2023
■瘴気だまりの職場にて
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「おーい、クソ野郎。おーい。……テメー無視扱いてんじゃねーよ、まーだ乳首狙ったの根に持ってんのか」
「自分で自分に呼びかけるとは滑稽なことをしていると思っていただけだが」
「あァん? ぶん殴られてーよーだなァ、リン様よォ」
「それで、用件は」
「さっきの利用者が帰ってったから、受付は終了だ。後始末を手伝ってやらァ、心優し~いバイトリーダーの芹サンが」
「心優しい、とは。人を無言で脅す畜生のバイトリーダーなら知ってますが。まあ、自習室の後始末は手伝ってもらいましょうか」
「報酬は乳首開発な」
「フン。自分のまな板の上でもこねていろ」
星港大学情報センター、ここは学生の学習支援施設だ。パソコンを用いて行う課題や学内システムへのログイン、就職活動など教室の利用目的は多岐に渡る。センターのスタッフはほぼ学生アルバイトで構成されており、大学職員の所長もいるがこれはお飾りでほとんど意味を為さん。
3月末から4月上旬にかけて、センターは繁忙期を迎える。大学の時間割は受けたい講義を自身で登録するのだが、この履修登録が行えるのは星港大学の場合、この情報センターのみ。文系も理系も関係なく大学の全学生がこの場に押し寄せるのだ。
4月に入ったことで1年が入学し、右も左もわからん状態での履修登録は回転率が非常に悪い。履修修正やその他の用事でセンターを訪れる2年以上がクレーマーと化すことも珍しくない。純粋に履修登録の仕組みがわからん1年への対処もある。朝から閉所時間までずっと忙しい。
「マシンに変なモンは入れられてねーだろーな」
「その辺りは問題ない」
「忘れ物は」
「机の下まではまだ確認しとらん」
「へーへー、やらせていただきますよ」
4年のバイトリーダー、春山さんは一言で言えば畜生だ。主に受付を担当しているが、凶悪な目つきで来る者を威嚇している。視線に重みと圧があり、目元のクマと趣味の悪い柄シャツが人相の悪さに拍車をかける要因だろう。手癖も悪い上にそもそもの人格がロクでもない。
センターにはアクティブなスタッフが現在3人しかいない。繁忙期にはオレと春山さんが1日中センターにカンヅメになり、働けば働くほど時給が減るという状況に陥る。センタースタッフの給料は時給1000円だが日給には6000円という上限が設けられているのだ。
「つーかよ」
「何ですか」
「オメー、履修登録期間中はブラリ触んなっつっただろ」
「これでもオレなりに基準を甘くして、それでも悪質だと判断した者だけを登録したつもりだ」
「オメーの対応次第じゃこっちが火ィ吹くんだからな」
「何を言いますか。相手は所詮一般の大学生。アンタがそんな物に狼狽えるとは思えませんがね」
「そーゆー問題じゃねーんだよ、クソが」
「クソにクソと言われる覚えはない」
センター利用時間を終えた後の、自習室の後始末をしながら受けるクレームだ。如何せん今は互いに受付だの自習室だのに籠もりきり。互いの状況など伺い知ることも出来ん中で、受付マシンのシステム上での駆け引きは日常だ。
悪質な利用者にはそれ相応の対応を取る。センタースタッフとしての基本だとオレは思っている。ここは大学内の学習支援施設ではあって店ではない。利用者は客ではないしオレたちスタッフも店員ではない。スタッフは管理者だ。主な業務内容は、学習環境の保守・保全。
「おいリン!」
「何ですか」
「B-12の下にパンだの何だののゴミが捨ててあるぞ! テメーこの野郎ナニ飲食見逃してんだクソが、お前の目は節穴か」
「はいはいスミマセンね。1人で繁忙期の自習室全域をカバーしろと。那須田さんを通して大学に監視カメラの設置でも訴えればどうです」
「なっすんを通す? ンなムダなコトしてどーすんだ」
「ま、明日以降は見つけ次第摘み出します。それでいいですね」
「そこまでしろとは言ってねーぞ。平常開放の時ならともかく、履修登録ン時は摘み出すな」
「はいはい、わかりましたよ」
自習室内では飲食厳禁とされている。その他、私語を慎むなど些細なルールが設けられているのだが、それすら守れんような連中があまりに多すぎる。こうして閉所後の後始末をしていると、机の下から飲食の形跡が多々発見されるのだ。
そういう規則違反を発見した場合は自習室にいるスタッフが注意をすることになっている。大抵は一度注意をすれば行動を改めるが、一定数は逆ギレをする。そういった者には施設の利用制限をかけたり、作業途中であろうと退室させたりと、対処の方法はいくつかある。
「あークソ、何だってこんなに人がいねーんだ」
「それは去年のアンタがバイトの面接希望者をビビらせて逃げられたからでしょう」
「私は何もしてないぞ」
「徹夜明けで受付に座っていただろう」
「つーかよ、そもそも人の顔見て逃げるとか失礼にも程があるだろ」
「アンタは自分がどれだけ堅気からかけ離れた風貌であるかを自覚してはどうです。ナリが完全に構成員のソレなんですから」
「ンだとこの野郎、殺害予告出された奴に言われたくねーよなァ!?」
「フッ。ネット上で匿名でしか暴れられん奴に何が出来る」
如何せん1日中カンヅメになっているスタッフがこうだ。情報センターの良くない評判もちらほらと耳には入っている。スタッフの愛想が悪いだの横暴だの。しかし、些細な利用規約すら守れんような連中にそのような事を言われる筋合いもない。
「それはそうとよ、今年は愛想のいい奴が面接に来ないかねー。カワイコちゃんなら言うことなし。即実戦投入して鍛え上げるんだけどよ」
「まあ、それはセンターのウィークポイントですから確かに必要ですが、問題は面接に来た奴がアンタにビビって逃げ帰らないかの一点に尽きるでしょう」
「あァ!?」
「そういうところだと言っている」
「オメーが人にケンカを売るのが悪い」
「オレが言っているのは事実だ。それはともかく、面接希望者が来るとわかった時点でコンディションを整える努力をしてください。例えば、事前に映画館に行って気分の良くなる作品を見ておくなど。アンタは同じ作品を1日に何度も浴びるように見るでしょう。あの要領で」
「その分の金出してくれんのかよ」
「何故オレが出さねばならん」
「クソが。ケツに手ぇ突っ込んでヒィヒィ言わせてもいいんだぞ」
「生憎オレにそのような趣味はない。脅すなら現実的かつ効果的にやるんだな」
繁忙期はまだ続く。アルバイト募集の張り紙も掲示板には貼ってあるが、果たしてオレと春山さんの愛想の悪さを相殺するだけの逸材は現れるか。いや、愛想の有無はこの際問題ではない。何せ必要なのは頭数だ。何が悲しくて12時間も軟禁された上で労働せねばならん。
end.
++++
突如降って沸いたフェーズ1の情報センター普通に新作。やってる内容自体は別に新しくない。
情報センターの話なら多少の口の悪さと品の無さは許されるという風潮。一理ない。口の悪いリン様が最近では難しい。
こうなりゃ久々にフェーズ1で怖い先輩たちにわーひゃービビってるカワイコちゃんの様子も見てみたい
(phase1)
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「おーい、クソ野郎。おーい。……テメー無視扱いてんじゃねーよ、まーだ乳首狙ったの根に持ってんのか」
「自分で自分に呼びかけるとは滑稽なことをしていると思っていただけだが」
「あァん? ぶん殴られてーよーだなァ、リン様よォ」
「それで、用件は」
「さっきの利用者が帰ってったから、受付は終了だ。後始末を手伝ってやらァ、心優し~いバイトリーダーの芹サンが」
「心優しい、とは。人を無言で脅す畜生のバイトリーダーなら知ってますが。まあ、自習室の後始末は手伝ってもらいましょうか」
「報酬は乳首開発な」
「フン。自分のまな板の上でもこねていろ」
星港大学情報センター、ここは学生の学習支援施設だ。パソコンを用いて行う課題や学内システムへのログイン、就職活動など教室の利用目的は多岐に渡る。センターのスタッフはほぼ学生アルバイトで構成されており、大学職員の所長もいるがこれはお飾りでほとんど意味を為さん。
3月末から4月上旬にかけて、センターは繁忙期を迎える。大学の時間割は受けたい講義を自身で登録するのだが、この履修登録が行えるのは星港大学の場合、この情報センターのみ。文系も理系も関係なく大学の全学生がこの場に押し寄せるのだ。
4月に入ったことで1年が入学し、右も左もわからん状態での履修登録は回転率が非常に悪い。履修修正やその他の用事でセンターを訪れる2年以上がクレーマーと化すことも珍しくない。純粋に履修登録の仕組みがわからん1年への対処もある。朝から閉所時間までずっと忙しい。
「マシンに変なモンは入れられてねーだろーな」
「その辺りは問題ない」
「忘れ物は」
「机の下まではまだ確認しとらん」
「へーへー、やらせていただきますよ」
4年のバイトリーダー、春山さんは一言で言えば畜生だ。主に受付を担当しているが、凶悪な目つきで来る者を威嚇している。視線に重みと圧があり、目元のクマと趣味の悪い柄シャツが人相の悪さに拍車をかける要因だろう。手癖も悪い上にそもそもの人格がロクでもない。
センターにはアクティブなスタッフが現在3人しかいない。繁忙期にはオレと春山さんが1日中センターにカンヅメになり、働けば働くほど時給が減るという状況に陥る。センタースタッフの給料は時給1000円だが日給には6000円という上限が設けられているのだ。
「つーかよ」
「何ですか」
「オメー、履修登録期間中はブラリ触んなっつっただろ」
「これでもオレなりに基準を甘くして、それでも悪質だと判断した者だけを登録したつもりだ」
「オメーの対応次第じゃこっちが火ィ吹くんだからな」
「何を言いますか。相手は所詮一般の大学生。アンタがそんな物に狼狽えるとは思えませんがね」
「そーゆー問題じゃねーんだよ、クソが」
「クソにクソと言われる覚えはない」
センター利用時間を終えた後の、自習室の後始末をしながら受けるクレームだ。如何せん今は互いに受付だの自習室だのに籠もりきり。互いの状況など伺い知ることも出来ん中で、受付マシンのシステム上での駆け引きは日常だ。
悪質な利用者にはそれ相応の対応を取る。センタースタッフとしての基本だとオレは思っている。ここは大学内の学習支援施設ではあって店ではない。利用者は客ではないしオレたちスタッフも店員ではない。スタッフは管理者だ。主な業務内容は、学習環境の保守・保全。
「おいリン!」
「何ですか」
「B-12の下にパンだの何だののゴミが捨ててあるぞ! テメーこの野郎ナニ飲食見逃してんだクソが、お前の目は節穴か」
「はいはいスミマセンね。1人で繁忙期の自習室全域をカバーしろと。那須田さんを通して大学に監視カメラの設置でも訴えればどうです」
「なっすんを通す? ンなムダなコトしてどーすんだ」
「ま、明日以降は見つけ次第摘み出します。それでいいですね」
「そこまでしろとは言ってねーぞ。平常開放の時ならともかく、履修登録ン時は摘み出すな」
「はいはい、わかりましたよ」
自習室内では飲食厳禁とされている。その他、私語を慎むなど些細なルールが設けられているのだが、それすら守れんような連中があまりに多すぎる。こうして閉所後の後始末をしていると、机の下から飲食の形跡が多々発見されるのだ。
そういう規則違反を発見した場合は自習室にいるスタッフが注意をすることになっている。大抵は一度注意をすれば行動を改めるが、一定数は逆ギレをする。そういった者には施設の利用制限をかけたり、作業途中であろうと退室させたりと、対処の方法はいくつかある。
「あークソ、何だってこんなに人がいねーんだ」
「それは去年のアンタがバイトの面接希望者をビビらせて逃げられたからでしょう」
「私は何もしてないぞ」
「徹夜明けで受付に座っていただろう」
「つーかよ、そもそも人の顔見て逃げるとか失礼にも程があるだろ」
「アンタは自分がどれだけ堅気からかけ離れた風貌であるかを自覚してはどうです。ナリが完全に構成員のソレなんですから」
「ンだとこの野郎、殺害予告出された奴に言われたくねーよなァ!?」
「フッ。ネット上で匿名でしか暴れられん奴に何が出来る」
如何せん1日中カンヅメになっているスタッフがこうだ。情報センターの良くない評判もちらほらと耳には入っている。スタッフの愛想が悪いだの横暴だの。しかし、些細な利用規約すら守れんような連中にそのような事を言われる筋合いもない。
「それはそうとよ、今年は愛想のいい奴が面接に来ないかねー。カワイコちゃんなら言うことなし。即実戦投入して鍛え上げるんだけどよ」
「まあ、それはセンターのウィークポイントですから確かに必要ですが、問題は面接に来た奴がアンタにビビって逃げ帰らないかの一点に尽きるでしょう」
「あァ!?」
「そういうところだと言っている」
「オメーが人にケンカを売るのが悪い」
「オレが言っているのは事実だ。それはともかく、面接希望者が来るとわかった時点でコンディションを整える努力をしてください。例えば、事前に映画館に行って気分の良くなる作品を見ておくなど。アンタは同じ作品を1日に何度も浴びるように見るでしょう。あの要領で」
「その分の金出してくれんのかよ」
「何故オレが出さねばならん」
「クソが。ケツに手ぇ突っ込んでヒィヒィ言わせてもいいんだぞ」
「生憎オレにそのような趣味はない。脅すなら現実的かつ効果的にやるんだな」
繁忙期はまだ続く。アルバイト募集の張り紙も掲示板には貼ってあるが、果たしてオレと春山さんの愛想の悪さを相殺するだけの逸材は現れるか。いや、愛想の有無はこの際問題ではない。何せ必要なのは頭数だ。何が悲しくて12時間も軟禁された上で労働せねばならん。
end.
++++
突如降って沸いたフェーズ1の情報センター普通に新作。やってる内容自体は別に新しくない。
情報センターの話なら多少の口の悪さと品の無さは許されるという風潮。一理ない。口の悪いリン様が最近では難しい。
こうなりゃ久々にフェーズ1で怖い先輩たちにわーひゃービビってるカワイコちゃんの様子も見てみたい
(phase1)
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