2013(03)

■むにゃむにゃメトロノーム

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「おはようございます」
「すげー、今日も4時半ぴったりだ」

 サークル室の扉を開くなり、2年生の先輩が妙な顔をしているのに気付く。羽咋先輩がテルメモにさらさらと何かを記しているのを見るに、今の私の行動に何か引っかかることがあったのか。
 それを不思議に思いつつも、聞いたからと言ってどうにかなるものでもないし、どうせ下らないことだとわかりきっているからそのまま自分の席に着く。

「アオすごいな」

 恐らく私が来る前のやり取りを一部始終見ていただろうミドリが声をかけてくる。何がどう凄いのか。どうせ下らないことだろうと思いつつも、もう少し言葉に装飾が欲しい。

「何が」
「アオがサークル室に来る時間が結構な確率で4時半ぴったりっていう話をしてたんだ」
「やっぱりどうでもいいことだった」
「結構すごくないかって言ってたんだ」
「どうして? 普通に行動してたらルーチンは決まりきるし、特別具合が悪いとかでなければ歩幅や歩行速度は変わらない」

 私はごく当たり前のことを言っているだけなのに、それを聞いていた2年生の顔が腑抜けている。それどころか人のことをマシーンだと言ってきたりして、失礼極まりない。
 4限の講義が終わって、教室からサークル室までの移動は曜日ごとに大差はない。掲示板に目を通したら建物から出て、道を横断したところにある自販機でお茶を買って、サークル棟へ。それがちょうど10分の道のりというだけ。

「サークル室に行くという目的で歩いてるときに、他の事をしようという意識は発生しないでしょ?」
「わからない」
「掲示板に目を通したり、自販機に寄るのは行程のひとつ。タスクリストじゃないけど、チェックポイントみたいな物って言えばわかる?」
「アオが独自の感覚で動いてることはわかった」
「ミドリ、即答しないでもう少し考えたら?」

 こちらが聞いてるときに、碌に考えもしないで適当な返答をするのはミドリの悪癖だな、きっと。2年生は相変わらず腑抜けた顔をしているし、テルメモに記されていることも理解はされていないと思う。
 朝起きて、ご飯を食べて、身支度をして、家を出るまでのルーチンにしても分単位できっちりと区切られている。まず朝起きる時点で「ん~あと5分~むにゃむにゃ」なんていうのがあり得ないこと。
 そのむにゃむにゃを想定した上でアラームをかけるならわかる。むにゃむにゃにかける時間は1回につき5分、それが3回。3回むにゃったらきっぱり起きるという計算をしてあるのなら。

「そんだけきっちりきっかりした生活してたら、想定外の事態には対応しにくそうだな」
「そうでもない」
「マジか」
「トースターの目盛りを間違えてパンを焦がしても、マーガリンを塗ってそのまま食べるし」
「それはどうかと」

 食パンを食べるのも左の角から横に3口、下の段へ行って横に3口、それが4段で計12口という風に決まりきってるって言ったらまた面倒なことになるというのは目に見えている。それにこれ以上テルメモの肥やしを出すこともない。

「焦げたパンにマーガリンを塗って、その上からホットケーキシロップをかけると結構美味しいから試すといいよ。シロップの甘さを焦げの苦さが中和して」
「遠慮しとく」


end.


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鋼の女。蒼希はどうやらきっちりきっかりと動いているようです。パンを焦がすのはドジっ子要素的な……
と言うか焦げたパンをそのまま食べてるのね蒼希。きっとパンを焼き直すことは時間の無駄に思っているのだろうか。
そして情報センターに定着しつつあるミドリをUHBCのお話でも出してみたよ! そうか、悪癖が出たか。

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