2022

■長兄はキングメーカー

++++

「ミードリさんっ、よかったらこれから一緒にメシ行きません?」
「珍しいね、松兄からのお誘いなんて」
「いやー、ちょーっとこの時期だからこその話みたいなモンとかもしたいんで? あっ、サキちーも来てよ証人として」
「証人?」
「まあ、システム系の話もちょっとはするつもりだし。その時にはやっぱサキちーいた方がスムーズに進むだろ?」
「……まあいいけど」

 定例会が終わってすぐ松兄から声を掛けられる。ご飯に行こうという話だけど、本題は定例会の現場じゃしにくい話なんだろうなって思う。システム系の話もちょっとするとは言うけど、そっちは多分ついで程度の話題なのかなとは予想出来る。
 入ったのは食堂系の店。好きなメニューを選んで好みの定食を組み立てる。サキが全然食べないんだなあと思って見ていると、ご飯と味噌汁と小さめのおかず一品くらいがちょうどだって言うんだから本当に小食なんだね。

「で、さっそく本題に入るんすけど、俺が聞きたいのは定例会の人事問題っす」
「本当に直球で来たね?」
「まあしょーもない話でお茶を濁す場でもないんでね。単刀直入に言えば、かっすーがどのポジションに来るのかっつー話っすね」
「カノン? 議長の候補には入ってるけど、どうしたの?」
「他にも候補はいるんすか?」
「奏多、普通次期役職人事を2年生にペラペラ喋らないよ」
「ンなこたわかってんだよ。わかった上で確認しときたいことがあんだよ」
「まあ、2人は引き続き機材とシステムの方を担当してもらうことになるから三役には入らないかなという風には考えてるんだけどね」
「へー、そーなんすね」
「だったら、議長の候補は素直に考えればすがやんとカノンが入って来るでしょ」
「やっぱり2年生でもそう考えるよね」

 これまでは「インターフェイスの活動はラジオメインだから三役は緑ヶ丘か向島から出すのがいい」みたいな風潮だったように思う。対策委員でも大体そんな感じだったって。だけど、映像の活動が入って来た上で、大学の名前を抜きにして誰になら議長を任せられるかなって考えたときに思い浮かんだのがたまたまその2校の子たちだったんだよね。

「奏多卵焼き半分あげる」
「ん。サキちーカキフライ1個食えよ」
「ん」
「俺が何を心配してるかっつったらかっすーの動きなんすよ」
「カノンの動き? 同じ向島さんなんだからカノンのことは大体わかるんじゃないの?」
「知ってるからこその心配すよ。かっすーってのはあんなことをやったら面白いんじゃないか、これが新しいんじゃないかってことを思いついたら一直線で、誰にも……今なら奈々さんにも相談しないで動いちまう奴なんすよ。たまたままだ大失敗してないだけで、いつか絶対やらかします。インターフェイスの場でそれをやられちゃたまったモンじゃねーんですよ」
「実はね、似たような話をユキちゃんがとりぃから聞いてるみたいでね」

 ユキちゃんが聞いたのはインターフェイスの心配じゃなくてサークル活動の上での心配だったみたいだけど、それっていうのは定例会の話にもちょっとは通じて来ちゃうからね。人に相談せずに動くことに関しては野坂先輩から注意されてるみたいだけど、またいつそれを忘れるかというのも心配なんだとか。

「仮にカノンが暴走したとして、カノンがそういう性質ってわかってる奏多が止めればいいんじゃないの」
「それはそうとして、サキちーわかってねーなァ。かっすーがそうやって走り出す時にはある条件があるんだよ」
「もったいぶらずに言いなよ」
「怖っ。かっすーが何かを閃いてさっさと動き出しちまう前に絶対やってるのが、すがやんとの雑談なんだよ」
「ああ、結構情報交換してるみたいだもんね。なるほど、それでカノンがいろいろ思いつくんだ」
「何だかんだ技術だとか設備で先に行ってんのは緑ヶ丘だからな。ウチは基本後追いだ」
「でも、変わった手法の番組とかはそっちからの提案が多いね」
「だから、そーゆーのをすがやんとの雑談の中で思いついてんだよ。で、アイツらが同時に定例会の上に立ってみろ」
「なるほどね。奏多の心配してることはちょっとわかった。定例会の外で、こういう感じで話したことが他の人を置いてけぼりにするんじゃないか、的なことね」

 新しいアイディアだとか、実際に動き出す行動力っていうのはかなり大きな力だけど、他のみんなを置いてけぼりにするんじゃないかっていう心配はちょっとわかる。松兄の話を聞いていると、カノンとすがやんの仲が良いことで起こり得る悪いことについても考えておかないといけないなって、改めて思う。人事って難しい。

「確かにアイツらの雑談から生まれるアイディアっつーのはまァすげーんすよ。でもね、2人だけで回せる組織でもないっしょ? 他の大学の人らもいるし。ミドリさんには次の人事を考える上で、ちょっとばかし今の話を頭の片隅に措いといてもらいたいんす。もちろん、俺は決してアイツらを上にやるなって言ってるワケではないし、かっすーを信用してないワケでもないとは」
「俺はその話を確かに聞きましたっていう証人だったってことね」
「そういうこと。俺とサシでこんな話とか、胡散臭すぎるっしょ」
「自分のことをよくわかってるね、奏多」
「サキちー酷くね?」
「自分が言ったんでしょ」

 顔を合わせる度の言い合いも今では通常運転だなあって風に見られるようになってきたし、この2人で回す機材関係の事柄に関しては心配しなくて大丈夫そうかな。何だかんだチームワークは悪くなさそうだ。今日の本題だったカノンの暴走がどうこうって話に関しても、この2人ならちゃんと止められると思うし何だかんだ大丈夫じゃないかな。

「ああ、そんで話は変わるんすけど、次にウチから出す定例会の奴って、やっぱ情報系の方がいいんすか?」
「あ、確かに。少なくとも1人はいないとマズいですよね」
「そうだねえ。出来る子がいるに越したことはないけど緑ヶ丘と向島以外から出来る子が出る可能性もあるし、どうだろうねえ。でも、そのためだけにわざわざ選ばなくても大丈夫かな?」
「サキちー緑大に誰かいいのいる?」
「いないことはないっていうレベルだけど、定例会となるとどうかなあ。向島は?」
「ウチは一応情報が2人いるし授業でプログラミングやってんのは4人いるはずだから選択肢は多い」
「定例会に1つの大学から2人出てるっていうのもあんまりないことなんですよね」
「そうだね。少なくとも俺が知ってる中では今年の緑ヶ丘さんと向島さんだけかな」
「うーん、何人出せばいいんだろう」
「その辺はミドリさんだけじゃなくて自分らの大学の定例会の先輩にも相談すりゃいいんじゃね?」
「うん、そうだね。ハナちゃんや奈々と相談してもらえばいいと思うよ」


end.


++++

裏で暗躍(?)している奏多の話。何やかんやいいコンビになってきているサキ。
カノやんの情報交換でこの春から躍進を続けて来たMMPだけど、それに懸念も抱いているのが奏多。用心深い。

(phase3)

.
98/100ページ