2022
■彼方の宇宙猫
++++
「こんにちは、向島です」
「あっ、向島さん。とりぃ、いらっしゃい。えーと、後ろの大きな子たちは1年生かな」
「はい。こちらのメガネの子がアナウンサーのジュンで」
「鷹来純平です」
「こちらの子がミキサーの殿です」
「勝川要です」
今期は緑ヶ丘さんと合同番組を作る機会を何度か設けるということで、私とジュン、そして殿が出張してきました。ラジオメインの2校がインターフェイスの動画チャンネルの有効に活用するにはどうしたらいいかということを考えたときに、作品出展で私たちが出した作品を参考にやれれば広がりそうだという話になったそうなのです。
高木先輩が私たちを迎え入れてくれたのですが、向島大学と比較すると広さが3分の1ほどになる緑ヶ丘のサークル室だと今回は若干の人選ミス感が否めません。ただ、今日は私たちと入れ替わりに緑ヶ丘からも向島に何人かが出張に出ています。なので座る場所の心配はしないで大丈夫だよと高木先輩がフォローを入れてくれるのには場所を取ってすみませんと3人で頭を下げるだけです。
「えっと、今日はすがやんと凛斗と中がそっちに行ってるんだったかな」
「どういう人選なのですか? 徹平くんは何となくわかるのですが」
「すがやんは慣れたドライバーで、凛斗は好奇心旺盛だから行きたいって志願してたんだよ。中は琉生から向島の人の顔と名前を一致させて来いって言われて送り込まれた感じ」
「ちなみにこちらは作品出展の制作チームで来ました」
「うん、聞いてるよ。他のみんなが来るまでもう少し待ってて」
「ありがとうございます」
3人で物珍しい緑ヶ丘大学のサークル室をきょろきょろと見渡してしまいます。壁にはいくらか機材が積んでありますし、パソコンの他にはプリンターなども設置されています。過去の議事録などをスキャンしてファイル化したという話は聞いたことがあるのですが、その辺りの財力はさすがだと思います。
「高木先輩、これを。詰まらない物ですが。緑ヶ丘の皆さんで、どうぞ」
「わ、何かな、ありがとう」
「ああ、そうなのです。今日は殿が緑ヶ丘の皆さんにとお土産を用意してくれまして」
「わー、これってスイートポテトかな?」
「今朝、作った物です」
「えっ、作ったの!?」
「そうなのです! 殿はとても料理が上手でして、私の師匠でもあるのです! このスイートポテトもきっと絶品ですよ!」
「殿、料理だけじゃなくてお菓子作りまで出来るのか」
「サツマイモは、菓子にも合う」
「うんまあそうだけど」
「向島さんとサツマイモだったら、焼き芋の印象が強いね。去年2年生たちがすがやんから送られて来た焚き火と焼き芋の写真で盛り上がってたなあ」
「その頃私はまだサークルに入っていなかったので焚き火のことは知らないのですが、サークル活動中に焼き芋を…?」
「まあ向島さんってそういうところが自由だなって感じはするよね。他にも奥村先輩と松岡先輩がカレーうどんの支度をした土鍋を持って乱入してきたこともあったって聞いたけど」
「カレーうどんの話は聞いたことがあります。菜月先輩のカレーは絶品なんだそうで。食べてみたかったですね」
「……ジュン、大丈夫か」
「あっ、うん、大丈夫」
「宇宙猫の顔でしたよ。まあ、今年のMMPの活動内容からすれば焚き火やお鍋などはなかなか思い浮かばないかもしれませんね」
私は去年のことを知らないのですが、4年生の先輩たちの証言や、かのうまい棒レースのことを思い起こせば去年までのサークルが結構自由なスタイルで行われていたのだという想像には難くありません。1年生でその辺りのことに順応性が高いのはやはりジャックやうっしーになるのでしょう。
「おはよーございまー、ジュン君!」
「うわ、びっくりした」
「なんで!」
「合同番組のことで会議をするっていうんで、派遣されて来た」
「今日はいいことがありそうな気がする!」
「琉生はジュンと仲が良いんだね」
「夏合宿でお友達になりましたー。ねー」
「あ、えっと、まあ、そういう感じで……」
「でも琉生、向島の他の皆さんにもちゃんと挨拶をしないと」
「あっすみませーん。こんにちはー」
「こんにちは」
この光景を見ていると琉生さんにジュンが一方的に押されているように見えるのですが、FMにしうみのラジオにジュンを誘ったのも琉生さんだと聞きましたし、強ち悪い関係でもないのかもしれません。合宿で話したきっかけはジュンが名札の隅に描いていたあのキャラクターだというので、琉生さんのセンスは間違いありませんね。
「えっとー、対策委員ですがやん先輩の彼女のとりぃ先輩とー、ジュン君よりおっきいってことは殿だー」
「ええと……改めてそういう認識をされていると思うと少し恥ずかしいですね……」
「琉生も、良ければ」
「ああそうだ。琉生、殿がお土産にスイートポテトを作って持って来てくれたんだよ」
「えー、すごーい。いただきまーす。んー、おいしー。ちむりーにも食べさせてあげたいなー」
「本当だねえ」
「殿、ごちそうさまー」
「お粗末さまです」
「高木せんぱーい、そーいや中ってまだですー?」
「中は向島さんに行ってるよ」
「そーだったんですねー」
「――って、琉生が向島の人の顔と名前を一致させに行けって言ったんでしょ」
「そーでしたー。でもジュン君と入れ替わりになってるんで無意味じゃないですかー。ジュン君の顔を一番覚えて欲しかったのにー。まーいーかー。殿、中がいなくてよかったねー。中がいたらちむりーをお菓子で釣ってるって言って恨みを買ってたよー」
「……恨み?」
「中はちむりーの強火勢なんだよー。ちむちむかわよーって」
「はあ」
殿も真顔ではあるのですが、宇宙猫にはなっていないようですね。白い髪にスチームパンク風のファッションがトレードマークの琉生さんは、黙っていればミステリアスな感じですが喋ると緩いということはサキさんやレナから聞いていました。なるほど、こういうことですね。
「ジュンくーん、中ばっかりちむりーを独占してずっこいんだよー。ふっかふかでやーらかいのにー」
「って言いながらナチュラルに俺の上に座るのは。あの、高木先輩、とりぃ先輩も! くすくす笑ってるの聞こえてますから!」
「すみません、ジュンがここまで翻弄されているのを見ると、つい」
「うん、まあ、頑張って」
「ちょっと!」
「ジュン君ぎゅーっ」
「ちょっ、琉生、人前!」
「ジュン君は硬いけどいーにおいするからすきー」
「ああもうどうにでもして……」
end.
++++
多分TKGは我関せずを久々に発揮したのと、ユノ先輩と育ちゃんの例もあったんで多少のスキンシップではビビらん。
(phase3)
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「こんにちは、向島です」
「あっ、向島さん。とりぃ、いらっしゃい。えーと、後ろの大きな子たちは1年生かな」
「はい。こちらのメガネの子がアナウンサーのジュンで」
「鷹来純平です」
「こちらの子がミキサーの殿です」
「勝川要です」
今期は緑ヶ丘さんと合同番組を作る機会を何度か設けるということで、私とジュン、そして殿が出張してきました。ラジオメインの2校がインターフェイスの動画チャンネルの有効に活用するにはどうしたらいいかということを考えたときに、作品出展で私たちが出した作品を参考にやれれば広がりそうだという話になったそうなのです。
高木先輩が私たちを迎え入れてくれたのですが、向島大学と比較すると広さが3分の1ほどになる緑ヶ丘のサークル室だと今回は若干の人選ミス感が否めません。ただ、今日は私たちと入れ替わりに緑ヶ丘からも向島に何人かが出張に出ています。なので座る場所の心配はしないで大丈夫だよと高木先輩がフォローを入れてくれるのには場所を取ってすみませんと3人で頭を下げるだけです。
「えっと、今日はすがやんと凛斗と中がそっちに行ってるんだったかな」
「どういう人選なのですか? 徹平くんは何となくわかるのですが」
「すがやんは慣れたドライバーで、凛斗は好奇心旺盛だから行きたいって志願してたんだよ。中は琉生から向島の人の顔と名前を一致させて来いって言われて送り込まれた感じ」
「ちなみにこちらは作品出展の制作チームで来ました」
「うん、聞いてるよ。他のみんなが来るまでもう少し待ってて」
「ありがとうございます」
3人で物珍しい緑ヶ丘大学のサークル室をきょろきょろと見渡してしまいます。壁にはいくらか機材が積んでありますし、パソコンの他にはプリンターなども設置されています。過去の議事録などをスキャンしてファイル化したという話は聞いたことがあるのですが、その辺りの財力はさすがだと思います。
「高木先輩、これを。詰まらない物ですが。緑ヶ丘の皆さんで、どうぞ」
「わ、何かな、ありがとう」
「ああ、そうなのです。今日は殿が緑ヶ丘の皆さんにとお土産を用意してくれまして」
「わー、これってスイートポテトかな?」
「今朝、作った物です」
「えっ、作ったの!?」
「そうなのです! 殿はとても料理が上手でして、私の師匠でもあるのです! このスイートポテトもきっと絶品ですよ!」
「殿、料理だけじゃなくてお菓子作りまで出来るのか」
「サツマイモは、菓子にも合う」
「うんまあそうだけど」
「向島さんとサツマイモだったら、焼き芋の印象が強いね。去年2年生たちがすがやんから送られて来た焚き火と焼き芋の写真で盛り上がってたなあ」
「その頃私はまだサークルに入っていなかったので焚き火のことは知らないのですが、サークル活動中に焼き芋を…?」
「まあ向島さんってそういうところが自由だなって感じはするよね。他にも奥村先輩と松岡先輩がカレーうどんの支度をした土鍋を持って乱入してきたこともあったって聞いたけど」
「カレーうどんの話は聞いたことがあります。菜月先輩のカレーは絶品なんだそうで。食べてみたかったですね」
「……ジュン、大丈夫か」
「あっ、うん、大丈夫」
「宇宙猫の顔でしたよ。まあ、今年のMMPの活動内容からすれば焚き火やお鍋などはなかなか思い浮かばないかもしれませんね」
私は去年のことを知らないのですが、4年生の先輩たちの証言や、かのうまい棒レースのことを思い起こせば去年までのサークルが結構自由なスタイルで行われていたのだという想像には難くありません。1年生でその辺りのことに順応性が高いのはやはりジャックやうっしーになるのでしょう。
「おはよーございまー、ジュン君!」
「うわ、びっくりした」
「なんで!」
「合同番組のことで会議をするっていうんで、派遣されて来た」
「今日はいいことがありそうな気がする!」
「琉生はジュンと仲が良いんだね」
「夏合宿でお友達になりましたー。ねー」
「あ、えっと、まあ、そういう感じで……」
「でも琉生、向島の他の皆さんにもちゃんと挨拶をしないと」
「あっすみませーん。こんにちはー」
「こんにちは」
この光景を見ていると琉生さんにジュンが一方的に押されているように見えるのですが、FMにしうみのラジオにジュンを誘ったのも琉生さんだと聞きましたし、強ち悪い関係でもないのかもしれません。合宿で話したきっかけはジュンが名札の隅に描いていたあのキャラクターだというので、琉生さんのセンスは間違いありませんね。
「えっとー、対策委員ですがやん先輩の彼女のとりぃ先輩とー、ジュン君よりおっきいってことは殿だー」
「ええと……改めてそういう認識をされていると思うと少し恥ずかしいですね……」
「琉生も、良ければ」
「ああそうだ。琉生、殿がお土産にスイートポテトを作って持って来てくれたんだよ」
「えー、すごーい。いただきまーす。んー、おいしー。ちむりーにも食べさせてあげたいなー」
「本当だねえ」
「殿、ごちそうさまー」
「お粗末さまです」
「高木せんぱーい、そーいや中ってまだですー?」
「中は向島さんに行ってるよ」
「そーだったんですねー」
「――って、琉生が向島の人の顔と名前を一致させに行けって言ったんでしょ」
「そーでしたー。でもジュン君と入れ替わりになってるんで無意味じゃないですかー。ジュン君の顔を一番覚えて欲しかったのにー。まーいーかー。殿、中がいなくてよかったねー。中がいたらちむりーをお菓子で釣ってるって言って恨みを買ってたよー」
「……恨み?」
「中はちむりーの強火勢なんだよー。ちむちむかわよーって」
「はあ」
殿も真顔ではあるのですが、宇宙猫にはなっていないようですね。白い髪にスチームパンク風のファッションがトレードマークの琉生さんは、黙っていればミステリアスな感じですが喋ると緩いということはサキさんやレナから聞いていました。なるほど、こういうことですね。
「ジュンくーん、中ばっかりちむりーを独占してずっこいんだよー。ふっかふかでやーらかいのにー」
「って言いながらナチュラルに俺の上に座るのは。あの、高木先輩、とりぃ先輩も! くすくす笑ってるの聞こえてますから!」
「すみません、ジュンがここまで翻弄されているのを見ると、つい」
「うん、まあ、頑張って」
「ちょっと!」
「ジュン君ぎゅーっ」
「ちょっ、琉生、人前!」
「ジュン君は硬いけどいーにおいするからすきー」
「ああもうどうにでもして……」
end.
++++
多分TKGは我関せずを久々に発揮したのと、ユノ先輩と育ちゃんの例もあったんで多少のスキンシップではビビらん。
(phase3)