2023
■いつ来る妖怪菓子配り
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世間ではゴールデンウィークの連休期間。とは言え情報センターは平常通り開放されている。こんな時に誰が来るんだと林原さんは言うけど、本当にその通り。俺は受付の仕事だし、林原さんは自習室の仕事をすることになってるけど林原さんも事務所で待機しっぱなしだもんね。
春山さんは、この期間を過ぎればセンターの利用者もガクッと落ちて、1年生の独り立ちにもちょうど良くなるっていう風に言っていた。確かにここ最近の感じだったら1人でも、よっぽどのことがない限りは対応出来そうだなって思っちゃう。けど、そういう油断が出始めたときこそシャンとしないと。
「妖怪菓子配りが帰って来るのは……9日か」
林原さんがカレンダーをなぞりながら何かを確認しているみたいな。単語がちょっと物騒な感じだけど。妖怪?
「林原さん、妖怪って」
「空港やらで爆買いして来た北辰土産をバラ撒くヤツでな。柄シャツを着て悪い目付きをしているのが特徴だ」
「知ってる気がしますー」
「しかし口が完全に屯屯おかきになっている」
「屯屯おかき? ってどういうお菓子なんですかー? おかきって言うからにはサクサクっとした米菓なんでしょうけど」
「その名の通りのイメージで間違いないが、北辰ならではのフレーバーが非常に美味でな。エビや昆布、ウニなど様々な味があるがオレはホタテ味を好む」
「あー、美味しそうですねー。って言うか絶対美味しいですねー」
「あれは北辰物産展などに出品されているのを見たことが無い。通販も一応あるが送料がネックだ。妖怪はほぼ毎回あれをバラ撒くからそれを待つのが確実でな」
「林原さん!」
「何だ」
「俺も楽しみになってきました! 妖怪お菓子配りさんの帰還が!」
「そうだろう。ああ、お前が先日持ち込んで無惨にも食われたメロンゼリーもオーダーしておいた。妖怪はお前には甘い。恐らく高い確率で買って来るだろう」
「わー! 本当ですかー!? やったー!」
この間、それこそフラッと入った北辰の物産展で見かけて美味しそうだなーと思って買ったメロンゼリー。センターで休憩時間にでもつまもうと思って冷蔵庫に入れておいたら1個を残して他は全部食べられちゃったっていう事件があって。
あれは本当に悲しかった……。センターの慣わしを知らなかったから起きた事故ではあったけど、これからは自分の物には名前を書こうって強く思った。北辰土産の類の物は妖怪が置いてった物だから好き勝手に食べていいなんてルール、入所したばかりの1年が知ってるはずないじゃないですかあ。
「でも、この時期の公共交通機関って乗れたものじゃないですよねえ、高速道路もですけど」
「だからあの人は絶妙に少しだけ日をずらしている。文系の4年ともなれば週の半分以上全休ということも何ら珍しくはない」
「そうなんですねー。うーん、俺も次の帰省の時にはその辺のことを考えないとですねー」
「お前はどうやって帰省するつもりだ」
「車で帰ると思います。実家の周りは車が無いと不便なので」
「そうか。長篠の北部だと言っていたな」
「そうですー」
世間の行楽シーズンに高速で帰ると渋滞に捕まりそうなのがなーって。だからって下道だと何時間かかるか分かったもんじゃないし。だからやっぱり時期を少しずらすのが正解なのかな。でも、いつ帰れるんだろう。テストとかもあるし。直前にならないとわからないような感じなのかな。
この連休の前にも春山さんからは「長い休みで帰省する前にはちゃんと知らせろよ」って言われた。シフトを組む都合があるからだとか。バイトがあるから帰省しちゃダメですってことにはならなさそうで良かったなーと思うけど。でも、それって大学の施設だからなのかなあ? 世間一般のお店でそういう都合って付けてもらえるのかなあ。
「そう言えば、林原さんって連休にどこか遊びに行ったりはしないんですかー?」
「オレのシフトを確認してみろ」
連休中も情報センターは平常通り開放。春山さんはなし。冴さんは気紛れ。主にシフトに入っているのは俺と林原さん。うん。
「すみませんでしたー。行きたくても行けないですね」
「まあ、それと言って行く場所も用事もないが。世間の行楽シーズンに合わせずとも、好きな時に時間を作れるのが大学生の強みだからな」
「でも、連休に合わせたイベントとかもあるじゃないですか」
「よほどこれは必ず行かねばならんという物があれば赴くことも考えるが、今は特段そのような物はないな。夜のバイトもある」
林原さんはお昼は情報センターで、夜は洋食屋さんでピアニストのバイトを週に1回か2回程度してるそうだ。ピアニストのアルバイトって何!? って思ったけど、単純にカッコいいしさすが向島は都会だな~って素直に感心しちゃって。この間、エリアの案内名目のドライブついでにお店に連れてってもらったよね。コーヒーゼリーが美味しいし、建物がすっごいんだ。
「今度、林原さんのお店にカニクリームコロッケを食べに行くっていうのが目標なんですー」
「そう言えば言っていたな」
「はいー。建物の観察ももっとじっくりしたいですし、何よりあんな風にカニのツメがジャキンって出たコロッケなんて見たことないですからね! 懐かしのレトロ感がありながら、しっかりオシャレで憧れちゃうんですー。最初のお給料の使い方としては、アリな範囲のプチ贅沢じゃないですか?」
「では、もうしばらくこの虚無の時間を耐え抜くのだな」
虚無の後には妖怪さんが嵐を巻き起こして、お給料はそれからなんだって。妖怪さんもお給料も楽しみだなー。
「でも、連休を過ぎたらセンターの利用者が減るのって、何でなんですかー?」
「単純に大学から人が減るというだけのことだ。この時期を境に生活が堕落していく者が少なくない」
「……怖いですねー」
「真っ当な生活を送る自信がなければ積極的にシフトに入ることを勧める。そうすれば否応なく大学には来ることになる」
「なるほど!」
end.
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妖怪菓子配り早く帰ってこねーかなーって駄弁ってるだけのリンミド。
(phase1)
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世間ではゴールデンウィークの連休期間。とは言え情報センターは平常通り開放されている。こんな時に誰が来るんだと林原さんは言うけど、本当にその通り。俺は受付の仕事だし、林原さんは自習室の仕事をすることになってるけど林原さんも事務所で待機しっぱなしだもんね。
春山さんは、この期間を過ぎればセンターの利用者もガクッと落ちて、1年生の独り立ちにもちょうど良くなるっていう風に言っていた。確かにここ最近の感じだったら1人でも、よっぽどのことがない限りは対応出来そうだなって思っちゃう。けど、そういう油断が出始めたときこそシャンとしないと。
「妖怪菓子配りが帰って来るのは……9日か」
林原さんがカレンダーをなぞりながら何かを確認しているみたいな。単語がちょっと物騒な感じだけど。妖怪?
「林原さん、妖怪って」
「空港やらで爆買いして来た北辰土産をバラ撒くヤツでな。柄シャツを着て悪い目付きをしているのが特徴だ」
「知ってる気がしますー」
「しかし口が完全に屯屯おかきになっている」
「屯屯おかき? ってどういうお菓子なんですかー? おかきって言うからにはサクサクっとした米菓なんでしょうけど」
「その名の通りのイメージで間違いないが、北辰ならではのフレーバーが非常に美味でな。エビや昆布、ウニなど様々な味があるがオレはホタテ味を好む」
「あー、美味しそうですねー。って言うか絶対美味しいですねー」
「あれは北辰物産展などに出品されているのを見たことが無い。通販も一応あるが送料がネックだ。妖怪はほぼ毎回あれをバラ撒くからそれを待つのが確実でな」
「林原さん!」
「何だ」
「俺も楽しみになってきました! 妖怪お菓子配りさんの帰還が!」
「そうだろう。ああ、お前が先日持ち込んで無惨にも食われたメロンゼリーもオーダーしておいた。妖怪はお前には甘い。恐らく高い確率で買って来るだろう」
「わー! 本当ですかー!? やったー!」
この間、それこそフラッと入った北辰の物産展で見かけて美味しそうだなーと思って買ったメロンゼリー。センターで休憩時間にでもつまもうと思って冷蔵庫に入れておいたら1個を残して他は全部食べられちゃったっていう事件があって。
あれは本当に悲しかった……。センターの慣わしを知らなかったから起きた事故ではあったけど、これからは自分の物には名前を書こうって強く思った。北辰土産の類の物は妖怪が置いてった物だから好き勝手に食べていいなんてルール、入所したばかりの1年が知ってるはずないじゃないですかあ。
「でも、この時期の公共交通機関って乗れたものじゃないですよねえ、高速道路もですけど」
「だからあの人は絶妙に少しだけ日をずらしている。文系の4年ともなれば週の半分以上全休ということも何ら珍しくはない」
「そうなんですねー。うーん、俺も次の帰省の時にはその辺のことを考えないとですねー」
「お前はどうやって帰省するつもりだ」
「車で帰ると思います。実家の周りは車が無いと不便なので」
「そうか。長篠の北部だと言っていたな」
「そうですー」
世間の行楽シーズンに高速で帰ると渋滞に捕まりそうなのがなーって。だからって下道だと何時間かかるか分かったもんじゃないし。だからやっぱり時期を少しずらすのが正解なのかな。でも、いつ帰れるんだろう。テストとかもあるし。直前にならないとわからないような感じなのかな。
この連休の前にも春山さんからは「長い休みで帰省する前にはちゃんと知らせろよ」って言われた。シフトを組む都合があるからだとか。バイトがあるから帰省しちゃダメですってことにはならなさそうで良かったなーと思うけど。でも、それって大学の施設だからなのかなあ? 世間一般のお店でそういう都合って付けてもらえるのかなあ。
「そう言えば、林原さんって連休にどこか遊びに行ったりはしないんですかー?」
「オレのシフトを確認してみろ」
連休中も情報センターは平常通り開放。春山さんはなし。冴さんは気紛れ。主にシフトに入っているのは俺と林原さん。うん。
「すみませんでしたー。行きたくても行けないですね」
「まあ、それと言って行く場所も用事もないが。世間の行楽シーズンに合わせずとも、好きな時に時間を作れるのが大学生の強みだからな」
「でも、連休に合わせたイベントとかもあるじゃないですか」
「よほどこれは必ず行かねばならんという物があれば赴くことも考えるが、今は特段そのような物はないな。夜のバイトもある」
林原さんはお昼は情報センターで、夜は洋食屋さんでピアニストのバイトを週に1回か2回程度してるそうだ。ピアニストのアルバイトって何!? って思ったけど、単純にカッコいいしさすが向島は都会だな~って素直に感心しちゃって。この間、エリアの案内名目のドライブついでにお店に連れてってもらったよね。コーヒーゼリーが美味しいし、建物がすっごいんだ。
「今度、林原さんのお店にカニクリームコロッケを食べに行くっていうのが目標なんですー」
「そう言えば言っていたな」
「はいー。建物の観察ももっとじっくりしたいですし、何よりあんな風にカニのツメがジャキンって出たコロッケなんて見たことないですからね! 懐かしのレトロ感がありながら、しっかりオシャレで憧れちゃうんですー。最初のお給料の使い方としては、アリな範囲のプチ贅沢じゃないですか?」
「では、もうしばらくこの虚無の時間を耐え抜くのだな」
虚無の後には妖怪さんが嵐を巻き起こして、お給料はそれからなんだって。妖怪さんもお給料も楽しみだなー。
「でも、連休を過ぎたらセンターの利用者が減るのって、何でなんですかー?」
「単純に大学から人が減るというだけのことだ。この時期を境に生活が堕落していく者が少なくない」
「……怖いですねー」
「真っ当な生活を送る自信がなければ積極的にシフトに入ることを勧める。そうすれば否応なく大学には来ることになる」
「なるほど!」
end.
++++
妖怪菓子配り早く帰ってこねーかなーって駄弁ってるだけのリンミド。
(phase1)
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