2022(02)

■All members see you off

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 3月に入り、春の空気も日に日に強まります。インターフェイスでは技術交換会が終わり、MMPでは4年生追いコンを無事終了することが出来ました。これから行われるのは春の番組制作会と、卒業式のお見送りとその日の夜に合わせて行われる卒コン、そして3年生追いコンです。ただし、今日は奈々先輩も集合しているので3年生追いコンのことにはノータッチです。

「今日みんなに集まってもらったのは、これなー」
「おー、それかー」

 希くんが用意してくれた4枚の色紙に、それぞれ4年生の先輩へのメッセージを書いて卒業式の時に手渡すことになっています。救いは、今年の4年生の先輩が比較的サークルに遊びに来てくれたおかげでエピソードがあることでしょうか。1年生とサークルを替わって来た希くん以外の2年生3人は現役時代の先輩方を存じ上げないのです。

「ちなみにだけど、みんなこういうメッセージとかって得意な方? 今までのMMPって筆不精な人が多くてまともなメッセージなんて菜月先輩とりっちゃん先輩くらいしか書ける人がいなかったんだよ」
「いや、言って今年の4年生の先輩らはまともじゃなくても許してくれそうな人らじゃないっすか?」
「そうだよねッ! さすがカノンわかってるッ!」
「っつっても色紙にただメッセージを書くだけじゃ味気ないし、軽く何かこう、華やかにはしたいかもなー。ほら奈々先輩、去年の色紙とかも結構工夫してましたよね! メッセージを書いた小さい色付きのカードをレイアウトして~みたいな感じで」
「あれは華やかにする、とかじゃなくて筆不精をごまかすための小細工だよ。しかもそれって元々は菜月先輩の技だし」
「……な、なんでもいーっす! 誰か! 何か華やかにする工夫! 奈々先輩、ちなみにMMPの神すら崇め讃える筆の神の菜月先輩が色紙を指揮してたときはどんな風だったっすか!?」
「色紙を指揮。うん、いいね」
「いろはー! わざとじゃねー!」
「菜月先輩はレイアウトとイラスト担当だったかなあ。あと真ん中に「○○さん卒業おめでとうございます」みたいなレタリングをデザインしてババーンとスペースを使って、周りにイラストを散りばめてとにかく余白を埋めてくれてた」
「はいじゃあ今年のイラスト担当、よろしくな!」
「やっぱりそうなりますよね!」

 奈々先輩と希くんの話し合いの結果、色紙の題字であるとかイラストはジュンが担当することになりました。イラストレーターとしての夏からの活躍は目ざましかったですし、満場一致でジュンにお願いすることになりました。本人もそういうことならと、2人の話し合いを後目にデザインの草案をさらさらと書き始めました。
 前回の打ち合わせで、卒業記念品としてツッツの作る木製ボールペンを贈ろうという話になっていました。ツッツはボールペンを鋭意制作中とのこと。4人4様のペンを作っているとのことで、植物の知識が豊富なパロと話し合った上で木材などを選んだようです。律先輩は木材を扱う会社への就職が決まっているそうなので、木製品はハードルが高いぞなどと冗談も飛び交います。

「奈々先輩、一旦いいですか? 色紙のレイアウトなんですけど、こんな雰囲気でどうですか?」
「すごーいッ! さすがジュン、最高ッ! ねえカノン、いいよねッ!」
「すげー! あ、このデザインを本番の色紙にも描いてくれる的な感じ?」
「ですね。皆さんからのオッケーが出ればですけど」
「つかNG出す理由もねーよ。なあ奏多」
「それな。似顔絵のクオリティもまた高けーのなんの」
「4年生の先輩はアルバムに結構写真があるので、画力向上のための模写練習などで描かせてもらう機会がそれなりにあったんです。なのでイラストにする上で必要な大まかな特徴などは把握済みだったのが大きいですね」

 やっぱり、絵の上達には陰ながらの練習があったわけですね。対策委員の現場でちとせさんからも話を聞いていたのですが、ジュンは千颯さんにも絵の師事を受けていたそうです。千颯さんからは主に絵の練習法などを教わっていたそうですが、千颯さんは「ちょっと教えただけなのに想像を越えて上手くなっていくのは見ていて楽しいけど、自分も負けていられない」と話していたそうです。
 次の対策委員を選ぶ頃、私はジュンを悲観的な面の強い人であると思っていました。うっしーや琉生さんのように人を焚きつけたり呑んでしまえる人と一緒であれば或いはと。ですが、ジュンは直接自分が人に声掛けをしたりして前に進むというよりは、黙々と歩む姿、そして実際に成長して見せることで周りに影響を与える人なのだなあと気付きました。

「つかこの下書きの絵、春風いるくね?」
「え、私ですか?」
「ああ、そうなんです。色紙を贈る先輩と縁のある現役メンバーや物のイラストを添えようかと思いまして、ついでに下書きしてました」
「いいねッ! 誰が誰のところに行くかだよねッ! まあ、とりぃとジュンは野坂先輩だろうけど」
「殿は律先輩、うっしーはこーた先輩、カノン先輩はヒロ先輩、などと考えた結果、重大な欠陥があることに気付いてしまいまして」
「欠陥?」
「贈る先輩4人に対して今いる現役のメンバーが11人で、現役が2人しかいない色紙が出来てしまうことは不公平だなと」
「あー……愚民の先輩たちならそれでラブ&ピースの応酬になる、間違いない」
「つか問題なくないか? なんなら欠陥ですらない」
「おっ、かっすーが何か思いついたか?」
「それこそ俺がいつも言ってるヤツだよ。ウチの3年以下のメンバーは11.5人。送り出すのが4年生の先輩なら尚更この小数点以下を忘れちゃダメだろ」
「あーッ! すがやんッ!」
「出たよいつものヤツ。……と、呆れるのは簡単だけど、実際後発組の俺らよか留学生のすがやんの方があの人らの世話にはなってるわな」
「大学祭の時にも圭斗先輩と菜月先輩から徹平くんは元気にしているかと訊ねられましたし、今の4年生の先輩であればより深く関わりを持っていたはずですね」
「でも一応本籍は緑ヶ丘だし、とりぃ、すがやんにこういうことになってるんだけどって話だけは通してもらっていい?」
「わかりました」

 希くんの言うところの「半分MMPのメンバー」である徹平くんにこれこれこういう……と連絡を打つと次の瞬間にはもう既読が付き、「むしろ俺も入れて!」と返信が来たのでその旨を皆さんに伝えます。そしてもうひとつ確認しなければならないことが出来ました。

「あの、奈々先輩」
「うんうん」
「色紙のスペースなんですが、徹平くんもメッセージを書きたいとのことで、用意してもらうことは出来ますか?」
「大歓迎だよッ! 来て来てーッ!」
「ジュン、レイアウトが変わりますが、よろしくお願いします」
「11等分より12等分の方が楽なので、助かりました。って言うか誰がどこに行くとかじゃなくて、全員分の色紙に全員描けば平和的解決だ」
「おーおー、すげーパワープレーではあるけどな」
「よーしそれじゃあみんなメッセージ書いてくよーッ! 書けるまで帰れないからねッ!」
「えっ、何すかそれ」
「筆不精だらけだったときのルールだけど、もしかしてもう必要ない…?」


end.


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書きながら小数点以下の存在を思い出して、「あーっ!」ってなったので綺麗な形で着地。
一応お花も送ることにはなってるから、その時には殿とパロが活躍してくれるのかな?

(phase3)

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