2023
■上の人として聞く話
++++
「あっ、源さんいた!」
「五百崎君、源に用事ですか」
「ちょっと部長に相談したいことがあるんすけど、急ぎでもないんでお二方が忙しければ俺は出直します」
「いえ、大丈夫ですよ。源への指導はちょうど終わったところですので」
書類仕事に対する向き合い方がいい加減だといつものようにレオからお説教されていると、深青が訪ねて来た。深青と言えば今村班のプロデューサー……と言うか、バンド編成を取ってる今村班の場合はベーシストって言った方がそれらしいかな。プライベートでもヴィジュアル系バンドを組んでいて、本人の見た目もザ・V系って感じなんだよね。
で、その深青が俺に何の用事なのかなっていうところには全く心当たりがない。俺を探すのには結構苦労したみたいだけど、その辺は彩人だとか、逆にレオの行方を知ってそうな人を辿って来たそうだ。レオの姿が見えないと、密かにどこかで仕事をしてるか俺を追いかけてるかのどっちか、という風に部内では見られてるとか。
「俺は席を外した方がいいですかね」
「や、どっちかっつーと、所沢さんにもいてもらった方がいいっすね」
「っていう話だし、レオも一緒に話を聞こうよ」
「ではこのまま五百崎君の“相談”に入りましょうか」
「それで、相談っていうのは?」
「そうっすねー。この間、インターフェイスの初心者講習会があったじゃないすか」
「そうだね」
「それに出た1年が言ってたんすけど、インターフェイスの講習会はどこの大学でも使えるラジオの基礎の触りを教えてくれたけど、星ヶ丘の放送部では全体として統一されたステージの基礎、みたいなモンはあんまりちゃんと教えてもらえてないなーって話だったんす」
「源、インターフェイスの講習会の内容については把握していますか。技術向上対策委員は確か早瀬さんでしたね」
「うん。大体は海月に聞いて把握してるよ」
「講習内容をまとめた書類などがあれば写しを俺にも見られるようにしてもらいたいのですが」
「わかったよ」
「失礼しました。五百崎君、続けてください」
「ステージっつーモンをやる上で、班ごとの特色はありつつも、部として統一した基本的な技術指導? とか講習? みたいなモンの機会は設けてもいいんじゃないか、っつー風に思ったんすよ。ほら、丸の池にせよファンフェスにせよ、星ヶ丘大学放送部っていう括りでやってるワケっすし、全体としての質があんまりバラバラ過ぎんのも」
自分たちの時はどうだったかなーということを考えた時に、確かに部全体での技術指導、みたいなことは全くなかったなと思う。鎌ヶ谷班にいたときも、ミキサーのことはシゲトラ先輩やマロ先輩に教えてもらっていたし、朝霞班に移ってからはもっと班の中でギュッと凝縮したような実践的指導って感じだったから。
「五百崎君の言うことには一理あります」
「そうだねえ。でも、誰がどんな腕前で、どんな技術を持ってるか、みたいなことはきちんと全部把握出来てないもんね」
「先輩たちってその辺の技術、みたいなモンはどうやって身に付けたんすか? 当時は部全体の指導とかありました?」
「レオ、一応聞いてみるけどレオは部全体での技術指導、みたいなものは受けた?」
「当時の俺が、そのような場所に出られたと思いますか」
「だよねえ……。えっと、俺のミキサーとしての技術はそれこそインターフェイスの現場だったり、朝霞班でビシバシ鍛えてもらったのがベースになってるかなあ」
「俺も実質的には柳井班に移ってからディレクターとしてあるべき仕事を始めましたし、部の同じパートの上手い人の動きを見て盗むなどして自分の物にしましたね」
今でこそ俺とレオは部長と監査だけど、元々ははみ出し者の流刑地と呼ばれた朝霞班の班員と、その妨害をしていた日高班のディレクター(工作員)だ。1年生の頃はとてもじゃないけど普通って言える環境にはなかった2人に当時のことを聞いても何の参考にもならないんだよね。それこそマリンとかいまむーとかに聞かないと。
それから、パートのことで言えばやっぱりプロデューサーやアナウンサーが花形って感じだし、ちょっと前々はパートによっても階級みたいな物があったっていう話だ。だからなのか、ミキサーやディレクターになりたがる人もそんなに多くなかったみたいなんだよね。つばめ先輩はその辺りのことに前々から苦言を呈してたし、つばめ先輩が越谷班に流された理由にもなった。
「彩人から聞いたんすけど、源さんて小道具だとか衣装作りのスキルが神懸かり的なんすよね」
「神懸かりとまではいかないけど、小道具作りは1年生の頃から任せてもらえてたかなあ」
「何か、班の方針で1年だろうが何だろうが出来る奴が引っ張るってスタンスだったんすよね。相手が3年だろうがPだろうがビシバシ指導する、的な」
「1年の時はそんな感じだったね。当時の班長がそういう人だったから」
「そういうスキルの共有ってのも後々は考えてもらいたいんすけど、まずはステージの基礎講習の機会を1年の連中に設けてやって欲しいっす。どうか検討お願いします」
きっと深青なりに部全体のことだとか、ステージのことを考えてくれた結果が今回の相談だったんだろうね。そうやって話しに来てもらえるのは嬉しいことだなって思う。深青は結構面倒見もいいそうだし、1年生たちの力になってあげたかったのかな? うん、これは俺も何とかしてあげたい。
「うん、そうだね。前向きに考えてみるよ。えーと、そしたら講習が出来そうな人を各パートで1人か2人ピックアップして、話し合ってみようか。レオ、そういうことでいい?」
「わかりました。ミキサーは源でいいとして、残り3パートですね」
「えっ、俺がやるの!?」
「何を言っているんですか。代替わりの時もこの代にはミキサーがいなさすぎるという理由で源が機材管理担当を兼務することになったんじゃありませんか」
「そうだったね。じゃあ、ミキサーは俺がやるよ。あと、ディレクターはレオでいいし、プロデューサーはマリンに声を掛けてみる価値はあるなあ。それから――……あっ! そうだレオ、初心者講習会の資料が欲しいんだったよね! 海月に言って用意してもらうしついでだから一緒に源班のブースに行こう! そういうことだから深青、話が進んだらまた報告するね!」
「わかりました。あざっす」
「では俺も失礼します。源、廊下は走らないでください!」
end.
++++
書類仕事以外はめっちゃ仕事が早いし有能な源部長とそれに引き摺り回される監査のレオ。インターフェイスじゃのほほんとしてるのになあ
彩人はこの段階じゃまだ自分の能力向上が一番って感じで、全体のことにまではまだ目が配れなさそう。あと秋に向かっては効果音作りの分野に開眼か
(phase3)
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「あっ、源さんいた!」
「五百崎君、源に用事ですか」
「ちょっと部長に相談したいことがあるんすけど、急ぎでもないんでお二方が忙しければ俺は出直します」
「いえ、大丈夫ですよ。源への指導はちょうど終わったところですので」
書類仕事に対する向き合い方がいい加減だといつものようにレオからお説教されていると、深青が訪ねて来た。深青と言えば今村班のプロデューサー……と言うか、バンド編成を取ってる今村班の場合はベーシストって言った方がそれらしいかな。プライベートでもヴィジュアル系バンドを組んでいて、本人の見た目もザ・V系って感じなんだよね。
で、その深青が俺に何の用事なのかなっていうところには全く心当たりがない。俺を探すのには結構苦労したみたいだけど、その辺は彩人だとか、逆にレオの行方を知ってそうな人を辿って来たそうだ。レオの姿が見えないと、密かにどこかで仕事をしてるか俺を追いかけてるかのどっちか、という風に部内では見られてるとか。
「俺は席を外した方がいいですかね」
「や、どっちかっつーと、所沢さんにもいてもらった方がいいっすね」
「っていう話だし、レオも一緒に話を聞こうよ」
「ではこのまま五百崎君の“相談”に入りましょうか」
「それで、相談っていうのは?」
「そうっすねー。この間、インターフェイスの初心者講習会があったじゃないすか」
「そうだね」
「それに出た1年が言ってたんすけど、インターフェイスの講習会はどこの大学でも使えるラジオの基礎の触りを教えてくれたけど、星ヶ丘の放送部では全体として統一されたステージの基礎、みたいなモンはあんまりちゃんと教えてもらえてないなーって話だったんす」
「源、インターフェイスの講習会の内容については把握していますか。技術向上対策委員は確か早瀬さんでしたね」
「うん。大体は海月に聞いて把握してるよ」
「講習内容をまとめた書類などがあれば写しを俺にも見られるようにしてもらいたいのですが」
「わかったよ」
「失礼しました。五百崎君、続けてください」
「ステージっつーモンをやる上で、班ごとの特色はありつつも、部として統一した基本的な技術指導? とか講習? みたいなモンの機会は設けてもいいんじゃないか、っつー風に思ったんすよ。ほら、丸の池にせよファンフェスにせよ、星ヶ丘大学放送部っていう括りでやってるワケっすし、全体としての質があんまりバラバラ過ぎんのも」
自分たちの時はどうだったかなーということを考えた時に、確かに部全体での技術指導、みたいなことは全くなかったなと思う。鎌ヶ谷班にいたときも、ミキサーのことはシゲトラ先輩やマロ先輩に教えてもらっていたし、朝霞班に移ってからはもっと班の中でギュッと凝縮したような実践的指導って感じだったから。
「五百崎君の言うことには一理あります」
「そうだねえ。でも、誰がどんな腕前で、どんな技術を持ってるか、みたいなことはきちんと全部把握出来てないもんね」
「先輩たちってその辺の技術、みたいなモンはどうやって身に付けたんすか? 当時は部全体の指導とかありました?」
「レオ、一応聞いてみるけどレオは部全体での技術指導、みたいなものは受けた?」
「当時の俺が、そのような場所に出られたと思いますか」
「だよねえ……。えっと、俺のミキサーとしての技術はそれこそインターフェイスの現場だったり、朝霞班でビシバシ鍛えてもらったのがベースになってるかなあ」
「俺も実質的には柳井班に移ってからディレクターとしてあるべき仕事を始めましたし、部の同じパートの上手い人の動きを見て盗むなどして自分の物にしましたね」
今でこそ俺とレオは部長と監査だけど、元々ははみ出し者の流刑地と呼ばれた朝霞班の班員と、その妨害をしていた日高班のディレクター(工作員)だ。1年生の頃はとてもじゃないけど普通って言える環境にはなかった2人に当時のことを聞いても何の参考にもならないんだよね。それこそマリンとかいまむーとかに聞かないと。
それから、パートのことで言えばやっぱりプロデューサーやアナウンサーが花形って感じだし、ちょっと前々はパートによっても階級みたいな物があったっていう話だ。だからなのか、ミキサーやディレクターになりたがる人もそんなに多くなかったみたいなんだよね。つばめ先輩はその辺りのことに前々から苦言を呈してたし、つばめ先輩が越谷班に流された理由にもなった。
「彩人から聞いたんすけど、源さんて小道具だとか衣装作りのスキルが神懸かり的なんすよね」
「神懸かりとまではいかないけど、小道具作りは1年生の頃から任せてもらえてたかなあ」
「何か、班の方針で1年だろうが何だろうが出来る奴が引っ張るってスタンスだったんすよね。相手が3年だろうがPだろうがビシバシ指導する、的な」
「1年の時はそんな感じだったね。当時の班長がそういう人だったから」
「そういうスキルの共有ってのも後々は考えてもらいたいんすけど、まずはステージの基礎講習の機会を1年の連中に設けてやって欲しいっす。どうか検討お願いします」
きっと深青なりに部全体のことだとか、ステージのことを考えてくれた結果が今回の相談だったんだろうね。そうやって話しに来てもらえるのは嬉しいことだなって思う。深青は結構面倒見もいいそうだし、1年生たちの力になってあげたかったのかな? うん、これは俺も何とかしてあげたい。
「うん、そうだね。前向きに考えてみるよ。えーと、そしたら講習が出来そうな人を各パートで1人か2人ピックアップして、話し合ってみようか。レオ、そういうことでいい?」
「わかりました。ミキサーは源でいいとして、残り3パートですね」
「えっ、俺がやるの!?」
「何を言っているんですか。代替わりの時もこの代にはミキサーがいなさすぎるという理由で源が機材管理担当を兼務することになったんじゃありませんか」
「そうだったね。じゃあ、ミキサーは俺がやるよ。あと、ディレクターはレオでいいし、プロデューサーはマリンに声を掛けてみる価値はあるなあ。それから――……あっ! そうだレオ、初心者講習会の資料が欲しいんだったよね! 海月に言って用意してもらうしついでだから一緒に源班のブースに行こう! そういうことだから深青、話が進んだらまた報告するね!」
「わかりました。あざっす」
「では俺も失礼します。源、廊下は走らないでください!」
end.
++++
書類仕事以外はめっちゃ仕事が早いし有能な源部長とそれに引き摺り回される監査のレオ。インターフェイスじゃのほほんとしてるのになあ
彩人はこの段階じゃまだ自分の能力向上が一番って感じで、全体のことにまではまだ目が配れなさそう。あと秋に向かっては効果音作りの分野に開眼か
(phase3)
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