2023
■フランクな居場所
++++
「ういーす」
「おっ奏多、やりに来た?」
「やっぱたまには体動かしとかないと鈍ってしゃーねーぜ。どうだ佑人、ここらで一戦」
「いいよ。臨むところだ」
俺はMMPで活動を始めたけど、バドミントンも完全に辞めたワケじゃない。時間が合う時はこうしてたまに打ちに来ていた。とは言え前原さんや真希ちゃんが卒業してったし、かっすーもいない。行くのは佑人がいるとわかっている時だけだ。たまにスカすときもあるけど、そういう時は麻生さんが俺に構ってくれる。そんな繋がりを残してくれた真希ちゃんにはマジで感謝だ。
バドサー的に俺はたまにだけ顔を覗かせる気紛れな奴という扱いだ。実際それで間違いない。見かけたらラッキーみたいな風にも言われてるらしい。で、たまに来た俺が打ち合いの相手に選ぶのは佑人だから、ある種のイベントと化してるとは麻生さんから聞いた。みんな結構面白がって見てるらしい。俺は見世物じゃねーっての。
オフェンスタイプの俺にディフェンスタイプの佑人。ゲームの運び方もまるで違う相手との打ち合いは面白い。打倒前原さんを掲げてやってたときほどガチってはないけど、何つーか、新鮮な気持ち? それともフラットな気持ち? 何にせよ今までよりもフランクにバドミントンに向き合えている。何だかんだ好きなのには変わりない。
「ふー、やっぱ奏多の相手はツライなー」
「あんだけ拾いまくっといて何言ってやがる。絶対持久戦に持ち込まれるこっちの身にもなれっつーの」
「去年は自分が持久戦に持ち込むために鍛えてたんだから良くない?」
「よくねーよ。だりー、次来るの間空けっかな」
「いや、空けたら余計だるいだろ」
「北島さん「次は奏多いつ来るかな」が口癖になってますもんね」
「遙香」
「冗談です。でも実際ウチのアクティブなメンバーと比べても松居君ほどショットの威力がある人はいませんもんね」
「遙香も遙香で後衛選びの基準を奏多にしてるから「麻生さんは厳しい」みたいな風に言われて振られまくるし鬼軍曹扱いされるんだろ」
「ちょっと!」
「今って麻生さんが軍曹ポジになった感じ?」
「軍曹と言うほどじゃないけど、やっぱり、ペアを組む相手にはいろいろ求めたいし。もちろん、私もその分前衛としての働きと全うしなければならないとはわかってるんだけど。あっ松居君、この後私と組んでダブルスのゲームをやりましょう」
「いやー、求められてるうちが華とはよく言ったねー」
何だかんだここに居場所みたいなモンが残って良かったなと思う。佑人や麻生さんだけじゃなくて、たま~に好奇心の強い奴とかがたまにだけ来る謎の人に声を掛けて来たり、技術的なことを聞いて来たりする。春風はもう完全にあの腐り切った天文部との縁を切ったようだけど、俺は元いた場所の環境が悪くて出てったワケでもなかったからな。
「奏多、MMPでの調子はどう? 1年生、結構入ったんでしょ」
「おかげ様で存続の危機は脱したっつー感じかな。今は食堂でやってる昼放送を短くした版のヤツを1年にもやらせて実践練習させてる段階」
「言えば自分も1年生と歴はそんなに変わらないんだろ?」
「まーな。でもその辺は水面下でちゃんとやってるんでご心配なく」
「松居君てどうして練習してるところとかをひた隠しにするの?」
「天才肌の松居でいた方がラクじゃんか」
「そういうものなのかな?」
何つーか、俺が“真面目に”だとか“努力”だのを表に出し過ぎるとガチっぽくなりすぎて重苦しくならないか、的な不安がある。それを抜きにしてもフランクな雰囲気にしといた方が人に声を掛けやすいし、掛けられやすいし。俺が世渡りする上ではふざけた天才肌でちょっとムカつくくらいの野郎でいた方がイージーだ。
「春日井君も元気?」
「おうよ。かっすーは元気も元気。暴れないように見とくのが大変なくらいだ」
「あの子らしいなあ」
「麻生さんてかっすーと絡みあったっけ?」
「少しだけ話したことがある程度だけど、人懐こい子だから印象には残ってる」
「……ああ、そうだ。春日井君で思い出した。要らない情報だろうけど、奏多も聞いとく?」
「一応、聞いとこうか」
「春日井君と一緒にMMPを見学して、結局すぐ辞めてった露崎さんていたでしょ。奏多覚えてる?」
「ああ、あの溝鼠な。あれがどうしたんだよ」
「今は天文部に移ったそうだよ」
「はっ。お似合いじゃねーか」
「「イケメンはいないけどチヤホヤしてくれるからまあいいか」的な感じで居付いたらしいね」
「あれに潰して持ち帰るだけの価値があるとは到底思えねえが」
「正直あの子、苦手だったんですよね。私に向かって強く打ち込んで来るなとか、私の可愛さを妬んでるんだーとか、意味の分からないことを言うじゃないですか」
「気にすんなよ麻生さん。アイツが麻生さんを妬んでただけだったんだから。ま、クズはクズらしく落ち着くべきところに落ち着いたってことで、バドミントンサークルは平和になりましたとさ、ちゃんちゃん。で、いーだろ?」
向島大学のクズの掃き溜め、天文部。何人かいたはずの真面目に天文やってたガチ勢も卒業やら脱退やらでほとんどいなくなっているはずだ。春風によれば、当時3年だった天文ガチ勢の残りの人も、部を出て自分で新たに天文サークルを立ち上げたということだ。真面目に星が好きな奴が、部の看板に騙されて泣きを見ることがないように、と。
「さ、麻生さん。俺の休憩は済んだぜ。やるんだろ、ダブルス」
「あ、うん。やりましょう」
「誰かいい相手はいるかなー」
「とりあえず、北島さんはやりますよね?」
「えっ、俺?」
「せっかく松居君が来てるんですから、やれるだけやらないと損ですよ! 次はいつになるかわからないんですから!」
「あー……えーと、俺のペア、誰にしようかな。誰かー、俺とペア組んでー。軍曹にボコボコに痛めつけられる覚悟のある訓練生、求むー」
「北島さん。どうやらボコボコにされたいみたいですね? いいでしょう。お望み通り、思いっ切りやりますから、松居君が」
「えっ、俺がやんの?」
「もちろん私もやるけど。松居君も、北島さんをぎゃふんと言わせるのを手伝って」
「まあいいけど、今までの件を見て敢えて佑人と組もうっつー猛者が出て来るかだなー」
end.
++++
フェーズ2でモブ的に出て来たバドサーの2人にも少し色が付いて来た感。
奏多はたまにバドサーにも顔を出しているという設定。だから体は動く方。
(phase3)
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「ういーす」
「おっ奏多、やりに来た?」
「やっぱたまには体動かしとかないと鈍ってしゃーねーぜ。どうだ佑人、ここらで一戦」
「いいよ。臨むところだ」
俺はMMPで活動を始めたけど、バドミントンも完全に辞めたワケじゃない。時間が合う時はこうしてたまに打ちに来ていた。とは言え前原さんや真希ちゃんが卒業してったし、かっすーもいない。行くのは佑人がいるとわかっている時だけだ。たまにスカすときもあるけど、そういう時は麻生さんが俺に構ってくれる。そんな繋がりを残してくれた真希ちゃんにはマジで感謝だ。
バドサー的に俺はたまにだけ顔を覗かせる気紛れな奴という扱いだ。実際それで間違いない。見かけたらラッキーみたいな風にも言われてるらしい。で、たまに来た俺が打ち合いの相手に選ぶのは佑人だから、ある種のイベントと化してるとは麻生さんから聞いた。みんな結構面白がって見てるらしい。俺は見世物じゃねーっての。
オフェンスタイプの俺にディフェンスタイプの佑人。ゲームの運び方もまるで違う相手との打ち合いは面白い。打倒前原さんを掲げてやってたときほどガチってはないけど、何つーか、新鮮な気持ち? それともフラットな気持ち? 何にせよ今までよりもフランクにバドミントンに向き合えている。何だかんだ好きなのには変わりない。
「ふー、やっぱ奏多の相手はツライなー」
「あんだけ拾いまくっといて何言ってやがる。絶対持久戦に持ち込まれるこっちの身にもなれっつーの」
「去年は自分が持久戦に持ち込むために鍛えてたんだから良くない?」
「よくねーよ。だりー、次来るの間空けっかな」
「いや、空けたら余計だるいだろ」
「北島さん「次は奏多いつ来るかな」が口癖になってますもんね」
「遙香」
「冗談です。でも実際ウチのアクティブなメンバーと比べても松居君ほどショットの威力がある人はいませんもんね」
「遙香も遙香で後衛選びの基準を奏多にしてるから「麻生さんは厳しい」みたいな風に言われて振られまくるし鬼軍曹扱いされるんだろ」
「ちょっと!」
「今って麻生さんが軍曹ポジになった感じ?」
「軍曹と言うほどじゃないけど、やっぱり、ペアを組む相手にはいろいろ求めたいし。もちろん、私もその分前衛としての働きと全うしなければならないとはわかってるんだけど。あっ松居君、この後私と組んでダブルスのゲームをやりましょう」
「いやー、求められてるうちが華とはよく言ったねー」
何だかんだここに居場所みたいなモンが残って良かったなと思う。佑人や麻生さんだけじゃなくて、たま~に好奇心の強い奴とかがたまにだけ来る謎の人に声を掛けて来たり、技術的なことを聞いて来たりする。春風はもう完全にあの腐り切った天文部との縁を切ったようだけど、俺は元いた場所の環境が悪くて出てったワケでもなかったからな。
「奏多、MMPでの調子はどう? 1年生、結構入ったんでしょ」
「おかげ様で存続の危機は脱したっつー感じかな。今は食堂でやってる昼放送を短くした版のヤツを1年にもやらせて実践練習させてる段階」
「言えば自分も1年生と歴はそんなに変わらないんだろ?」
「まーな。でもその辺は水面下でちゃんとやってるんでご心配なく」
「松居君てどうして練習してるところとかをひた隠しにするの?」
「天才肌の松居でいた方がラクじゃんか」
「そういうものなのかな?」
何つーか、俺が“真面目に”だとか“努力”だのを表に出し過ぎるとガチっぽくなりすぎて重苦しくならないか、的な不安がある。それを抜きにしてもフランクな雰囲気にしといた方が人に声を掛けやすいし、掛けられやすいし。俺が世渡りする上ではふざけた天才肌でちょっとムカつくくらいの野郎でいた方がイージーだ。
「春日井君も元気?」
「おうよ。かっすーは元気も元気。暴れないように見とくのが大変なくらいだ」
「あの子らしいなあ」
「麻生さんてかっすーと絡みあったっけ?」
「少しだけ話したことがある程度だけど、人懐こい子だから印象には残ってる」
「……ああ、そうだ。春日井君で思い出した。要らない情報だろうけど、奏多も聞いとく?」
「一応、聞いとこうか」
「春日井君と一緒にMMPを見学して、結局すぐ辞めてった露崎さんていたでしょ。奏多覚えてる?」
「ああ、あの溝鼠な。あれがどうしたんだよ」
「今は天文部に移ったそうだよ」
「はっ。お似合いじゃねーか」
「「イケメンはいないけどチヤホヤしてくれるからまあいいか」的な感じで居付いたらしいね」
「あれに潰して持ち帰るだけの価値があるとは到底思えねえが」
「正直あの子、苦手だったんですよね。私に向かって強く打ち込んで来るなとか、私の可愛さを妬んでるんだーとか、意味の分からないことを言うじゃないですか」
「気にすんなよ麻生さん。アイツが麻生さんを妬んでただけだったんだから。ま、クズはクズらしく落ち着くべきところに落ち着いたってことで、バドミントンサークルは平和になりましたとさ、ちゃんちゃん。で、いーだろ?」
向島大学のクズの掃き溜め、天文部。何人かいたはずの真面目に天文やってたガチ勢も卒業やら脱退やらでほとんどいなくなっているはずだ。春風によれば、当時3年だった天文ガチ勢の残りの人も、部を出て自分で新たに天文サークルを立ち上げたということだ。真面目に星が好きな奴が、部の看板に騙されて泣きを見ることがないように、と。
「さ、麻生さん。俺の休憩は済んだぜ。やるんだろ、ダブルス」
「あ、うん。やりましょう」
「誰かいい相手はいるかなー」
「とりあえず、北島さんはやりますよね?」
「えっ、俺?」
「せっかく松居君が来てるんですから、やれるだけやらないと損ですよ! 次はいつになるかわからないんですから!」
「あー……えーと、俺のペア、誰にしようかな。誰かー、俺とペア組んでー。軍曹にボコボコに痛めつけられる覚悟のある訓練生、求むー」
「北島さん。どうやらボコボコにされたいみたいですね? いいでしょう。お望み通り、思いっ切りやりますから、松居君が」
「えっ、俺がやんの?」
「もちろん私もやるけど。松居君も、北島さんをぎゃふんと言わせるのを手伝って」
「まあいいけど、今までの件を見て敢えて佑人と組もうっつー猛者が出て来るかだなー」
end.
++++
フェーズ2でモブ的に出て来たバドサーの2人にも少し色が付いて来た感。
奏多はたまにバドサーにも顔を出しているという設定。だから体は動く方。
(phase3)
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