2022(02)
■作品と個性
++++
「ジュン~」
「あっ、北星先輩。おはようございます」
「見たよあの作品。凄く上手くなってた。俺も刺激を受けたよ」
「と言うか凄いクマですけど大丈夫ですか?」
「ついさっきまで編集してて~。でも平気~」
MMPの年末特番として作った映像作品を全体公開バージョンにした物をインターフェイスチャンネルにアップしてしばらく。北星先輩からあの作品についてゆっくり話したいからお茶でも、と連絡が入った。
俺が映像編集を始めたのは、夏合宿でペアを組むことになった北星先輩にどうにかして俺の顔と名前を覚えてもらうために作った5秒ほどのショートアニメーションからだ。今回の年末特番は30分番組だったので、規模としてはとんでもないことになっている。
「で、あの作品、ウチのサークルでもみんなで見てて」
「そうなんですか。モニター会みたいで少し緊張しますね」
「ウチって、撮影機材とかでドローンを扱うでしょ」
「そうですね」
「そのドローンと並行してラジコンとかが好きな子もいるんだよね。ロボットとかはこう、熱くなると言うか。最初は作品の技術的なことより内容の方に夢中になっちゃって、ね~誰か技術的なところ見てた~? みたいな感じになっちゃって」
「そこまで夢中になってもらえたのなら良かったです。実際、生であの戦いを見たときの迫力や臨場感をどうやって映像に落とし込むかというのが課題だったので」
「映像って、そこなんだよね」
北星先輩が手伝っているというくるみ先輩のスイーツ動画も、実際にスイーツを目の前にした時から五感をいくつか減らした状態になる物だ。だから、いかにそれらを別の感覚で補完させるかというのが課題になっているそうだ。
映像が綺麗なだけ、音質がいいだけでは決して補えない物を、いかにして人間の脳に錯覚させるか。北星先輩は映像作品だからこそ出来ることは何かというのを日々考えているそうだ。それは、ただ言われた通りに作る仕事の映像より、自分発の方が難しいと感じているとのこと。
「あ~、そうそう~。もう少ししたら千颯も来るよ~」
「千颯先輩ですか?」
「って言うか~、俺は千颯からジュンと話したいからアポ取ってくれる~って頼まれたんだよ~。連絡先知ってるし~」
「ああ、そうだったんですか。千颯先輩は何が気になったんですかね」
「絵の方じゃないかな。今回の作品、アニメーションもふんだんに使ってたでしょ」
「そうですね。MMPの内輪で見る物は人物の方も実写映像を使ってるんですけど、インターフェイスチャンネルに上げた物は一応人物のところを全部絵に差し替えてるので、より絵の割合が多くなってますね。実は内輪用と外部用では構成も少し違うんです」
「ジュン、それは聞き捨てならないよ。良ければ内輪用の方も見せてもらいたいんだけど」
「ファイルは家のパソコンにあるので、帰ってから送る感じでいいですか」
「待ってるね~」
そんなこともあって作業量が結構とんでもないことになってしまったんだ。でも野坂先輩がネット上に顔を上げるのは……というタイプの人だったので、そこはやらせていただきましたとも。
「北星、ジュン、おはよう」
「千颯~、遅いよ~」
「ごめん」
「おはようございます」
「あ、来てくれてありがとねジュン。この間の向島さんの作品、本っ当に凄かったよ! ジュン、人物の絵はほとんど描いたことないって言ってたよね? 練習を始めたのも夏からなのにすごいレベルの上がり方だと思って、俺も頑張らないと~って刺激を受けてるよ。どんな練習した?」
「サークル室にすごく分厚いアルバムがあるので、それを模写するのが主ですね」
「ああ、そうなんだ。うんうん。ほら、試合前のインタビュー映像? あれなんかも実写感を崩しすぎず、かつちゃんとアニメ画調になってるし、ロボットのスペック紹介のときのカットは紙の上に引かれたジュンの筆跡が見えるみたいだった。一筆一筆増えて、モノクロのロボットに色が付いて、一歩、また一歩動いてからの実写! アニメの色と実写の色が混ざってる何フレームかの色合いに心が震えたね!」
「……千颯~、いつになく喋るね~」
「はい。何というか、イメージになく饒舌になっている気が」
「ちょっと、思い出したら興奮しちゃった。ごめんねごめんね」
千颯先輩が俺の作品の何にどう興奮したかを伝えてくれる様が、ジャックとうっしーがする早口のオタク談義のようだったので、まあそんなようなことなんだろうなとはうっすらと察する。好きな物の話になると人は声のトーンが上がって早口になるそうだ。
ちなみに、緑ヶ丘からの感想もサキ先輩と琉生から「レナの早口感想です」と注釈を交えてかなり熱い感じでもらっていたので、やっぱり好きな人はそうなるんだろう。とりあえず、ロボット狂のレナ先輩も満足してくれたようなので、よかった。
「でもね、何が一番嬉しかったって、アイキャッチだよ」
「アイキャッチですか?」
作品の前後半を分ける意味合いで、アイキャッチのアニメーションを用意していた。野坂先輩と春風先輩をそれぞれSDキャラに落とし込んで、小さく動かしただけのものだ。ラジオで言うところのジングル、区切りやメリハリを生む効果を期待して入れてみた。
「ジュンが練習の成果でいろんな絵柄を操れるようになったっていうのはわかったんだけど、アイキャッチのアニメーションが本来のジュンの絵柄で、これが動いてる~ってなって星大のみんなで見てた時も「ここなんだよ!」ってみんなに推してて。やっぱり、その人の絵柄っていうのは大事じゃない。俺はジュン本来の絵柄が見れて嬉しかったんだよ」
職業としての絵描きなら自分の絵柄を殺す必要もあるけど、趣味でやっているなら自分の絵柄を確立して大事にしてもらいたいな、と千颯先輩は俺に語りかける。パッと見でその人の絵だとわかる、個性や特徴はその人にしかないものだからと。
「ジュン、次の作品も楽しみにしてるからね!」
「うん。俺も楽しみにしてる~」
「それではぜひ先輩たちの作品も見せていただければと。俺も人がどうやっているかを見て刺激を受けたいですからね」
「それじゃあ、俺は青をテーマにしたこの絵を」
「えーと……お、俺は~、クリスマスケーキの断面~……」
「北星、それくるちゃんのヤツだよね?」
「そうだけど~、クリスマスケーキの動画は一分一秒を争うんだよ~。言葉にするならまさに死闘って感じで~」
end.
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夏合宿を経てここも地味に仲良し。クリエイターズトリプルタワー。
(phase3)
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「ジュン~」
「あっ、北星先輩。おはようございます」
「見たよあの作品。凄く上手くなってた。俺も刺激を受けたよ」
「と言うか凄いクマですけど大丈夫ですか?」
「ついさっきまで編集してて~。でも平気~」
MMPの年末特番として作った映像作品を全体公開バージョンにした物をインターフェイスチャンネルにアップしてしばらく。北星先輩からあの作品についてゆっくり話したいからお茶でも、と連絡が入った。
俺が映像編集を始めたのは、夏合宿でペアを組むことになった北星先輩にどうにかして俺の顔と名前を覚えてもらうために作った5秒ほどのショートアニメーションからだ。今回の年末特番は30分番組だったので、規模としてはとんでもないことになっている。
「で、あの作品、ウチのサークルでもみんなで見てて」
「そうなんですか。モニター会みたいで少し緊張しますね」
「ウチって、撮影機材とかでドローンを扱うでしょ」
「そうですね」
「そのドローンと並行してラジコンとかが好きな子もいるんだよね。ロボットとかはこう、熱くなると言うか。最初は作品の技術的なことより内容の方に夢中になっちゃって、ね~誰か技術的なところ見てた~? みたいな感じになっちゃって」
「そこまで夢中になってもらえたのなら良かったです。実際、生であの戦いを見たときの迫力や臨場感をどうやって映像に落とし込むかというのが課題だったので」
「映像って、そこなんだよね」
北星先輩が手伝っているというくるみ先輩のスイーツ動画も、実際にスイーツを目の前にした時から五感をいくつか減らした状態になる物だ。だから、いかにそれらを別の感覚で補完させるかというのが課題になっているそうだ。
映像が綺麗なだけ、音質がいいだけでは決して補えない物を、いかにして人間の脳に錯覚させるか。北星先輩は映像作品だからこそ出来ることは何かというのを日々考えているそうだ。それは、ただ言われた通りに作る仕事の映像より、自分発の方が難しいと感じているとのこと。
「あ~、そうそう~。もう少ししたら千颯も来るよ~」
「千颯先輩ですか?」
「って言うか~、俺は千颯からジュンと話したいからアポ取ってくれる~って頼まれたんだよ~。連絡先知ってるし~」
「ああ、そうだったんですか。千颯先輩は何が気になったんですかね」
「絵の方じゃないかな。今回の作品、アニメーションもふんだんに使ってたでしょ」
「そうですね。MMPの内輪で見る物は人物の方も実写映像を使ってるんですけど、インターフェイスチャンネルに上げた物は一応人物のところを全部絵に差し替えてるので、より絵の割合が多くなってますね。実は内輪用と外部用では構成も少し違うんです」
「ジュン、それは聞き捨てならないよ。良ければ内輪用の方も見せてもらいたいんだけど」
「ファイルは家のパソコンにあるので、帰ってから送る感じでいいですか」
「待ってるね~」
そんなこともあって作業量が結構とんでもないことになってしまったんだ。でも野坂先輩がネット上に顔を上げるのは……というタイプの人だったので、そこはやらせていただきましたとも。
「北星、ジュン、おはよう」
「千颯~、遅いよ~」
「ごめん」
「おはようございます」
「あ、来てくれてありがとねジュン。この間の向島さんの作品、本っ当に凄かったよ! ジュン、人物の絵はほとんど描いたことないって言ってたよね? 練習を始めたのも夏からなのにすごいレベルの上がり方だと思って、俺も頑張らないと~って刺激を受けてるよ。どんな練習した?」
「サークル室にすごく分厚いアルバムがあるので、それを模写するのが主ですね」
「ああ、そうなんだ。うんうん。ほら、試合前のインタビュー映像? あれなんかも実写感を崩しすぎず、かつちゃんとアニメ画調になってるし、ロボットのスペック紹介のときのカットは紙の上に引かれたジュンの筆跡が見えるみたいだった。一筆一筆増えて、モノクロのロボットに色が付いて、一歩、また一歩動いてからの実写! アニメの色と実写の色が混ざってる何フレームかの色合いに心が震えたね!」
「……千颯~、いつになく喋るね~」
「はい。何というか、イメージになく饒舌になっている気が」
「ちょっと、思い出したら興奮しちゃった。ごめんねごめんね」
千颯先輩が俺の作品の何にどう興奮したかを伝えてくれる様が、ジャックとうっしーがする早口のオタク談義のようだったので、まあそんなようなことなんだろうなとはうっすらと察する。好きな物の話になると人は声のトーンが上がって早口になるそうだ。
ちなみに、緑ヶ丘からの感想もサキ先輩と琉生から「レナの早口感想です」と注釈を交えてかなり熱い感じでもらっていたので、やっぱり好きな人はそうなるんだろう。とりあえず、ロボット狂のレナ先輩も満足してくれたようなので、よかった。
「でもね、何が一番嬉しかったって、アイキャッチだよ」
「アイキャッチですか?」
作品の前後半を分ける意味合いで、アイキャッチのアニメーションを用意していた。野坂先輩と春風先輩をそれぞれSDキャラに落とし込んで、小さく動かしただけのものだ。ラジオで言うところのジングル、区切りやメリハリを生む効果を期待して入れてみた。
「ジュンが練習の成果でいろんな絵柄を操れるようになったっていうのはわかったんだけど、アイキャッチのアニメーションが本来のジュンの絵柄で、これが動いてる~ってなって星大のみんなで見てた時も「ここなんだよ!」ってみんなに推してて。やっぱり、その人の絵柄っていうのは大事じゃない。俺はジュン本来の絵柄が見れて嬉しかったんだよ」
職業としての絵描きなら自分の絵柄を殺す必要もあるけど、趣味でやっているなら自分の絵柄を確立して大事にしてもらいたいな、と千颯先輩は俺に語りかける。パッと見でその人の絵だとわかる、個性や特徴はその人にしかないものだからと。
「ジュン、次の作品も楽しみにしてるからね!」
「うん。俺も楽しみにしてる~」
「それではぜひ先輩たちの作品も見せていただければと。俺も人がどうやっているかを見て刺激を受けたいですからね」
「それじゃあ、俺は青をテーマにしたこの絵を」
「えーと……お、俺は~、クリスマスケーキの断面~……」
「北星、それくるちゃんのヤツだよね?」
「そうだけど~、クリスマスケーキの動画は一分一秒を争うんだよ~。言葉にするならまさに死闘って感じで~」
end.
++++
夏合宿を経てここも地味に仲良し。クリエイターズトリプルタワー。
(phase3)
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