2022
■Autumn Walks
++++
「お、おはようジュン」
「おはようツッツ」
「あの、今度、ジュンがくれたラフの通りに切った板を持ってくるし、看板作ろう」
「あ、もう作ってくれたんだ、ありがとう」
「運ぶ物が多くて、坂を上るのが大変になってきたよ……」
「手ぶらでもたまにしんどいもんな。爾黎先輩が来たとき、奈々先輩はこの道のりを机と椅子2脚抱えて上がってきたって話だけど、本当に有り得ないなと思う。もし運ぶのしんどかったら言って。俺も手伝うし」
「ありがとう。でも、ジャックに頼もうと思うよ」
「確かに。その方がいい」
向島大学のサークル棟は小高い山の中にあって、学部棟からの道のりは徒歩15分。結構な山道だから、真夏であったり雨の季節にはなかなかしんどいものがある。たまにうっしーの原付の後ろに乗せてもらったりもしてたけど、春風先輩に物凄い剣幕で怒られたのでそれ以来はやってない。
その辺で会ったツッツと収納班もとい装飾班としての話をしながら、大学祭のブースに飾り付ける店の看板であったり、番組のタイムテーブルはどう掲示しようかということを詰めていく。サークル室では話し合いよりも実際の作業を進めたいという方向性で一致している。
「タイムテーブルは、カフェの店先にある折りたたみメニュー板みたいにしようと思ってて」
「あー、なるほど。ああいう感じか。うん、いいと思う。やりようによっては両面使えるし」
「じゃあ、材料を揃えてサッと作ってくるよ」
「それでサッと作れるのが凄いよなあ、やっぱり」
「あのメニュー板の値段を調べたら、既製品を買うより作った方が圧倒的に安いし、凝らなければすぐ出来るから」
「そう言って完成してきた物のクオリティに全員驚くにコーヒー一杯賭けたっていい」
「それじゃあ、ジュンの好きないいコーヒーに見合うだけの手間暇をかけないと」
「奢らせる気満々じゃないか」
「おいおい画材とかも買いに行くよね。そのときにでも。ごちそうさまです」
実際ツッツの作る物のクオリティが高いというのはみんなわかってしまっているので、コーヒー一杯分の値段でも安すぎるくらいだ。主に収納班としての活動のときは得意分野の話だからかツッツはかなり強気だけど、この一面を知っている人はサークル内では少ないだろう。
「あれ、あの大きいのは」
「殿だね……何してるのかな……」
裏駐車場からバスの車庫を抜けて、本格的な上りに入っていくところで見覚えのある大きな体が。アスファルトで舗装された道もあるけど、徒歩の人はほとんど山を突っ切る登山道風の道を上がっていく。そこに殿が立っている。
「パロもいるみたいだね」
「嘘、いる?」
「声がするよ」
「殿、おはよう。そんなところで何やってるんだ?」
「ああ、ジュンと、ツッツか。見ての通り、紅葉狩りをしている」
「紅葉狩り?」
「この山の木々も、紅葉している」
「そんなこと考えてこの道を歩いてなかったな」
鬱蒼とした山の中としか思っていなかったけど、上や周りを見渡すと確かに葉っぱが赤や黄色に色づいている。殿は野菜を育ててたり花が好きだとは聞いているから、この山の中でも自然を楽しめるのには納得だ。俺とツッツは言われて初めて気が付いたレベルだし。
「パロとは、よく季節の草木を鑑賞しながら歩いている。今も、パロはその辺りに生えているキノコの観察をしている」
その辺りというのは登山道風に整備された道を外れた本当の山の斜面だ。殿が言う方に目をやると、山の斜面を爛々とした目でかき分けるパロがいる。
「キノコ? マツタケとか?」
「マツタケ……食べてみたいなあ」
「あれっ、ジュンにツッツ、おはよう!」
「おはよう。キノコ探してるって?」
「キノコの観察は秋の楽しみのひとつだからね」
「マツタケは、ある…?」
「ここの山にはマツタケは生えないよ。条件が違うからね」
へー、とツッツと声が揃う。殿はもちろんそんなことは知っているので深く頷くだけだ。キノコの食中毒のニュースは毎年よく見るし、マツタケに限らず美味しいキノコを求めて山に入る人はたくさんいるんだろう。パロは植物全般に詳しいらしいけど、キノコの知識もあるのか。
「この辺に生えてるキノコって、食べれる?」
「食べられはするけど美味しくない物か、食べられない物の方が多いかな。今は図鑑を持ってないから不正確な判定だけど。ジュン、ツッツ、山の中に入ってもキノコは見るだけにした方がいいよ。触るだけで危ないのとかもあるから」
「大丈夫だよ。怖くてとてもじゃないけど採ろうなんて気には」
「うん……マツタケは、食べてみたいけど……」
「香りマツタケ、味シメジと言うが」
「実際は、マイタケが美味しいと思う……」
「俺はシイタケかな」
「キノコはそれ自体が旨味の塊みたいな物だけど、味付け次第では本当に化けるし面白いんだよねー。シンプルもよし、奇抜さを狙ってもよしで」
「と言うか、2人はいつからここで紅葉狩りを?」
「えっ、今何時? えー! もうこんなに経っちゃってた!?」
「俺らに追いつかれるくらいだし、それ相応に経ってたんだろうけど」
「ゴメン殿、今日はもう終わるね」
「ああ」
殿やパロみたいな人にはこの山道も楽しいことに溢れてるんだなあと思ったら、2人が言うには爾黎先輩もこの道が好きなんだとか。この数十段の階段に四季の移ろいが凝縮されていて創作意欲が掻き立てられると言っていたそうだ。確かに俳句を詠む題材探しにも良さそうな道だ。
「パロ、ズボンの裾に落ち葉がついてるよ」
「あっホントだ。ありがとう」
「落ち葉と言えば、この間緑ヶ丘に行ってきた時に「向島さんはサークル中に焚き火をして焼き芋を焼いてるんだよね」って言われた時には驚いたな」
「ああ、そう言えば……」
「焼き芋……美味しそうだな……」
「ね。焼き芋も美味しそうだけど焚き火も秋冬の楽しみって感じで楽しそうだよね。でも大学の敷地で焚き火なんてしていいのかなあ? してもいいんだったらちょっとやってみたさはあるんだけど」
「奈々先輩かカノン先輩に聞いてみたらいいんじゃないかな」
「もし焚き火してオッケーだったらサツマイモを用意しないと」
「サツマイモであれば、俺が、育てた物がある。それを出そう」
「そうとなれば僕が先輩に交渉してみますね! 殿のサツマイモが食べられるってだけでみんな気持ちはゴーに偏るはずだよ」
「パロ、頑張れー……」
end.
++++
1年生の徒歩組がきゃっきゃしてるだけのお話。
焼き芋をやるから焚き火していいですかって交渉するならまず春風を味方に付けるとよさそうだね
(phase3)
.
++++
「お、おはようジュン」
「おはようツッツ」
「あの、今度、ジュンがくれたラフの通りに切った板を持ってくるし、看板作ろう」
「あ、もう作ってくれたんだ、ありがとう」
「運ぶ物が多くて、坂を上るのが大変になってきたよ……」
「手ぶらでもたまにしんどいもんな。爾黎先輩が来たとき、奈々先輩はこの道のりを机と椅子2脚抱えて上がってきたって話だけど、本当に有り得ないなと思う。もし運ぶのしんどかったら言って。俺も手伝うし」
「ありがとう。でも、ジャックに頼もうと思うよ」
「確かに。その方がいい」
向島大学のサークル棟は小高い山の中にあって、学部棟からの道のりは徒歩15分。結構な山道だから、真夏であったり雨の季節にはなかなかしんどいものがある。たまにうっしーの原付の後ろに乗せてもらったりもしてたけど、春風先輩に物凄い剣幕で怒られたのでそれ以来はやってない。
その辺で会ったツッツと収納班もとい装飾班としての話をしながら、大学祭のブースに飾り付ける店の看板であったり、番組のタイムテーブルはどう掲示しようかということを詰めていく。サークル室では話し合いよりも実際の作業を進めたいという方向性で一致している。
「タイムテーブルは、カフェの店先にある折りたたみメニュー板みたいにしようと思ってて」
「あー、なるほど。ああいう感じか。うん、いいと思う。やりようによっては両面使えるし」
「じゃあ、材料を揃えてサッと作ってくるよ」
「それでサッと作れるのが凄いよなあ、やっぱり」
「あのメニュー板の値段を調べたら、既製品を買うより作った方が圧倒的に安いし、凝らなければすぐ出来るから」
「そう言って完成してきた物のクオリティに全員驚くにコーヒー一杯賭けたっていい」
「それじゃあ、ジュンの好きないいコーヒーに見合うだけの手間暇をかけないと」
「奢らせる気満々じゃないか」
「おいおい画材とかも買いに行くよね。そのときにでも。ごちそうさまです」
実際ツッツの作る物のクオリティが高いというのはみんなわかってしまっているので、コーヒー一杯分の値段でも安すぎるくらいだ。主に収納班としての活動のときは得意分野の話だからかツッツはかなり強気だけど、この一面を知っている人はサークル内では少ないだろう。
「あれ、あの大きいのは」
「殿だね……何してるのかな……」
裏駐車場からバスの車庫を抜けて、本格的な上りに入っていくところで見覚えのある大きな体が。アスファルトで舗装された道もあるけど、徒歩の人はほとんど山を突っ切る登山道風の道を上がっていく。そこに殿が立っている。
「パロもいるみたいだね」
「嘘、いる?」
「声がするよ」
「殿、おはよう。そんなところで何やってるんだ?」
「ああ、ジュンと、ツッツか。見ての通り、紅葉狩りをしている」
「紅葉狩り?」
「この山の木々も、紅葉している」
「そんなこと考えてこの道を歩いてなかったな」
鬱蒼とした山の中としか思っていなかったけど、上や周りを見渡すと確かに葉っぱが赤や黄色に色づいている。殿は野菜を育ててたり花が好きだとは聞いているから、この山の中でも自然を楽しめるのには納得だ。俺とツッツは言われて初めて気が付いたレベルだし。
「パロとは、よく季節の草木を鑑賞しながら歩いている。今も、パロはその辺りに生えているキノコの観察をしている」
その辺りというのは登山道風に整備された道を外れた本当の山の斜面だ。殿が言う方に目をやると、山の斜面を爛々とした目でかき分けるパロがいる。
「キノコ? マツタケとか?」
「マツタケ……食べてみたいなあ」
「あれっ、ジュンにツッツ、おはよう!」
「おはよう。キノコ探してるって?」
「キノコの観察は秋の楽しみのひとつだからね」
「マツタケは、ある…?」
「ここの山にはマツタケは生えないよ。条件が違うからね」
へー、とツッツと声が揃う。殿はもちろんそんなことは知っているので深く頷くだけだ。キノコの食中毒のニュースは毎年よく見るし、マツタケに限らず美味しいキノコを求めて山に入る人はたくさんいるんだろう。パロは植物全般に詳しいらしいけど、キノコの知識もあるのか。
「この辺に生えてるキノコって、食べれる?」
「食べられはするけど美味しくない物か、食べられない物の方が多いかな。今は図鑑を持ってないから不正確な判定だけど。ジュン、ツッツ、山の中に入ってもキノコは見るだけにした方がいいよ。触るだけで危ないのとかもあるから」
「大丈夫だよ。怖くてとてもじゃないけど採ろうなんて気には」
「うん……マツタケは、食べてみたいけど……」
「香りマツタケ、味シメジと言うが」
「実際は、マイタケが美味しいと思う……」
「俺はシイタケかな」
「キノコはそれ自体が旨味の塊みたいな物だけど、味付け次第では本当に化けるし面白いんだよねー。シンプルもよし、奇抜さを狙ってもよしで」
「と言うか、2人はいつからここで紅葉狩りを?」
「えっ、今何時? えー! もうこんなに経っちゃってた!?」
「俺らに追いつかれるくらいだし、それ相応に経ってたんだろうけど」
「ゴメン殿、今日はもう終わるね」
「ああ」
殿やパロみたいな人にはこの山道も楽しいことに溢れてるんだなあと思ったら、2人が言うには爾黎先輩もこの道が好きなんだとか。この数十段の階段に四季の移ろいが凝縮されていて創作意欲が掻き立てられると言っていたそうだ。確かに俳句を詠む題材探しにも良さそうな道だ。
「パロ、ズボンの裾に落ち葉がついてるよ」
「あっホントだ。ありがとう」
「落ち葉と言えば、この間緑ヶ丘に行ってきた時に「向島さんはサークル中に焚き火をして焼き芋を焼いてるんだよね」って言われた時には驚いたな」
「ああ、そう言えば……」
「焼き芋……美味しそうだな……」
「ね。焼き芋も美味しそうだけど焚き火も秋冬の楽しみって感じで楽しそうだよね。でも大学の敷地で焚き火なんてしていいのかなあ? してもいいんだったらちょっとやってみたさはあるんだけど」
「奈々先輩かカノン先輩に聞いてみたらいいんじゃないかな」
「もし焚き火してオッケーだったらサツマイモを用意しないと」
「サツマイモであれば、俺が、育てた物がある。それを出そう」
「そうとなれば僕が先輩に交渉してみますね! 殿のサツマイモが食べられるってだけでみんな気持ちはゴーに偏るはずだよ」
「パロ、頑張れー……」
end.
++++
1年生の徒歩組がきゃっきゃしてるだけのお話。
焼き芋をやるから焚き火していいですかって交渉するならまず春風を味方に付けるとよさそうだね
(phase3)
.