2022

■楽しさの方向性

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「せっかく今年はインターフェイス関係の行事はノータッチでのんびり実家に帰ってるかと思ったら、案外早く帰って来たんだな」
「もうちょっとゆっくりしても良かったんだけど、ゼミの方でもいろいろやらなきゃいけないことはあるからね」

 3年後期になるにも関わらず、これまでの積み重ねで俺はまだまだ履修が多くなりそうだ。これまでと同じく集中講義を取ることで通常枠はまあ緩くはなりそうだけど、学年相応かと聞かれると結構怪しい。
 ゼミの課題の作業をしなければならないというのもそうだし、星港での生活の感覚を取り戻さないとなあと思って少し早めに帰ってきた。今月は連休が多いしバスにしても新幹線にしても人が多いから平日を使ってゆったりと。
 俺がこっちに戻ってくると大体エイジとうちで飲もうかって話になって、いつものように何をするでもなく飲みながら近況報告をするというのが流れ。今年は2人ともサークル関係にはノータッチの夏だったから、どんな話になるかなあ。

「佐藤ゼミと言えば、インターフェイスと競合してるっていうラジオの枠はどうなるんだっていう」
「ああ、その話ね。結局立ち消えになってたみたいだね」
「そーなんか。またどーしたっていう。あの先生だったら何が何でも自分の手柄とか実績にして今後のゼミのアピールに使いそうだっていう」
「それも映像で想像出来るんだけど、如何せん佐藤ゼミのラジオってああでしょ?」
「何がなのかは深くは突っ込まないけど、まあ“ああ”だな」
「西海市のコミュニティラジオとしては著しく不向きで、佐藤ゼミ生にそれをやれる能力もないと判断されて局側が手を引いたみたい」
「ラジオ局側があのノリでやられるのを嫌ったっつー感じか」
「まあそうだろうねえ。先生はちょっと怒ってるみたいだったけど、FMにしうみ側の判断は正しかったと思うよ俺は」

 インターフェイスにはサキが持って来たFMにしうみさんの話は佐藤ゼミにも同じ内容で持ちかけられていた。俺はその話を先生から聞いたけど、高崎先輩の後を引き継ぐ学生番組の枠は佐藤ゼミでやらないと恥だとか何とか。例によって話が長かったから途中から流し聞きだったけど。
 ラジオ局側の人が先生だけじゃなくて佐藤ゼミ生の話も聞いてみたいということでサキがセッティングした局側との打ち合わせでは、ゼミラジオの現状だとか俺が思うことをしっかりと話させてもらった。念のためオフレコでお願いしますということにはしてもらったけど。
 ゼミのラジオは基本的にMCのMCによるMCのための番組で、外に聞かせているということを全く意識していないと言われても仕方ないと思っている。曜日ごとにテーマが違うとは言え、一方的な主張を押しつけるような内容なのは変わらない。
 俺がミキサーを担当するときはそれとなく「いろいろな情報や意見を絡めたりして一方的な主張になりすぎないように」などとMCの人に言ってみてはいるんだけど、次の回でそれが改善されている様子が見られないので諦め半分のミキシングだ。

「もちろん全員が全員ああなワケでもないんだけどね。如何せんあのブースに入るには能力より先生に気に入られる方が重要だから」
「佐藤ゼミの闇だっていう。つか果林先輩があのブースにレギュラーで入ってない時点でお察しだべ」
「それでいてオープンキャンパスだとかで外部に対して見栄を張るときには果林先輩をフル稼働させるんだから、結局のところはちゃんとやれるアナウンサーは果林先輩しかいないんでしょって話だよね。そこにササがどう割って入るかなんだけど」
「高木お前、珍しく何かキレてる風だっていう。語気が強いべ」
「キレてはいないけどね。俺もそろそろオープンキャンパスでの酷使枠から外れたいなってだけだよ。果林先輩とも言ってたんだよね、ササとシノが代わってくれないかな的なことは。だって3日間拘束されるんだよ。そりゃあ番組自体は好き勝手やれるから楽しいけど、楽しいだけじゃお腹は膨れないし」
「言うことも果林先輩じみてるっていう。わからんでもないけど。大学はもっと報酬寄越せっつー話だべ? 1日当たり500円分のQUOカードだけじゃなくて」
「そういうこと。大学がって言うより先生が?」

 ゼミラジオでは半ば諦めたミキシングをしてるけど、果林先輩相手の時に限っては話が別だ。なんなら果林先輩との番組はインターフェイスの誰と組むときよりも技術もそうだし、状況判断能力を問われる。急にアドリブが飛んできて番組の構成が変わるなんて当たり前。やられるだけじゃなくてこっちから変えるときもある。番組を壊しすぎない程度に交わされるアドリブのパスワークが楽しい楽しい。
 まあ、そう言ってしまえば自分たちの番組も自分たちが楽しむことが一番になっているのかもしれない。だけど番組の内容自体は果林先輩がちゃんと楽しく聞けるようにしてくれてるし、俺はその声を映えさせるように音を操るだけだ。ある意味で、普段の鬱憤を晴らしたりとか、下の子たちのお世話をしたりっていうのから解放される唯一の場かもしれない。去年の学祭では歴代最長となる6時間番組っていうのをやったけど、ずっと楽しかったもんなあ。

「ああ、また愚痴っぽくなっちゃってごめんねエイジ」
「いーべいーべ気にすんなっていう」
「でも、佐藤ゼミの枠が飛んだ分、インターフェイスの枠にかかる期待は大きくなりそうだねえ」
「お前、どーすんだ。やんのか?」
「うーん、今更3年がしゃしゃり出てもねえ。あとやっぱり西海っていうのがネックだね。うちは星港の東部だし。せめて西側に住んでればもうちょっと変わったかも」
「だべなー」
「それにミキサーはもうサキがいるし。大丈夫でしょ。ラジオ局の機材に興味がないことはないんだけどね。むしろ興味しかないんだけど」
「ラジオ局の機材と同じの買ってくれっつってヒゲさんに頼んでみるとか。ワンチャンあるべ」
「でも、コミュニティ局だと簡単な機材だけで放送してるところもあるとかないとかって話だし、案外佐藤ゼミの方が……って可能性はゼロじゃないんだよ」
「そりゃあんだけ買い換えてりゃそうなるか」
「そうなんだよ。ということで、今度またお下がりの機材が回ってくるのでサークル室の整理をよろしくお願いします」
「何が回ってくるかにもよるけど、定例会にブン投げることも視野に入れるべ。向こうも金がないんだし機材のストックなんかはいくらあってもいいだろ」


end.


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3年になってもやることは変わってないタカエイだけど、話す内容はそれなりに学年相応になっている?

(phase3)

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