2022
■業界の人と学生
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FMにしうみの代表としてインターフェイス夏合宿のモニター会を見に行くことになり、3年振りにこの独特の空気の中に身を置く。インターフェイスの空気自体は明るく、和やかになったように感じる。だけど、モニター会特有の緊張感は良くも悪くも変わらないもので、こういうものだったなあという懐かしさはここで覚えた。
局からは私とベティさん、そして東野さんの3人。そしてFMむかいじまの砂田さんが外部の人間としてモニター会に参加している。今の3年生や4年生の一部の子たちも番組を聞きに来ているよう。私の顔を見るなり会釈してきたのはマーシー。彼の中で、私は菜月の友人であるという意識はまあまああるだろうから、ピンと来たのかもしれない。
「福井さん、お疲れさまです」
「佐崎君。番組の準備は、いいの…?」
「ここに来るまでにしっかりやってあります。東野さん砂田さん、ベティさんもこんばんは」
「こんばんは。へえ、これが向島インターフェイス放送委員会の合宿かあ」
「夏合宿はインターフェイス内の組織である技術向上対策委員が主催の行事です。紹介します。対策委員の議長の、篠木智也君です」
「今日はわざわざ見に来てもらってありがとうございます。向島インターフェイス放送委員会、技術向上対策委員会議長の緑ヶ丘大学2年、篠木智也です」
「あら可愛い子。インターフェイスの子ってことは福井ちゃんやサキちゃんみたくラジオの名前を持ってるのよね」
「あ、はい。DJネームはシノっていいます。長篠の篠に木でササキなので」
確か、佐崎君の誕生会の時に来ていた友達の子も佐々木君という名前だったような気がする。……ああ、それで。
「アタシはベティ。西海駅前でバーをやってるのよ」
「ベティさんはFMにしうみで番組を持ってるんだよ」
「バーをやってる一般の市民の人が番組をやってるって感じなのか?」
「そうだね」
「バーかあ。俺には縁遠い場所っすね。酒も弱いし」
「お酒が飲めなくても交通費さえ奮発すればとびきり美味しい料理が食べられるんだけどね」
「マジで」
「うん。じゃなくて。シノ、こちらがFMにしうみの編成部長の東野さんと」
「東野です」
「FMむかいじまの砂田さんです」
「砂田です」
「すみませんご丁寧に。うーん、俺も名刺とか作ってもらっときゃよかった」
「あっはっは、気にしないで。それじゃあ、首から提げてるその名札と一緒に1枚、撮ろうか」
「えっ? えっ?」
「はい砂田君も一緒に。ベティさんも入って入って。はいチーズ」
東野さんはたまにこういう軽いノリのときがあるのだけど、今この場においてはそれがいい風に働いているのかもしれない。学生があまり肩肘張らずに済むおじさん、的な雰囲気で。佐崎君が、緑ヶ丘大学の佐藤教授のゼミ生でもありますよとシノの紹介を重ねていて、東野さんがまた話に食い付いている。
「や~あ、皆さんお疲れさまです~。おっ、ミーナは何年振りかな? って言うかそもそも俺の事を知ってるかどうかからか!」
「大丈夫です……ダイさんのことは、存じてます……」
「よかったぁー」
「菜月から、モニター会に行くならダイさんによろしくと言付かりました……」
「ああ本当! 菜月は元気そう?」
「仕事は、希望する部署にはならなかったそうですけど……何とか、やっていると……」
「ああそう。いつでも遊びにおいでって伝えてね。マーとか圭斗に声かけて盛大に迎えるからねって」
「……わかりました」
「ダイさんは、皆さんとの面識は」
「ないよ」
「えっ」
「だから講師としてご挨拶に上がったのよ」
「すみません、ダイさんの紹介がすっかり飛んでしまって」
「サキはなんも悪くないよ。そーゆーのは自分でちゃんとやれてこそだから」
そう言うなり講師を務めた水沢ですと大人の人たちの中にスッと身を入れていくところはさすがだし、社会に出る時にはこういうところを学んでいかなければならないのかもしれない。そしてスマートに進む名刺交換に、シノがエアで名刺の出し入れをしている。ビジネスマナーの講習は急がなくていいとは思うけれど、知っておいて損はない。
「サキ」
「なに」
「ベティさんのバーの飯ってどんくらい美味い? 往復交通費出す価値ある?」
「どれくらい美味しいかで言えば、俺が第1学食のSサイズの量を当たり前のように食べるくらい」
「マジか! お前がそんだけ食うってことはやっぱめっちゃ美味いんだな!」
「……佐崎君は、少食だと思っていたけれど……学食ではSサイズも食べない…?」
「緑ヶ丘大学のサイズ感覚は多分他の大学とは違ってて。緑ヶ丘のSは他の大学の一般的な1人前くらいだと思います」
「体育学部などの層に対応した結果…?」
「だと思うんですけど」
「サキ」
「なに」
「そちらのすげー綺麗な人は何さん? ラジオ局の人?」
「ああ、俺の先輩スタッフに当たる人で、福井さん。星大の大学院生だよ。インターフェイスの出身で」
「福井です……」
「緑大2年のミキサーで、シノこと篠木智也っす」
「アナウンサーの、ササの友達…?」
「俺の相棒を知ってるんすか!?」
「え、ええと……佐崎君の誕生会に来ていたから、そこで……」
「シノ、初対面の人にそんなにがっつかない」
「あ、すみません」
他の対策委員の子たちに呼ばれると、シノはそれじゃ失礼しますと軽く一礼して慌ただしさの中へと戻っていった。この短い時間の中でわかったのは、彼は美味しい食事にとても興味があるということ……。戻ったかと思ったら、またすぐ戻って来た。
「福井さんすみません」
「……何…?」
「ラジオ局の皆さんはさすがにモニター用紙はお願いできないですよね?」
「必要であれば、私が書くけれど……」
「大丈夫ですか?」
「……ちなみに、どういう感じで書けば……」
「えっとっすね、番組を聞いて――」
「シノ、福井さんが聞いてるのは書き方じゃなくて、どこまで突っ込んで書けばいいかってこと。厳しくしようと思えばどれだけでも厳しく出来るからね」
「あ、そういう」
「……そういう……」
「さすがに誰が辛口モニターを欲しがってるかとかメンタルの強い弱いまでは把握してないんで、ちょっと甘めの中辛くらいでお願いしていいすか。褒めて伸ばしながらちょっとチクッとやる感じで」
「……一般的な、辛さレベルで言う中辛…?」
「ミーナ~、菜月基準で辛さを考えちゃダメよ~」
「あら大変。福井ちゃん、今は菜月ちゃんの顔は思い出さないのよ!」
「……一般的な、ちょっと甘めの中辛……。了解……。佐崎君には、厳しくしても…?」
「それはめっちゃやって下さい。あ、つか俺もお願いしたいっす」
「緑ヶ丘は、少し辛めで……」
「そうっすね、緑ヶ丘は少し辛めでお願いします。そしたら今、対策委員で使ってる名簿持って来ますね」
「……ありがとう」
菜月から、今の子たちは和気藹々としながらも一生懸命練習はしているとは聞いていたけど、本当にそうだと思う。……そうだ、菜月から頼まれていたことを、もうひとつ、このモニター会期間の間にやっておかないといけない。だけど、その子の番組が終わったのを確認してからの方がいいかな……。
end.
++++
菜月さんの顔を思い浮かべながら辛い物の基準を考えると美奈の感覚もバグる。
サキに対する美奈がLだのTKGだのに対するいち氏っぽい。基本的に直属の後輩にはどちゃくそ厳しい。
(phase3)
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FMにしうみの代表としてインターフェイス夏合宿のモニター会を見に行くことになり、3年振りにこの独特の空気の中に身を置く。インターフェイスの空気自体は明るく、和やかになったように感じる。だけど、モニター会特有の緊張感は良くも悪くも変わらないもので、こういうものだったなあという懐かしさはここで覚えた。
局からは私とベティさん、そして東野さんの3人。そしてFMむかいじまの砂田さんが外部の人間としてモニター会に参加している。今の3年生や4年生の一部の子たちも番組を聞きに来ているよう。私の顔を見るなり会釈してきたのはマーシー。彼の中で、私は菜月の友人であるという意識はまあまああるだろうから、ピンと来たのかもしれない。
「福井さん、お疲れさまです」
「佐崎君。番組の準備は、いいの…?」
「ここに来るまでにしっかりやってあります。東野さん砂田さん、ベティさんもこんばんは」
「こんばんは。へえ、これが向島インターフェイス放送委員会の合宿かあ」
「夏合宿はインターフェイス内の組織である技術向上対策委員が主催の行事です。紹介します。対策委員の議長の、篠木智也君です」
「今日はわざわざ見に来てもらってありがとうございます。向島インターフェイス放送委員会、技術向上対策委員会議長の緑ヶ丘大学2年、篠木智也です」
「あら可愛い子。インターフェイスの子ってことは福井ちゃんやサキちゃんみたくラジオの名前を持ってるのよね」
「あ、はい。DJネームはシノっていいます。長篠の篠に木でササキなので」
確か、佐崎君の誕生会の時に来ていた友達の子も佐々木君という名前だったような気がする。……ああ、それで。
「アタシはベティ。西海駅前でバーをやってるのよ」
「ベティさんはFMにしうみで番組を持ってるんだよ」
「バーをやってる一般の市民の人が番組をやってるって感じなのか?」
「そうだね」
「バーかあ。俺には縁遠い場所っすね。酒も弱いし」
「お酒が飲めなくても交通費さえ奮発すればとびきり美味しい料理が食べられるんだけどね」
「マジで」
「うん。じゃなくて。シノ、こちらがFMにしうみの編成部長の東野さんと」
「東野です」
「FMむかいじまの砂田さんです」
「砂田です」
「すみませんご丁寧に。うーん、俺も名刺とか作ってもらっときゃよかった」
「あっはっは、気にしないで。それじゃあ、首から提げてるその名札と一緒に1枚、撮ろうか」
「えっ? えっ?」
「はい砂田君も一緒に。ベティさんも入って入って。はいチーズ」
東野さんはたまにこういう軽いノリのときがあるのだけど、今この場においてはそれがいい風に働いているのかもしれない。学生があまり肩肘張らずに済むおじさん、的な雰囲気で。佐崎君が、緑ヶ丘大学の佐藤教授のゼミ生でもありますよとシノの紹介を重ねていて、東野さんがまた話に食い付いている。
「や~あ、皆さんお疲れさまです~。おっ、ミーナは何年振りかな? って言うかそもそも俺の事を知ってるかどうかからか!」
「大丈夫です……ダイさんのことは、存じてます……」
「よかったぁー」
「菜月から、モニター会に行くならダイさんによろしくと言付かりました……」
「ああ本当! 菜月は元気そう?」
「仕事は、希望する部署にはならなかったそうですけど……何とか、やっていると……」
「ああそう。いつでも遊びにおいでって伝えてね。マーとか圭斗に声かけて盛大に迎えるからねって」
「……わかりました」
「ダイさんは、皆さんとの面識は」
「ないよ」
「えっ」
「だから講師としてご挨拶に上がったのよ」
「すみません、ダイさんの紹介がすっかり飛んでしまって」
「サキはなんも悪くないよ。そーゆーのは自分でちゃんとやれてこそだから」
そう言うなり講師を務めた水沢ですと大人の人たちの中にスッと身を入れていくところはさすがだし、社会に出る時にはこういうところを学んでいかなければならないのかもしれない。そしてスマートに進む名刺交換に、シノがエアで名刺の出し入れをしている。ビジネスマナーの講習は急がなくていいとは思うけれど、知っておいて損はない。
「サキ」
「なに」
「ベティさんのバーの飯ってどんくらい美味い? 往復交通費出す価値ある?」
「どれくらい美味しいかで言えば、俺が第1学食のSサイズの量を当たり前のように食べるくらい」
「マジか! お前がそんだけ食うってことはやっぱめっちゃ美味いんだな!」
「……佐崎君は、少食だと思っていたけれど……学食ではSサイズも食べない…?」
「緑ヶ丘大学のサイズ感覚は多分他の大学とは違ってて。緑ヶ丘のSは他の大学の一般的な1人前くらいだと思います」
「体育学部などの層に対応した結果…?」
「だと思うんですけど」
「サキ」
「なに」
「そちらのすげー綺麗な人は何さん? ラジオ局の人?」
「ああ、俺の先輩スタッフに当たる人で、福井さん。星大の大学院生だよ。インターフェイスの出身で」
「福井です……」
「緑大2年のミキサーで、シノこと篠木智也っす」
「アナウンサーの、ササの友達…?」
「俺の相棒を知ってるんすか!?」
「え、ええと……佐崎君の誕生会に来ていたから、そこで……」
「シノ、初対面の人にそんなにがっつかない」
「あ、すみません」
他の対策委員の子たちに呼ばれると、シノはそれじゃ失礼しますと軽く一礼して慌ただしさの中へと戻っていった。この短い時間の中でわかったのは、彼は美味しい食事にとても興味があるということ……。戻ったかと思ったら、またすぐ戻って来た。
「福井さんすみません」
「……何…?」
「ラジオ局の皆さんはさすがにモニター用紙はお願いできないですよね?」
「必要であれば、私が書くけれど……」
「大丈夫ですか?」
「……ちなみに、どういう感じで書けば……」
「えっとっすね、番組を聞いて――」
「シノ、福井さんが聞いてるのは書き方じゃなくて、どこまで突っ込んで書けばいいかってこと。厳しくしようと思えばどれだけでも厳しく出来るからね」
「あ、そういう」
「……そういう……」
「さすがに誰が辛口モニターを欲しがってるかとかメンタルの強い弱いまでは把握してないんで、ちょっと甘めの中辛くらいでお願いしていいすか。褒めて伸ばしながらちょっとチクッとやる感じで」
「……一般的な、辛さレベルで言う中辛…?」
「ミーナ~、菜月基準で辛さを考えちゃダメよ~」
「あら大変。福井ちゃん、今は菜月ちゃんの顔は思い出さないのよ!」
「……一般的な、ちょっと甘めの中辛……。了解……。佐崎君には、厳しくしても…?」
「それはめっちゃやって下さい。あ、つか俺もお願いしたいっす」
「緑ヶ丘は、少し辛めで……」
「そうっすね、緑ヶ丘は少し辛めでお願いします。そしたら今、対策委員で使ってる名簿持って来ますね」
「……ありがとう」
菜月から、今の子たちは和気藹々としながらも一生懸命練習はしているとは聞いていたけど、本当にそうだと思う。……そうだ、菜月から頼まれていたことを、もうひとつ、このモニター会期間の間にやっておかないといけない。だけど、その子の番組が終わったのを確認してからの方がいいかな……。
end.
++++
菜月さんの顔を思い浮かべながら辛い物の基準を考えると美奈の感覚もバグる。
サキに対する美奈がLだのTKGだのに対するいち氏っぽい。基本的に直属の後輩にはどちゃくそ厳しい。
(phase3)
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