2022(02)
■芯はどこにある
++++
「おー、飛ばすねー」
「ジュンくんすごーい。サキ先輩もーやりましょーよー」
「俺はいいよ」
「よしっ、大本命のまつりさんがとうとうお目見えですよ~!」
今日はFMにしうみの番組メンバーで、市内でリニューアルオープンしたバッティングセンターにやってきた。西海市のコミュニティラジオでやる番組だから、市内のことを知ってないと……というのが口実に聞こえるくらいには、まつりの勢いが凄かった。番組は1月開始ということで正式に決定して、番宣でベティさんの番組に出ることにもなっている。
俺は学生ラジオをやる以前に局のアルバイトだから、仕事という点でも西海市内の取材には回っている。来年最初の仕事は初詣の現地取材の予定だ。新しくオープンした店や、西海市を拠点に活動する個人の取材にも行くけど、バッティングセンターに行くという発想には全くならなかった。
「だりゃっ! ピッチャー返し!」
「まつり先輩もすごーい」
「ジュン、随分上手かったけど、野球経験者?」
「いえ、野球の経験はありません。ああ、体育の授業でやったことはありますけど、それくらいですよ」
「それであんだけ上手いとか運動神経抜群かよ! 部活何やってた?」
「中学の時はバスケで、高校は陸上です」
「へー、そーなんだー」
「雨竜先輩は。運動経験など」
「いやー全然よ。中学ン時は科学部だったし高校は写真部だったもんよ」
「意外に文化系なんだね」
「いやいや、サキ、俺がチームスポーツやってるイメージ付くか?」
「付かないね」
雨竜の高校の写真部は、写真部という名前だけど活動内容の中には映像作品の制作や、学校行事毎の記録的撮影も含まれていたという話だ。その経験が本格的に映像を学ぶっていう今の進路に繋がって来たんだろうね。ジュンがチームスポーツのバスケットから個人競技の陸上に転身したのは、ただ無心で広い場所を走ることをしたかったからだそうだ。実際は陸上競技なりの戦略もあって思ったようにはいかなかったそうだけど。
「サキは部活なんだった?」
「中学はパソコン部で高校は将棋部に名義貸ししてた実質的帰宅部だね」
「将棋!? カッケーじゃん! つえーの!?」
「ルールは知ってるけどそこまで強くないよ。本格的にやってたわけじゃないし」
「琉生は、自分が部活をやるならどんな部が楽しいかみたいなイメージはある?」
「あのねー、向島にはロボットサークルがあるって聞いてー、そーゆー部活だったら楽しそうだなーって思う」
「ああ、ロボット研究会だな」
「学祭のときに2年に1回大会があって、それを目指すって、青春って感じー」
「確かに、あの大会で勝ち上がろうと思うならそれなりに準備が必要だとは野坂先輩も言っていたし、ロボ研の人たちは並々ならぬ情熱を傾けてるんだと思うよ」
そんなことを話している間も、時折入る金属バットが球をはじき返す効果音。たまに芯を捉えてないのが音だけでわかるのが楽しいよな、とは雨竜。俺もこの意見には同意する。見てるだけ、聞いているだけでも十分楽しいんだ。いや、俺が実際にバットを振らない理由は運動全般が苦手だからっていうのが一番の理由なんだけど。
「はー、休憩休憩。レポートするんなら別の球種も打たなきゃね。でも1回きゅうけーい」
「まつり、お疲れー」
「何の話してたの?」
「部活の話。まつりはやっぱ野球部?」
「ううん、アタシ帰宅部だよ!」
「えっ、そーなんか!?」
「だって女子の野球だよ!? そんなのどこの学校にもあるような部活じゃないもん!」
「それもそーだな」
「だから学校の外のチームに所属してたんだよ。女子で野球やりたいって子はそのためにエリア越えて女子野球部のある学校に進学するってこともあるみたいだし、比較的近場でチームがあってよかったよ」
だから中高の部活あるあるみたいなことはアタシもわかんないや、とまつりは首を傾げる。俺もパソコン部とは言いつつも大したことはしてなかったし、ちゃんと部活らしい部活をしていたのは雨竜とジュンだけだ。
「そう言えばジュン、ササも高校時代陸上部って言ってたけど、競技会場でそれらしい人を見かけたりとかは」
「長距離の方では見かけなかったですね」
「そっか、一言で陸上って言っても種目がいろいろあるのか」
「そうですね。あ、ササ先輩って高校の時だと1個下ですよね。うん、多分いなかったかな?」
「学年の計算が面倒なんだったね。だったら果林先輩の方がまだ知ってる可能性はありそうだね。知らない? 千葉果林さんって。今4年だからジュンの1個上になるのかな。短距離だからアレだけど、陸上界では凄い人だったらしいよ」
「えっ、短距離で千葉って、もしかしてあの千葉さんですか!?」
「俺は陸上のことはよくわかんないけど、多分ジュンが思ってる千葉さんと同じ人だよ」
「えー、そうなんですね。中高で女子の100メートルと200メートルの記録全部塗り替えた人ですよ」
「たくさんもらってた陸上推薦を全部蹴って一般入試で社会学部に入ったって言ってたね」
「……やりたいことをやるために、ですか」
「そうなんじゃない。細かいことは聞いてないけど」
「そっか」
ジュンは細かく何度も頷いて、自分の中で何かを納得しているようだった。顔合わせの挨拶を聞く限り、自分がやりたいことを探しているようだったし、そこで少し思うところがあったのかな。
「よーし、休憩終わり! ジュン、次はどっちがより長打を出せるか勝負ね!」
「ええ……」
「付き合ってやれよジュンー」
「ジュンくんがんばれー」
「ちょっとお! アタシのことも応援してよ!」
end.
++++
ジュンもそれなりにスポーツが出来るらしいけど、MMPの完璧超人たちと比較するとどんなモンなんだろうか
サキは部活と言うより自分で好き勝手にパソコン弄りだったりゲームをしてたんだろうなあ
(phase3)
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「おー、飛ばすねー」
「ジュンくんすごーい。サキ先輩もーやりましょーよー」
「俺はいいよ」
「よしっ、大本命のまつりさんがとうとうお目見えですよ~!」
今日はFMにしうみの番組メンバーで、市内でリニューアルオープンしたバッティングセンターにやってきた。西海市のコミュニティラジオでやる番組だから、市内のことを知ってないと……というのが口実に聞こえるくらいには、まつりの勢いが凄かった。番組は1月開始ということで正式に決定して、番宣でベティさんの番組に出ることにもなっている。
俺は学生ラジオをやる以前に局のアルバイトだから、仕事という点でも西海市内の取材には回っている。来年最初の仕事は初詣の現地取材の予定だ。新しくオープンした店や、西海市を拠点に活動する個人の取材にも行くけど、バッティングセンターに行くという発想には全くならなかった。
「だりゃっ! ピッチャー返し!」
「まつり先輩もすごーい」
「ジュン、随分上手かったけど、野球経験者?」
「いえ、野球の経験はありません。ああ、体育の授業でやったことはありますけど、それくらいですよ」
「それであんだけ上手いとか運動神経抜群かよ! 部活何やってた?」
「中学の時はバスケで、高校は陸上です」
「へー、そーなんだー」
「雨竜先輩は。運動経験など」
「いやー全然よ。中学ン時は科学部だったし高校は写真部だったもんよ」
「意外に文化系なんだね」
「いやいや、サキ、俺がチームスポーツやってるイメージ付くか?」
「付かないね」
雨竜の高校の写真部は、写真部という名前だけど活動内容の中には映像作品の制作や、学校行事毎の記録的撮影も含まれていたという話だ。その経験が本格的に映像を学ぶっていう今の進路に繋がって来たんだろうね。ジュンがチームスポーツのバスケットから個人競技の陸上に転身したのは、ただ無心で広い場所を走ることをしたかったからだそうだ。実際は陸上競技なりの戦略もあって思ったようにはいかなかったそうだけど。
「サキは部活なんだった?」
「中学はパソコン部で高校は将棋部に名義貸ししてた実質的帰宅部だね」
「将棋!? カッケーじゃん! つえーの!?」
「ルールは知ってるけどそこまで強くないよ。本格的にやってたわけじゃないし」
「琉生は、自分が部活をやるならどんな部が楽しいかみたいなイメージはある?」
「あのねー、向島にはロボットサークルがあるって聞いてー、そーゆー部活だったら楽しそうだなーって思う」
「ああ、ロボット研究会だな」
「学祭のときに2年に1回大会があって、それを目指すって、青春って感じー」
「確かに、あの大会で勝ち上がろうと思うならそれなりに準備が必要だとは野坂先輩も言っていたし、ロボ研の人たちは並々ならぬ情熱を傾けてるんだと思うよ」
そんなことを話している間も、時折入る金属バットが球をはじき返す効果音。たまに芯を捉えてないのが音だけでわかるのが楽しいよな、とは雨竜。俺もこの意見には同意する。見てるだけ、聞いているだけでも十分楽しいんだ。いや、俺が実際にバットを振らない理由は運動全般が苦手だからっていうのが一番の理由なんだけど。
「はー、休憩休憩。レポートするんなら別の球種も打たなきゃね。でも1回きゅうけーい」
「まつり、お疲れー」
「何の話してたの?」
「部活の話。まつりはやっぱ野球部?」
「ううん、アタシ帰宅部だよ!」
「えっ、そーなんか!?」
「だって女子の野球だよ!? そんなのどこの学校にもあるような部活じゃないもん!」
「それもそーだな」
「だから学校の外のチームに所属してたんだよ。女子で野球やりたいって子はそのためにエリア越えて女子野球部のある学校に進学するってこともあるみたいだし、比較的近場でチームがあってよかったよ」
だから中高の部活あるあるみたいなことはアタシもわかんないや、とまつりは首を傾げる。俺もパソコン部とは言いつつも大したことはしてなかったし、ちゃんと部活らしい部活をしていたのは雨竜とジュンだけだ。
「そう言えばジュン、ササも高校時代陸上部って言ってたけど、競技会場でそれらしい人を見かけたりとかは」
「長距離の方では見かけなかったですね」
「そっか、一言で陸上って言っても種目がいろいろあるのか」
「そうですね。あ、ササ先輩って高校の時だと1個下ですよね。うん、多分いなかったかな?」
「学年の計算が面倒なんだったね。だったら果林先輩の方がまだ知ってる可能性はありそうだね。知らない? 千葉果林さんって。今4年だからジュンの1個上になるのかな。短距離だからアレだけど、陸上界では凄い人だったらしいよ」
「えっ、短距離で千葉って、もしかしてあの千葉さんですか!?」
「俺は陸上のことはよくわかんないけど、多分ジュンが思ってる千葉さんと同じ人だよ」
「えー、そうなんですね。中高で女子の100メートルと200メートルの記録全部塗り替えた人ですよ」
「たくさんもらってた陸上推薦を全部蹴って一般入試で社会学部に入ったって言ってたね」
「……やりたいことをやるために、ですか」
「そうなんじゃない。細かいことは聞いてないけど」
「そっか」
ジュンは細かく何度も頷いて、自分の中で何かを納得しているようだった。顔合わせの挨拶を聞く限り、自分がやりたいことを探しているようだったし、そこで少し思うところがあったのかな。
「よーし、休憩終わり! ジュン、次はどっちがより長打を出せるか勝負ね!」
「ええ……」
「付き合ってやれよジュンー」
「ジュンくんがんばれー」
「ちょっとお! アタシのことも応援してよ!」
end.
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ジュンもそれなりにスポーツが出来るらしいけど、MMPの完璧超人たちと比較するとどんなモンなんだろうか
サキは部活と言うより自分で好き勝手にパソコン弄りだったりゲームをしてたんだろうなあ
(phase3)
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