2022
■もうひとつ大人になりたい
++++
サキつてに、モニター会で会った福井さんから「モニター会の話を聞かせてやりたい人がいるから食事でも」的な連絡があったと聞かされた。まあ俺が対策委員の議長だから呼ばれた的なヤツなんだろうと思って詳細な連絡を読んでいると、場所は西海駅前の何て読むのかよくわかんない店だ。
場所は西海。交通費がバカ高い。これが対策委員の公式の活動だったら交通費が経費で落とせるんだけど、そうじゃないから落とせない。原付でちょっとでも近付いてケチろうにも、ケチったところでという距離だ。そんなことを心配していたら、読み進めた下の方にコメ印で「当日は送迎があります」の文字。至れり尽くせり~。
で、何も不思議に思わなかった俺も俺なんだよな。福井さんが迎えに来てくれんなら家の場所とか、そっか、サキが伝えてくれてんだな! くらいにしか思ってなかったから。で、いざ指定された時間にムギツーの駐車場に突っ立って待ってみるじゃんか。そしたら颯爽とやって来て俺に丸いモンを放り投げたのは高崎先輩だったんだから。
「ここに来んのも半年ちょい振りか」
「高崎先輩!? 何で!?」
「美奈に頼まれたんだ。お前なら緑大付近の土地勘があるだろっつって」
「ミナって誰のことすか?」
「あ? モニター会で会ったんじゃねえのかよ。FMにしうみのスタッフ枠で行ってたって聞いてんだが」
「あ、福井さんすか!?」
「ああ」
「すんません、下の名前までは聞いてなかったんでピンと来なかったっす。え、モニター会の話を聞かせたい人って、もしかして高崎先輩っすか!?」
「まあ、俺もFMにしうみとは全く以って無関係ってワケじゃねえからな。話くらいは聞いてる。ま、詳しい話はプチメゾンに着いてからだ」
つか緑大付近の土地勘っていうレベルじゃないんだよな。先輩のビッグスクーターの後ろに乗って、どんどんと街の方へと向かっていく。やっぱ原付とは全然ちげーや。なんつーか俺が豊葦・西海間の往復交通費を気にしてたこととかが全部筒抜けてるみたいでめちゃくちゃ恥ずかしくもなってきた。ただ節約するだけじゃなくて、使うべきところでは金をちゃんと使える人間になりたい。
つーかあの何て読むのか微妙によくわかんなかった英語? って、プチメゾンて読むのか。そういうのもサラッと読めるような人間にもなりたい。学っつーか、教養? 自分の興味のあることに特化すんのもいいけど、一般教養みたいなモン? こないだの名刺の受け渡しにしてもそうだけど。俺には学が致命的に足りてない気がする。
「美奈、智也を連れて来たぞ」
「……ありがとう」
「薄暗っ」
「バーだからな。こんなモンだ」
「ああ、シノ。お疲れ」
「サキ、お前馴染み過ぎてねーか?」
「バイト終わりとかによく来てるからね」
「バーだぜ?」
「俺には料理が美味しい近所の店くらいの感覚だよ」
「あっ、そうだ。飯が美味いんすよね?」
「ああ。ベティさんの飯は一度と言わず何度でも食う価値があるな」
「でもバーっすよね? 俺飲めないんすけど大丈夫っすか?」
「大丈夫だ。むしろソフトドリンクもかなり充実してる。オレンジジュースとかもベティさん独自のブレンドで今絞ってくれんだぞ」
「えー! 今絞るんすか!? 何それ美味そー!」
高崎先輩がこんだけストレートに美味いって言うことはマジで美味いモンが出て来るんだろうな、期待大だ。この時点で片道分の交通費が浮いてるし、今日は奮発して豪華なオレンジジュースを飲んでみちゃおっかなー。メニューを見ながらいろいろ考えていると、カウンター越しにベティさんがこっちに挨拶をしてくれる。
「シノちゃんいらっしゃい。この間振り。元気してた?」
「あっはい、すこぶる元気っす」
「シノちゃん、食べたい物があったら何でも言ってちょうだいね、張り切って作るから」
「あざっす。えっと、まずオレンジジュースを頼んでもいいすか?」
「今作るわね」
っつってオレンジを切るんだもんな。マジで今絞って混ぜるのか! つかそんなガチでマジな店に来るのがまず初めてだっつーの。そうか、そうやって人は大人の階段とやらを上っていくんだな。つかこの中でも全く動じてないサキだよ。よくここを料理が美味しい近所の店とか言えるな!? 俺はそわそわして落ち着かねーっつーのに。
「はいどうぞ。オレンジジュースでーす」
「ありがとうございます。いただきまーす。……ん!? めっちゃオレンジっすね!」
「100パー今絞ってるオレンジなんだから、そりゃオレンジだろ」
「や、俺が知ってる100%のオレンジジュースは何だったんだってくらい、100パーなんすよ! ヤバッ、うまっ」
「お口に合ったようで良かったわ」
「ベティさん、適当に食べるもの出してもらっていいすか。俺とコイツが食う分なんで……3人前くらいのボリュームで」
「それじゃあアタシの気分で作るわね」
「頼みます。あと俺はコーヒーフロートを」
「お任せで、的な感じで飯頼む高崎先輩がカッコ良過ぎるんすけど」
「何回か来ればそれくらい普通に出来るようになる」
「つか高崎先輩て本来めちゃ飲む人っすよね? 酒飲まないんすか?」
「お前がムギツーまで自力で帰るっつーんなら遠慮なく飲むぞ」
「あ、すんません、帰りもお願いします。サキはそれ、何食ってんの?」
「これ? ドライフルーツ」
「オシャレかよ!」
「ちょっとつまむのにいいんだよ」
「飯食わねーの?」
「高崎先輩とシノのおまかせメニューが好きそうだったらちょっともらおうと思って。基本ドライフルーツで十分だけどね」
「……そう言いつつ、佐崎君は、人に出された料理を見ると、大体自分も食べたいと言う……」
「福井さん」
「悪いとは、言っていないけれど……」
「サキが思わず食いたくなるような料理かー、ますます楽しみだなー!」
サキが普通の人と同じくらいの量の飯を食う、っていうのがMBCCの俺たち同期からしてみたらまずめっちゃ驚くべきポイントなんだよな。それっくらいサキは小食ってイメージがこびりついてるっつーか。そうこうしてたら高崎先輩が頼んでくれたお任せメニューが少しずつ目の前に置かれ始めてる。何つーか、俺のイメージしてるバーってこんなにガッツリ食う場所ではなかったと思う。
「智也、このポテトパイは美味いぞ」
「マジすか。いただきます」
「どうだ」
「うっま!」
「良かったわ~。シノちゃんが食べたのは何味だったかしら?」
「えっと、肉のヤツっす」
「ミートパイね。他にはサーモンクリーム味やカレー味なんてのもあるのよ。トマト風味とかね」
「どれも美味そうっすね」
「これはアタシの幼馴染みから作り方を教えてもらって、メニューにさせてもらったの。美味しいわよね」
「めっちゃ美味いっす。へえ、作れるんすねー。……ん? 待てよ? もしかして?」
「どうしたのシノ」
「俺がベティさんからこのポテトパイのレシピを教われば、いつでも自分で作って食えるんじゃね?」
サキだったら食べたくなったら店に来ることも出来るだろうけど、豊葦住みの俺はなかなかそういうワケにはいかないもんな。でも革命的なオレンジジュースの味だったり、めっちゃ美味いポテトパイだったり。俺の舌には既に衝撃が刻み込まれている。
「そうね、良ければ教えるわよ。シノちゃんは料理をする子なのね」
「1人暮らししてて、少しずつやり始めてます」
「だったら福井ちゃんからもいろいろ教わるといいわ~。福井ちゃんも料理上手なのよ」
「そうなんすか」
「一応、最低限は……」
「マジすか! そしたら料理の基本みたいなモンを教えて欲しいっす!」
「それはいいけど、モニター会の話は…?」
「あ、そうっした!」
「そうは言いつつ、モニター会の話なんかおまけみたいなモンで、実際は智也にベティさんの飯食わすためだけに呼んだようなモンなんだろ」
「……私の指示に、従うBJもBJ……。情に厚く、非情になりきれない……結果、コアラに懐かれる……」
「あのクソコアラの話はマジでやめてくれ」
「……料理の話と、モニター会の話……どちらにする…?」
「あ、えっと、高崎先輩のDJネームの由来の話とかは聞かせてもらえないすか? リアルにBJって呼んでる人初めて見たっす」
「生憎だな、そう易々と語って聞かせることじゃねえ」
end.
++++
ふしみん曰く「ハルちゃんのを飲んだら他のオレンジジュースは飲めない!」っていうオレンジジュース。めっちゃオレンジ。
この時点でシノの自炊スキルは最初と比較するとちょいちょい上がっている様子。この調子で頑張れ
(phase3)
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サキつてに、モニター会で会った福井さんから「モニター会の話を聞かせてやりたい人がいるから食事でも」的な連絡があったと聞かされた。まあ俺が対策委員の議長だから呼ばれた的なヤツなんだろうと思って詳細な連絡を読んでいると、場所は西海駅前の何て読むのかよくわかんない店だ。
場所は西海。交通費がバカ高い。これが対策委員の公式の活動だったら交通費が経費で落とせるんだけど、そうじゃないから落とせない。原付でちょっとでも近付いてケチろうにも、ケチったところでという距離だ。そんなことを心配していたら、読み進めた下の方にコメ印で「当日は送迎があります」の文字。至れり尽くせり~。
で、何も不思議に思わなかった俺も俺なんだよな。福井さんが迎えに来てくれんなら家の場所とか、そっか、サキが伝えてくれてんだな! くらいにしか思ってなかったから。で、いざ指定された時間にムギツーの駐車場に突っ立って待ってみるじゃんか。そしたら颯爽とやって来て俺に丸いモンを放り投げたのは高崎先輩だったんだから。
「ここに来んのも半年ちょい振りか」
「高崎先輩!? 何で!?」
「美奈に頼まれたんだ。お前なら緑大付近の土地勘があるだろっつって」
「ミナって誰のことすか?」
「あ? モニター会で会ったんじゃねえのかよ。FMにしうみのスタッフ枠で行ってたって聞いてんだが」
「あ、福井さんすか!?」
「ああ」
「すんません、下の名前までは聞いてなかったんでピンと来なかったっす。え、モニター会の話を聞かせたい人って、もしかして高崎先輩っすか!?」
「まあ、俺もFMにしうみとは全く以って無関係ってワケじゃねえからな。話くらいは聞いてる。ま、詳しい話はプチメゾンに着いてからだ」
つか緑大付近の土地勘っていうレベルじゃないんだよな。先輩のビッグスクーターの後ろに乗って、どんどんと街の方へと向かっていく。やっぱ原付とは全然ちげーや。なんつーか俺が豊葦・西海間の往復交通費を気にしてたこととかが全部筒抜けてるみたいでめちゃくちゃ恥ずかしくもなってきた。ただ節約するだけじゃなくて、使うべきところでは金をちゃんと使える人間になりたい。
つーかあの何て読むのか微妙によくわかんなかった英語? って、プチメゾンて読むのか。そういうのもサラッと読めるような人間にもなりたい。学っつーか、教養? 自分の興味のあることに特化すんのもいいけど、一般教養みたいなモン? こないだの名刺の受け渡しにしてもそうだけど。俺には学が致命的に足りてない気がする。
「美奈、智也を連れて来たぞ」
「……ありがとう」
「薄暗っ」
「バーだからな。こんなモンだ」
「ああ、シノ。お疲れ」
「サキ、お前馴染み過ぎてねーか?」
「バイト終わりとかによく来てるからね」
「バーだぜ?」
「俺には料理が美味しい近所の店くらいの感覚だよ」
「あっ、そうだ。飯が美味いんすよね?」
「ああ。ベティさんの飯は一度と言わず何度でも食う価値があるな」
「でもバーっすよね? 俺飲めないんすけど大丈夫っすか?」
「大丈夫だ。むしろソフトドリンクもかなり充実してる。オレンジジュースとかもベティさん独自のブレンドで今絞ってくれんだぞ」
「えー! 今絞るんすか!? 何それ美味そー!」
高崎先輩がこんだけストレートに美味いって言うことはマジで美味いモンが出て来るんだろうな、期待大だ。この時点で片道分の交通費が浮いてるし、今日は奮発して豪華なオレンジジュースを飲んでみちゃおっかなー。メニューを見ながらいろいろ考えていると、カウンター越しにベティさんがこっちに挨拶をしてくれる。
「シノちゃんいらっしゃい。この間振り。元気してた?」
「あっはい、すこぶる元気っす」
「シノちゃん、食べたい物があったら何でも言ってちょうだいね、張り切って作るから」
「あざっす。えっと、まずオレンジジュースを頼んでもいいすか?」
「今作るわね」
っつってオレンジを切るんだもんな。マジで今絞って混ぜるのか! つかそんなガチでマジな店に来るのがまず初めてだっつーの。そうか、そうやって人は大人の階段とやらを上っていくんだな。つかこの中でも全く動じてないサキだよ。よくここを料理が美味しい近所の店とか言えるな!? 俺はそわそわして落ち着かねーっつーのに。
「はいどうぞ。オレンジジュースでーす」
「ありがとうございます。いただきまーす。……ん!? めっちゃオレンジっすね!」
「100パー今絞ってるオレンジなんだから、そりゃオレンジだろ」
「や、俺が知ってる100%のオレンジジュースは何だったんだってくらい、100パーなんすよ! ヤバッ、うまっ」
「お口に合ったようで良かったわ」
「ベティさん、適当に食べるもの出してもらっていいすか。俺とコイツが食う分なんで……3人前くらいのボリュームで」
「それじゃあアタシの気分で作るわね」
「頼みます。あと俺はコーヒーフロートを」
「お任せで、的な感じで飯頼む高崎先輩がカッコ良過ぎるんすけど」
「何回か来ればそれくらい普通に出来るようになる」
「つか高崎先輩て本来めちゃ飲む人っすよね? 酒飲まないんすか?」
「お前がムギツーまで自力で帰るっつーんなら遠慮なく飲むぞ」
「あ、すんません、帰りもお願いします。サキはそれ、何食ってんの?」
「これ? ドライフルーツ」
「オシャレかよ!」
「ちょっとつまむのにいいんだよ」
「飯食わねーの?」
「高崎先輩とシノのおまかせメニューが好きそうだったらちょっともらおうと思って。基本ドライフルーツで十分だけどね」
「……そう言いつつ、佐崎君は、人に出された料理を見ると、大体自分も食べたいと言う……」
「福井さん」
「悪いとは、言っていないけれど……」
「サキが思わず食いたくなるような料理かー、ますます楽しみだなー!」
サキが普通の人と同じくらいの量の飯を食う、っていうのがMBCCの俺たち同期からしてみたらまずめっちゃ驚くべきポイントなんだよな。それっくらいサキは小食ってイメージがこびりついてるっつーか。そうこうしてたら高崎先輩が頼んでくれたお任せメニューが少しずつ目の前に置かれ始めてる。何つーか、俺のイメージしてるバーってこんなにガッツリ食う場所ではなかったと思う。
「智也、このポテトパイは美味いぞ」
「マジすか。いただきます」
「どうだ」
「うっま!」
「良かったわ~。シノちゃんが食べたのは何味だったかしら?」
「えっと、肉のヤツっす」
「ミートパイね。他にはサーモンクリーム味やカレー味なんてのもあるのよ。トマト風味とかね」
「どれも美味そうっすね」
「これはアタシの幼馴染みから作り方を教えてもらって、メニューにさせてもらったの。美味しいわよね」
「めっちゃ美味いっす。へえ、作れるんすねー。……ん? 待てよ? もしかして?」
「どうしたのシノ」
「俺がベティさんからこのポテトパイのレシピを教われば、いつでも自分で作って食えるんじゃね?」
サキだったら食べたくなったら店に来ることも出来るだろうけど、豊葦住みの俺はなかなかそういうワケにはいかないもんな。でも革命的なオレンジジュースの味だったり、めっちゃ美味いポテトパイだったり。俺の舌には既に衝撃が刻み込まれている。
「そうね、良ければ教えるわよ。シノちゃんは料理をする子なのね」
「1人暮らししてて、少しずつやり始めてます」
「だったら福井ちゃんからもいろいろ教わるといいわ~。福井ちゃんも料理上手なのよ」
「そうなんすか」
「一応、最低限は……」
「マジすか! そしたら料理の基本みたいなモンを教えて欲しいっす!」
「それはいいけど、モニター会の話は…?」
「あ、そうっした!」
「そうは言いつつ、モニター会の話なんかおまけみたいなモンで、実際は智也にベティさんの飯食わすためだけに呼んだようなモンなんだろ」
「……私の指示に、従うBJもBJ……。情に厚く、非情になりきれない……結果、コアラに懐かれる……」
「あのクソコアラの話はマジでやめてくれ」
「……料理の話と、モニター会の話……どちらにする…?」
「あ、えっと、高崎先輩のDJネームの由来の話とかは聞かせてもらえないすか? リアルにBJって呼んでる人初めて見たっす」
「生憎だな、そう易々と語って聞かせることじゃねえ」
end.
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ふしみん曰く「ハルちゃんのを飲んだら他のオレンジジュースは飲めない!」っていうオレンジジュース。めっちゃオレンジ。
この時点でシノの自炊スキルは最初と比較するとちょいちょい上がっている様子。この調子で頑張れ
(phase3)
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