2022(02)
■作戦前のミーティング
++++
この間、バレンタインデーの9時キャンオンエア後に琉生から聞いて柄にもなく大きな声を出して驚いてしまったんだけど、どうやら緑ヶ丘のちむりーが殿を誘ってデートをすることになっているらしい。
友人としての街歩きという話らしく琉生も良ければ一緒に、とお誘いがあったそうだ。ということで俺も一緒にあそぼーと声を掛けられたんだけど、本当に俺が来て……と言うか俺と琉生がいていいのかという疑問はちょっとある。
「ジュンくんおはよー」
「おはよう」
「うーん。お2人さんはまだのようですなー」
「そもそも俺たちは少し早く来てるし、ちむりーはともかく殿がいたらすぐ分かるもんな」
待ち合わせ場所から微妙にずれたその場所で俺と琉生は落ち合い、まずは2人の様子を確認してから合流してみようかという作戦を立てた。もしこれが仕組まれたことで、逆にこちらがハメられていたら? という可能性も相手によってはあるかもしれないけど、殿とちむりーでそれはほぼないだろう。
琉生とちむりーは緑ヶ丘の同期でも特に仲が良く、互いに他の人には言いにくいことも少し共有しているらしい。例えば琉生には生まれつき子宮や女性器が無くて、みたいな話だったり、ちむりーの境遇や恋の話だったり。琉生の話に関しては俺も聞いていて、そういう人自体は決して物凄く少ないということではないそうだ。
「ちなみに、どこに行くとかは聞いてる?」
「えっとねー、確か、植物園? にお花を見に行くーって言ってたかなー」
「花か。いいんじゃない? 殿は花とか植物が好きだし」
「ジュンくんはお花好き?」
「前は特に気にしてなかったけど、今は絵を描くようになっていろいろな物に興味が出て来た。花とか植物も、それこそ殿とかパロから話を聞いたりテラリウムを作ってもらってから少し勉強して」
「ジュンくんは何でも勉強に繋がっちゃうなー」
「琉生は? 花は」
「私も特に気にしないんだけどー、かわいいお花とか、探してみよーかなー」
もしかわいいお花があれば買って活けてもいいし、ラジオで話す題材になるかもしれないしー。そう言って琉生は前向きな様子を見せている。確かに琉生は機械が好きでスチームパンクの世界を全身で表現してるし、自然の物とは正直あまり結び付かなかったんだけど。
「いーい、ジュンくん。一緒にあそぼーって誘われはしたけど、今日はちむちむに殿と話す時間を作ってあげることだよー」
「心得ました」
「だからー、殿がジュンくんに話振れないように、今日はいつもより多めにべたべたするねー」
「ああ、まあ、そういうことなら」
「私は、恋愛? とか、よくわかんないけどー、私がジュンくんにべたべたしてたら、もしかしたら殿も「異性の友達でもスキンシップしていいんだな」って思うかもー」
「うーん……それはどうかと思うけど。相手の気持ちもあることだし」
「でも、ちむちむは殿と仲良くなりたいんだから、いいと思うけどなー」
「そもそも、仲良くってどこまでのことを言ってるんだ? 例えば、友達として仲良くなりたいのか、恋人になりたいのか」
「恋人になりたいんだよ!」
「やっぱそっちですよね!」
「ンもう、だから私たちは応援なのー」
「わ、わかりました」
確かに殿は良い奴だ。優しくて気遣いも出来る。料理は上手いし力強い。仲良くなればなるほど最初は厳つくてビビり散らした顔や図体にも愛嬌が見えるようになってきた。だけどこうして実際に異性として、男として殿を好きになった子がいるという話を聞くと、ほー……と声にならない声が出てしまうわけで。
緑ヶ丘のちむりーと言えば、おっとりした性格で、学科でも指折りの成績優秀者だとか(前期の成績は当時のササ先輩より上らしい。ヤバい)。全てのものを温かく包み込むような、全身から溢れ出る包容力でもって“聖母”とも呼ばれているとは聞いた。まあ、琉生のいろんな話を聞いている時点で器のデカさやら深さは垣間見えるんだけども。
「もし、殿とちむりーが付き合うとするだろ」
「うんうん。しあわせだねー」
「善人と善人からなる聖なるオーラみたいなもので俺とか消し炭になってこの世から消滅するんじゃないかって気がして来た」
「ジュンくんは程よく邪悪だからいいのにー」
「邪悪だから消し飛ばされるんじゃないかっていう心配だよ」
「平気平気ー。光が強ければ影は濃くなるっていうしー。まっくろジュンジュンはもーっとまっくろになるなるー」
「それはそれで俺の人間性はどうなるんだ」
俺は程よく邪悪だからいいと言われるのも正直少し複雑だけど、多分春風先輩とうっしーも似たようなことを言いそうな気がする。仮にその聖なるオーラでも消滅しきれない、捻くれた面倒臭さが俺の根幹にはあるはずで、だからこそのらしさであるということにしておこう、今この場では。
「あ、殿が来たみたいだ」
「ほんとだー。大きいとわかりやすいねー」
「少し離れてるとは言え、俺もまあまあ大きい方だから目立つんだよな。予定とは違うけどもう向こう行っとく?」
「そうだねー。行ってもいいかもー。作戦会議はできたしー」
end.
++++
殿と比べると小さいけど、一般的に見ても「まあまあ」じゃなくて普通にデカいジュン。
程よく邪悪だからいい。そんな邪悪さをこれからはどんどん出していきたい。
(phase3)
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この間、バレンタインデーの9時キャンオンエア後に琉生から聞いて柄にもなく大きな声を出して驚いてしまったんだけど、どうやら緑ヶ丘のちむりーが殿を誘ってデートをすることになっているらしい。
友人としての街歩きという話らしく琉生も良ければ一緒に、とお誘いがあったそうだ。ということで俺も一緒にあそぼーと声を掛けられたんだけど、本当に俺が来て……と言うか俺と琉生がいていいのかという疑問はちょっとある。
「ジュンくんおはよー」
「おはよう」
「うーん。お2人さんはまだのようですなー」
「そもそも俺たちは少し早く来てるし、ちむりーはともかく殿がいたらすぐ分かるもんな」
待ち合わせ場所から微妙にずれたその場所で俺と琉生は落ち合い、まずは2人の様子を確認してから合流してみようかという作戦を立てた。もしこれが仕組まれたことで、逆にこちらがハメられていたら? という可能性も相手によってはあるかもしれないけど、殿とちむりーでそれはほぼないだろう。
琉生とちむりーは緑ヶ丘の同期でも特に仲が良く、互いに他の人には言いにくいことも少し共有しているらしい。例えば琉生には生まれつき子宮や女性器が無くて、みたいな話だったり、ちむりーの境遇や恋の話だったり。琉生の話に関しては俺も聞いていて、そういう人自体は決して物凄く少ないということではないそうだ。
「ちなみに、どこに行くとかは聞いてる?」
「えっとねー、確か、植物園? にお花を見に行くーって言ってたかなー」
「花か。いいんじゃない? 殿は花とか植物が好きだし」
「ジュンくんはお花好き?」
「前は特に気にしてなかったけど、今は絵を描くようになっていろいろな物に興味が出て来た。花とか植物も、それこそ殿とかパロから話を聞いたりテラリウムを作ってもらってから少し勉強して」
「ジュンくんは何でも勉強に繋がっちゃうなー」
「琉生は? 花は」
「私も特に気にしないんだけどー、かわいいお花とか、探してみよーかなー」
もしかわいいお花があれば買って活けてもいいし、ラジオで話す題材になるかもしれないしー。そう言って琉生は前向きな様子を見せている。確かに琉生は機械が好きでスチームパンクの世界を全身で表現してるし、自然の物とは正直あまり結び付かなかったんだけど。
「いーい、ジュンくん。一緒にあそぼーって誘われはしたけど、今日はちむちむに殿と話す時間を作ってあげることだよー」
「心得ました」
「だからー、殿がジュンくんに話振れないように、今日はいつもより多めにべたべたするねー」
「ああ、まあ、そういうことなら」
「私は、恋愛? とか、よくわかんないけどー、私がジュンくんにべたべたしてたら、もしかしたら殿も「異性の友達でもスキンシップしていいんだな」って思うかもー」
「うーん……それはどうかと思うけど。相手の気持ちもあることだし」
「でも、ちむちむは殿と仲良くなりたいんだから、いいと思うけどなー」
「そもそも、仲良くってどこまでのことを言ってるんだ? 例えば、友達として仲良くなりたいのか、恋人になりたいのか」
「恋人になりたいんだよ!」
「やっぱそっちですよね!」
「ンもう、だから私たちは応援なのー」
「わ、わかりました」
確かに殿は良い奴だ。優しくて気遣いも出来る。料理は上手いし力強い。仲良くなればなるほど最初は厳つくてビビり散らした顔や図体にも愛嬌が見えるようになってきた。だけどこうして実際に異性として、男として殿を好きになった子がいるという話を聞くと、ほー……と声にならない声が出てしまうわけで。
緑ヶ丘のちむりーと言えば、おっとりした性格で、学科でも指折りの成績優秀者だとか(前期の成績は当時のササ先輩より上らしい。ヤバい)。全てのものを温かく包み込むような、全身から溢れ出る包容力でもって“聖母”とも呼ばれているとは聞いた。まあ、琉生のいろんな話を聞いている時点で器のデカさやら深さは垣間見えるんだけども。
「もし、殿とちむりーが付き合うとするだろ」
「うんうん。しあわせだねー」
「善人と善人からなる聖なるオーラみたいなもので俺とか消し炭になってこの世から消滅するんじゃないかって気がして来た」
「ジュンくんは程よく邪悪だからいいのにー」
「邪悪だから消し飛ばされるんじゃないかっていう心配だよ」
「平気平気ー。光が強ければ影は濃くなるっていうしー。まっくろジュンジュンはもーっとまっくろになるなるー」
「それはそれで俺の人間性はどうなるんだ」
俺は程よく邪悪だからいいと言われるのも正直少し複雑だけど、多分春風先輩とうっしーも似たようなことを言いそうな気がする。仮にその聖なるオーラでも消滅しきれない、捻くれた面倒臭さが俺の根幹にはあるはずで、だからこそのらしさであるということにしておこう、今この場では。
「あ、殿が来たみたいだ」
「ほんとだー。大きいとわかりやすいねー」
「少し離れてるとは言え、俺もまあまあ大きい方だから目立つんだよな。予定とは違うけどもう向こう行っとく?」
「そうだねー。行ってもいいかもー。作戦会議はできたしー」
end.
++++
殿と比べると小さいけど、一般的に見ても「まあまあ」じゃなくて普通にデカいジュン。
程よく邪悪だからいい。そんな邪悪さをこれからはどんどん出していきたい。
(phase3)
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