2022
■Potato and Salt
++++
「おはよーさー……おわっ、何だこれ!」
「奏多先輩とりぃ先輩おはようございまーす」
「おはようございます。これは……見たところジャガイモの箱のようですね。まさかフライドポテト用の仕入れですか?」
サークル室に足を踏み入れようにも一瞬つんのめるのは、下手にサークルの人口が増えたおかげで行き場を無くしたであろう箱が積み重ねられていたからだ。ジャガイモって書いた箱が無数に積んであるんだけど、よく見ると全部が同じ箱でもない。
考えられる線とすりゃ春風が言ったように大学祭で出す食品ブース用の仕入れ。ジャガイモくらいなら保存方法を間違えなけりゃある程度長持ちするし安いタイミングで買っちまえっていう勢いが出る可能性もあるかなーとは思うけど。
「殿、パロ、これらについて何か知っていますか?」
「この2箱は、俺が、バイト先で買って来た物です」
「じゃあ、大量にある方は」
「それが、僕と殿が来たときにはもう積み重ねられていたんです」
「サークル室の鍵を借りた奴が何か知ってんじゃね? 既にあったっつーんならお前らが1番だったワケじゃねーんだろ?」
「帳簿には、“カスガイ”と」
春風と同時に溜め息が出た。確かにこのテのことを誰にも相談しないでやっちまうのはかっすーなんだよな。思い立ったら即行動がここのところはちょっと行き過ぎてる感が。OBの人らが持ってる番組の音源を集めることにしてもそうだ。
MMPは大祭を境に代替わりをするサークルらしい。奈々さんの跡を継ぐのは余程のことが無い限りはかっすーで間違いないだろう。かっすーが今以上に力を持っちまうと何がどーなるか俺にも春風にもわかんねーぞ。
「おはよーッ」
「奈々さんおざーす。ところでアンタこの芋らしき箱の出所に心当たりはあります?」
「カノンが星大さんからもらって来るとは聞いてるよ。それじゃないかなあ?」
「おっ、さすがにちょっとは成長してる!」
「本当ですね。希くんには申し訳ないのですが、行動する前に奈々先輩に相談なり報告なりがある時点で安心してしまいます」
「あはは……カノン、そのことで野坂先輩に結構ちゃんと怒られたっぽいからね。それで反省したんじゃないかな?」
「やっぱここぞの4年生っすわ!」
「さすが野坂先輩です」
そう、最悪俺や春風はいいんだよ。サークルのことで行動するんだったらまず代表の奈々さんに話を通せっつー話で。OBの音源の件で野坂さんが結構しっかりめにお灸をすえてくれたおかげでさすがのかっすーにも進歩が見られたらしい。
「で? それはそうとこの大量の芋をどうするって? しかも殿も芋を仕入れてくれてるっぽいんすよ」
「えっそうなのッ!?」
「ジャック宅で、ポテトを作る練習を。そのために用意しました」
「あー本当。あれっ、そう言えばカノンは?」
「それが僕たちもカノン先輩の姿はまだ見ていないんです。サークル室の鍵は開けてくれたみたいなんですけど」
「まあそのうち来るでしょ、鍵を開けてくれたってことはこの近くにはいるだろうし」
「そうですね」
「しかし、このジャガイモの置き場所に困りますね。せめてもう少し広いところに移しますか?」
「そうだね。みんな来たらさすがにちょっとここじゃ邪魔になっちゃうし、壁際に寄せよっか」
「では、俺が」
「じゃーやりますかね」
「あっ、僕もやりますっ」
しっかしまあ重い箱だな。チラッと中を確認したら入っているのはそりゃーもうすっげーいい芋なんだよ。箱には「北辰のじゃがいも」って書かれてる。それが本当なんだとするならどうやって仕入れたんだよって感じだ。
ジャガイモの質には畑でバイトしてる殿も感心しきりだし、もしかっすーがこれを使ってポテトを作るつもりならよっぽどが無ければまず失敗はないだろう。去年もこんな感じでやってたとするならそりゃ利益も出るわな。
「ふー、一仕事終わりだな」
「カノン先輩はどうやってこれをここまで持って来たんですかね?」
「知らねーけど、かっすー本人か収納班にどうにかしてもらわねーと場所食ってしゃーねーぞ」
「奈々先輩」
「うん、どうしたの殿」
「俺の用意した芋は、どうしましょう」
「あー、そうだよねッ。でも練習用に用意してくれたんだしサークル費で落とすよ。練習が必要なのも本当だしねッ。領収証とか持ってる?」
「はい、あります」
「じゃあ預かるね」
「あの、僕もいいですか奈々先輩」
「うん」
「今回のポテトの味付けに、僕が家で眠らせてたまんまにしちゃってる塩を使っちゃいたいんですけど大丈夫ですか? あっ、もちろん練習とか試食会とかがあればその時に好評だったらでいいんですけど」
「えっ、どんな塩? パロが言うんだからただの味塩じゃないでしょ? 何かすっごいのが出てきそうなんだけど」
「大丈夫ですよ。一般にも広く流通してる普通の岩塩です。買ったはいいんですけどなかなか使い切れなくって。ここで使わせてもらえないかなーと」
「食品衛生的に問題がないなら試食会で聞いてみたらいいんじゃない? 美味しかったらみんな文句ないだろうし」
「わかりました! 持って来てみますね!」
「奏多、岩塩という単語のレベルが高すぎて私にはとても付いていけないのだけど。料理の上手い人はそんなものを当たり前のように使いこなしているの?」
「使う奴は使うんだろうけど、パロが特に調味料好きだからってだけだと思おうぜ」
昨日今日初めて料理をしたようなレベルの春風はパロがどの塩を持って来ようかなってウキウキしてるのにすら圧倒されてるし。多分パロみたいな奴はただ塩を使うにしても炒って焼き塩にするのも苦じゃねーんだろうなあ。
「おはようございます」
「おざーっす」
「おっジュンにうっしー、いいトコに来た収納班!」
「え、何でしょうか」
「おっ、俺の活躍どころか~?」
「恐らくはかっすーが持ってきたであろうこのジャガイモをよ、どーにかこーにか整頓しといてくんね? 今は俺らで適当に壁に寄せといたんだけど」
「あ、それってあれですよね。ジャックの車で運んでるヤツ。下でカノン先輩とジャックに会いましたよ」
「おー、ようやく核心来た!」
end.
++++
ジャガイモの季節がきたぞー フェーズ3になってからあまり触ってない星大情報センターはどんな様子だったやら
(phase3)
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「おはよーさー……おわっ、何だこれ!」
「奏多先輩とりぃ先輩おはようございまーす」
「おはようございます。これは……見たところジャガイモの箱のようですね。まさかフライドポテト用の仕入れですか?」
サークル室に足を踏み入れようにも一瞬つんのめるのは、下手にサークルの人口が増えたおかげで行き場を無くしたであろう箱が積み重ねられていたからだ。ジャガイモって書いた箱が無数に積んであるんだけど、よく見ると全部が同じ箱でもない。
考えられる線とすりゃ春風が言ったように大学祭で出す食品ブース用の仕入れ。ジャガイモくらいなら保存方法を間違えなけりゃある程度長持ちするし安いタイミングで買っちまえっていう勢いが出る可能性もあるかなーとは思うけど。
「殿、パロ、これらについて何か知っていますか?」
「この2箱は、俺が、バイト先で買って来た物です」
「じゃあ、大量にある方は」
「それが、僕と殿が来たときにはもう積み重ねられていたんです」
「サークル室の鍵を借りた奴が何か知ってんじゃね? 既にあったっつーんならお前らが1番だったワケじゃねーんだろ?」
「帳簿には、“カスガイ”と」
春風と同時に溜め息が出た。確かにこのテのことを誰にも相談しないでやっちまうのはかっすーなんだよな。思い立ったら即行動がここのところはちょっと行き過ぎてる感が。OBの人らが持ってる番組の音源を集めることにしてもそうだ。
MMPは大祭を境に代替わりをするサークルらしい。奈々さんの跡を継ぐのは余程のことが無い限りはかっすーで間違いないだろう。かっすーが今以上に力を持っちまうと何がどーなるか俺にも春風にもわかんねーぞ。
「おはよーッ」
「奈々さんおざーす。ところでアンタこの芋らしき箱の出所に心当たりはあります?」
「カノンが星大さんからもらって来るとは聞いてるよ。それじゃないかなあ?」
「おっ、さすがにちょっとは成長してる!」
「本当ですね。希くんには申し訳ないのですが、行動する前に奈々先輩に相談なり報告なりがある時点で安心してしまいます」
「あはは……カノン、そのことで野坂先輩に結構ちゃんと怒られたっぽいからね。それで反省したんじゃないかな?」
「やっぱここぞの4年生っすわ!」
「さすが野坂先輩です」
そう、最悪俺や春風はいいんだよ。サークルのことで行動するんだったらまず代表の奈々さんに話を通せっつー話で。OBの音源の件で野坂さんが結構しっかりめにお灸をすえてくれたおかげでさすがのかっすーにも進歩が見られたらしい。
「で? それはそうとこの大量の芋をどうするって? しかも殿も芋を仕入れてくれてるっぽいんすよ」
「えっそうなのッ!?」
「ジャック宅で、ポテトを作る練習を。そのために用意しました」
「あー本当。あれっ、そう言えばカノンは?」
「それが僕たちもカノン先輩の姿はまだ見ていないんです。サークル室の鍵は開けてくれたみたいなんですけど」
「まあそのうち来るでしょ、鍵を開けてくれたってことはこの近くにはいるだろうし」
「そうですね」
「しかし、このジャガイモの置き場所に困りますね。せめてもう少し広いところに移しますか?」
「そうだね。みんな来たらさすがにちょっとここじゃ邪魔になっちゃうし、壁際に寄せよっか」
「では、俺が」
「じゃーやりますかね」
「あっ、僕もやりますっ」
しっかしまあ重い箱だな。チラッと中を確認したら入っているのはそりゃーもうすっげーいい芋なんだよ。箱には「北辰のじゃがいも」って書かれてる。それが本当なんだとするならどうやって仕入れたんだよって感じだ。
ジャガイモの質には畑でバイトしてる殿も感心しきりだし、もしかっすーがこれを使ってポテトを作るつもりならよっぽどが無ければまず失敗はないだろう。去年もこんな感じでやってたとするならそりゃ利益も出るわな。
「ふー、一仕事終わりだな」
「カノン先輩はどうやってこれをここまで持って来たんですかね?」
「知らねーけど、かっすー本人か収納班にどうにかしてもらわねーと場所食ってしゃーねーぞ」
「奈々先輩」
「うん、どうしたの殿」
「俺の用意した芋は、どうしましょう」
「あー、そうだよねッ。でも練習用に用意してくれたんだしサークル費で落とすよ。練習が必要なのも本当だしねッ。領収証とか持ってる?」
「はい、あります」
「じゃあ預かるね」
「あの、僕もいいですか奈々先輩」
「うん」
「今回のポテトの味付けに、僕が家で眠らせてたまんまにしちゃってる塩を使っちゃいたいんですけど大丈夫ですか? あっ、もちろん練習とか試食会とかがあればその時に好評だったらでいいんですけど」
「えっ、どんな塩? パロが言うんだからただの味塩じゃないでしょ? 何かすっごいのが出てきそうなんだけど」
「大丈夫ですよ。一般にも広く流通してる普通の岩塩です。買ったはいいんですけどなかなか使い切れなくって。ここで使わせてもらえないかなーと」
「食品衛生的に問題がないなら試食会で聞いてみたらいいんじゃない? 美味しかったらみんな文句ないだろうし」
「わかりました! 持って来てみますね!」
「奏多、岩塩という単語のレベルが高すぎて私にはとても付いていけないのだけど。料理の上手い人はそんなものを当たり前のように使いこなしているの?」
「使う奴は使うんだろうけど、パロが特に調味料好きだからってだけだと思おうぜ」
昨日今日初めて料理をしたようなレベルの春風はパロがどの塩を持って来ようかなってウキウキしてるのにすら圧倒されてるし。多分パロみたいな奴はただ塩を使うにしても炒って焼き塩にするのも苦じゃねーんだろうなあ。
「おはようございます」
「おざーっす」
「おっジュンにうっしー、いいトコに来た収納班!」
「え、何でしょうか」
「おっ、俺の活躍どころか~?」
「恐らくはかっすーが持ってきたであろうこのジャガイモをよ、どーにかこーにか整頓しといてくんね? 今は俺らで適当に壁に寄せといたんだけど」
「あ、それってあれですよね。ジャックの車で運んでるヤツ。下でカノン先輩とジャックに会いましたよ」
「おー、ようやく核心来た!」
end.
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ジャガイモの季節がきたぞー フェーズ3になってからあまり触ってない星大情報センターはどんな様子だったやら
(phase3)
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