2022(02)

■まさかの遭遇

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 兄さんと買い物に出るのは久々なように思います。車を買う前に、どのようなアクセサリーがあるのかを自動車用品店で実物を見ながら教えてもらったりしたのですが、恐らくそれ以来でしょうか。最近では私も徹平くんやレナと出掛けたり、インターフェイスの活動で外に出ることも増えていたということもあります。
 今日はカメラに付ける新しいレンズであったり、兄さんはバイク用品や工具などを見に出ました。私もレナの話や先日のロボット大戦を経て機械そのものに対する興味が増していたので、兄さんに付いて機械類を見て歩くのもとても楽しいのです。本当に、過保護さえなければいいのですが。

「あ。兄さん、少しいい?」
「どうした」
「せっかく世音坂に来てるから、本屋も覗きたくて」
「ああ、わかった」

 とは言えあまり長く待たせるのも良くないので、サッと目当ての本だけ探すことに。買ったのはカメラの撮影技法の本とアウトドアギアの本、それから、SF映画を紹介する本です。会計を終えて外に出ると、兄さんは女性の方と話しているようでした。こういった場所でアンケートなどとは考えにくいので、知り合いでしょうか。

「お、春風。もういいのか?」
「妹さん?」
「ああ。妹の春風」
「鳥居春風です。兄がお世話になっています」
「わあ、本当に可愛い! こんなに可愛い妹だったら兄バカにもなるね」
「兄バカって言うな」
「ええと、失礼ですが、兄とはどういった……」
「言って大丈夫?」
「……俺から言う。春風、俺の彼女の美弥子」
「伊東美弥子です」
「わあ、そうなのですか!?」

 兄さんに彼女がいるという話は全く聞いたことがなかったのだけど、まさかの遭遇にビックリですね。美弥子さんも私が今買い物をした本屋に用事があるという弟さんを待っているということです。弟さんと一緒に街歩きとは、仲のいい姉弟であるということが窺えます。

「兄さん、そんな素振り全然見せなかったけど、いつからお付き合いを?」
「あー……お前には言いにくい」
「どうして?」
「知り合ったのが先月の下旬ごろで、付き合い始めたのも年末だから本当に最近かな? ねえ真宙さん」

 先月の下旬に知り合い、年末に付き合い始めるということは、出会って1週間程度で交際を始めたという計算になります。一般的には早過ぎるのではないかと思うのですが、まあ、一般的な話が誰にでも当てはまるとは、必ずしも言えないかと。私には兄さんの恋愛のスピード展開に対して異を唱えられるはずもありません。私自身、出会って間もない徹平くんとすぐにお付き合いを始めたのですから。

「……兄さん」
「わかってる。そんな目で俺を見るな」
「確かに、私に対してあれだけ言って来たのに、とは思うけど。だけど、私だから気持ちも分かるの。素敵な人なんでしょう?」
「ああ」
「美弥子さん、兄をよろしくお願いします」
「春風ちゃんもよろしくね」
「はい」
「あっ、ごめん姉ちゃん、待った?」
「ううん、全然」
「あれっ、知り合い?」
「知り合いって言うか、さっき話したっしょ? 本当にたまたまなんだけどね、アタシの彼氏の真宙さん」
「うぉわっ、マジですか。えっと、弟の一徳です」
「で、こっちが妹の春風ちゃん」

 立ち話をするには場所が場所なので、お茶でも飲みながらということになりました。美弥子さんはアパレルメーカーに、弟の一徳さんは星港市交通局にお勤めになられているとのことです。今日は美弥子さんが一徳さんと奥さんのお宅にお邪魔しての食事会が開かれるとのことで、良好な姉弟仲だなあと思います。

「春風ちゃんは今何年生?」
「私は2年生です。向島大学の情報科学部に在籍しています」
「うわー、バリバリの理系だー」
「何で。いいじゃん」
「美弥子は、プログラムとかやってたのか?」
「うん、やってた」
「春風は大学のロボコンに出て、準優勝だったんだ」
「兄さん、そんな話をしなくても」
「えー、凄いじゃん!」
「ありがとうございます。優勝は同じサークルの先輩だったのですが、ソースコードの点でもまだまだ敵わない点が多く、私もより研鑽しなければと身が引き締まる思いでした」
「真面目だねえ。春風ちゃんて何のサークルやってるの? 星が好きってことはやっぱ天文系?」
「以前は天文部に所属していたのですが、活動の方向性が合わず。現在は放送サークルに所属して、ラジオの活動を行っています」
「え!? 春風ちゃん向島っつったよね!?」
「え、ええ、はい」

 この発言に対する一徳さんの食いつきがあまりに強かったので、内心とても驚いてしまいました。驚いている素振りを極力見せないように返事をします。

「ロボコンで優勝したのってやっぱ野坂?」
「はい、そうです。野坂先輩をご存知なのですか?」
「俺ね、緑ヶ丘のMBCCのOBだからさ。だから他校だったら今の3年の子までと、ウチの子だったら2年は大体わかるよ」

 それはつまり、きっとそういうこと、ですよね。この場ではどうするのが正しいのか一瞬悩みましたが、咄嗟に口から出ていました。

「ええと、それでしたら、徹平くんのこともご存知ですか? サークル的には、すがやんというのですが」
「おー! すがやん! いい子だよねー! 多趣味で友達も多いし、さりげなく頭もいい! あっ、もしかして話に聞くすがやんの彼女!?」
「……です、はい」
「あー、そーなんだ」
「カズ、春風ちゃんの彼氏知ってんだ」
「うん。すげーいい子」
「だって。良かったね真宙さん」
「ああ、まあ、アイツが悪い奴じゃねえのはちゃんと知ってんだ。親の教えもちゃんと聞くし」
「親の教え」
「徹平くんのお母さんが、私たちの恩師なのです。兄さんが自動車整備工を志すに至って大切にしていることも、菅谷先生からいただいた言葉で。私が天文学にのめり込むことになったきっかけも菅谷先生が与えてくださったのです」
「凄い巡り合わせだね」
「ホントに」

 兄さんがよく言う親の教えがどうこうというのはまあ措いておいて、3つ上の先輩という微妙な距離感の先輩からも徹平くんがいい子であると聞けたのは良かったと思います。尤も、徹平くんは相手によって顔や態度を変えるような人ではないので、誰に聞いても同じように返って来るとは思うのですが。

「姉ちゃんごめん、そろそろ夕飯の買い物に行きたいかも」
「大体仕込んであるんじゃないの?」
「それは明日以降の弁当のおかず。夕飯はその時の気分で食べたい物も変わるし、歩きながら聞いて考えるつもりだった」
「あっ、だったら真宙さんと春風ちゃんも一緒に夕飯どう? もちろん都合が良ければでいいんだけど」
「いいね。よかったらどうですか?」
「気持ちはありがたいけど、俺ら結構量食うし、多分迷惑になる」
「結構食べる程度だったら全然大丈夫ですよ。俺の後輩に文字通り無限に食べる子がいて、場数は踏んでるので」
「あ、緑ヶ丘でしたら果林先輩がいらっしゃるんですよね」
「そうそう。あのレベルまでなら全然対応出来るから。むしろ戦わせて欲しい」
「兄さん、せっかくだしお呼ばれにならない?」
「お前がそう言うなら。そしたら、買い物は俺たちも手伝わせてもらうし」
「はい。働かざる者食うべからずですから」


end.


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鳥居兄妹はさすがに満腹感を覚えるので果林までのレベルと言える、つまりいち氏は戦えますね

(phase3)

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