2022(02)

■しあわせのケーキ

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「えーっ!? 2人が付き合い始めたんですかーっ!? すっごくお似合いー! おめでとうございまーす!」

 MBCCの4年生追いコンで真っ先に話題となったのが、高木先輩と果林先輩の件だ。これにはもちろんみんなお祝いムード。ゼミ合宿から帰ってきてまだ全然時間が経ってないけど、すでに熟練カップルのような雰囲気も感じるし、その辺りはさすがの仲だなと思う。

「あー、付き合い始めてめでたいのはいーんすけど、情緒不安定になってるササにあんな画像送りつけんのやめてもらっていーすか」
「えっ、あれでどうかしたの?」
「あの画像見た瞬間まーた大号泣っすよ。俺がどんだけコイツ落ち着かせんのに苦労したか」
「あはは、ごめんごめん。シノ、大変だったね」
「いよいよササが本格的に野坂してる」

 昨日の夜遅く、高木先輩から送られてきた1枚の画像。フライパンいっぱいに膨らんだカステラケーキの写真だ。高木先輩の部屋で、果林先輩と一緒にそれを作ったと聞いてまた涙腺がぶっ壊れた。せっかくちょっと落ち着いたと思ったのに、ぶん殴られた。
 それで俺はまた先輩たちの何がどう素敵で高木先輩にどう幸せになって欲しいかを、カステラケーキの画像を肴にシノにしこたま語りまくるということをしてしまった。向島の野坂先輩は1つ上の先輩に対する崇拝が過ぎるとは聞くけど、俺もそう言われても仕方ない気がしてきた。

「しかもこのケーキもおいしそー!」
「切り分けた写真もあるよ。くるみ的にはあんまり面白い断面じゃないかもだけど」
「いえいえ、すっごく綺麗な断面だし、見ていてうっとりしますよ!」
「えっ、そういうものなの?」
「気泡が細かくって、大きさにもバラつきがないですよね。それに、色もムラがなくってずーっと眺めてられますよ! ねえすがやん、ぐりとぐらのカステラってフライパンで焼くのとろっとろの弱火で1時間とかそれっくらいじーっと蓋して待ってなきゃいけないの、ロマンあるよね!」
「へー、そんだけじーっと待つんすか、いーっすねー。それだけの時間をかけて作り上げられる厚くて綺麗な層っすよ。ロマン以外の何物でもないっす」

 スイーツの断面判定士と断層ロマン判定士がそれぞれこのケーキの何がどういいかを先輩たちに伝えるんだけど、まあそれは価値観の違いか、高木先輩の右耳から左耳に抜けているような気がする。くるみとすがやんはまあまあ結構なオタクと言うか、専門性の高い人たちだからなあ。

「ねーちむりー! 高木先輩のカステラケーキの画像! 美味しそうだよね!」
「わ~、ふっくらしてて~、おいしそうですね~。味は、どうだったんですか~?」
「味はねえ、甘さ控えめで、コーヒーと食べるのにちょうどいい感じだよ」
「いいですね~。私も食べたいな~」
「ぐりとぐらのカステラで調べたら作り方出るし、時間に余裕のあるときにやってみたらいいよ」

 MBCCで甘いものと言えば、くるみに次いで1年のちむりーが躍り出た。ちむりーは自分でも少しお菓子作りをするようだけど、基本的には食べる方が好きらしい。くるみとはコンビニスイーツの話でよく盛り上がっている。

「ちむちむー!」
「琉生~。どうしたの~」
「ちむちむー、私にケーキ作ってー、ふっかふかなやつー」
「仕方ないわね~」
「ふかふかなケーキの話ってー、夢があるよねー。ラジオで話したらー、多分みーんなお腹空くねー」
「夜だし~、それはテロになっちゃうね~」
「ジュンくんはふかふかしてないけどー、ケーキはふかふかしてるからねー」

 4年生の先輩はサークル引退後の近況などはほとんど聞いていないので、琉生とサキがFMにしうみの番組に参加し始めたとか、そういう最新情報はあまり知らないという話だった。順調なようですよ、と言うとまだまだこれからだけどね、と油断しないところがさすがだ。

「ジュンくんって子が琉生と一緒にラジオやってる子?」
「そうですね、向島の1年生で。琉生はジュンが凄くお気に入りで、挨拶代わりのハグなんかは当たり前ですね。恋愛には全く派生しないそうですけど、スキンシップは結構激しめです。ジュンは諦めてそれを受け入れてるっぽいですけど」
「その手のスキンシップだったらユノ先輩と育ちゃん先輩で見慣れてるからなあ、驚かない驚かない」
「そういう人たちがいるんだって知ってれば驚きませんけど、積極的なスキンシップをするお国柄でもないですし、驚く人の方が多いとは思いますけどね」
「それはそうなんだけどね」

 正直俺は結構積極的にスキンシップをする方なので、恋愛関係になっても控えめな人たちに関しては「正気か?」と思ってしまうこともある。だけど、その辺りも人それぞれなんだなあと、いろいろな人たちとの出会いを通して学ばせてもらっている。そもそも俺の恋愛の仕方が多数派ではない。

「自分1人で食べるために大きなケーキを焼く人は、あまりいないと思うし、このカステラケーキは、作る行程、焼けるまでの時間、広がる甘い匂い、食べる人の笑顔、そのどれをとっても、と~っても幸せに溢れていると思うの。2人が素敵な時間を過ごしたんだな~って思って、見ていると、私も幸せになっちゃいます」
「ちむちむ、めっちゃ名言ー! その言葉貸してー」
「いいわよ~」
「うっ……」
「ササ、もしかしてまた涙腺にキてる?」
「すいません、ちむりーの名言がぶっ刺さって」

 実際にいい言葉だし、ちむりーの口調とかがマジで聖母だから余計ダメなヤツなんだよな。俺のヨコシマな部分が全部洗われて浄化しそうだ。

「ササ、これ以上そんなことで号泣してたら泣き虫キャラ付くよ」
「無個性よりはいいかなとは思いますけど、さすがにちょっとみっともないですね。もう少し格好良くありたいです」
「ササ先輩は十分格好いいですよ。合宿でも難しい論文の内容を、しっかり理解して感想を発表してましたし~」
「いや、俺にはそれしかなくて」
「君の後輩はこんなにも優秀なのに、どうして君はこうなんだろうねえ高木君!」
「ひえっ。果林先輩、縁起でもないこと言わないでください」
「シノキ君も最近はちょっとずつ頑張ってるのに君は一向に学術面での進歩が見られないねえ!」
「あーわー、何も聞こえないー、俺にはミキサーがあればいいー、わーわーわー」

 ああうん、高木先輩のちょっとアレなところを思い出して気持ちが落ち着いた。


end.


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シノキ君最近は頑張ってるんですかレポートとかも。多分光熱費節約のための図書館籠もりの結果かな?
泣き虫陸さんはTKGパイセンの話に限るのでただの過激派。でもアレなところはアレだと思っている。
MBCC1年生たちのキャラも少しずつ立たせていきたい。琉生を起点にまずはちむりーか?

(phase3)

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