2023

■夢見る部活動

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「あっ、とりぃ先輩! おはようございますっ」
「パロ。おはようございます」

 厳密にはおはようございますという時間ではないのですが、大学生の挨拶はおはようございますになりがちだなあと思います。掲示板に立ち寄ると、パロから声を掛けられました。パロは今年の1年生6人の中では人懐こいタイプで、初心者講習会での様子を見ていても、コミュニケーション能力がとても高いように見受けられました。

「とりぃ先輩て、確か元々は天文部にいたんですよね」
「はい、そうです。星や宇宙の話をわかりやすく話せるようになりたくてMMPに移って来たのですよ。その頃はちょうどサークル存続の危機でもありましたし、希くんから熱烈に勧誘されまして」
「カノン先輩が熱烈にって言うと、本当に一生懸命だったんでしょうね」
「はい。だからこそ、私も奏多も希くんの想いに応えたいと思ったのですよ」

 11人にまで膨れ上がったサークルの現状からすると、元々は奈々先輩と希くんの2人だけでこの春を迎えるはずだったとは想像し難いですね。急に規模が大きくなることによる問題もあるとは思いますが、活動が続くことが第一です。1年生にも実践的な練習をしてもらっていますし、秋の昼放送が楽しみです。その前には夏合宿もありますが。

「玉ちゃんおまたせー」
「おかえりー」
「お友達ですか?」
「はい。三鷹北斗くんっていって、学科の友達です。殿ともよく一緒になりますし、今年新しく出来たっていう天文サークルに入ってるんですよ」
「三鷹でーす。玉ちゃんの友達でーす」
「忘れかけていましたが、パロは玉野くんというのでしたね」
「DJネームは名前から少し離れてますからね。ところで、とりぃ先輩はその天文サークルのことは知っていますか?」
「ええ、知っていますよ。その天文サークルを立ち上げられたのは、現在4年生の田原先輩ではありませんか?」
「はい、そうです」
「やっぱり。田原先輩から話には聞いていたのです。天文部とは別に新たな天文サークルを立ち上げるのだと。メンバーも入っているようで私も安心しました」
「玉ちゃんの先輩さん、田原さんのこと知ってるんですか?」
「ああ、申し遅れましたね。私は鳥居春風といいます。去年までは天文部で、田原先輩のお世話になっていたのですよ」

 実は、学年が上がる少し前に田原先輩から報告を受けていたのです。自分は天文部を辞めて新たに天文サークルを立ち上げようと思っているのだと。正直、天文部ではそれらしい活動はほとんど出来ていませんでしたし、星が好きな人もほとんどいないような部活なので私も見限ったのですが。
 心残りがあるとすれば磐田先輩が作られたプラネタリウムですが、あれは一応天文部の所有物となっているので持って行くことは出来なかったそうです。ただ、作り方は教えてもらってあるそうですし、プログラムのソースコードはコピーして別の場所に保存してあるので、頑張れば作れないこともないとも。
 それこそ、もしも新たな天文サークルが大学祭などで磐田先輩のプラネタリウムを再現する方向性で行くとするならば、私の力も貸して欲しいという風には既に頼まれているのです。その時の状況にもよりますが、可能な限りお手伝いをさせてくださいという風に返事をしてあります。もちろん、より良く出来る人が来てくれれば一番いいのですが。

「ところで、新しい天文サークルではどういった活動をしているのですか?」
「えっとですねー、今のところ月1か2くらいで観測会をやってて、観測会がないときはそれっぽい話をしてるって感じですね。えーと、こないだはロケットがカッコいいって話になって、その構造とかを簡単に調べたりとかして、次回はペットボトルロケットを作ることになってます」
「ペットボトルロケット? 楽しそうだけど、天文サークルっぽくはないね」
「私はとても素敵な活動だと思いますよ。天文と一言で言っても、そこから派生するものは様々ですから。何より、物理化学は天文学とは切っても切り離せません」
「へー、そうなんですね。僕は物理化学とか、理系っぽい話はさっぱりで」
「玉ちゃん、文系ならではの星の楽しみ方ってのもあるんだぜ?」
「ええ? そうなの?」
「そうですよ。ええと……そうですね、いろはの顔を思い浮かべてもらえればイメージが付きやすいかと思うのですが」
「ああ、なるほど。星をテーマにした文学作品とかもあるってことですね」

 田原先輩の天文サークルでは、星や宇宙に親しみを持ってもらうために、あまりカッチリとし過ぎない活動というのも積極的に行っているようです。もちろん次の観測会で狙う星の情報などはしっかりと勉強するのですが、その他は結構緩めです。ペットボトルロケットの次は、月面探索というアナログゲームをやるそうです。
 そして月面探索というアナログゲームの後には、月面探査や宇宙開発の歴史について簡単に学ぼうという流れになっているそうです。田原先輩の立ち上げた天文サークルの活動の様子を聞いていると、素直に羨ましく思います。いえ、決してMMPに移って来たことを後悔はしていないのですが。

「そしたら玉ちゃん、俺そろそろサークル行くわー」
「うん。お疲れー」
「田原先輩によろしくお伝えください」
「了解しましたー」
「パロ、私たちも行きましょうか」
「そうですねー。あっ、そうだとりぃ先輩。サークルが終わったら、その時にどんな星が見えてるか教えてもらっていいですか?」
「はい、もちろんいいですよ」
「あー、でも星を見上げるには僕は背が低いですね。殿くらいあれば良かったですかね?」
「大丈夫です。大した差ではありませんよ」


end.


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春風がいなくなったことによってぼっちになってしまった天文ガチ勢の田原先輩、まずは存在の匂わせから。
あとついでにMMP1年社学勢の普段の様子をチラ見する用意も整えつつ。

(phase3)

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