2023

■プレゼントのムード

++++

「すがやん誕生日おめでとー! ございましたー」
「ありがとなー」
「これでみんなのお祝いが一巡したね!」

 どうやら昨日がすがやんの誕生日だったようで、2年生たちがお祝いムード。2年生6人は、それぞれの誕生日にプレゼントを贈ったりして何かしらのお祝いをしている。去年7月、ササの誕生日にすがくるサキの3人が読書グッズを贈ったのが始まりだ。それから1人500円程度の予算で祝い合うようになったらしい。
 去年はこの様子を見ながら1年生は仲が良いなあと思ってたんだけど、どうやら今年はこれを見て1年生の子たちも2年生の先輩たちは仲が良いなあと思っているみたいだ。この6人は本当に仲が良いよなあ。団体行動に向いてると言うか。俺たちは壮平が自由すぎるからなかなかね。いざ4人集まれば楽しいんだけど。

「で、いつものヤツね。みんなですっ……ごく! 考えたんだから!」
「俺たちからすがやんへのプレゼントはこれだね」
「おー! 午後ティーのケースじゃん! 助かる~!」
「荷物になるかなとは思ったけど、すがやんは車があるし、申し訳ないけどこれごとドンと」
「いやー、助かる助かる! ……えっと、そしたら車に置いて来ようかな?」
「じゃあ、駐車場まで持ってくよ。祝ってる人に担がせるのも申し訳ないし」

 今回の贈り物は、午後の紅茶レモンティーの24本入りケース。すがやんがいつも飲んでいる500mlペットだ。俺も午後ティーのストレートを結構飲むからケースでもらえれば正直ありがたいし羨ましい。1ヶ月はやっていけるもんなあ。まあ、ここでもらってもどうやって持って帰ろうって問題は出て来るんだけど。
 ササがすがやんの車のある駐車場までそれを担いで持って行ってあげるみたいだ。さすがに重いもんねえ。ちなみにここにケースを担ぎ入れたのはシノだ。コムギハイツに置いておいて、きっと原付で運んできたのかな。今の2年生だとササとシノがやっぱり力もあるし、肉体労働的なことはお願いしやすい。

「すがやん喜んでくれてよかったねー」
「ホントに。シノのお手柄だよ今回ばかりは」
「え、シノが午後ティーがいいよって案を出したの?」
「そう、聞いて下さいよ高木先輩! すがやんって多趣味じゃないですか」
「うん、そうだね」
「だからこれっていうプレゼントがアタシたち6人の中で1番絞りにくいんですよ!」

 例えばササなら読書、くるみならスイーツ、レナならロボット……という風にこれというテーマがわかりやすい子であればプレゼントの路線も絞りやすいけど、すがやんはとにかく多趣味。考古学に始まり釣りにアウトドア、裁縫にレザーなどなど……とにかく興味の幅が広くて今、何に一番夢中なのかが本当にわからないんだそうだ。

「私も春風からそれとなく情報を集めたりしたんですけど正直不発で」
「とりぃと被らないようにもしなきゃいけなかったでしょ」
「私たちも逆にどんなプレゼントがいいか聞かれましたからね」
「結局とりぃはどうしたんだろう」
「古代エジプト学や考古学をモチーフにした文具っていうのを見つけたらしくて、それをネット通販で取り寄せてましたね。本人がもう持ってても消耗品だからいくらあってもいいだろうって」
「って言うかそんなのがあるんだ」
「あるみたいですよ。ヒエログリフ柄のタオルとか」
「へ、へえ~……」
「あたしたちもすがやんに何あげようってすーっごく考えたんですよ。何気に本をすっごく読むから図書カードがいいんじゃないってサキが言うんですけど、金券って誕生日のプレゼントとしてはちょっと味気なくないですか?」
「ゴメン、俺は結構嬉しい」
「ほら。嬉しい人もいるんだよ」
「もー!」

 釣り道具を贈ってみようか。誰が釣りに詳しいの。じゃあ裁縫道具を見てみようか。レザーグッズを見てみようか。すがやんは自分の趣味の道具は結構こだわる方だよ。にわか仕込みの知識で適当な物は贈れないよ。もー、サキは反論ばっかり。じゃあ図書カードとかガソリンのギフト券は。券っていうのは味気ないよ。くるみも反論するじゃない。
 そんな風にくるみとサキのちょっとしたやり合いもあったみたいだけど、みんなそれだけ頭を悩ませてたんだ。そもそもすがやんってどういう人だろうって5人して真剣に考えて。モノよりコトの方に重きを置く人という印象も彼らの中にはあったみたいだけど、物は物で結構こだわりがあったりするらしいし。とりぃとの兼ね合いもある。

「そこでシノの発言が光ったんですよ! 午後ティーとかでいいんじゃね? って」
「議論がなかなか進んでなかったんなら投げやりにも聞こえそうだけどね」
「そうなんですよ。実際ちょっと投げやりっぽかったんです! でもすがやんのこだわりは押さえつつ、予算内で買えて、かつ彼女からもらうような物じゃないのが午後ティーのケースだったんですよ! 高木先輩、ちなみに先輩だったら午後ティーのケースもらったら嬉しいですか?」
「凄く嬉しい。1ヶ月分の紅茶代が浮くワケでしょ? ありがたいよね」
「シノの倹約志向が生んだ妙案だったんですよ」
「これにはくるみもサキも含めて全員納得したの?」
「みんなで「それだー!」って拍手喝采万歳三唱ですよ!」
「そこまでではないよ。くるみは話を大きくし過ぎ」
「ちょこっとだけは盛ったけど! サキだってすっごい頷いてたじゃん!」

 まーた始まったとレナとシノは苦笑い。きっと話し合いのときもこんな感じだったんだろうなあ。いつもだったらすがやんが間に入って2人のバランスを取ってるけど、すがやんがいないときってどうなるんだろう。

「ただいまー」
「おかえりすがやん。陸さんも運搬お疲れさまです」
「くるみとサキがギスってる感じだけど」
「ああ、いつものだから」
「ケンカするほど何とかっつーヤツな」
「ねー聞いてよすがやん! サキがヒドいんだよ!」
「俺は本当のことを言ってるだけだからね。くるみはいつも大袈裟なんだよ」
「あーあーはいはい、どうしたんだよ」
「サキとくるみのケンカなんて大体いつも内容がないのに、それを「どうしたー」って話を聞けるすがやんの懐の深さだよね」
「玲那、随分とバッサリ言ったな」


end.


++++

4月5月生まれくらいの人の宿命を経て一巡した誕生祝いの輪。何気にTKGパイセンとは3ヶ月しか違わない。
くるサキがちょこちょこケンカしてるのもよく見る感じになりつつあるけど仲良し故。

(phase3)

.
28/98ページ