2023

■体の具合はどうですか?

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「シノ、具合はどうだ?」

 オープンキャンパスが終わってから、シノをお見舞いに行った。何でも、インフルエンザに罹ってしまったらしい。対策委員の会議を休んで大学の保健センターで診てもらって、必要な処置を受けたり薬をもらってしばらく休むことになったんだけど、オープンキャンパスのことがすっぽ抜けて連絡を忘れてしまったんだそうだ。
 オープンキャンパスでは佐藤ゼミの活動が入っていた。2年生は体験講義の合間の簡易的な番組をやるということになっていたんだけど、シノがいないことでシノの班がバタついてしまったんだ。ミキサーの代役をどうするということで俺とまいみぃが対策を講じ、その日の番組は何とかすることが出来た。
 体調を聞くと、かすれた声で「なんとか」と返って来た。喉を傷めているという話は聞いていたから、ゼリーみたいな食べやすいものを中心に買って来たし、まいみぃには俺でも作れるお粥のレシピを聞いてみた。熱もあるだろうからアイスノンもバッチリだ。一応、俺がインフルをもらわないように季節外れのマスクも用意してある。

「ゼリーとか、買って来た物は冷蔵庫に入れてあるから。あとアイスノンは冷凍庫な。必要だったら使って」
「サンキュー。悪いな相棒」
「相棒なんだろ? こんな時くらい甘えてくれ」
「ん。つくづく、ありがとな」
「お前は頑張り過ぎとは言わないけど、あれ以来体調は崩しやすいんだから自分でも人一倍気に掛けてくれ」
「そうだな。反省する」

 シノは去年の夏に熱中症をやった。熱中症というのは一度やると癖になりやすいらしく、それが原因かはわからないけど他のちょっとしたことでも調子を崩しがちになったような気がする。それでなくてもシノは深夜帯にバイトをしているし、かと言って授業が3限からというワケでもない。授業中以外にいつ寝てるんだとは正直思う。

「そう言えば、班の番組はどーなった?」
「高木先輩にお願いしたよ。まいみぃからキューシート見せてもらったけど、俺じゃどうにも出来なかったし」
「そっかー……先輩にも申し訳ない。ちなみにだけど、先輩はあの番組を初見でこなせたような感じか?」
「『すぐ手が慣れた』って」
「それはそれでショックで熱がぶり返しそうだわ」
「元気になったら高木先輩にお礼しとけな。あと班のみんなにも。まいみぃなんか、お前が抜けた穴を埋めるのにどれだけ走り回ってたか」
「ん」
「今も、お前のところに行くなら一発殴っとけって言われたくらいだ。いや、俺はお前を殴る理由はないから殴らないけど、元気になったらお前がまいみぃから一発受けてくれ」
「何か、いろいろ覚悟することがあんのな。他に何か変わったことはあった?」
「変わったことではないけど、果林先輩と高木先輩の番組はやっぱり凄かったよ」
「あー……昼休みの?」
「ああ。1時間の実質的アドリブ合戦な」
「……なに、あの人らあの場面で遊ぶ余裕があんのかよ」

 ちなみに高木先輩は果林先輩と昼休みに1時間の番組を受け持っていた。その番組はキューシートこそ簡単に書いてあるし番組の構成も練ってあるそうだけど、その通りに行くとは2人とも微塵とも思っていなくて、アドリブに次ぐアドリブで1時間があっという間に過ぎ去ってしまうらしい。もちろん番組としての体裁は保っている。
 そんな番組の後にあるシノの班の番組を急遽お願いしたにも関わらず、キューシートを見ただけであっさりとこなしてしまうのだから高木先輩という人は本当に凄い。シノだって一生懸命考えた構成だったはずだ。事実、キューシートの音の波はよくある番組とは全然違っていて、結構奇抜だという印象だった。

「こんな時に聞くことでもないけど、シノ、対策委員の方は大丈夫そうか?」
「対策委員はカノンと当麻がいれば何とかなる。会議の報告もくるみが受けてくれたし、当麻直々に詳細な連絡もくれた」
「さすが当麻」
「何つーか、俺は見かけ上は議長だけど、実際会議を回してんのはその2人だし、実務って点で言えば北星か。アイツがいれば回ってんだよ」
「北星って実は凄いんだな」
「実はな。ムラっ気が強いのがアレらしいけど、映像の話をさせたら大エースだ」
「映像で思い出した。オープンキャンパスの番組はビデオに撮ってるから、後で先生に頼んで見せてもらった方がいいと思う」
「え、見るのか?」
「見た方がいいだろ。自分の班の番組がどうなったか確認するだとか、昼休みの番組なんか生きた番組進行を間近に見るいい機会だっていうのに。俺だって果林先輩のライブ力に圧倒されて、言葉にならなかったんだ」
「あー…! そうだよな…! 高木先輩の番組進行は生で見るべきだったな。そう考えたらマジで現場にいれないのが悔しいぜ」
「あっ、俺が言っといて何だけど、今はしっかり体を休めることだけを考えてくれ。連休明けに間に合わなくても、授業のことも心配するな」
「マジで助かります」

 本当に、俺が振っておいて難だけど、こうなったシノは対策委員やミキサーのことばかりを考え始めてしまうんじゃないかと心配だ。この6畳一間ではそれと言ってすることもないし。休めって言われても、ただ寝ているだけじゃ逆に体が痛くなったりもする。

「そうだシノ、お粥食べるか? 喉を痛めてるならちょっとでも食べやすい方がいいかと思ってまいみぃに作り方を教わって来たんだ。お前はしんどくても食べない方がしんどいだろ?」
「おっ、マジか。じゃあ、お言葉に甘えていただきます」
「レシピ通りにやるから出来るとは思うけど、正直期待はしないでくれ。俺、普段料理はしないから」
「うーん……レシピ通りに出来なかったっつったらお前も麻衣に殴られるぞ多分」
「うっ。殴られるのはホントに勘弁だ。頑張ります」


end.


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殴られるのがトラウマの陸さんだからね、お粥作りをがんばるよ
お見舞いの話も初めて。ムギツーだからみんな押し掛けようと思えば行けるけど、さすがにインフルだからね

(phase3)

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