2022(02)
■本格的に冬が来た
++++
「サキぃ、とうとうもこもこし始めたなあ」
「寒いんだよ」
俺たちの同期内だと、シノとサキが寒いのが苦手なんだなっていう感じがする。シノが言うことによれば、地元の西形市はミカンが育つくらい温暖だから雪の降る豊葦は寒すぎるんだとか。サキはシノほど寒さに対して大騒ぎしないけど、少しずつ着実に着ている物であったり冬用小物でもこもこしていく。
一方、寒さに強いのはササだ。ササの場合は寒さに強いと言うか、生まれも育ちも豊葦だから大学にいる分には慣れっこなだけの可能性もある。ただ、剣道部時代に寒稽古をやっていたらしく、多少であれば気合で行けるとのこと。レナは気候に関わらず取り乱さないし、くるみも気候に関わらずわあわあと元気だ。
「すがやーん! サキー! おはよー!」
「おはよー。くるみ、ジム行ってたのか?」
「うん! 冬は溜めこむ季節だからね! これからクリスマスに向けてやっとくのとやらないのとでは大違い!」
「くるみは元気だね」
「あーっ! サキ、呆れてるでしょ! 懲りずにまーたクリスマスケーキたくさん割るんだって!」
「そこまでは言ってないし、むしろ運動を継続してることを褒めてるよ」
「くるみ、今年は何ホール割るんだ?」
「今年は8! あっ、今年もみちるちゃんと北星と一緒に割ったケーキ食べる会開くし、26日を予定してるからすがやんもぜひ戦力になってくださいお願いします!」
「そしたら春風にも声かけとくよ。調子いい日の春風だったら1ホール分くらいは食べるかも」
「ありがとー! とりぃが来てくれれば百人力だよ! 本っ当に! お願いします!」
くるみのジム通いは確か去年の今頃に始まったような気がするけど、本当によく続いてるなあと思う。始めるときに果林先輩からコーチしてもらってたのが良かったとは本人談。如何せんくるみのブログがコンビニスイーツの断面動画を軸としたレビューがメインコンテンツだから、甘いものは日常的に食べるんだよな。
クリスマスにはコンビニ各社がこぞって売り出すホールケーキをいくつか買って、割って、撮って、食べて、どういう商品なのかを映像と文章で紹介している。割るだけ割って残ったケーキは本人と協力者たちで美味しくいただくのが去年からの流れになっているらしい。ケーキを受け取ってから割って撮って記事にするまでは本当に分単位、秒単位での戦いなんだとか。
「くるみ、サキは誘わないのか?」
「去年「俺は戦力にならないから」って言って振られたし。今年も同じ振られ方するだろうから無理に誘わない方がいいかなって」
「うん、そうだね」
「別にたくさん食べなくても、普通に1日遅れのクリスマスパーティーなんだけどね」
「あ、そうなんだ。1人2、3ピースくらいのノルマがあるって聞いたけど」
「それはあるよ」
「あるんじゃない」
「でも、甘いものばっかりでも飽きるからって言って去年はみちるちゃんがミネストローネを作ってくれてたし、北星もチキンを持って来てくれたから、本当にただのパーティーだった」
北星がそういう気の回るタイプだというイメージは失礼ながらあまりない。でも、くるみのブログに載せてる映像は北星が手伝ってるっていう話だし、春風にも星景撮影の技術を教えてくれたらしい。映像関係の技術が青敬さんの中でも抜けてるっていうのは知ってるけど、本当にそれくらいだ。まだあんまり話したことがないんだよな。
「サキ、一応声かけてみるけどどうする?」
「最近太って来てるからケーキのノルマがあるならパスで」
「えー!? 太った!? どこが!?」
「春の健康診断から2キロ太ったんだよ」
「全然見えないけどなー」
「FMにしうみでバイトを始めて、バイト上がりにそのまま夜遅くプチメゾンでご飯を食べてたらね」
「あー、サキのバイト上がりってもう夜食の域だもんな」
「ご飯が美味しくて量を食べちゃうんだよ」
「シノが言ってたかも! やたらご飯の美味しいバーなんでしょ!?」
「それでバイト先の先輩にご飯が美味しくて太ったことを相談したんだよ」
「サキ、あたしと一緒に運動する?」
「嫌だ」
「ひどーい! でも運動しないともっと太るよ!」
「先輩は何て?」
「運動が苦手なら一駅歩くとか、日常の中で少しでも消費カロリーを増やすしかないって」
「まあそうだよなー」
「冬は体を温めるのに紅茶にショウガを入れたりしてるんだって。俺も真似し始めてて」
サキのバイト先の先輩も運動は苦手な人らしく、体を動かせとゴリ押しする以外の対処法を知らないかと相談相手に選んだとのこと。結果として、バイト上がりに一緒にバーに行くと、食べ方指導なんかが入るようになったとか。何をするにしても同じ感覚で頑張れる人の存在は大きいんだよなー。
「あれっ、そう言えばサキのバイト先の先輩って、夏合宿に来てたあのすっごい綺麗な人!?」
「そうだよ」
「あの人もすっごいシュッとしてると思ってたんだー! 羨ましー! ほら、とりぃも背が高くてシュッとしてるし、あたしみたいなちんちくりんとは大違いなんだよ! 何で運動してるのにあたしは現状維持にしかならないんだろう! ねえ!」
「その分食べてるからでしょ」
「それはただの正論!」
「まあまあ。くるみが普段から割ってる量からしたら現状維持してるのも十分凄いことなんだから」
「あーん、果林先輩みたいに食べても太らない体質になりたーい」
「あれだけ食べなきゃお腹空いて動けなくなるのもしんどいと思うけど」
「春風からも体型維持が難しいからあんまむやみやたら食わせようとするなってクレーム入ったし、食べる量と体型のことは人類の永遠の課題なのかもしれない。ちょっと前の外国では、女の子は太れば太るだけいい家に嫁げるって言って、虐待みたいにして無理矢理太らされてたって話もあるし」
「へえ。さすがすがやん。博識」
「サキもこっちに来よう~って言ってケーキ捻じ込むみたいなこと?」
「ちょっと違うと思うけど、無理矢理っていう点ではまあ」
クリスマスが終わればすぐにバレンタインだからね! とくるみは体型の現状維持に鼻息を荒くする。もこもこのサキは、学内では極力階段を使ったり地下鉄を途中で降りて歩くことも週に何回かはやってるんだよと密かな努力を報告。俺は今のところ著しく太ったとか痩せたとかの変化はないけど、たまに運動しないとすぐ体がガッチガチになるからケガに気を付けないと。
end.
++++
久々にすがくるサキがきゃっきゃしてるだけのお話。サキがもこもこし始めると冬だなあとみんな思うといい。
サキはくるちゃんみたく体を動かせるタイプでないので、相談相手に美奈を選んだのはいい判断。
(phase3)
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「サキぃ、とうとうもこもこし始めたなあ」
「寒いんだよ」
俺たちの同期内だと、シノとサキが寒いのが苦手なんだなっていう感じがする。シノが言うことによれば、地元の西形市はミカンが育つくらい温暖だから雪の降る豊葦は寒すぎるんだとか。サキはシノほど寒さに対して大騒ぎしないけど、少しずつ着実に着ている物であったり冬用小物でもこもこしていく。
一方、寒さに強いのはササだ。ササの場合は寒さに強いと言うか、生まれも育ちも豊葦だから大学にいる分には慣れっこなだけの可能性もある。ただ、剣道部時代に寒稽古をやっていたらしく、多少であれば気合で行けるとのこと。レナは気候に関わらず取り乱さないし、くるみも気候に関わらずわあわあと元気だ。
「すがやーん! サキー! おはよー!」
「おはよー。くるみ、ジム行ってたのか?」
「うん! 冬は溜めこむ季節だからね! これからクリスマスに向けてやっとくのとやらないのとでは大違い!」
「くるみは元気だね」
「あーっ! サキ、呆れてるでしょ! 懲りずにまーたクリスマスケーキたくさん割るんだって!」
「そこまでは言ってないし、むしろ運動を継続してることを褒めてるよ」
「くるみ、今年は何ホール割るんだ?」
「今年は8! あっ、今年もみちるちゃんと北星と一緒に割ったケーキ食べる会開くし、26日を予定してるからすがやんもぜひ戦力になってくださいお願いします!」
「そしたら春風にも声かけとくよ。調子いい日の春風だったら1ホール分くらいは食べるかも」
「ありがとー! とりぃが来てくれれば百人力だよ! 本っ当に! お願いします!」
くるみのジム通いは確か去年の今頃に始まったような気がするけど、本当によく続いてるなあと思う。始めるときに果林先輩からコーチしてもらってたのが良かったとは本人談。如何せんくるみのブログがコンビニスイーツの断面動画を軸としたレビューがメインコンテンツだから、甘いものは日常的に食べるんだよな。
クリスマスにはコンビニ各社がこぞって売り出すホールケーキをいくつか買って、割って、撮って、食べて、どういう商品なのかを映像と文章で紹介している。割るだけ割って残ったケーキは本人と協力者たちで美味しくいただくのが去年からの流れになっているらしい。ケーキを受け取ってから割って撮って記事にするまでは本当に分単位、秒単位での戦いなんだとか。
「くるみ、サキは誘わないのか?」
「去年「俺は戦力にならないから」って言って振られたし。今年も同じ振られ方するだろうから無理に誘わない方がいいかなって」
「うん、そうだね」
「別にたくさん食べなくても、普通に1日遅れのクリスマスパーティーなんだけどね」
「あ、そうなんだ。1人2、3ピースくらいのノルマがあるって聞いたけど」
「それはあるよ」
「あるんじゃない」
「でも、甘いものばっかりでも飽きるからって言って去年はみちるちゃんがミネストローネを作ってくれてたし、北星もチキンを持って来てくれたから、本当にただのパーティーだった」
北星がそういう気の回るタイプだというイメージは失礼ながらあまりない。でも、くるみのブログに載せてる映像は北星が手伝ってるっていう話だし、春風にも星景撮影の技術を教えてくれたらしい。映像関係の技術が青敬さんの中でも抜けてるっていうのは知ってるけど、本当にそれくらいだ。まだあんまり話したことがないんだよな。
「サキ、一応声かけてみるけどどうする?」
「最近太って来てるからケーキのノルマがあるならパスで」
「えー!? 太った!? どこが!?」
「春の健康診断から2キロ太ったんだよ」
「全然見えないけどなー」
「FMにしうみでバイトを始めて、バイト上がりにそのまま夜遅くプチメゾンでご飯を食べてたらね」
「あー、サキのバイト上がりってもう夜食の域だもんな」
「ご飯が美味しくて量を食べちゃうんだよ」
「シノが言ってたかも! やたらご飯の美味しいバーなんでしょ!?」
「それでバイト先の先輩にご飯が美味しくて太ったことを相談したんだよ」
「サキ、あたしと一緒に運動する?」
「嫌だ」
「ひどーい! でも運動しないともっと太るよ!」
「先輩は何て?」
「運動が苦手なら一駅歩くとか、日常の中で少しでも消費カロリーを増やすしかないって」
「まあそうだよなー」
「冬は体を温めるのに紅茶にショウガを入れたりしてるんだって。俺も真似し始めてて」
サキのバイト先の先輩も運動は苦手な人らしく、体を動かせとゴリ押しする以外の対処法を知らないかと相談相手に選んだとのこと。結果として、バイト上がりに一緒にバーに行くと、食べ方指導なんかが入るようになったとか。何をするにしても同じ感覚で頑張れる人の存在は大きいんだよなー。
「あれっ、そう言えばサキのバイト先の先輩って、夏合宿に来てたあのすっごい綺麗な人!?」
「そうだよ」
「あの人もすっごいシュッとしてると思ってたんだー! 羨ましー! ほら、とりぃも背が高くてシュッとしてるし、あたしみたいなちんちくりんとは大違いなんだよ! 何で運動してるのにあたしは現状維持にしかならないんだろう! ねえ!」
「その分食べてるからでしょ」
「それはただの正論!」
「まあまあ。くるみが普段から割ってる量からしたら現状維持してるのも十分凄いことなんだから」
「あーん、果林先輩みたいに食べても太らない体質になりたーい」
「あれだけ食べなきゃお腹空いて動けなくなるのもしんどいと思うけど」
「春風からも体型維持が難しいからあんまむやみやたら食わせようとするなってクレーム入ったし、食べる量と体型のことは人類の永遠の課題なのかもしれない。ちょっと前の外国では、女の子は太れば太るだけいい家に嫁げるって言って、虐待みたいにして無理矢理太らされてたって話もあるし」
「へえ。さすがすがやん。博識」
「サキもこっちに来よう~って言ってケーキ捻じ込むみたいなこと?」
「ちょっと違うと思うけど、無理矢理っていう点ではまあ」
クリスマスが終わればすぐにバレンタインだからね! とくるみは体型の現状維持に鼻息を荒くする。もこもこのサキは、学内では極力階段を使ったり地下鉄を途中で降りて歩くことも週に何回かはやってるんだよと密かな努力を報告。俺は今のところ著しく太ったとか痩せたとかの変化はないけど、たまに運動しないとすぐ体がガッチガチになるからケガに気を付けないと。
end.
++++
久々にすがくるサキがきゃっきゃしてるだけのお話。サキがもこもこし始めると冬だなあとみんな思うといい。
サキはくるちゃんみたく体を動かせるタイプでないので、相談相手に美奈を選んだのはいい判断。
(phase3)
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