2023
■交流会は平和にね
++++
「2年生の先輩ヤバない…?」
「すごいねー」
2年生の子たちがせっせと会場の支度をするのに1年生が圧倒されている。それにエイジがお前らも荷物運ぶなり何らかの手伝いをしろと発破をかけるとわーっと散っていって。さて、みんな何となく持ち場が決まったみたいだけど、俺は何をしようか。
MBCCではテスト前くらいの時期に春学期打ち上げという会が開かれるのが通例になっている。無制限飲みとは違う公的な会だから店で飲み放題コースを予約するのが基本だ。だけど今回の春学期打ち上げは店での飲み会じゃなくてバーベキューをやることになった。
それというのも、5月頃に凛斗が「サークルのみんなでバーベキューをやりたい」と言っていた話が2年生に伝わると、あれよあれよと話が大きくなっていった。そこまではいいんだけど、いつの間にか向島さんをも巻き込んだ一大行事になってしまっていたんだ。
バーベキューのノウハウはすがやんととりぃが強いし佐藤ゼミ勢も何となく。会場はそれこそ佐藤ゼミでいつも行っている豊葦市内のバーベキューフィールドでいいだろうということになった。足が不安視されたけど、一応電車も使えば歩けないこともない距離感だからセーフの理論で。
「えーと、俺はどこを手伝おうかな。エイジ、仕事探す体で見回ってきていい?」
「そしたらお前は流し場組の雑用でもやってやったらいいべ。流し場で食材下拵えしてる連中がいちいち往復したり洗い物するのもタイムロスだっていう」
「そうだね。実際俺に出来るのはそれだけっぽいし」
バーベキューの網の方はすがやんととりぃがしっかりと仕切ってくれていたので、直近の経験がある佐藤ゼミ組すらその手際の良さに感心してるだけになってた。荷物も向島さんの男手が大体運び終わってたんだよね。後は食材を待って焼くだけ状態みたくって。
「奈々、何か準備できた物でも運ぼうか?」
「あーッ、タカティ助かるッ! そしたらこっちのお肉と野菜が準備出来たヤツだからお願いッ」
「わかったよ」
緑ヶ丘が15人で向島さんが11人だから計26人。佐藤ゼミの1学年分の人数と考えるとわかりやすい。だから予算もゼミバーベキューの予算くらいをイメージしてみんなから2000円を集金した。買い出しは例によってすがやんととりぃが上手いことやってくれたみたい。
今年は果林先輩や野坂先輩みたいに極端にたくさん食べる人も(多分)いないし大丈夫かなって。ウチではササとシノが食べる方だけど、さすがにあそこまでではないし。向島さんはまだ未知数だけど。食材が余ってしまうようなら一人暮らし組に分ければいい。
「奈々、次はどれ?」
「次はねー、ちょっと待機で。殿が今カボチャ切ってくれてるから」
カボチャを切っているのは殿と呼ばれた大きな子だ。初心者講習会のときからその存在は認知していたけど、こうしてちゃんと同じ場で顔を合わせるのは初めてだ。とりぃは殿について、自分の料理の師匠でとても心優しいのです、と言っていたように思う。
表情一つ変えることなく黙々と野菜を下拵えする様子を見ていると、確かに包丁の扱いには慣れているのかなと伺える。こうして見ていると、人を寄せ付けなさそうな厳つい顔も職人のように見えてくるから人のイメージなんていう物は案外いい加減だ。
「殿が切ってるとカボチャも柔らかそうに見えるね」
「殿は僕たちの中でも一番の力持ちですし、包丁の扱いにも長けているのでそういう風に見えるんですよね」
「うちが切ろうと思ったけど固くってさ。殿にお任せしたよねッ」
「そっちの子は何をしてるの?」
「その子はパロっていうんだけど、調味料オタクみたいな感じで今日のバーベキューでもお肉に合うスパイスとかお塩とか、もちろんバーベキューソースだとか、とにかくいろいろ用意してくれてるんだよッ」
「へえ、さすが向島さん。今年の子も個性豊かだなあ」
「あ、挨拶が遅れました。ミキサーのパロっていいます。タカティ先輩はお肉をどんな味で食べたいですか? 言ってもらえれば好みの調味料を用意しますのでお気軽にどうぞ。今日だと野菜炒めに合う物や焼きそばの味を引き立てる物なんかもありますよ」
奈々曰く、今年の1年生ではこの2人が料理上手枠に入るそうで、大学祭の食品ブースでもぜひ活躍して欲しいと考えているそうだ。焼きそばと言えば、ウチも大学祭のブースのことを考え始めないといけないなあ。果たして今年の子たちは新しいレシピを持ってくることが出来るかな。
殿はさっきのカボチャの件でも俺の言葉に返すのは会釈だけって感じだったけど、パロには1パスすると3とか4とかは返ってくる印象だ。コミュニケーション力が高いタイプだから夏合宿でも上手いことやるんじゃないかな、とは奈々評。そうなると殿がちょっと心配なのかな。去年のウチで言うサキみたいな感じで。
「……下拵えが、出来ました」
「そしたらタカティ、これお願いッ」
「はーい」
山盛りの野菜が入ったザルを抱えて網の方へ行くと、既に炭に火がついて肉を焼くだけの状態になっていた。どぶ漬けにもお茶やジュースがしっかり沈められてセッティングされてるし、なかなか本格的だ。どぶ漬けなんて最近はオープンキャンパスでしか見ないけど、とりぃの家の備品だそうだ。すごい。
「高木せんぱーい、準備まだかかりますかー?」
「もうそろそろ終わりじゃないかな」
「じゃ肉焼いてて大丈夫っすかね?」
「使った道具の片付けとかもあるし、もうちょっと流し場の子たちを待っててあげて」
「野菜は焼いてていいっすか? カボチャとかトウモロコシとか」
「そうだね。火の通りにくい物は焼き始めていいかも」
流し場の方を窺うと、奈々が大きく丸のサインを出してくれたので片付けまで粗方終わったという解釈でいいだろう。それを受けて、網の方にも号令をかける。ちなみに今回はお酒はオプションで、飲みたい人は参加費500円増というルール。俺はもちろん払ってます。
網の上で肉や野菜が焼ける音が大きくなる中で、みんなが思い思いに飲みたい物を選んで取っていく。乾杯は全員が揃ってから。両校の交流会は冬の缶蹴り以来だけど、平和的な会になりそうでよかった。……戦争は起こらないですよね? ですよねー…?
「あっ、みんな来た来た。エイジ、乾杯の挨拶よろしく」
「俺がすんのかっていう」
「一応緑ヶ丘主動の会だしね?」
end.
++++
先人は「交流会とは言え、戦争だ」などと言っていたので実に物騒だなと思いました。
春風が車を持ち始めたのは夏合宿直前。鳥居家の備品はやんカーに乗せてきたのかな?
バーベキューの話を大きくしたのは例によってすがくるなんだろうなあという想像には難くない
(phase3)
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「2年生の先輩ヤバない…?」
「すごいねー」
2年生の子たちがせっせと会場の支度をするのに1年生が圧倒されている。それにエイジがお前らも荷物運ぶなり何らかの手伝いをしろと発破をかけるとわーっと散っていって。さて、みんな何となく持ち場が決まったみたいだけど、俺は何をしようか。
MBCCではテスト前くらいの時期に春学期打ち上げという会が開かれるのが通例になっている。無制限飲みとは違う公的な会だから店で飲み放題コースを予約するのが基本だ。だけど今回の春学期打ち上げは店での飲み会じゃなくてバーベキューをやることになった。
それというのも、5月頃に凛斗が「サークルのみんなでバーベキューをやりたい」と言っていた話が2年生に伝わると、あれよあれよと話が大きくなっていった。そこまではいいんだけど、いつの間にか向島さんをも巻き込んだ一大行事になってしまっていたんだ。
バーベキューのノウハウはすがやんととりぃが強いし佐藤ゼミ勢も何となく。会場はそれこそ佐藤ゼミでいつも行っている豊葦市内のバーベキューフィールドでいいだろうということになった。足が不安視されたけど、一応電車も使えば歩けないこともない距離感だからセーフの理論で。
「えーと、俺はどこを手伝おうかな。エイジ、仕事探す体で見回ってきていい?」
「そしたらお前は流し場組の雑用でもやってやったらいいべ。流し場で食材下拵えしてる連中がいちいち往復したり洗い物するのもタイムロスだっていう」
「そうだね。実際俺に出来るのはそれだけっぽいし」
バーベキューの網の方はすがやんととりぃがしっかりと仕切ってくれていたので、直近の経験がある佐藤ゼミ組すらその手際の良さに感心してるだけになってた。荷物も向島さんの男手が大体運び終わってたんだよね。後は食材を待って焼くだけ状態みたくって。
「奈々、何か準備できた物でも運ぼうか?」
「あーッ、タカティ助かるッ! そしたらこっちのお肉と野菜が準備出来たヤツだからお願いッ」
「わかったよ」
緑ヶ丘が15人で向島さんが11人だから計26人。佐藤ゼミの1学年分の人数と考えるとわかりやすい。だから予算もゼミバーベキューの予算くらいをイメージしてみんなから2000円を集金した。買い出しは例によってすがやんととりぃが上手いことやってくれたみたい。
今年は果林先輩や野坂先輩みたいに極端にたくさん食べる人も(多分)いないし大丈夫かなって。ウチではササとシノが食べる方だけど、さすがにあそこまでではないし。向島さんはまだ未知数だけど。食材が余ってしまうようなら一人暮らし組に分ければいい。
「奈々、次はどれ?」
「次はねー、ちょっと待機で。殿が今カボチャ切ってくれてるから」
カボチャを切っているのは殿と呼ばれた大きな子だ。初心者講習会のときからその存在は認知していたけど、こうしてちゃんと同じ場で顔を合わせるのは初めてだ。とりぃは殿について、自分の料理の師匠でとても心優しいのです、と言っていたように思う。
表情一つ変えることなく黙々と野菜を下拵えする様子を見ていると、確かに包丁の扱いには慣れているのかなと伺える。こうして見ていると、人を寄せ付けなさそうな厳つい顔も職人のように見えてくるから人のイメージなんていう物は案外いい加減だ。
「殿が切ってるとカボチャも柔らかそうに見えるね」
「殿は僕たちの中でも一番の力持ちですし、包丁の扱いにも長けているのでそういう風に見えるんですよね」
「うちが切ろうと思ったけど固くってさ。殿にお任せしたよねッ」
「そっちの子は何をしてるの?」
「その子はパロっていうんだけど、調味料オタクみたいな感じで今日のバーベキューでもお肉に合うスパイスとかお塩とか、もちろんバーベキューソースだとか、とにかくいろいろ用意してくれてるんだよッ」
「へえ、さすが向島さん。今年の子も個性豊かだなあ」
「あ、挨拶が遅れました。ミキサーのパロっていいます。タカティ先輩はお肉をどんな味で食べたいですか? 言ってもらえれば好みの調味料を用意しますのでお気軽にどうぞ。今日だと野菜炒めに合う物や焼きそばの味を引き立てる物なんかもありますよ」
奈々曰く、今年の1年生ではこの2人が料理上手枠に入るそうで、大学祭の食品ブースでもぜひ活躍して欲しいと考えているそうだ。焼きそばと言えば、ウチも大学祭のブースのことを考え始めないといけないなあ。果たして今年の子たちは新しいレシピを持ってくることが出来るかな。
殿はさっきのカボチャの件でも俺の言葉に返すのは会釈だけって感じだったけど、パロには1パスすると3とか4とかは返ってくる印象だ。コミュニケーション力が高いタイプだから夏合宿でも上手いことやるんじゃないかな、とは奈々評。そうなると殿がちょっと心配なのかな。去年のウチで言うサキみたいな感じで。
「……下拵えが、出来ました」
「そしたらタカティ、これお願いッ」
「はーい」
山盛りの野菜が入ったザルを抱えて網の方へ行くと、既に炭に火がついて肉を焼くだけの状態になっていた。どぶ漬けにもお茶やジュースがしっかり沈められてセッティングされてるし、なかなか本格的だ。どぶ漬けなんて最近はオープンキャンパスでしか見ないけど、とりぃの家の備品だそうだ。すごい。
「高木せんぱーい、準備まだかかりますかー?」
「もうそろそろ終わりじゃないかな」
「じゃ肉焼いてて大丈夫っすかね?」
「使った道具の片付けとかもあるし、もうちょっと流し場の子たちを待っててあげて」
「野菜は焼いてていいっすか? カボチャとかトウモロコシとか」
「そうだね。火の通りにくい物は焼き始めていいかも」
流し場の方を窺うと、奈々が大きく丸のサインを出してくれたので片付けまで粗方終わったという解釈でいいだろう。それを受けて、網の方にも号令をかける。ちなみに今回はお酒はオプションで、飲みたい人は参加費500円増というルール。俺はもちろん払ってます。
網の上で肉や野菜が焼ける音が大きくなる中で、みんなが思い思いに飲みたい物を選んで取っていく。乾杯は全員が揃ってから。両校の交流会は冬の缶蹴り以来だけど、平和的な会になりそうでよかった。……戦争は起こらないですよね? ですよねー…?
「あっ、みんな来た来た。エイジ、乾杯の挨拶よろしく」
「俺がすんのかっていう」
「一応緑ヶ丘主動の会だしね?」
end.
++++
先人は「交流会とは言え、戦争だ」などと言っていたので実に物騒だなと思いました。
春風が車を持ち始めたのは夏合宿直前。鳥居家の備品はやんカーに乗せてきたのかな?
バーベキューの話を大きくしたのは例によってすがくるなんだろうなあという想像には難くない
(phase3)
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