2018
■静かに刻まれる、
++++
「高ピー、入るよー。お邪魔しまーす」
緑ヶ丘大学から徒歩5分のところにあるアパート、コムギハイツⅡ。その102号室が高ピーの住んでいる部屋だ。サークルを終わってここから1番近いスーパーで簡単に買い物だけして、また坂を上って大学前まで戻って来た。
それと言うのも、高ピーが熱を出してしまったのだ。何気に高ピーは2、3ヶ月に1回くらいの頻度で熱を出して寝込むんだけど、何かそれが今日来たっぽい。サークルが終わったら雑炊作りに来いと言われて現在に至る。
だけど、正直恐怖しかない。高ピーは多分パーソナルスペースが他の人よりもめちゃくちゃ広い。今は雑炊のために鍵を開けといてくれたけど、この部屋にだって他人をほとんど入れようとしない。たまに宅飲みをするときも、この部屋が会場になったことはない。
「高ピー、起きてるー?」
部屋を覗き込んで声をかけたけど、返事はない。寝ているようだった。
淡泊な部屋だなあと思う。少しの本と、整頓されたCD。コンポはちゃんとしてるけど、他に物らしい物と言えばパソコンと机くらい。机の上にはネックレスと、薄く水の張られた灰皿が置いてあって、中には吸い殻が積もっている。本当にそれくらいだ。
だからなのか、ベッド際の壁に掲げられた賑やかなコルクボードが異質に感じられるのだ。コルクボードには高ピーが行ったライブのチケットやお土産でもらったらしいキーホルダーたちが貼られている。そして、数枚の写真だ。
どの写真も、俺の知っている人ばかりが写っている。インターフェイスの活動の中で撮影された物だ。1年生のときの夏合宿の班員で撮ったヤツに、これは去年の対策委員メンバー6人の写真。そして、意味ありげに思えてしまうツーショット写真。
高ピーにとっての聖域、物理的なそれがこだわりにこだわりぬいたベッドだとするなら精神的なそれはなっちさんだと思う。高ピーとは、1年生の夏合宿からの付き合いのある、アナウンサーとしてのライバルで、対策委員時代は相棒のような間柄だった。
高ピーとなっちさんは多分互いに恋愛対象という意味で多少の意識があったと思う。去年、俺は圭斗と一緒になって早く付き合えとか裏で野暮なことを言い続けていたけど、多分本人たちにとっては詰めたくても詰められない、絶妙な距離間だったんだろうと思う。
壁に貼られたこの写真はどれもなっちさんが撮って、貼った物らしい。なっちさんはこの部屋にも割と入れてもらえる……と言うか気付いたらそういうことになってるみたい。物理的な聖域のベッドを盗られることもあるとかないとか。
なっちさんとの写真と、机の上のネックレスを見比べて確認する。わかっちゃいるけど、これは外野が触れられないヤツだ。2人お揃いのネックレスと刻まれた文字に込められた意味は、当人たちしか知らない。
「ん…? あ……伊東か……」
「ごめん高ピー、起こしちゃった?」
「ネギくせえ……」
「あ、買い物してきたのそのままだった。高ピー起きれる? 起きれるようなら雑炊作り始めるけど」
「起きる……」
台所を借りて雑炊の準備を始めることにした。冷蔵庫も淡泊なのかな、と思ったらしっかりとビールが冷やしてある辺りさすがですよ。そして、起き抜けに飲む用のミネラルウォーターと、寝る前にホットミルクにして飲む用の牛乳。
「伊東、何雑炊にしてくれるんだ?」
「んっとねー、しらすと鶏挽き肉。雑炊って言っても高ピーそこそこボリューム要るっしょ?」
「ありがてえ。あ、一応言っとくがネギは一般的な量にしといてくれ」
「って言うか一般的な量ってどれくらいかな」
「ひとつまみふたつまみくらいでいいぞ」
「えっ、そんだけしか入れないとか薬味の意味なくない?」
「みんながみんなお前みたいな薬味狂じゃねえんだぞ」
うちの家は割とみんな薬味好きだし、真の意味で薬味狂なのは俺じゃなくて姉ちゃんだ。姉ちゃんはマジでヤバい。あそこまで行って初めて薬味狂なんだろうけど、高ピーからすれば俺も十分薬味狂らしい。
「サークルはどうだった」
「ファンフェスのことがある子はキューシート詰めたり練習してもらってたよ。ない子は即興で3分トークとリク番練習とか」
「そうか」
「高ピー、明日からの休みってバイト入れてるよね」
「今んトコフルで入ることになってる」
「うわあ」
雑炊があまりにも責任重大だ。そもそも、高ピーの部屋に入れてもらうということ自体がよっぽどで。果たして俺は明日への活力となる雑炊を作れるのだろうか。そしてここで見た物聞いた物を外に持ち出してはいけないんだ。それが暗黙の了解。
end.
++++
他人のことを語らせるときのいち氏ったらめちゃくちゃ有能よ……ちなみに今年はローテーションで言えば高菜年なのかな。
先の日のお話にも少し関係してくるけど、伊東家のネギ使用量とかそんなようなこと。姉ちゃんほどではないけどいち氏も結構酷いぞ!
高崎は多分あまりテレビを見ないと思われるのだけど、テレビがあるのかパソコンで見ているのかというところはちょっと考えてみる余地がありそう。
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「高ピー、入るよー。お邪魔しまーす」
緑ヶ丘大学から徒歩5分のところにあるアパート、コムギハイツⅡ。その102号室が高ピーの住んでいる部屋だ。サークルを終わってここから1番近いスーパーで簡単に買い物だけして、また坂を上って大学前まで戻って来た。
それと言うのも、高ピーが熱を出してしまったのだ。何気に高ピーは2、3ヶ月に1回くらいの頻度で熱を出して寝込むんだけど、何かそれが今日来たっぽい。サークルが終わったら雑炊作りに来いと言われて現在に至る。
だけど、正直恐怖しかない。高ピーは多分パーソナルスペースが他の人よりもめちゃくちゃ広い。今は雑炊のために鍵を開けといてくれたけど、この部屋にだって他人をほとんど入れようとしない。たまに宅飲みをするときも、この部屋が会場になったことはない。
「高ピー、起きてるー?」
部屋を覗き込んで声をかけたけど、返事はない。寝ているようだった。
淡泊な部屋だなあと思う。少しの本と、整頓されたCD。コンポはちゃんとしてるけど、他に物らしい物と言えばパソコンと机くらい。机の上にはネックレスと、薄く水の張られた灰皿が置いてあって、中には吸い殻が積もっている。本当にそれくらいだ。
だからなのか、ベッド際の壁に掲げられた賑やかなコルクボードが異質に感じられるのだ。コルクボードには高ピーが行ったライブのチケットやお土産でもらったらしいキーホルダーたちが貼られている。そして、数枚の写真だ。
どの写真も、俺の知っている人ばかりが写っている。インターフェイスの活動の中で撮影された物だ。1年生のときの夏合宿の班員で撮ったヤツに、これは去年の対策委員メンバー6人の写真。そして、意味ありげに思えてしまうツーショット写真。
高ピーにとっての聖域、物理的なそれがこだわりにこだわりぬいたベッドだとするなら精神的なそれはなっちさんだと思う。高ピーとは、1年生の夏合宿からの付き合いのある、アナウンサーとしてのライバルで、対策委員時代は相棒のような間柄だった。
高ピーとなっちさんは多分互いに恋愛対象という意味で多少の意識があったと思う。去年、俺は圭斗と一緒になって早く付き合えとか裏で野暮なことを言い続けていたけど、多分本人たちにとっては詰めたくても詰められない、絶妙な距離間だったんだろうと思う。
壁に貼られたこの写真はどれもなっちさんが撮って、貼った物らしい。なっちさんはこの部屋にも割と入れてもらえる……と言うか気付いたらそういうことになってるみたい。物理的な聖域のベッドを盗られることもあるとかないとか。
なっちさんとの写真と、机の上のネックレスを見比べて確認する。わかっちゃいるけど、これは外野が触れられないヤツだ。2人お揃いのネックレスと刻まれた文字に込められた意味は、当人たちしか知らない。
「ん…? あ……伊東か……」
「ごめん高ピー、起こしちゃった?」
「ネギくせえ……」
「あ、買い物してきたのそのままだった。高ピー起きれる? 起きれるようなら雑炊作り始めるけど」
「起きる……」
台所を借りて雑炊の準備を始めることにした。冷蔵庫も淡泊なのかな、と思ったらしっかりとビールが冷やしてある辺りさすがですよ。そして、起き抜けに飲む用のミネラルウォーターと、寝る前にホットミルクにして飲む用の牛乳。
「伊東、何雑炊にしてくれるんだ?」
「んっとねー、しらすと鶏挽き肉。雑炊って言っても高ピーそこそこボリューム要るっしょ?」
「ありがてえ。あ、一応言っとくがネギは一般的な量にしといてくれ」
「って言うか一般的な量ってどれくらいかな」
「ひとつまみふたつまみくらいでいいぞ」
「えっ、そんだけしか入れないとか薬味の意味なくない?」
「みんながみんなお前みたいな薬味狂じゃねえんだぞ」
うちの家は割とみんな薬味好きだし、真の意味で薬味狂なのは俺じゃなくて姉ちゃんだ。姉ちゃんはマジでヤバい。あそこまで行って初めて薬味狂なんだろうけど、高ピーからすれば俺も十分薬味狂らしい。
「サークルはどうだった」
「ファンフェスのことがある子はキューシート詰めたり練習してもらってたよ。ない子は即興で3分トークとリク番練習とか」
「そうか」
「高ピー、明日からの休みってバイト入れてるよね」
「今んトコフルで入ることになってる」
「うわあ」
雑炊があまりにも責任重大だ。そもそも、高ピーの部屋に入れてもらうということ自体がよっぽどで。果たして俺は明日への活力となる雑炊を作れるのだろうか。そしてここで見た物聞いた物を外に持ち出してはいけないんだ。それが暗黙の了解。
end.
++++
他人のことを語らせるときのいち氏ったらめちゃくちゃ有能よ……ちなみに今年はローテーションで言えば高菜年なのかな。
先の日のお話にも少し関係してくるけど、伊東家のネギ使用量とかそんなようなこと。姉ちゃんほどではないけどいち氏も結構酷いぞ!
高崎は多分あまりテレビを見ないと思われるのだけど、テレビがあるのかパソコンで見ているのかというところはちょっと考えてみる余地がありそう。
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