2022(02)
■Free, free, free...
++++
「すごー、前と全然違う空間やん」
「そうっすよね! 今年の代になってからいろいろ新調したりして、パワーアップしたんすよ!」
「わっ、カノン、りっちゃん先輩と愉快な愚民の先輩たちを連れてきたのッ!?」
「何ですか奈々、先輩を愚民だなんて」
「そうだぞ。俺たちが愚民ならお前も十分愚民じゃないか」
カノン先輩が、4年生の先輩と一緒にサークル室にやってきた。ミキサー陣のお三方はたまに遊びに来てくれているので顔と名前が一致するけど、もう一人の方はここではお初にお目にかかります。痩せ形で、ツーブロックの七三風の髪型。4年生の中ではおしゃれ度が高い。あ、実は俺は先にゼミ室で顔は見たことがあったりします。
「みんなー、4年生の先輩が遊びに来たよー。で、これが最後の4年生で、アナウンサーのヒロ先輩っす」
「佐久間ヒロやよ。ジュンはゼミ同じやから知っとるわ。他の子ーらはよろしく」
「ヒロ先輩は自由でめちゃ緩くてナチュラルに毒吐きまくる人っすけど、1、2年に対しては多分悪意もないはずなんで、軽~く捉えてあげてください」
「カノンそれボクのコト貶してない?」
「いやいや、貶してはないっす! ヒロ先輩と言えば何てったって俺が向島大学に、そしてMMPに入るきっかけとなった憧れの先輩っすから!」
「そーやろそーやろ? カノンはホンマかわいーわぁ」
めちゃくちゃ熱いカノン先輩が、この緩いヒロ先輩のどこにどう憧れたのか。それは高校3年生当時のカノン先輩が向島大学のオープンキャンパスにやってきた時のこと。
学食に設けられていたDJブースで、変に取り繕うでも飾るでもなく、かと言って斜に構え過ぎているでもないリアルな大学生の実状を語る番組をやっていたのを聞いたんだそうだ。それでこの大学に入ると決めて、現在に至ると。
「4年生の先輩っすから、やっぱトーク技術なんかもめちゃくちゃあるんすよね! ミキサーの先輩らはみんなめちゃくちゃ上手いっすし」
「ジャック、間違ってもそれはヒロに求める物じゃない…!」
「何やのノサカ。ボクには味があるやろ」
「味だけで番組が成り立つほど甘くないと何度言ったところで最後まで理解しなかっただろ」
「やァー、自分らが現役の時は今ほどキチンと練習もしてなかったンで、ヒロはお世辞にも上手いアナウンサーとは言えヤせん」
「マジすか」
「でも、ヒロの良さはそれこそ味なンすわ」
「律は相変わらずヒロに甘い。あれだけ好き勝手にされていたのに意味が分からない」
「まあ、そんなヒロさんでも一応は、最もヤバかった時のMMPで踏ん張ったアナウンサーではありますから、功労者とは言えますよ。花粉症や鼻炎で「ボク番組やらん」と言って1つしかない枠を放棄する可能性は十分ありましたからね」
「こーたにしてはいーコト言うやん! そーなんやよ! ボクがMMPを守ったんやよ! 今日はウザドルって言っても許したるわ」
「でしょお~?」
「はーっ……。どいつもこいつも」
先輩たちの話によればヒロ先輩はやる気にとてもムラがある人で、ミキサー泣かせのアナウンサーだと言われ続けていた。かつ慢性鼻炎持ちなので番組をやるにもいいコンディションになることはほとんどなかったんだそうだ。
でもこーた先輩の話がまさにそうで、カノン先輩がアナウンサーとして昼放送に登板できるようになるまでの、活動の存続が一番危ぶまれた時に踏ん張っていたのがこのヒロ先輩。そう聞くと、今いる俺たちは昼放送を続けてくれてありがとうございましたと言う他にない。
「で、そのヒロ先輩がどうして突然遊びに来てくれたんですか?」
「こないだ三井先輩がここに来て暴れてったらしーやん?」
「そうっす」
「そんで、この人誰や、未だ姿見せてないもう1人の4年かーみたいな話になったって聞ーたんやよ」
「野坂先輩からあの人がこの間卒業した人だとは聞きましたけど、それを聞くまではどこの誰かもわかんなかったんすよ」
「わざわざ山登って遊びに行くんもめんどくさいなーと思っとったけど、三井先輩と間違われるとかそれはそれでイヤすぎるんやわ。しやもんで、あとの4年はボクやよーゆーて自己紹介しに来たんよ」
「そうだったんすか」
「この山道を用もないのに歩いて上るのは、確かにちょっと大変ですよね。今の季節だと寒いですし」
「そーなんやよ。えーと、キミ誰?」
「えっと、パロですっ」
「パロね。理解のあるえー子やわ。ノサカとは大違いやわー」
俺はゼミ室でもヒロ先輩が野坂先輩に課題の解法であったり授業のプリント(野坂先輩にとっては去年以前に履修した物)を集ったりしているのを、野坂先輩は大変だなあと思って見ている。
その度に野坂先輩は「お前が卒業出来なかったところで知ったこっちゃない」とぶった切っているのだけど、春風先輩にまで食指が延びたときにはさすがに後輩を守って自分が犠牲になっていたようだ。
「ジュン、もしヒロがお前にいろいろ集ってくることがあっても無視だぞ。下手に出ると付け上がるからな」
「わかりました」
「なんやの」
「それでヒロ、1年6人の顔と名前はそろそろ一致したか」
「えっとねー、服が一番可愛い子がジャックで、ノサカ2号がジュン」
「ノサカ2号て」
「ヘンクツな理系は大体ノサカなんよ」
「偏見が過ぎる。あとジュンは俺と比べると全然偏屈じゃないぞ」
「知らん。で、大きい子が殿で、理解のある子がパロ。で、えーと、そのオシャレメガネの子ーは、やいやい来る子で、すみっこの子ーは手先器用なんよね」
「後半よ」
「イキリ隠キャのお喋り袋、うっしーっす!」
「私の可愛い弟子ですよ」
「師匠~!」
「え、やめた方がえーよ悪影響しかない」
「――とは自分らも言ッたンでね」
「間違いない」
「すみっこの子はあれやんね、ポッポとかピッピとかそーゆー感じの名前やんね」
「わざと外しているとしか思えないのだが」
「何でやの! 5人も6人も一気に覚えられんわ! 大体今年の1年生、印象が全部殿に持ってかれるんやよ!」
「それはそう」
「あの、えっと……ツッツです……」
「ツッツね。多分追いコンのときには忘れとるからまた教えて」
先輩たち曰く番組もこのノリだというのだから、随分とフリースタイルだったのだろう。でも、この人が何でもアリだったからこそ俺たちも何でもアリで活動出来ていると解釈することは出来る。こちらに与えられた印象は大きい。ヒロ先輩のことをみんなはちゃんと覚えただろう。
「ちなみになんすけどヒロ先輩、これでまだ全員でもないんすよ」
「何やの、まだおるの!?」
「2年も4人になってるんすよ」
「あーもーえーわ。おなかいっぱい」
end.
++++
時間にして1年3ヶ月くらい振り、フェーズ3では初めての登場になるはずのヒロ。普段どこにおるかわからんのやわ
ノサカ(と春風とジュン)と同じゼミだし樹理ちゃんとは普通に仲良しなのでいることにはいるし、後輩2人もその存在は知ってる。
忘れられがちだけどアナウンサーが3人抜けて1番ヤバかった時のサークルを支えた元アナウンス部長でした。
(phase3)
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「すごー、前と全然違う空間やん」
「そうっすよね! 今年の代になってからいろいろ新調したりして、パワーアップしたんすよ!」
「わっ、カノン、りっちゃん先輩と愉快な愚民の先輩たちを連れてきたのッ!?」
「何ですか奈々、先輩を愚民だなんて」
「そうだぞ。俺たちが愚民ならお前も十分愚民じゃないか」
カノン先輩が、4年生の先輩と一緒にサークル室にやってきた。ミキサー陣のお三方はたまに遊びに来てくれているので顔と名前が一致するけど、もう一人の方はここではお初にお目にかかります。痩せ形で、ツーブロックの七三風の髪型。4年生の中ではおしゃれ度が高い。あ、実は俺は先にゼミ室で顔は見たことがあったりします。
「みんなー、4年生の先輩が遊びに来たよー。で、これが最後の4年生で、アナウンサーのヒロ先輩っす」
「佐久間ヒロやよ。ジュンはゼミ同じやから知っとるわ。他の子ーらはよろしく」
「ヒロ先輩は自由でめちゃ緩くてナチュラルに毒吐きまくる人っすけど、1、2年に対しては多分悪意もないはずなんで、軽~く捉えてあげてください」
「カノンそれボクのコト貶してない?」
「いやいや、貶してはないっす! ヒロ先輩と言えば何てったって俺が向島大学に、そしてMMPに入るきっかけとなった憧れの先輩っすから!」
「そーやろそーやろ? カノンはホンマかわいーわぁ」
めちゃくちゃ熱いカノン先輩が、この緩いヒロ先輩のどこにどう憧れたのか。それは高校3年生当時のカノン先輩が向島大学のオープンキャンパスにやってきた時のこと。
学食に設けられていたDJブースで、変に取り繕うでも飾るでもなく、かと言って斜に構え過ぎているでもないリアルな大学生の実状を語る番組をやっていたのを聞いたんだそうだ。それでこの大学に入ると決めて、現在に至ると。
「4年生の先輩っすから、やっぱトーク技術なんかもめちゃくちゃあるんすよね! ミキサーの先輩らはみんなめちゃくちゃ上手いっすし」
「ジャック、間違ってもそれはヒロに求める物じゃない…!」
「何やのノサカ。ボクには味があるやろ」
「味だけで番組が成り立つほど甘くないと何度言ったところで最後まで理解しなかっただろ」
「やァー、自分らが現役の時は今ほどキチンと練習もしてなかったンで、ヒロはお世辞にも上手いアナウンサーとは言えヤせん」
「マジすか」
「でも、ヒロの良さはそれこそ味なンすわ」
「律は相変わらずヒロに甘い。あれだけ好き勝手にされていたのに意味が分からない」
「まあ、そんなヒロさんでも一応は、最もヤバかった時のMMPで踏ん張ったアナウンサーではありますから、功労者とは言えますよ。花粉症や鼻炎で「ボク番組やらん」と言って1つしかない枠を放棄する可能性は十分ありましたからね」
「こーたにしてはいーコト言うやん! そーなんやよ! ボクがMMPを守ったんやよ! 今日はウザドルって言っても許したるわ」
「でしょお~?」
「はーっ……。どいつもこいつも」
先輩たちの話によればヒロ先輩はやる気にとてもムラがある人で、ミキサー泣かせのアナウンサーだと言われ続けていた。かつ慢性鼻炎持ちなので番組をやるにもいいコンディションになることはほとんどなかったんだそうだ。
でもこーた先輩の話がまさにそうで、カノン先輩がアナウンサーとして昼放送に登板できるようになるまでの、活動の存続が一番危ぶまれた時に踏ん張っていたのがこのヒロ先輩。そう聞くと、今いる俺たちは昼放送を続けてくれてありがとうございましたと言う他にない。
「で、そのヒロ先輩がどうして突然遊びに来てくれたんですか?」
「こないだ三井先輩がここに来て暴れてったらしーやん?」
「そうっす」
「そんで、この人誰や、未だ姿見せてないもう1人の4年かーみたいな話になったって聞ーたんやよ」
「野坂先輩からあの人がこの間卒業した人だとは聞きましたけど、それを聞くまではどこの誰かもわかんなかったんすよ」
「わざわざ山登って遊びに行くんもめんどくさいなーと思っとったけど、三井先輩と間違われるとかそれはそれでイヤすぎるんやわ。しやもんで、あとの4年はボクやよーゆーて自己紹介しに来たんよ」
「そうだったんすか」
「この山道を用もないのに歩いて上るのは、確かにちょっと大変ですよね。今の季節だと寒いですし」
「そーなんやよ。えーと、キミ誰?」
「えっと、パロですっ」
「パロね。理解のあるえー子やわ。ノサカとは大違いやわー」
俺はゼミ室でもヒロ先輩が野坂先輩に課題の解法であったり授業のプリント(野坂先輩にとっては去年以前に履修した物)を集ったりしているのを、野坂先輩は大変だなあと思って見ている。
その度に野坂先輩は「お前が卒業出来なかったところで知ったこっちゃない」とぶった切っているのだけど、春風先輩にまで食指が延びたときにはさすがに後輩を守って自分が犠牲になっていたようだ。
「ジュン、もしヒロがお前にいろいろ集ってくることがあっても無視だぞ。下手に出ると付け上がるからな」
「わかりました」
「なんやの」
「それでヒロ、1年6人の顔と名前はそろそろ一致したか」
「えっとねー、服が一番可愛い子がジャックで、ノサカ2号がジュン」
「ノサカ2号て」
「ヘンクツな理系は大体ノサカなんよ」
「偏見が過ぎる。あとジュンは俺と比べると全然偏屈じゃないぞ」
「知らん。で、大きい子が殿で、理解のある子がパロ。で、えーと、そのオシャレメガネの子ーは、やいやい来る子で、すみっこの子ーは手先器用なんよね」
「後半よ」
「イキリ隠キャのお喋り袋、うっしーっす!」
「私の可愛い弟子ですよ」
「師匠~!」
「え、やめた方がえーよ悪影響しかない」
「――とは自分らも言ッたンでね」
「間違いない」
「すみっこの子はあれやんね、ポッポとかピッピとかそーゆー感じの名前やんね」
「わざと外しているとしか思えないのだが」
「何でやの! 5人も6人も一気に覚えられんわ! 大体今年の1年生、印象が全部殿に持ってかれるんやよ!」
「それはそう」
「あの、えっと……ツッツです……」
「ツッツね。多分追いコンのときには忘れとるからまた教えて」
先輩たち曰く番組もこのノリだというのだから、随分とフリースタイルだったのだろう。でも、この人が何でもアリだったからこそ俺たちも何でもアリで活動出来ていると解釈することは出来る。こちらに与えられた印象は大きい。ヒロ先輩のことをみんなはちゃんと覚えただろう。
「ちなみになんすけどヒロ先輩、これでまだ全員でもないんすよ」
「何やの、まだおるの!?」
「2年も4人になってるんすよ」
「あーもーえーわ。おなかいっぱい」
end.
++++
時間にして1年3ヶ月くらい振り、フェーズ3では初めての登場になるはずのヒロ。普段どこにおるかわからんのやわ
ノサカ(と春風とジュン)と同じゼミだし樹理ちゃんとは普通に仲良しなのでいることにはいるし、後輩2人もその存在は知ってる。
忘れられがちだけどアナウンサーが3人抜けて1番ヤバかった時のサークルを支えた元アナウンス部長でした。
(phase3)
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