2022
■萎びたポテトの夜
++++
「そしたら今日はこれくらいで終わろうか。お疲れさま」
「お疲れさまでしたー。ジュン君、ごはん行こー」
「ああ、行こうか」
「やったー。まつり先輩と雨竜先輩はどーします?」
「悪い、俺これから北星ン家行かなきゃだからまた今度な!」
「アタシもまた今度誘ってー」
「うーん残念。また今度、絶対ですよー。サキ先輩は?」
「俺はこの後も仕事だよ」
「本当にお疲れさまなヤツじゃないですかー」
インターフェイスでやらせてもらうFMにしうみでの番組には、俺を含めて5人の初期メンバーが始まった。まずはこのメンバーで話し合いを始めて、日々の経過に伴う人数の増減にも対応しながら1月まで準備をしていくことになっている。
実質的なリーダーはラジオ局でバイトをしている緑ヶ丘のサキ先輩。他に集まったのは青女のまつり先輩に青敬の雨竜先輩、そして琉生と俺だ。まつり先輩と雨竜先輩が結構ガンガン話す人たちだから、正直かなり圧倒されている。
お疲れさまでしたーと局を出て、琉生と夕飯……と言うには遅いな。夜食をつまみに適当な店に入る。今の時刻が夜の9時半。解散はこれくらいの時間が当たり前、難なら早い方だとサキ先輩が言っていたことからすると、やっぱり家の場所はこの活動をやるに当たっては大きな要素になるなと思う。
「いただきまーす。夜のポテトの悪いことしてる感ー」
「たまに無性に食べたくなるのはわかる」
「って言うか、今日の打ち合わせ、先輩たち結構驚いてたねー」
「そうだな。俺の二浪はともかく、琉生みたいなケースは俺も会ったことがないからちょっと驚いたよ」
「学校あるあるみたいな話がわかんないんだよねー」
琉生は中学の途中から不登校になり、高校には行かずにすぐ高卒認定の試験を受けてそれを突破したそうだ。どうやって勉強したのかと聞いたら今は動画でも学習サービスでも何でもあるよーとの返答。実は飛び級の資格もあったらしいけど、やりたくないことはしたくないとそれを固辞して現在に至っている。
小学生の頃から周りから浮いているなと感じていたそうだけど、空気を読まないだとか、自分が出来ることをひけらかしていると言われたりすることに嫌気が差したのが不登校の主な原因だと聞いた。それをあっけらかんと話す様子にラジオのメンバーはちょっと呆気に取られたけど、当時は本当に辛かったはずだ。
「ジュン君、大人っぽいと思ってたけど本当に年上だったんだもんね」
「そうだね。琉生からだと2個上」
「ほーよーりょくがあるわけだー」
「包容力、ねえ」
「うん。さすがに自分が好き勝手にやってるっていう自覚はあるよー。ジュン君の優しさに甘えてるんだー」
「琉生はさ」
「うん」
「やりたくないことはしたくないって言ってるけど、俺から見れば、やりたいことをやってるように見える」
「うん? そうだよ?」
「えっと、言葉のニュアンスの話。やりたくないことはしたくないって言ったら我が儘みたいだけど、やりたいことをやってるって言う方が、何かいいと思う」
「うん、そうだねー」
「飛び級って、大学によって何の学部で出来るとかって決まってるよね」
「うん。プログラミングとかそういうので飛び級して良かったみたいだけど、プログラムとかより機械そのものの方が好きだから飛び級しなかったんだー。おかーさん以外の人からは何でその能力を生かさないんだーとか頑張らないんだーとか言われたけど、やりたくな……じゃなくて、機械そのものの方を勉強したかったから、飛び級しなかったんだー」
「そうだよな。やりたいことと出来ることって、必ずしも一緒じゃないもんな」
「もっと頑張れとか努力しろって言われるけど、してるし。みんな好き勝手に言うんだもん。頑張りたいことを頑張るから、そっちの都合で好きに言わないでって感じー。あ、ごめんねー。こんなことジュン君には関係なかったよねー。で、高卒認定を取ってからはアルバイトと勉強をしながら好きに過ごしてたよー。スチパンの服って安くないし。早くからバイト出来てラッキー。みたいなー」
出来過ぎるが故に周りからは理解されない人の話はネットで見たことがある。だけど、俺にとっては縁のない話だと思っていた。どちらかと言えば俺は出来ない方の人間だし。だから少しやればパッと出来るようになる、というような話も羨ましいとかよりも疑わしいと思っていて。
「俺はさ、星大に入るのを目標に浪人生活をしてたんだよ。勉強をサボってたワケでもないのに結局受からなくて。周りは言うんだよな、もう頑張らなくていいって。好き勝手言いやがってって思ったよ。俺は自分が頑張りたいから頑張ってるのに頑張らなくていいって。それで何になるんだよ、憐れむんじゃねーよってさ」
「何か、お揃いみたいだね。言われてることは全然違うのに」
「うん。全く一緒ではないけど、ここに至るまでの1年か2年かの孤独、みたいな物は近しそうだなとは」
「今は友達もたくさん出来たし、楽しいけどねー」
「本当に」
「ジュン君が星大に行ってなくてよかったー」
「それはそれで何か複雑なんだけど」
「でも、ジュン君が星大に行ってたら友達になれてなかったと思うし」
「それは俺が星大に行かなかったからだけじゃなくて、琉生が飛び級をしなかったからっていうのもあると思うけど」
「そうだねー。飛び級しなくてよかったー」
長く話しているうちに少し冷めて萎びたポテトが青春の産物、という風に誰かが言っていたと思うけど、久々にそれを思い出す。俺が何の気なしにそれを摘まんで眺めていると、先端にパクッと琉生が食い付く。仕方なくもう1本のポテトを摘み上げ、近々これをテーマにした絵を描きたいなと考える。
「ジュン君、ポテトなんか見てどーしたの?」
「ああ、ちょっと、これを描きたいなと思って」
「うーん、ジュン君の感性なのかなあ。出来たら見せてねー。あっ! そー言えば確かラジオ局のブログとかSNSってあったよねー。ジュン君番組始まったらそこに絵とか上げたらいいんじゃない?」
「いや、さすがにそんなところに上げられるような絵では」
「でもジュン君は上げてって言ったらやってくれるし、上げられる絵になるまで頑張っちゃうよねー」
「はー……。琉生、それはちょっと狡いと思う」
end.
++++
琉生の話は大学進学前のやまよの境遇にほんのちょっとだけ通じるところがあるかもしれない
その辺にある気になる物を絵にして記録したいのはうっしークイズの影響もあり?
(phase3)
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「そしたら今日はこれくらいで終わろうか。お疲れさま」
「お疲れさまでしたー。ジュン君、ごはん行こー」
「ああ、行こうか」
「やったー。まつり先輩と雨竜先輩はどーします?」
「悪い、俺これから北星ン家行かなきゃだからまた今度な!」
「アタシもまた今度誘ってー」
「うーん残念。また今度、絶対ですよー。サキ先輩は?」
「俺はこの後も仕事だよ」
「本当にお疲れさまなヤツじゃないですかー」
インターフェイスでやらせてもらうFMにしうみでの番組には、俺を含めて5人の初期メンバーが始まった。まずはこのメンバーで話し合いを始めて、日々の経過に伴う人数の増減にも対応しながら1月まで準備をしていくことになっている。
実質的なリーダーはラジオ局でバイトをしている緑ヶ丘のサキ先輩。他に集まったのは青女のまつり先輩に青敬の雨竜先輩、そして琉生と俺だ。まつり先輩と雨竜先輩が結構ガンガン話す人たちだから、正直かなり圧倒されている。
お疲れさまでしたーと局を出て、琉生と夕飯……と言うには遅いな。夜食をつまみに適当な店に入る。今の時刻が夜の9時半。解散はこれくらいの時間が当たり前、難なら早い方だとサキ先輩が言っていたことからすると、やっぱり家の場所はこの活動をやるに当たっては大きな要素になるなと思う。
「いただきまーす。夜のポテトの悪いことしてる感ー」
「たまに無性に食べたくなるのはわかる」
「って言うか、今日の打ち合わせ、先輩たち結構驚いてたねー」
「そうだな。俺の二浪はともかく、琉生みたいなケースは俺も会ったことがないからちょっと驚いたよ」
「学校あるあるみたいな話がわかんないんだよねー」
琉生は中学の途中から不登校になり、高校には行かずにすぐ高卒認定の試験を受けてそれを突破したそうだ。どうやって勉強したのかと聞いたら今は動画でも学習サービスでも何でもあるよーとの返答。実は飛び級の資格もあったらしいけど、やりたくないことはしたくないとそれを固辞して現在に至っている。
小学生の頃から周りから浮いているなと感じていたそうだけど、空気を読まないだとか、自分が出来ることをひけらかしていると言われたりすることに嫌気が差したのが不登校の主な原因だと聞いた。それをあっけらかんと話す様子にラジオのメンバーはちょっと呆気に取られたけど、当時は本当に辛かったはずだ。
「ジュン君、大人っぽいと思ってたけど本当に年上だったんだもんね」
「そうだね。琉生からだと2個上」
「ほーよーりょくがあるわけだー」
「包容力、ねえ」
「うん。さすがに自分が好き勝手にやってるっていう自覚はあるよー。ジュン君の優しさに甘えてるんだー」
「琉生はさ」
「うん」
「やりたくないことはしたくないって言ってるけど、俺から見れば、やりたいことをやってるように見える」
「うん? そうだよ?」
「えっと、言葉のニュアンスの話。やりたくないことはしたくないって言ったら我が儘みたいだけど、やりたいことをやってるって言う方が、何かいいと思う」
「うん、そうだねー」
「飛び級って、大学によって何の学部で出来るとかって決まってるよね」
「うん。プログラミングとかそういうので飛び級して良かったみたいだけど、プログラムとかより機械そのものの方が好きだから飛び級しなかったんだー。おかーさん以外の人からは何でその能力を生かさないんだーとか頑張らないんだーとか言われたけど、やりたくな……じゃなくて、機械そのものの方を勉強したかったから、飛び級しなかったんだー」
「そうだよな。やりたいことと出来ることって、必ずしも一緒じゃないもんな」
「もっと頑張れとか努力しろって言われるけど、してるし。みんな好き勝手に言うんだもん。頑張りたいことを頑張るから、そっちの都合で好きに言わないでって感じー。あ、ごめんねー。こんなことジュン君には関係なかったよねー。で、高卒認定を取ってからはアルバイトと勉強をしながら好きに過ごしてたよー。スチパンの服って安くないし。早くからバイト出来てラッキー。みたいなー」
出来過ぎるが故に周りからは理解されない人の話はネットで見たことがある。だけど、俺にとっては縁のない話だと思っていた。どちらかと言えば俺は出来ない方の人間だし。だから少しやればパッと出来るようになる、というような話も羨ましいとかよりも疑わしいと思っていて。
「俺はさ、星大に入るのを目標に浪人生活をしてたんだよ。勉強をサボってたワケでもないのに結局受からなくて。周りは言うんだよな、もう頑張らなくていいって。好き勝手言いやがってって思ったよ。俺は自分が頑張りたいから頑張ってるのに頑張らなくていいって。それで何になるんだよ、憐れむんじゃねーよってさ」
「何か、お揃いみたいだね。言われてることは全然違うのに」
「うん。全く一緒ではないけど、ここに至るまでの1年か2年かの孤独、みたいな物は近しそうだなとは」
「今は友達もたくさん出来たし、楽しいけどねー」
「本当に」
「ジュン君が星大に行ってなくてよかったー」
「それはそれで何か複雑なんだけど」
「でも、ジュン君が星大に行ってたら友達になれてなかったと思うし」
「それは俺が星大に行かなかったからだけじゃなくて、琉生が飛び級をしなかったからっていうのもあると思うけど」
「そうだねー。飛び級しなくてよかったー」
長く話しているうちに少し冷めて萎びたポテトが青春の産物、という風に誰かが言っていたと思うけど、久々にそれを思い出す。俺が何の気なしにそれを摘まんで眺めていると、先端にパクッと琉生が食い付く。仕方なくもう1本のポテトを摘み上げ、近々これをテーマにした絵を描きたいなと考える。
「ジュン君、ポテトなんか見てどーしたの?」
「ああ、ちょっと、これを描きたいなと思って」
「うーん、ジュン君の感性なのかなあ。出来たら見せてねー。あっ! そー言えば確かラジオ局のブログとかSNSってあったよねー。ジュン君番組始まったらそこに絵とか上げたらいいんじゃない?」
「いや、さすがにそんなところに上げられるような絵では」
「でもジュン君は上げてって言ったらやってくれるし、上げられる絵になるまで頑張っちゃうよねー」
「はー……。琉生、それはちょっと狡いと思う」
end.
++++
琉生の話は大学進学前のやまよの境遇にほんのちょっとだけ通じるところがあるかもしれない
その辺にある気になる物を絵にして記録したいのはうっしークイズの影響もあり?
(phase3)
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