2023
■俺たちの戦いはこれからだ
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連休明け最初の出勤日。ウチの会社は週の頭ほど忙しくて、週末に向かっていくにつれどんどん出荷量が減っていく傾向にある。連休前は結構な出荷量を人材派遣の人を呼びながらひーこら言って捌いていた。入社1ヶ月はどの仕事で雇われた人でも新卒は全員現場での仕事をしてたけど、これがヤマかと。
システムの扱いで雇われたとは言え俺はバスケやってるし、基礎体力がそれなりにあるからまあやれたけど、マジな事務職で雇われた女子なんかは本当にへとへとになってて気の毒だなって思った。あと、大石はさすがにバイトからの社員登用だけあって、大したことないって顔をしてた。
「越野君、それ今朝の伝票だから分けといてもらっていい?」
「わかりました。やたら薄いですけどこれってまだプリントしてる最中とかですか?」
「ううん、これで全部」
「薄っ!」
「連休が明けたらこんなもんだよ」
「へー、そうなんですね」
主任に手渡された今朝の出荷伝票の束は薄い。連休前の何分の1だってレベルだ。これで作業時間は何時間くらいになるんですかと聞いてみると、2時間くらいじゃないかなと返ってくる。マジかよ。連休前は午前の仕事を午後になってもやってたってのに。
連休が明けたということでここからは俺も事務所での仕事を覚えていく段階に入るそうだ。事務職の人は事務の仕事をするし、俺はシステムに触り始める。現場仕事で入社した人も、本格的な入出庫管理の仕事に入っていくらしい。
「2時間で仕事が終わったら、空いた時間はどうなるんですか?」
「パートさんは返品で戻ってきた製品を綺麗にするし、社員は各々の持ち場で仕事をするよ。これから秋冬の製品が入ってくるから、その場所を作ったりね。庫内整理って言うんだけど」
「へー、そうなんですね」
「越野君は入荷出荷をパソコンの上で管理してもらうことになるかな。その辺は高沢君に教えてもらいながらになると思うけど」
そんな話をしながらでもササッと伝票を分け終わってしまったので、何という薄さだと。でも、そんな日がないと庫内整理とやらも出来ないんだなと思う。俺はまだその様子を見たことがないからちょっとイメージが付かないんだけど。
「おはようございまーす」
「大石君おはよう」
「おーす」
「あっ、さすがに連休明けは薄いですねー。今日は片付け日和だなあ」
大石はさすが、4年バイトしていただけあって年間の出荷量の波みたいな物もしっかり把握しているようだ。今日は出荷より先の修羅場で荒れた持ち場の片付けを優先するとのこと。
「大石、現場の片付けってどんな風にしてやんの?」
「秋冬のカタログと入出荷表を見ながら、どれがどれだけ来るからこれくらいのスペースを空けて~みたいなことを考えて今ある製品を詰めていくんだよ。だからひっきりなしにロケーション変更ばっかりして」
「へえ、そうなのか」
「越野、他人事みたいに言ってるけど、大規模なロケーション変更になったらWMSの端末だけでやるのが大変って言って事務所の人にお願いする人もいるし、越野がパソコンで手打ちすることになるかもだよ」
「えっ、マジか」
「あーあー、そうだな。ハタケは事務所に投げる派だから覚悟しといた方がいいかもね」
「ハタケさんのところってめっちゃ品数多いじゃないすかー!」
「だからだよ」
倉庫内で入出庫管理をするシステムがある。それを扱うための端末(1台10万オーバーらしい)を1人1台持ってるんだけど、大元のパソコン上でデータを扱う方がやっぱり楽なんだそうだ。で、俺のマシンではそのデータを扱えるそうで……。うん、使い方覚えなきゃな。
何をどこにどれだけ入庫したとか、何をどこからどんだけ出したかっていうのを基本に、返品入庫の数を管理したりもするらしい。何日に戻ってきた物の何パーセントが戻ったかとか、誰の端末で返したかみたいなことが一目瞭然らしい。怖っ。
「おはようございます」
「おーすオミ」
「おはようございます」
「ああ越野、後で所長から話あると思うけど、お前今度から新倉庫の研修な」
「えっ!? 新倉庫の研修!? ……って、何やるんすか?」
「詳しくは後で説明するけど、別に怯えて構えなきゃいけねえことでもない」
「今のオミの話を補足すると、越野君は大石君と一緒にオミの補佐的業務を担当することになったんだ。そのために新倉庫では何をしてるのかっていうのを研修するんだよ」
「へー、そうなんすかー。……って、塩見さんの補佐!?」
「宮本主任、今さりげなく俺もって言いました!?」
「ここ最近扱う製品も数も増えてるからオミの負担がデカくなってきてるって話は前々からしてたんだよ。補佐をつけるなら誰がいいかなって考えた時に、ある程度現場で経験のある大石君と、体力があってデータも扱える越野君が適任だねって」
「へー……。そういうことなら任してくださいよ! ま、まあ、今はまだペーペーですけど、半年経つ頃にはある程度使えるようになります!」
「ああ、もちろん日常の業務の合間だけ。入荷が多いときだけで大丈夫だからね」
この1ヶ月の仕事振りを見ながら、これから新入社員の誰がどんな仕事をするかというのを上の方の人たちで話し合っていたそうだ。例えば経験者の大石はもっと踏み込んだ仕事を、俺は事務所の仕事をベースにしつつ現場も歩かせる、といったように。
もちろん入社1年目の社員に全部を任せきりにすることはないので安心して欲しいと主任は言う。でも次の繁忙期は盆明けからだから、それまでにはある程度モノになっていて欲しいとも。その時点での出来如何では越野にもフォークリフトを仕込みたいと塩見さんが呟く。「拓馬さんのマンツーマン指導とか怖すぎかよ」と高崎の声がする。
「会社的に俺がフォークリフトを乗れるようになる利点ってあるんですかね」
「データと現物の確認を他の人間に声をかけなくても出来るようになるし、繁忙期だったら事務所で仕事をしながらたまにパレットを下に降ろしたり出来るだろ」
「持っといて一応損はないんすね。じゃあ圭佑君もリフトは乗れる感じなんですね」
「いや、アイツはガチガチのシステム担当だから乗れねえな」
「え」
「まあ、それだけオミに見込まれてるってことでいいんじゃない? どっちにしても、新卒の現場の子たちには今度講習受けてもらうし、越野君も一緒に行くだけ行ってきたら?」
「うん、乗れた方が便利だと思うよ」
「そっか、お前もうリフト乗れるんだな」
「去年の夏休みに取らせてもらったよ」
これから覚えることが多そうだけど、それがどうした。半年経つ頃にはちゃんと使えるようになってやるんだ。なるほど、こういう、出荷が薄いときに自分のスキルを上げていくんだな。まだまだ社会人生活は始まったばかりだ。
end.
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5月病とは縁がなさそうなこっしーの社会人生活。ちーちゃんは会社的には新卒にして慣れた若手扱い。
(phase3)
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連休明け最初の出勤日。ウチの会社は週の頭ほど忙しくて、週末に向かっていくにつれどんどん出荷量が減っていく傾向にある。連休前は結構な出荷量を人材派遣の人を呼びながらひーこら言って捌いていた。入社1ヶ月はどの仕事で雇われた人でも新卒は全員現場での仕事をしてたけど、これがヤマかと。
システムの扱いで雇われたとは言え俺はバスケやってるし、基礎体力がそれなりにあるからまあやれたけど、マジな事務職で雇われた女子なんかは本当にへとへとになってて気の毒だなって思った。あと、大石はさすがにバイトからの社員登用だけあって、大したことないって顔をしてた。
「越野君、それ今朝の伝票だから分けといてもらっていい?」
「わかりました。やたら薄いですけどこれってまだプリントしてる最中とかですか?」
「ううん、これで全部」
「薄っ!」
「連休が明けたらこんなもんだよ」
「へー、そうなんですね」
主任に手渡された今朝の出荷伝票の束は薄い。連休前の何分の1だってレベルだ。これで作業時間は何時間くらいになるんですかと聞いてみると、2時間くらいじゃないかなと返ってくる。マジかよ。連休前は午前の仕事を午後になってもやってたってのに。
連休が明けたということでここからは俺も事務所での仕事を覚えていく段階に入るそうだ。事務職の人は事務の仕事をするし、俺はシステムに触り始める。現場仕事で入社した人も、本格的な入出庫管理の仕事に入っていくらしい。
「2時間で仕事が終わったら、空いた時間はどうなるんですか?」
「パートさんは返品で戻ってきた製品を綺麗にするし、社員は各々の持ち場で仕事をするよ。これから秋冬の製品が入ってくるから、その場所を作ったりね。庫内整理って言うんだけど」
「へー、そうなんですね」
「越野君は入荷出荷をパソコンの上で管理してもらうことになるかな。その辺は高沢君に教えてもらいながらになると思うけど」
そんな話をしながらでもササッと伝票を分け終わってしまったので、何という薄さだと。でも、そんな日がないと庫内整理とやらも出来ないんだなと思う。俺はまだその様子を見たことがないからちょっとイメージが付かないんだけど。
「おはようございまーす」
「大石君おはよう」
「おーす」
「あっ、さすがに連休明けは薄いですねー。今日は片付け日和だなあ」
大石はさすが、4年バイトしていただけあって年間の出荷量の波みたいな物もしっかり把握しているようだ。今日は出荷より先の修羅場で荒れた持ち場の片付けを優先するとのこと。
「大石、現場の片付けってどんな風にしてやんの?」
「秋冬のカタログと入出荷表を見ながら、どれがどれだけ来るからこれくらいのスペースを空けて~みたいなことを考えて今ある製品を詰めていくんだよ。だからひっきりなしにロケーション変更ばっかりして」
「へえ、そうなのか」
「越野、他人事みたいに言ってるけど、大規模なロケーション変更になったらWMSの端末だけでやるのが大変って言って事務所の人にお願いする人もいるし、越野がパソコンで手打ちすることになるかもだよ」
「えっ、マジか」
「あーあー、そうだな。ハタケは事務所に投げる派だから覚悟しといた方がいいかもね」
「ハタケさんのところってめっちゃ品数多いじゃないすかー!」
「だからだよ」
倉庫内で入出庫管理をするシステムがある。それを扱うための端末(1台10万オーバーらしい)を1人1台持ってるんだけど、大元のパソコン上でデータを扱う方がやっぱり楽なんだそうだ。で、俺のマシンではそのデータを扱えるそうで……。うん、使い方覚えなきゃな。
何をどこにどれだけ入庫したとか、何をどこからどんだけ出したかっていうのを基本に、返品入庫の数を管理したりもするらしい。何日に戻ってきた物の何パーセントが戻ったかとか、誰の端末で返したかみたいなことが一目瞭然らしい。怖っ。
「おはようございます」
「おーすオミ」
「おはようございます」
「ああ越野、後で所長から話あると思うけど、お前今度から新倉庫の研修な」
「えっ!? 新倉庫の研修!? ……って、何やるんすか?」
「詳しくは後で説明するけど、別に怯えて構えなきゃいけねえことでもない」
「今のオミの話を補足すると、越野君は大石君と一緒にオミの補佐的業務を担当することになったんだ。そのために新倉庫では何をしてるのかっていうのを研修するんだよ」
「へー、そうなんすかー。……って、塩見さんの補佐!?」
「宮本主任、今さりげなく俺もって言いました!?」
「ここ最近扱う製品も数も増えてるからオミの負担がデカくなってきてるって話は前々からしてたんだよ。補佐をつけるなら誰がいいかなって考えた時に、ある程度現場で経験のある大石君と、体力があってデータも扱える越野君が適任だねって」
「へー……。そういうことなら任してくださいよ! ま、まあ、今はまだペーペーですけど、半年経つ頃にはある程度使えるようになります!」
「ああ、もちろん日常の業務の合間だけ。入荷が多いときだけで大丈夫だからね」
この1ヶ月の仕事振りを見ながら、これから新入社員の誰がどんな仕事をするかというのを上の方の人たちで話し合っていたそうだ。例えば経験者の大石はもっと踏み込んだ仕事を、俺は事務所の仕事をベースにしつつ現場も歩かせる、といったように。
もちろん入社1年目の社員に全部を任せきりにすることはないので安心して欲しいと主任は言う。でも次の繁忙期は盆明けからだから、それまでにはある程度モノになっていて欲しいとも。その時点での出来如何では越野にもフォークリフトを仕込みたいと塩見さんが呟く。「拓馬さんのマンツーマン指導とか怖すぎかよ」と高崎の声がする。
「会社的に俺がフォークリフトを乗れるようになる利点ってあるんですかね」
「データと現物の確認を他の人間に声をかけなくても出来るようになるし、繁忙期だったら事務所で仕事をしながらたまにパレットを下に降ろしたり出来るだろ」
「持っといて一応損はないんすね。じゃあ圭佑君もリフトは乗れる感じなんですね」
「いや、アイツはガチガチのシステム担当だから乗れねえな」
「え」
「まあ、それだけオミに見込まれてるってことでいいんじゃない? どっちにしても、新卒の現場の子たちには今度講習受けてもらうし、越野君も一緒に行くだけ行ってきたら?」
「うん、乗れた方が便利だと思うよ」
「そっか、お前もうリフト乗れるんだな」
「去年の夏休みに取らせてもらったよ」
これから覚えることが多そうだけど、それがどうした。半年経つ頃にはちゃんと使えるようになってやるんだ。なるほど、こういう、出荷が薄いときに自分のスキルを上げていくんだな。まだまだ社会人生活は始まったばかりだ。
end.
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5月病とは縁がなさそうなこっしーの社会人生活。ちーちゃんは会社的には新卒にして慣れた若手扱い。
(phase3)
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