2022(02)
■バレンタインの前には
++++
「はー……ねンむい」
「伊東さん、趣味が忙しい感じ?」
「バレンタインが近いでしょ? バレンタインに限らずカレンダー的なイベントに乗じて書く物を書きまくるじゃん創作界って」
「その辺りのことはよくわからないけど、充実してるようで何より。コーヒー飲む?」
「もらいます」
伊東さんがメチャクチャ眠そうにしている。実はそんなに珍しいことでもない。仕事の合間を縫って趣味もやってりゃそうなるのは当然だし、その辺りのことは俺も人のことを言えないので現状二人一組で仕事をやれてて良かったなと思う。もちろん休みの都合上1人になることもあるからその時はちゃんとしないといけないんだけど。
彼女から出たバレンタインという単語に、そういやそんな行事もあったなと思い返す。俺がどうこうと言うよりは街の様子の方が賑わってるなという印象だ。百貨店なんかでは近付くことも出来ないようなチョコレートの祭典が開かれてたりもするらしいし、スーパーにもちょっとした特設コーナーが設けられているから自分で食べる用のをちょっと買ってみたり。
「はいコーヒー」
「ありがと。そうカオちゃん聞いて下さいよ」
「どうしましたか」
「カオちゃんも知っての通り、うちの旦那さんはお菓子作りが趣味なんです?」
「そうだな。学生の頃とかたまに食わせてくれてたよ」
「バレンタインなんか、お菓子作りのいい口実なんですよ」
「ああ、確かにその頃の会議にいろいろ持って来てくれてたなあ。あ、そしたら伊東さん、絶品スイーツにありつける感じか」
「それはもちろん楽しみなんだけど、うちのお義姉さんと、お義姉さんの彼氏の妹ちゃんが今度うちに来てチョコ作りするんだって! すごくない!? バレンタインっぽくない!?」
「ぽいかぽくないかで言えば、ぽい」
「よねー。カズの料理教室ですよ」
「伊東さんは参加――……いや、聞いた俺が間違ってた」
「カオちゃん、寝込ませたい相手とかがいれば言ってくれれば」
そもそもにおいてここの夫婦の料理担当がカズになっている経緯だとか理由なんだよ。彼女がワーカホリックでほっといたらメシも食わなくなるから食わせるために料理を始めた、という話ではある。だけど話をもっと突き詰めてしまえば彼女は料理音痴なんだ。高校の調理実習で彼女の作った伝説についてはリン君や越野、そして最大の被害者となった高崎からも聞いている。
肉じゃがらしき物体を食った高崎がガチで2日寝込んだという話を聞いてしまった。カズの料理教室への参加に関する質問に対して、寝込ませたい相手とかいう物騒な言葉が出て来てしまうとなあ。自分が被験者となることに興味がないワケではないけど、今は寝込めない事情が多すぎる。せめて実況がなければ。
「つかカズって姉貴と仲良いんだな」
「普通に仲は良いね」
「家にも来るってことは伊東さんも義理の姉さんとの関係は良好な感じで?」
「て言うか義姉さんうちの大学のサークルの先輩でもあるから元々仲良いんですよ」
「そうなんだ。で? 義姉さんの彼氏の、妹だっけ?」
「そうそう。こないだ義姉さんと彼氏さんと一緒にうちにご飯食べに来てくれたんだけど、すっごい可愛い子でね! ご飯食べてる時の満面の笑み! いっぱい食べる君が好き!」
「えーと、美味そうにめちゃ食う女子って言うと果林的な?」
「さすがに千葉ちゃんよりは食べないけど、近しい物はあるね。見てるとこっちもご飯食べたくなる系女子。かわいい。もしこのまま義姉さんと彼氏さんが結婚すればうちとも親戚だし今から仲良くしときたいよね。かわいいし」
「なんか煩悩みたいな物がだだ漏れのような気がしないでもないけど」
「かわいいものを愛でるのは人としての本能じゃない?」
「そういうことにしとく」
かわいいものを愛でるということに関して言えば俺自身は特にそういった嗜好があった覚えはない。だけど、世の中にはそれらしいキャラクターが溢れていることを考えると伊東さんの言うことも間違ってないとは思う。
「ところでカオちゃんはバレンタインの予定とか」
「普通に配信の予定だったけど」
「ですよねー」
「そういや伊東さんはさ、自分で作れないなりにバレンタインはやるんだろ?」
「そうね。旦那さんに倒れられても困るんでもちろん市販の物を買って渡すんですけど」
「切実だなー……」
「それでなくてもそろそろ魔の季節なんでね」
「あ、春か」
「です。それはそうと、バレンタインも普通に百貨店に行ったりするんじゃ面白くないんで、うちにだから出来る人海戦術じゃないけど、秘策はあるんですよ」
「ほう。それは聞かせてもらうことは出来ますか」
「もちろん。うちの強みと言えば、全国各地にいる同志たちなんですよ。その同志たちにこれというご当地の美味しいものを紹介してもらって、取り寄せて、どーん。はいこれきた」
「なるほど、確かにそれは強い。情報戦か」
「言っちゃえばカオちゃんはもっとすごい規模でやれるからね? 例えば配信で「ビールに合うおつまみ教えて」って聞けばコメントずらああああああっ投げ銭チャリチャリチャリバサバサバサァアアアッ」
「怖い怖い怖い」
その辺の恐怖は去年の7月にマジで学習したんで、何かもういろいろ考えることは多いよなって感じで日々やってますよね。何と言うか、撮れ高的な物に対する投げ銭であればありがとうございますと素直に受け入れられるんだけど。まだまだ身の丈に余るんだよなあ。
「そ、そういや春と言えば、寝込むレベルの花粉症って日常生活大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないけどさすがに社会人ともなればそれなりに対策は打ってるはず。あ、心配しなくてもお弁当はちゃんとやりますって言ってた」
「いや、無理そうなら俺は全然大丈夫だけど」
「カズのコンディションが悪ければ夜勤の時と一緒で常備菜をうちが適当に選んで詰めるだけだからね。冷蔵庫開けて無数のコンテナの中からどれにしようかなって。惣菜屋さんみたいになってるから楽しいんだよ」
「これは料理教室が出来る台所ですわ」
「旦那が嫁の世界線はどこにありますか」
end.
++++
リハビリの鬼に金棒えりPちゃん。
慧梨夏の料理音痴はガチ。結婚前に訓練はしてるけどまだまだ出来るようになったとは言い難い。
(phase3)
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「はー……ねンむい」
「伊東さん、趣味が忙しい感じ?」
「バレンタインが近いでしょ? バレンタインに限らずカレンダー的なイベントに乗じて書く物を書きまくるじゃん創作界って」
「その辺りのことはよくわからないけど、充実してるようで何より。コーヒー飲む?」
「もらいます」
伊東さんがメチャクチャ眠そうにしている。実はそんなに珍しいことでもない。仕事の合間を縫って趣味もやってりゃそうなるのは当然だし、その辺りのことは俺も人のことを言えないので現状二人一組で仕事をやれてて良かったなと思う。もちろん休みの都合上1人になることもあるからその時はちゃんとしないといけないんだけど。
彼女から出たバレンタインという単語に、そういやそんな行事もあったなと思い返す。俺がどうこうと言うよりは街の様子の方が賑わってるなという印象だ。百貨店なんかでは近付くことも出来ないようなチョコレートの祭典が開かれてたりもするらしいし、スーパーにもちょっとした特設コーナーが設けられているから自分で食べる用のをちょっと買ってみたり。
「はいコーヒー」
「ありがと。そうカオちゃん聞いて下さいよ」
「どうしましたか」
「カオちゃんも知っての通り、うちの旦那さんはお菓子作りが趣味なんです?」
「そうだな。学生の頃とかたまに食わせてくれてたよ」
「バレンタインなんか、お菓子作りのいい口実なんですよ」
「ああ、確かにその頃の会議にいろいろ持って来てくれてたなあ。あ、そしたら伊東さん、絶品スイーツにありつける感じか」
「それはもちろん楽しみなんだけど、うちのお義姉さんと、お義姉さんの彼氏の妹ちゃんが今度うちに来てチョコ作りするんだって! すごくない!? バレンタインっぽくない!?」
「ぽいかぽくないかで言えば、ぽい」
「よねー。カズの料理教室ですよ」
「伊東さんは参加――……いや、聞いた俺が間違ってた」
「カオちゃん、寝込ませたい相手とかがいれば言ってくれれば」
そもそもにおいてここの夫婦の料理担当がカズになっている経緯だとか理由なんだよ。彼女がワーカホリックでほっといたらメシも食わなくなるから食わせるために料理を始めた、という話ではある。だけど話をもっと突き詰めてしまえば彼女は料理音痴なんだ。高校の調理実習で彼女の作った伝説についてはリン君や越野、そして最大の被害者となった高崎からも聞いている。
肉じゃがらしき物体を食った高崎がガチで2日寝込んだという話を聞いてしまった。カズの料理教室への参加に関する質問に対して、寝込ませたい相手とかいう物騒な言葉が出て来てしまうとなあ。自分が被験者となることに興味がないワケではないけど、今は寝込めない事情が多すぎる。せめて実況がなければ。
「つかカズって姉貴と仲良いんだな」
「普通に仲は良いね」
「家にも来るってことは伊東さんも義理の姉さんとの関係は良好な感じで?」
「て言うか義姉さんうちの大学のサークルの先輩でもあるから元々仲良いんですよ」
「そうなんだ。で? 義姉さんの彼氏の、妹だっけ?」
「そうそう。こないだ義姉さんと彼氏さんと一緒にうちにご飯食べに来てくれたんだけど、すっごい可愛い子でね! ご飯食べてる時の満面の笑み! いっぱい食べる君が好き!」
「えーと、美味そうにめちゃ食う女子って言うと果林的な?」
「さすがに千葉ちゃんよりは食べないけど、近しい物はあるね。見てるとこっちもご飯食べたくなる系女子。かわいい。もしこのまま義姉さんと彼氏さんが結婚すればうちとも親戚だし今から仲良くしときたいよね。かわいいし」
「なんか煩悩みたいな物がだだ漏れのような気がしないでもないけど」
「かわいいものを愛でるのは人としての本能じゃない?」
「そういうことにしとく」
かわいいものを愛でるということに関して言えば俺自身は特にそういった嗜好があった覚えはない。だけど、世の中にはそれらしいキャラクターが溢れていることを考えると伊東さんの言うことも間違ってないとは思う。
「ところでカオちゃんはバレンタインの予定とか」
「普通に配信の予定だったけど」
「ですよねー」
「そういや伊東さんはさ、自分で作れないなりにバレンタインはやるんだろ?」
「そうね。旦那さんに倒れられても困るんでもちろん市販の物を買って渡すんですけど」
「切実だなー……」
「それでなくてもそろそろ魔の季節なんでね」
「あ、春か」
「です。それはそうと、バレンタインも普通に百貨店に行ったりするんじゃ面白くないんで、うちにだから出来る人海戦術じゃないけど、秘策はあるんですよ」
「ほう。それは聞かせてもらうことは出来ますか」
「もちろん。うちの強みと言えば、全国各地にいる同志たちなんですよ。その同志たちにこれというご当地の美味しいものを紹介してもらって、取り寄せて、どーん。はいこれきた」
「なるほど、確かにそれは強い。情報戦か」
「言っちゃえばカオちゃんはもっとすごい規模でやれるからね? 例えば配信で「ビールに合うおつまみ教えて」って聞けばコメントずらああああああっ投げ銭チャリチャリチャリバサバサバサァアアアッ」
「怖い怖い怖い」
その辺の恐怖は去年の7月にマジで学習したんで、何かもういろいろ考えることは多いよなって感じで日々やってますよね。何と言うか、撮れ高的な物に対する投げ銭であればありがとうございますと素直に受け入れられるんだけど。まだまだ身の丈に余るんだよなあ。
「そ、そういや春と言えば、寝込むレベルの花粉症って日常生活大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃないけどさすがに社会人ともなればそれなりに対策は打ってるはず。あ、心配しなくてもお弁当はちゃんとやりますって言ってた」
「いや、無理そうなら俺は全然大丈夫だけど」
「カズのコンディションが悪ければ夜勤の時と一緒で常備菜をうちが適当に選んで詰めるだけだからね。冷蔵庫開けて無数のコンテナの中からどれにしようかなって。惣菜屋さんみたいになってるから楽しいんだよ」
「これは料理教室が出来る台所ですわ」
「旦那が嫁の世界線はどこにありますか」
end.
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リハビリの鬼に金棒えりPちゃん。
慧梨夏の料理音痴はガチ。結婚前に訓練はしてるけどまだまだ出来るようになったとは言い難い。
(phase3)
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