2022(02)
■新形態初年度のやり繰り
++++
「今年も年末の音楽祭ってヤツ? やるんだって?」
「何だ朝霞、聞いていたのか」
「菅野が言ってたんだよ。言わねーとどーせお前ブチ切れるだろって」
「実際お前面白そうな現場に呼ばないとキレるだろ。前科持ちだし」
「失礼だな、人を何だと思ってるんだ」
今年も例によって青山さん主催で年末の音楽祭は開催されることになっている。年々段取りが良くなっているようで、開催要項が通達されるのも早くなっているし、現場での流れなども最初の行き当たりばったりの頃より格段にわかりやすくなっている。かと言ってその場のノリで発生する物を止める気はさらさら無いようだが。
例年、前年の参加者には早めに連絡が回るようで、オレはブルースプリング名義で参加するよう青山さんから直接言われていた。人の休みにこそ忙しくなる社畜は山奥に籠って何十連勤かは知らんが働き詰めだし、それでなくても青山さんのいる場所にのこのこやって来ることもあるまい。ベースが揃わないことにカンノがまたキレ散らかしている。
「何って、USDX一のクソ短気だろ?」
「“レイ”はこれ以上ないほど温厚だろうがよ」
「中の奴の話をしてんだよ俺は」
「それで、カンノから音楽祭の話が回っているということは、お前も参加するのか」
「くっ……参加出来ればどれほどよかったか!」
「えっ、お前人がせっかく教えてやったのに参加しねーのかよ!」
「うるせー、俺の仕事は年末年始も何も関係ねーんだ。年越しの瞬間も仕事中だよ」
「えっ、ヤバっ。ソルを笑えねーレベルの社畜じゃんお前も」
「カン、ソルさんは実際言うほど社畜じゃないだろ」
「にしたって年末年始休暇みたいなのもねーとかお前どんな会社に入ってんだよ」
「いや、休み自体は普通にあるぞ。ただ、如何せんイベントの仕事だから人が休みのときに働くことも多いってだけで」
「しかし朝霞、宮ちゃんは普通にコミフェに出ると言っていたが」
「伊東さんがコミフェ有給を早々に宣言してたおかげで俺がその分働くことになってんだよ」
「……ああ」
「まあ、その分俺の本を委託させてもらってるんだけども」
「お前も裏で本を作っていたのか」
朝霞と宮ちゃんは職場では同じチーム内でコンビのようにして働いていて、2人同時にいなくなると困ると上から言われているそうだ。宮ちゃんのような人種にとってコミフェというイベントは自分の仕事より大事な趣味のイベントだ。どうしても外すことが出来なかったのだろう。それでなくても今年は旦那がサッカーという趣味に爆発していたこともある。次は自分の番だと鼻息を荒くしていてもおかしくない。
「つかお前の個チャン見たけど、旅行行ってたんか」
「ああ、カンヂさんと一緒に藍沢まで」
「最近実況者の旅Vlog多いよなー。見てたらすげー羨ましいわ」
「俺は平日休みもまあまああるから、観光地も比較的空いてるタイミングで行きやすいんだよな」
「あー、そういう強みもあんのかー」
「言って実況者も人が休んでる時の娯楽を提供するって考えると、朝霞のリアル仕事と似たところはちょっとありそうだな」
「ああ、そうかもな。でも、実際カンヂさんとかと遊ぶにしても収録するにしても俺のシフトに合わせてもらってばっかで申し訳なさはちょっとあるんだけど」
「そう言えば、コメント欄とか見てるとあの4人の括りで“カミツレ”って呼ばれ始めてるんだって?」
「何かそうみたいだな。4人の頭文字を取ってカミツレって。でも錚々たる先輩たちの中にペーペーの俺が一緒に括られてんのが恐れ多い」
朝霞……もとい“レイ”が良くしてもらっているベテラン実況者・カンヂ氏の繋がりで、他のベテラン実況者ともよく遊ぶようになっているのをレイ個人チャンネルで見る。奴がよく遊んでいる実況者はそれを職業にしている人たちだ。この世界で生き抜くには、という話も聞いているとかいないとか。
カンノは仕事とプライベートの作曲に忙しくしているし、オレは遠出するとしても学会のついでで、基本的には籠もりきりだ。同じ大学院生のスガノも似たような物かと思えば、奴はまあまあ健全な生活をしているようだ。最近のUSDXは全員集まることが少なくなり、いるメンバーで適当に単発実況、という動画も多くなっている。
そして朝霞は夏頃にレイの個人チャンネルを立ち上げることになった。個人で行う生配信や、1人でじっくり進める動画、他の実況者とのコラボ動画など、むしろグループのチャンネルより精力的な活動を行っているようにも見える。ちなみにレイの個チャンの動画編集は京川さんが行っているらしい(曰く、USDXの動画より編集を凝る必要がないので数段楽だそうだ)。
「つか朝霞さ、年末調整とかどうしてんだよ」
「カンヂさんに紹介してもらった税理士さんにお任せしてる。確定申告とかいろいろあるみたいだし」
「そこはキョージュじゃねーのかよ」
「京川さんにカンヂさんからこれこれこういう……って話したら「じゃそういうことで!」って言われて」
「あの人らしいと言えばらしい」
「つかお前って会社で実況者バレしてんの?」
「副業オッケーの会社だから、この仕事の他に収入はありますとだけ。実況やってることを知ってる人もいるけど」
「ほー、副業オッケーの会社なのな」
「伊東さんも同人活動が副業扱いになってるっぽくてその辺の話はよくしてるけど、脱税がどうしたとか、何が経費で落とせるかとかの線引きが難しいのなんの」
「宮ちゃんもまあまあ名のある同人作家だったな」
「あー、俺もいずれはめっちゃ所得税とか収めることになるんだろーなー! 誰もが知るあのゲーム音楽の作曲者として名を馳せてさー」
「菅野の野望が成就する日は来るのか」
「頑張れカン、俺は信じてるから」
「その前に音楽祭の曲をさっさと書け」
「うるせー! mish-mashだけじゃなくて俺はCONTINUEの曲も仕事、USDX、個人サークルの曲も書かなきゃいけねーんだぞ! 作曲のことがお前らにわかるか!」
「オレとてブルースプリングの曲を書いている」
「つかmish-mashはソルが年末年始の休みに入ってからが本番的なところがあるしまだセーフじゃね?」
「セーフではない」
end.
++++
春山さんやカンD相手くらいの口の悪いリン様への需要が日々増すこの頃、年末であることを感じる。
(phase3)
.
++++
「今年も年末の音楽祭ってヤツ? やるんだって?」
「何だ朝霞、聞いていたのか」
「菅野が言ってたんだよ。言わねーとどーせお前ブチ切れるだろって」
「実際お前面白そうな現場に呼ばないとキレるだろ。前科持ちだし」
「失礼だな、人を何だと思ってるんだ」
今年も例によって青山さん主催で年末の音楽祭は開催されることになっている。年々段取りが良くなっているようで、開催要項が通達されるのも早くなっているし、現場での流れなども最初の行き当たりばったりの頃より格段にわかりやすくなっている。かと言ってその場のノリで発生する物を止める気はさらさら無いようだが。
例年、前年の参加者には早めに連絡が回るようで、オレはブルースプリング名義で参加するよう青山さんから直接言われていた。人の休みにこそ忙しくなる社畜は山奥に籠って何十連勤かは知らんが働き詰めだし、それでなくても青山さんのいる場所にのこのこやって来ることもあるまい。ベースが揃わないことにカンノがまたキレ散らかしている。
「何って、USDX一のクソ短気だろ?」
「“レイ”はこれ以上ないほど温厚だろうがよ」
「中の奴の話をしてんだよ俺は」
「それで、カンノから音楽祭の話が回っているということは、お前も参加するのか」
「くっ……参加出来ればどれほどよかったか!」
「えっ、お前人がせっかく教えてやったのに参加しねーのかよ!」
「うるせー、俺の仕事は年末年始も何も関係ねーんだ。年越しの瞬間も仕事中だよ」
「えっ、ヤバっ。ソルを笑えねーレベルの社畜じゃんお前も」
「カン、ソルさんは実際言うほど社畜じゃないだろ」
「にしたって年末年始休暇みたいなのもねーとかお前どんな会社に入ってんだよ」
「いや、休み自体は普通にあるぞ。ただ、如何せんイベントの仕事だから人が休みのときに働くことも多いってだけで」
「しかし朝霞、宮ちゃんは普通にコミフェに出ると言っていたが」
「伊東さんがコミフェ有給を早々に宣言してたおかげで俺がその分働くことになってんだよ」
「……ああ」
「まあ、その分俺の本を委託させてもらってるんだけども」
「お前も裏で本を作っていたのか」
朝霞と宮ちゃんは職場では同じチーム内でコンビのようにして働いていて、2人同時にいなくなると困ると上から言われているそうだ。宮ちゃんのような人種にとってコミフェというイベントは自分の仕事より大事な趣味のイベントだ。どうしても外すことが出来なかったのだろう。それでなくても今年は旦那がサッカーという趣味に爆発していたこともある。次は自分の番だと鼻息を荒くしていてもおかしくない。
「つかお前の個チャン見たけど、旅行行ってたんか」
「ああ、カンヂさんと一緒に藍沢まで」
「最近実況者の旅Vlog多いよなー。見てたらすげー羨ましいわ」
「俺は平日休みもまあまああるから、観光地も比較的空いてるタイミングで行きやすいんだよな」
「あー、そういう強みもあんのかー」
「言って実況者も人が休んでる時の娯楽を提供するって考えると、朝霞のリアル仕事と似たところはちょっとありそうだな」
「ああ、そうかもな。でも、実際カンヂさんとかと遊ぶにしても収録するにしても俺のシフトに合わせてもらってばっかで申し訳なさはちょっとあるんだけど」
「そう言えば、コメント欄とか見てるとあの4人の括りで“カミツレ”って呼ばれ始めてるんだって?」
「何かそうみたいだな。4人の頭文字を取ってカミツレって。でも錚々たる先輩たちの中にペーペーの俺が一緒に括られてんのが恐れ多い」
朝霞……もとい“レイ”が良くしてもらっているベテラン実況者・カンヂ氏の繋がりで、他のベテラン実況者ともよく遊ぶようになっているのをレイ個人チャンネルで見る。奴がよく遊んでいる実況者はそれを職業にしている人たちだ。この世界で生き抜くには、という話も聞いているとかいないとか。
カンノは仕事とプライベートの作曲に忙しくしているし、オレは遠出するとしても学会のついでで、基本的には籠もりきりだ。同じ大学院生のスガノも似たような物かと思えば、奴はまあまあ健全な生活をしているようだ。最近のUSDXは全員集まることが少なくなり、いるメンバーで適当に単発実況、という動画も多くなっている。
そして朝霞は夏頃にレイの個人チャンネルを立ち上げることになった。個人で行う生配信や、1人でじっくり進める動画、他の実況者とのコラボ動画など、むしろグループのチャンネルより精力的な活動を行っているようにも見える。ちなみにレイの個チャンの動画編集は京川さんが行っているらしい(曰く、USDXの動画より編集を凝る必要がないので数段楽だそうだ)。
「つか朝霞さ、年末調整とかどうしてんだよ」
「カンヂさんに紹介してもらった税理士さんにお任せしてる。確定申告とかいろいろあるみたいだし」
「そこはキョージュじゃねーのかよ」
「京川さんにカンヂさんからこれこれこういう……って話したら「じゃそういうことで!」って言われて」
「あの人らしいと言えばらしい」
「つかお前って会社で実況者バレしてんの?」
「副業オッケーの会社だから、この仕事の他に収入はありますとだけ。実況やってることを知ってる人もいるけど」
「ほー、副業オッケーの会社なのな」
「伊東さんも同人活動が副業扱いになってるっぽくてその辺の話はよくしてるけど、脱税がどうしたとか、何が経費で落とせるかとかの線引きが難しいのなんの」
「宮ちゃんもまあまあ名のある同人作家だったな」
「あー、俺もいずれはめっちゃ所得税とか収めることになるんだろーなー! 誰もが知るあのゲーム音楽の作曲者として名を馳せてさー」
「菅野の野望が成就する日は来るのか」
「頑張れカン、俺は信じてるから」
「その前に音楽祭の曲をさっさと書け」
「うるせー! mish-mashだけじゃなくて俺はCONTINUEの曲も仕事、USDX、個人サークルの曲も書かなきゃいけねーんだぞ! 作曲のことがお前らにわかるか!」
「オレとてブルースプリングの曲を書いている」
「つかmish-mashはソルが年末年始の休みに入ってからが本番的なところがあるしまだセーフじゃね?」
「セーフではない」
end.
++++
春山さんやカンD相手くらいの口の悪いリン様への需要が日々増すこの頃、年末であることを感じる。
(phase3)
.