2022(02)

■NEO CRISIS

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「あっ、兄貴! やっと来てくれた!」
「どうしたんだジャック、何があった」
「俺らが年末特番の作業してたら何かよくわかんない人が来て、何かよくわかんないこと言って何かみんなの神経逆撫でしてって、ツッツが作ってくれた音源用のラックも壊されるし、そんであと」
「あーあー落ち着け。詳しいことは現場で聞く」

 ジャックから慌てた感じで電話が掛かってきて、ちょうど一緒にいた春風に頼んで車を出してもらった。ジャックはすげー動転してるっぽくて説明も正直よくわかんなかったから、とりあえずサークル室に行って残りのメンバーにも話を聞く。よくわかんない人が来てその場にいた奴らの神経を逆撫でした? つまりはケンカを売って来た、的な解釈でいいか?
 サークル室に着くと、ジャックの説明よりもっとどエラいことになっていた。うっしーはぶつぶつ小声で「ぶっ殺したる」と呟きながら泣きじゃくっているし、そのうっしーに胸を貸しているジュンは“まっくろジュンジュン”どころじゃねーブチ切れ状態だ。ツッツは壊れた音源用ラックを前にして呆然としているような感じ。パロはおろおろといつもよりも困り散らかしている。

「まともに話が出来そうなのはお前だけだな。殿、何があった」
「サークルOBを自称する、三井という男がやって来て、高尚な放送論やらを語りながら自分たちを貶し、先輩たちを貶める発言に終始していたので、お引き取りいただきました」
「……お前も相当ブチ切れてることだけはよーくわかった」
「松兄、何なんすかアイツ!」
「正直俺も誰がいつのOBかは知らねーんだわ。実質お前らとほぼ同期だし」
「あ、そうっしたね」
「――にしても三井なあ。あーでも、こないだ卒業した人らン中にそんな名前のイキリ散らした野郎がいたような気もするわ」
「うっしー、ちょっと落ち着いたか。奏多先輩が来てくれたぞ」
「ん。すまんジュン。……ぶっ殺したんねんあのチリチリ!」
「おーおー、すげー殺意だな、うっしー」
「やー、兄貴にみっともないトコ見せてまったわー。社会人時代の地雷とトラウマが同時に襲って来てもーてパニクってまったんすわ」

 うっしーの地雷。口だけでロクに仕事も出来ないのに給料だけは仕事の出来る高卒よりもらう無能の大卒。そんで、多分そんな無能の大卒にイキリ散らされて自分の仕事や努力を踏み躙られんのがトラウマだったんだろう。自称イキリ陰キャのお喋り袋も、本物のイキリ野郎にはドン引きしてしまったようだ。

「ジュンはどうした。まっくろジュンジュンなんか目じゃねーくらい怖えー顔してたぞ」
「ここに至るまでの経緯や過程、努力を狭い視野に囚われた価値観で否定して、人間性まで憶測だけでよくもまああそこまでボロクソに言えたものだと。自分だけならいいですけど、他のサークルメンバーであったり、ラジオのメンバーまで貶してきて」
「コミュニティラジオのことでジュンが煽られて、一触即発状態になったので、自分が出ました」
「そうか」
「それまでずーっと黙っとった殿が前に出て「これ以上は看過できません。お引き取りください」っつって追い払ってくれたんすよ」
「殿、本当にかっこ良かった」
「自分は、黙って立っているだけでも威圧感がある。こういう仕事は、任せてくれ」

 今じゃ1年の中でも温厚な方であるとわかってきた殿も、知らない奴からすりゃ厳つい顔にバカでけー図体した恐ろしい奴だ。そいつに睨まれりゃ、その辺の小物はチビって逃げるわな。粗方の事情聴取を済ませると、遅れて春風がサークル室にやってきた。俺が相当ヤバそうだと言ったからか、野坂さんも一緒に。自称OBの凶行だ、4年生の存在は頼りになる。

「奏多、何があったの!?」
「コイツらが作業してたトコに三井とかいう自称OBがやってきてコイツらや俺たち、あとジュンが参加してるラジオのメンバーらをディスって主にジュンがブチ切れ。ツッツ作の音源ラックもぶっ壊されて、うっしーはそんな地雷が暴れ散らかしてんのに社会人時代のトラウマを思い出して発作起こした、的な感じ。場自体は殿がその自称OBを追い出してくれて、現在に至る。野坂さん、その自称OBのことはご存知で?」
「……はーっ……。……何と言うか、2年前から何ひとつとして進歩してないなあと思って」
「知ってんすね」
「あの人は俺の1コ上の先輩だな。その人が本当に三井先輩だとするなら、って言うか言動があの人的な感じだからまああの人なんだろう。こう言っちゃ難だけど現役時代からもこの手の言動でインターフェイスでも問題を起こしまくってて。1年生たち、あの人の言うことは本当に気にしないで。真に受ければ受けるだけバカを見るから」

 そーいやファンフェスの時にハナさんが言っていた。この間卒業した向島の奴に潰された青女のミキサーがいたって。多分その青女の奴を潰したのが今ここに殴り込んで来た三井っつー奴だったんだろう。卒コンで会ってるんだろうけど多分ほとんど話してないし全く印象にない。春風はちょっと絡まれたらしいけど、菜月サンが守ってくれていたそうだ。

「今回の件でダメージがデカいのは収納班っすかね」
「俺は大丈夫です。うっしーとツッツが」
「俺は殿がかき揚げうどん作ってくれればあんなクソ野郎のことは忘れるんで平気なんすわ。ツッツ、お前平気か? せっかく棚作ってくれたんに」
「俺がどうしようって思ってたのは、棚が壊れた時に散らばったMDの並び順がわからなくなったことだよ。棚自体は板も割れてないし、組み立て直せば元通りだから大丈夫」
「MDの並び順だったら俺が大体わかると思うから、直そうか」
「あ、その、お願いします……」
「ジャック。今日、この後、部屋に邪魔をしていいだろうか」
「いいよ。えっと、もしかしてうどん作る感じ?」
「ああ。可能だろうか」
「買い物から始めなきゃだけど、それでもいいなら全然来て。つか俺も食べたい」
「うおーっ! さすが殿! かき揚げうどん~! つか俺らの中でも誰よりも優しい殿にあんな汚れ役みたいなことさせてまったんが悔しいわ! 本来あーゆーんは俺がウマいこと口で追い返さなアカントコやったんに!」

 先輩らもうどんどーですかと誘われたけど、そこは1年6人水入らずでやってくれと遠慮しておいた。俺と春風が考えるのは、今後のことだ。野坂さんにも話を聞きつつ、また同じようなことが起こるのか否かということだ。あとかっすーと奈々さんにも報告を。奴が殿にビビってしばらくは寄り付く気がなくなってるとありがたいんだがなー。

「ジュン、とりあえず、作業の続きをしようか?」
「そうだな。棚のことはツッツに任せて、俺たちは作品制作の続きだ」


end.


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何やかんや今年はOBの人たちとの関わりもあるので、話が伝わればこういうこともあるよね
パロは割といつも困り散らかしてるけど今回は“いつもより”と表現されるくらいに困り散らかしてた

(phase3)

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