2022(02)

■This is the Media Park.

++++

「おはようございます」
「ジュン。おはようございます」
「ああ、春風先輩。ちょうどいいところに」
「どうしたのですか?」
「極めて個人的な事情なんですけど、ロボット大戦の試合を、野坂先輩と再現してもらうことは可能ですか?」
「それは野坂先輩に聞いてみないとわかりませんね……。力になれずすみません」
「いえ」

 向島大学の情報科学部では2年生の秋学期からゼミに入ってより専門的な研究を行うことになっているのですが、実質的には1年生の秋学期から気になるゼミ室でプレゼミ生として勉強を始めることが出来るのです。そう、ジュンも私や野坂先輩と同じ野島ゼミへやってきたのです。
 野島ゼミは情報科学部の軸となるプログラムは当然として、その他にも映像や音声など、メディアを用いて幅広く人に伝えることについても研究しています。私のテーマはもちろん星や宇宙の魅力について人に広く伝えることなので、ここしかないと思っていたのですが。

「はよーざいまーす」
「ああ、ちょうどいいところに。野坂先輩、ジュンが野坂先輩にお願いしたいことがあるそうで」
「どうした?」
「かくしかかくうまで」
「ほほう」

 ジュンの話はこうでした。大学祭で配信していたロボット大戦の試合はインターフェイスの皆さんにもとても好評だったのですが、今回の配信はアーカイブを残さないことになっていたのです。もう一度見たいという声がいくらか届いているのでMMPの映像作品として制作出来ないか、と。

「そんなにインターフェイスで反響があったのか。まあ、圭斗先輩が解説をされたし当然と言えば当然だけど」
「なので改めて映像作品として制作したいですし、何より俺がもう一度あの白熱したバトルを見たいというのがありありで」
「何だジュン、すっかりロボット大戦にハマってるじゃないか。これは2年後を目指す流れだな」
「それはその時になってから考えますけど、撮影の件はどうにかなりませんか?」
「ここなら環境は一通り揃ってるし、戦うことは出来る。撮影のことだけそっちで準備してもらえればどうにでもなると思うけど」
「わかりました。実況解説なんかは後から被せられますし、後撮りならではの編集も組み入れてみたいですね」
「ジュンはすっかり映像編集担当みたいになってるじゃないか。厳密なパートってアナウンサーだろ?」
「はい、一応」
「今の1年生たちはみんな自分に出来ることを積極的にやってくれるんですよ」

 いつ頃なら撮影の日程が合いそうであるかや、試合についての打ち合わせをいくらかして調整をしていきます。試合は大学祭の展開を再現するのか、はたまた改めて本気でやるのか。これは前者の流れをナレーションベースで紹介した上で後者でやりましょうと満場一致で決まりました。
 ジュンによれば、FMにしうみの番組メンバーで集まった時に皆さんからどうして映像が残らないのかと詰め寄られたそうです。サキさんにはレナが激しめの伝言を頼んでいたとしてもおかしくないでしょうし。当日私に送られてきたLINEの文面の熱量も凄まじかったので。

「そういやサークルも代替わりしたんだろ? 誰がどうなったんだ?」
「役職はですね、アナウンス部長に希くん、機材部長に奏多がそれぞれ就任しました。代表という役職は設けずに、会計の私を含めた三竦み的なバランスで上手いことやっていってほしいとは奈々先輩が。そしていろはが書記です」
「へえ、カノンがトップでやってくっていう感じでもないんだな」
「希くんはああいう人なので、思い立った時の行動力は凄いのですが、同時に脅威でもあるのです」
「まあ、わからないでもない」
「定例会の役職人事でもその辺りのことが懸念されて、実際役職があろうとなかろうと彼のあり方は変わらないだろうと特段これといった役職には就かなかったそうなのです」
「で、奈々と入れ替わりでウチから出るのは誰になった?」
「ツッツが出ることになりました」
「ツッツ!? あのどちゃくそ人見知りの子だろ!?」
「はい」
「大丈夫なのか?」

 4年生の先輩にとってはやっぱり最初期の頃のおどおどして人と話すことにも怯えていたツッツの印象が強いのでしょう。今では少しずつサークルのメンバーにも慣れてきて、おどおど具合も前ほどではなくなってきたのですが。

「定例会は2年の任期がありますし、1年目でまず人間に慣れろと奏多がやや強引に引きずっていった感があります」
「荒療治はまだ続いてんのか……」
「常に収納班でいる時みたく強気でいられれば変わってくるんだろうけど、ずっとああでも疲れそうだし、まあ1年目は様子見になるんですかね?」
「収納班の活動の時はとても自信に満ち溢れていますよね。ですがあのツッツが強気なのですか」
「結構強気ですよ。それで花栄でコーヒー奢らされてますし」
「ツッツはなかなかやり手なのですね。今の話の詳細を教えてください。奏多に伝えて今後の参考にしてもらおうと思います」
「お手柔らかにしてあげてくださいともお伝えください」

 ツッツの隠れた一面は、同じ収納班のジュンだからこそ知るのでしょう。定例会で同じように出来るとは思いませんが、それこそ奏多の言うように、最初の1年で雰囲気に慣れてくださいということなのでしょう。

「対策委員はどうなった?」
「殿が出ることになりました」
「ほー、これまたサプライズ人事だな」
「いえ、言うほどサプライズでもないんですよ」
「へえ、どの辺が?」
「視野が広く落ち着いていて、口数は少ないですが気配りは誰よりも出来ます。困難に直面しても、すぐに諦めることはせず解決方法を探します。機材も扱えますし、力仕事も得意なのです。ああ見えて結構楽観的な性格ですし、冗談も通じるのですよ。インターフェイスの皆さんも、殿の大きさや厳つさにはもう慣れた頃だと思いますし」
「へ、へー……やっぱ、ある程度の期間付き合わないとわかんないことってのはいっぱいあるなー」
「そうなのです。殿は本当にいい子なのですよ」
「頼れることには違いないですしね。時々殿が2コ下だってことを忘れますもん」
「あー、律の貫禄がたまにタメに見えないのと同じ現象か」

 人の印象なんかは付き合っていくと変わることも多々あるので、第一印象だけをいつまでも引きずっていてはいけないということになるのでしょう。私の印象もいい風になっていればいいと思うのですが、そればかりを気にしていても思うように動けないので難しいところです。

「ジュンもコミュニティラジオの番組を始めますし、MMPも始まってきたと思いませんか野坂先輩」
「それはそうだな。ラジオ以外の活動が増えてきたことに対しても、サークル名からしてまずラジオだの放送だのとは銘打ってないから逃げ道もあるしな」
「そう言えば、MMPとは何の略なのですか? 他大学の略称にはMBCCとかUHBC、ABCにAKBCというのがあるのは知っているのですが」
「向島メディアパークの略。他大学のBCは大体ブロードキャストサークルとかクラブの略な。だからウチは表現方法として映像だろうが絵だろうが、広義にメディアなら実はオッケーだったりする。サークル名を一番正しく表現してんのは実はジュン説、あるなこれ」
「いえいえいえ、さすがにそれは大袈裟です。あっ! 絵で思い出しました。野坂先輩、先日菜月先輩が、ラジドラをコミカライズしたファイルが野坂先輩から送られてきたと仰っていたのですが、詳しいことをいいですか?」
「ちょっ、顔が! 怖いんですけど!」
「野坂先輩、これはまっくろジュンジュンですよ!」
「春風はキラッキラしてるし! 助けろ」


end.


++++

まっくろジュンジュンの登場にヤッター!となるのは春風とうっしー。
MMPクソマジメ三銃士がここに揃った感じ。

(phase3)
8/48ページ