんにわーひゃー言ってるところだけをやりたかったので話としては適当。
リン様はまあまあ武闘派なのでちょっと殴りかかられたくらいなら避けちゃう。
(phase1)
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テスト期間近くになると、情報センターの利用者も少しずつ増えてきてるなーって感じがする。レポート課題をやる人が多いのかな。テスト期間に入ったらもっと大変なことになるぞ、とは春山さんから脅されている。内容はまだ聞いてないけど、何がどうなるんだろう。
今は受付の時間だ。自習室には林原さんがいる。今日はこの後春山さんがやってきて、テスト期間に何が大変なのかを教えてもらうことになってる。よくよく考えたらテスト期間と言うか、繁忙期って初めてだもんなあ。いろいろ気を付けることがあるんだろうなー。
「うーい」
受付のアクリル板越しにこっちを覗いてきたサングラスの人。丸いレンズのサングラスをして、髪はオールバック。細かい柄の入った真っ赤なシャツを着ていてどう見ても星大の学生っぽくはない。……とか考える前に、恐怖でドキッとして。そしたらその人が事務所に入ってくるんだもん。
「わーっ! ふっ、不審者ーっ! 林原さーん! 助けてー!」
「おい、テメーの目は節穴か、アーン?」
「ごめんなさいすみません助けて殺さないでーっ!」
「川北テメー、ワザとやってんならそろそろぶん殴るぞ。どこからどう見ても人畜無害なバイトリーダーの芹サンだろーがよ」
「え…?」
「お前は私が何に見えたっつーんだ」
見た目はいつもより怖かったけど、声はしっかり春山さんだったので先の失礼についてはしっかり謝って。でも本当に怖かった。アルバイトの面談の時くらい怖かったなあ。
「おい川北、何を騒いでいる」
「あ、すみません林原さん。春山さんを怖い不審者の人だと勘違いしちゃいまして」
「ああ、よくあることだな。しかし柄シャツだけならともかく、アンタがその髪型にそのサングラスで歩いていたら堅気ではないと去年あれほど言わなかったか」
「知るか。私だって暑いんだ」
春山さんは何が怖いってまず目つきなんだけど、それがサングラスで隠れてるはずなのに何となく怖さが増すんだよね。しかも髪型もいつもと違うし。オールバックでバチッと決まってたら、うん、まあ、何とは言わないけど何かを海に沈めそうな雰囲気はある。
「川北、お前はこの程度で騒いでいるが、喫煙所に行くとこれが煙草を咥えている」
「わー、こわいですねー」
「しかし、テスト期間を迎える前にこの春山さんを体験出来て良かったな」
「どういうことですかー?」
「テスト期間に入ると普段センターを使わん層の利用者が増える。すると、無理を押し通そうとしたり、飲食禁止や私語禁止といった最低限のセンター利用規約を守れん者も増える。連中が悪質なクレーマーと化してスタッフに詰め寄ることも少なくない」
「ま、大体は1回注意されれば改めるんだがな。たまーにいるんだ、クソみてーな奴が」
「とは言え、そこらの連中は春山さんを知っていればカス当然だ。何か喚いているなあ。という程度に過ぎん」
「何だこの野郎。トラブルの大半はテメーがデカくしてんだろーがよ。その処理をしてやってんのはこっちだぞ」
「一度注意しても態度を改めん奴に慈悲など無用かと」
先輩たちの話によれば、テスト前は友達同士で一緒に勉強をしようとやってくる人が増えるんだそうだ。まず受付で席を隣にしてくれって言ってくるんだけど、席は基本的に人が散らばるようにしてるから出来ないんだよね。
そうやって友達と席が離れると、片方の人がもう片方の人の席まで言ってお喋りを始めることがあるんだとか。それを注意したら席が遠いのが悪いだとか、こっちは勉強をしてるんだーって文句を言われることがあるんだって。
林原さんは何度か注意をしてこの人はダメだと思ったら容赦なく自習室からつまみ出しちゃう。レポートを書いてる最中だろうが何だろうが、保存もさせずにそのままブチッとやっちゃう。そうやってつまみ出された人がまた受付に詰め寄ってくることもあるとかで。
「そういうことだから、テスト期間中の受付はリンのケツ拭きが主な仕事だな」
「妙な表現をするな」
「え、えっと……俺にそんな怖い人の相手が出来ますかねー?」
「だから言っているだろう。春山さんに比べればそこいらの連中など雑魚だ」
「何でもかんでも私を引き合いに出すな」
「えっと、そういう怒ってる人たちってまともに話して通じる物ですか?」
「まあ通じねーな。頭に血が上ってっから」
「春山さんはそういう人たちの相手はどうやってるんですか?」
「まあ、さすがのリンでも一応初回でつまみ出すことはしねーからな。お前が何かしらやったんだろ、最低限の規則は守れよっつって、つーか仕事増やしてんじゃねーよクソがっつー恨み辛みを乗せて睨みつけりゃ大体は解決する」
「春山さん、アンタの目力は川北には無い。全く解決策になっとらん」
「うるせーなクソ野郎」
春山さんの鈍くて重い視線の圧はもちろん、林原さんの鋭く刺すような視線も俺にはない。だから目力での解決法は全く参考になりませんでした。そもそも俺はセンター的には愛想担当、みたいな感じでとにかくニコニコしてろっていう風に先輩たちからは言われてるもんね。
「川北、もしそういう状況になっても事務的に仕事をしていればいい。受付にはアクリル板がある。直接殴られることはあるまい」
「な、殴るとか殴られるとかがあるんですか…!?」
「リン、確かお前1回殴りかかられたことなかったか?」
「避けましたけどね」
「よく避けれますね。俺は鈍臭いんで殴られちゃうと思いますー」
「殺気の類の物はこのバイトリーダーのセクハラで嗅ぎ慣れている」
俺は頭をわしゃわしゃと粗っぽく撫でられるだけなんだけど、春山さんは時々癒しと称して林原さんのお尻を狙ってるんだよね。何でも、林原さんのお尻は弾力がいいのでたまに揉みしだきたい、とかで。確かにそれを避けてたらセンター利用者の殺気にも気付く物なのかなあ。うん、俺にはわかんないや。
「えっと、受付の時の対処の仕方はわかったんですけど、B番の時ってどうしたらいいんですかね?」
「規約を守らん利用者には必ず注意に行け。悪質ならつまみ出せ」
「まあ、なるようになるだろ」
「ええーっ!? どうにかしてくださいよー!」
end.
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丸サングラスの春山さんにわーひゃー言ってるところだけをやりたかったので話としては適当。
リン様はまあまあ武闘派なのでちょっと殴りかかられたくらいなら避けちゃう。
(phase1)
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