2023
■夏の水際
++++
「あー、また跳んでら」
「絶妙に跳びたくなる幅なんだろうな」
緑ヶ丘大学の主要施設を結ぶ歩道の中心には整備された池(と言うか噴水?)があって、その周りには芝生が整えられている。夏は何となく気持ちのいい場所だなと思うけど、さすがに日陰も何もない場所なのでとても暑い。
学生課なんかがある1号館の階段に座ってシノと一緒にテイクアウト丼で昼食にしていると、その池を中心に盛り上がりを見せている。この池は正面で向き合うように足場のような物が迫り出していて、足場と足場の間を幅跳びで超えられるか挑戦する人がたまに出てくるんだ。
「シノ、成功してるの見たことあるか?」
「や、見たこと無いな」
「あの幅、何メートルぐらいなんだろ。池自体結構大きいよな」
「見た感じ6メートルとか7メートルって感じか? もうちょっと?」
「もっとあったら跳ぼうにも無理だってならないか?」
「ササ、お前なら跳べんじゃね?」
「いや、さすがに自信ない。幅跳びだろ? 高跳びだったらある程度はやれるけど、前に跳ぶのは」
今も目の前でボチャーンと大きな音と飛沫を上げてまた誰かが落ちていった。あんなに派手に濡れて3限以降の授業はどうするつもりなんだろう。まあ、この暑さだったら薄手の物はすぐ乾くような気もするけど。いや、それでもだよ。
「おーすササ、シノ」
「おーすすがやん」
「俺も一緒にメシいい?」
「いーぜ!」
「それじゃ、お邪魔しまーす」
すがやんは第1学食2階の量り売り弁当だ。テスト前だとかテスト期間は学内に人が増えるから、やっぱりこうやってテイクアウトした物を外で食べるのが無難になってくるんだよなあ。日陰だったら多少は暑さも耐えられる。
「なあすがやん、すがやんはあの池の幅跳び成功してるの見たことある?」
「いやー? 俺は見たことないなー」
「あ、やっぱり」
「でも俺カズ先輩に聞いたことあるんだけど、高崎先輩は跳べるらしいなー」
「マジで!?」
「さすがだな」
「えっ、跳んでんの見たんかカズ先輩」
「見たワケじゃないらしいんだけど、友達に跳べって煽られたから、跳んで髭の氷を奢らせたとか何とかって」
「つか跳べって言われてマジで跳べるのがすげーよ」
「しかも高崎先輩って確か夏でも普通にブーツだったよな」
「あー、そーだそーだ。年中ブーツだった」
「スニーカーとかランニングシューズならともかくあのゴツイ靴で跳べるのが凄い」
「あとこれもカズ先輩から聞いたけど、高崎先輩はサークル棟の2階通路から柵を飛び越して柱伝いに1階に飛び降りる、とかもやってたらしい」
「どーなってんだあの人」
そんなことを話している間にも1人、また1人と大きな飛沫を上げている。それを見てお前も行けよと煽り合う人たちがいるのだろう。高崎先輩は文武両道というイメージが強いから、跳べると聞いてもさほど疑いを持たずに感心してしまう。伊東さんが話してたらしい逸話が本当だとするなら、尚更だ。
「すがやんは跳べる?」
「いや、何言ってんのお前!? 無理無理!」
「って言うかすがやんって体育会系か文化系かがまず謎なんだけど」
「俺ってそーゆーイメージなんだな」
俺たちの中では相変わらずすがやんという人は「よくわからない」というイメージが強い。俺についている「忙しい」というイメージと同じくらい、実際はそうでもないけど何となくそんなイメージ、という感じでその人を表す言葉になっているような気がしないでもない。
「スポーツやってるイメージもないけど体動かすのが嫌いなワケでもないだろ?」
「それはそうだわ。敢えて系統で言えば文化系になるんだろうけど、今だったらアウトドアの活動とかでアクティブに動いてはいるし」
「そうだよな。釣りとかやってるし」
「え、走り幅跳びは?」
「普通だと思うけど。いや、跳ばねーからな!」
「誰も跳べとは言ってねーよ! つかササが跳べないっつってんだから俺ら全員無理だろ」
「まあ、俺らの中で一番運動神経いいのはササだもんなー」
「でも、この池に挑戦するハードルが低いのは川釣りのすがやんとボートレースが好きなシノじゃないか?」
「川釣りはともかくボートレースは関係なくね? ただ水のある場所ってだけじゃんかよ」
「いや、川釣りも関係ないだろ」
「案外大穴でサキが跳べたり」
「巻き込んでやるなよ、かわいそうに。サキは絶対無理だぞ」
「つかササが無理なら全員無理って言ったばっかだろ」
池の噴水からしょわしょわと水が吹き出てきて、夏だなあと思ったりもする。夏になるとこの池での幅跳びが流行するのも涼を求めての事なんだろうなとは推察できる。すがやんの川釣りもシノのボートレース観戦も、想像上ではなかなか涼しそうだ。
「みんな夏休み海行ったりとかする?」
「俺はバイトと対策委員ばっかだわ」
「マジでお疲れ」
「合宿が終わるまではそんなモンだって。すがやんは?」
「あー、そーいや海に行く予定は誰とも入ってないなあ」
「とりぃとはどこか行かないのか?」
「春風とは藍沢から緑風にかけての旅行に行く予定を立ててる」
「そっちの方って何があるんだ?」
「藍沢には星空を楽しめる遺跡ってのがあって、緑風には科学博物館の新しいプラネタリウムを見に行くんだ。何でも、360度全部に投影されるから星を手につかむような感じで見られるとか」
「あ、うん、何て言うかさすがだな。上手く行ってるようで何より」
「うん。すがやんととりぃって感じだ」
星空を楽しめる遺跡とか、絶妙にニッチなはずなのに2人ともが満足出来る場所を探し当ててしまうリサーチ能力は何なんだ一体。聞いてる話がすがやんととりぃらし過ぎて俺もシノもそれ以上深く突っ込むことをしなかったもんな。
「そう言うササはレナとどっか行ったりしねーの?」
「いや、今のところ特段予定はないな」
「つかすがやんさ、定例会って向舞祭のことで忙しいんじゃねーの? カノンがひーひー言ってるけど」
「ああ、それはそれで忙しいけど他の事にも時間は取れるよ」
「すがやんのタイムマネジメント術を真面目に教えて欲しい」
「タイムマネジメントって。そんな大層な事じゃねーって。つかカノンは定例会と対策委員の兼務だから余計忙しいんだって」
昼休みも半分を折り返す頃には池の幅跳びに挑戦する人も少しずつ減っていった。俺の夏の予定は今のところインターフェイス夏合宿の他には割と白い。海か、川か。涼を求めて誰かとどこかへ。そんな予定を立てるなら、細かいことも考えるだけ考えよう。
end.
++++
ササとジュンは高校時代陸上部だったということは去年やったけど、陸さんの競技は決まってなかった
ササシノとすがやんってありそうで意外になかった3人かもしれない。ササキトリオはやったことあるけど
高崎の武勇伝はフェーズ1のどっかの話にある
(phase3)
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「あー、また跳んでら」
「絶妙に跳びたくなる幅なんだろうな」
緑ヶ丘大学の主要施設を結ぶ歩道の中心には整備された池(と言うか噴水?)があって、その周りには芝生が整えられている。夏は何となく気持ちのいい場所だなと思うけど、さすがに日陰も何もない場所なのでとても暑い。
学生課なんかがある1号館の階段に座ってシノと一緒にテイクアウト丼で昼食にしていると、その池を中心に盛り上がりを見せている。この池は正面で向き合うように足場のような物が迫り出していて、足場と足場の間を幅跳びで超えられるか挑戦する人がたまに出てくるんだ。
「シノ、成功してるの見たことあるか?」
「や、見たこと無いな」
「あの幅、何メートルぐらいなんだろ。池自体結構大きいよな」
「見た感じ6メートルとか7メートルって感じか? もうちょっと?」
「もっとあったら跳ぼうにも無理だってならないか?」
「ササ、お前なら跳べんじゃね?」
「いや、さすがに自信ない。幅跳びだろ? 高跳びだったらある程度はやれるけど、前に跳ぶのは」
今も目の前でボチャーンと大きな音と飛沫を上げてまた誰かが落ちていった。あんなに派手に濡れて3限以降の授業はどうするつもりなんだろう。まあ、この暑さだったら薄手の物はすぐ乾くような気もするけど。いや、それでもだよ。
「おーすササ、シノ」
「おーすすがやん」
「俺も一緒にメシいい?」
「いーぜ!」
「それじゃ、お邪魔しまーす」
すがやんは第1学食2階の量り売り弁当だ。テスト前だとかテスト期間は学内に人が増えるから、やっぱりこうやってテイクアウトした物を外で食べるのが無難になってくるんだよなあ。日陰だったら多少は暑さも耐えられる。
「なあすがやん、すがやんはあの池の幅跳び成功してるの見たことある?」
「いやー? 俺は見たことないなー」
「あ、やっぱり」
「でも俺カズ先輩に聞いたことあるんだけど、高崎先輩は跳べるらしいなー」
「マジで!?」
「さすがだな」
「えっ、跳んでんの見たんかカズ先輩」
「見たワケじゃないらしいんだけど、友達に跳べって煽られたから、跳んで髭の氷を奢らせたとか何とかって」
「つか跳べって言われてマジで跳べるのがすげーよ」
「しかも高崎先輩って確か夏でも普通にブーツだったよな」
「あー、そーだそーだ。年中ブーツだった」
「スニーカーとかランニングシューズならともかくあのゴツイ靴で跳べるのが凄い」
「あとこれもカズ先輩から聞いたけど、高崎先輩はサークル棟の2階通路から柵を飛び越して柱伝いに1階に飛び降りる、とかもやってたらしい」
「どーなってんだあの人」
そんなことを話している間にも1人、また1人と大きな飛沫を上げている。それを見てお前も行けよと煽り合う人たちがいるのだろう。高崎先輩は文武両道というイメージが強いから、跳べると聞いてもさほど疑いを持たずに感心してしまう。伊東さんが話してたらしい逸話が本当だとするなら、尚更だ。
「すがやんは跳べる?」
「いや、何言ってんのお前!? 無理無理!」
「って言うかすがやんって体育会系か文化系かがまず謎なんだけど」
「俺ってそーゆーイメージなんだな」
俺たちの中では相変わらずすがやんという人は「よくわからない」というイメージが強い。俺についている「忙しい」というイメージと同じくらい、実際はそうでもないけど何となくそんなイメージ、という感じでその人を表す言葉になっているような気がしないでもない。
「スポーツやってるイメージもないけど体動かすのが嫌いなワケでもないだろ?」
「それはそうだわ。敢えて系統で言えば文化系になるんだろうけど、今だったらアウトドアの活動とかでアクティブに動いてはいるし」
「そうだよな。釣りとかやってるし」
「え、走り幅跳びは?」
「普通だと思うけど。いや、跳ばねーからな!」
「誰も跳べとは言ってねーよ! つかササが跳べないっつってんだから俺ら全員無理だろ」
「まあ、俺らの中で一番運動神経いいのはササだもんなー」
「でも、この池に挑戦するハードルが低いのは川釣りのすがやんとボートレースが好きなシノじゃないか?」
「川釣りはともかくボートレースは関係なくね? ただ水のある場所ってだけじゃんかよ」
「いや、川釣りも関係ないだろ」
「案外大穴でサキが跳べたり」
「巻き込んでやるなよ、かわいそうに。サキは絶対無理だぞ」
「つかササが無理なら全員無理って言ったばっかだろ」
池の噴水からしょわしょわと水が吹き出てきて、夏だなあと思ったりもする。夏になるとこの池での幅跳びが流行するのも涼を求めての事なんだろうなとは推察できる。すがやんの川釣りもシノのボートレース観戦も、想像上ではなかなか涼しそうだ。
「みんな夏休み海行ったりとかする?」
「俺はバイトと対策委員ばっかだわ」
「マジでお疲れ」
「合宿が終わるまではそんなモンだって。すがやんは?」
「あー、そーいや海に行く予定は誰とも入ってないなあ」
「とりぃとはどこか行かないのか?」
「春風とは藍沢から緑風にかけての旅行に行く予定を立ててる」
「そっちの方って何があるんだ?」
「藍沢には星空を楽しめる遺跡ってのがあって、緑風には科学博物館の新しいプラネタリウムを見に行くんだ。何でも、360度全部に投影されるから星を手につかむような感じで見られるとか」
「あ、うん、何て言うかさすがだな。上手く行ってるようで何より」
「うん。すがやんととりぃって感じだ」
星空を楽しめる遺跡とか、絶妙にニッチなはずなのに2人ともが満足出来る場所を探し当ててしまうリサーチ能力は何なんだ一体。聞いてる話がすがやんととりぃらし過ぎて俺もシノもそれ以上深く突っ込むことをしなかったもんな。
「そう言うササはレナとどっか行ったりしねーの?」
「いや、今のところ特段予定はないな」
「つかすがやんさ、定例会って向舞祭のことで忙しいんじゃねーの? カノンがひーひー言ってるけど」
「ああ、それはそれで忙しいけど他の事にも時間は取れるよ」
「すがやんのタイムマネジメント術を真面目に教えて欲しい」
「タイムマネジメントって。そんな大層な事じゃねーって。つかカノンは定例会と対策委員の兼務だから余計忙しいんだって」
昼休みも半分を折り返す頃には池の幅跳びに挑戦する人も少しずつ減っていった。俺の夏の予定は今のところインターフェイス夏合宿の他には割と白い。海か、川か。涼を求めて誰かとどこかへ。そんな予定を立てるなら、細かいことも考えるだけ考えよう。
end.
++++
ササとジュンは高校時代陸上部だったということは去年やったけど、陸さんの競技は決まってなかった
ササシノとすがやんってありそうで意外になかった3人かもしれない。ササキトリオはやったことあるけど
高崎の武勇伝はフェーズ1のどっかの話にある
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