2022
■受け身のコミュニケーション
++++
いよいよインターフェイス夏合宿が始まった。合宿は3日間の日程で行われるそうで、1日目は主に講習を、2日目の夜からは班で作った番組のモニター会という物が始まる。モニター会では番組をみんなの前で発表して講評を受けたり、番組を聞いて気付いたことなんかが書かれたモニター用紙という物が渡されたりするそうだ。
講師を務めるのはMMPのOBのダイさんという方で、3年連続で講師をやっているだけあって合宿の勝手も下手な現役よりわかっているようだ。俺たち一般参加者はと言えば、参加費を払って施設のオリエンテーションを受け、荷物を部屋に持って行ったりと合宿序盤の動きをしているなという実感がある。
「ササ先輩、今からの講習は書く物があれば大丈夫そうな感じですか?」
「そうだね。あと今年は映像の仕事をしてる人が特別講習をしてくれるそうだけど、多分それも書く物だけで大丈夫だと思う」
「映像の講習ですか。やっぱり、それってインターフェイスでも映像の活動を拡大していく流れだからですか」
「そういうことじゃないかな。緑ヶ丘とか向島はまだまだサークルの中で本格的に映像の活動、って感じではないと思うけど、聞いておいて損はないはずだし」
「そうですね」
「ところで、違う大学の人とはもう交流した?」
「交流と言える交流はまだですね。ウチのメンバーだとジャックやパロ、あとうっしーが積極的なんですけど、俺は自分からガツガツ行けなくて。消極的だと埋もれますよね」
「その辺りは個々人の適性もあるから何とも言えないけど。自分から行けなくても誰かが話しかけてくれるパターンもあるし。まあ、チャンスは案外あるよ」
講習までのわずかな時間にも他校の人と交流をしている人もいるようだった。ウチのメンバーはどうしてるかなと周りを見渡すと、コミュニケーションが得意なグループの3人はさっそく知らない人と会話に花を咲かせている。一方で、控えめなグループの殿、それからツッツの様子を見てみれば。
「殿が女子と話をしてる…!?」
「ああ、あれはウチのちむりーだね」
「何の話をしてるんだろう」
「殿はウチじゃ料理上手って評判だから、もしかしたらお菓子作りはやってますかーみたいな質問をしてるのかもしれない。ちむりーは甘い物が好きな子だから」
「殿は確かに料理が上手いですからね……緑ヶ丘でも評判なんですか」
「すがやんがそう言ってたけど」
「やっぱすがやん先輩なんだよなあ」
その手の話の出所がどこなのかと辿ると大体すがやん先輩なんだよなあ。特にMMP情報で言えば他校の人では一番精通してるし。カノン先輩風に言えば半分MMPなだけあって。で、あの人はまたポジティブな人だから、人の評判にしてもプラスプラスにして広めるんだよなあ。悪いことでもないけど、それで期待値が上がり過ぎてもプレッシャーだ。
「ツッツもすがやん先輩のお世話になってたようで。本棚作りを手伝ったとか」
「ああ、LINEに写真上がってたけど凄い本棚だったよ。俺もオーダーメイドで作って欲しいと思ったくらいだし」
「殿とツッツはコミュニケーションが得意じゃない仲間だと思ってたのに、この合宿では他校の人と楽しそうにしてるみたいだし、俺はどうしたらいいやら」
「ジュンも大ちゃんやならっちとは普通に喋ってると思うけど。あと北星とみちるにあれだけ気に入られたのは単純に凄い。俺らの学年の中でも特に癖が強い2人だと思うけど」
「合宿が始まったばっかりでこんな話を聞いてもらってササ先輩には本当に申し訳ないです」
「気にしないでいいのに」
合宿が終わる頃には違う大学の、違う班の人とも話すことが出来ているだろうか。とりあえず、1日目は講習が本題だ。
「ササせんぱーい」
「琉生。どうした?」
「あっ、いた~。向島のジュンくん! お話したいと思ってたんだー」
「えっ…? 何で…?」
「琉生、自己紹介はした方がいいと思うけど」
「あー、そうだー。緑ヶ丘の万谷琉生だよー、よろしくー」
いきなり名指しで話してみたいと思っていたと言われても、困惑しかないんだけど。俺に用があると言ってやって来たのはライトノベルかアニメの世界から飛び出て来たような雰囲気の人だ。スチームパンクっていうんだっけ、蒸気機関とかをモチーフにした退廃的なファッションって。髪も真っ白に脱色してあるし、顔も……これは化粧でそのように作ってるのか? ああもうわからない!
「あっ! 名札にもあの可愛い子いるー」
「え? ああ……。……えっ!?」
「くるみ先輩からー、あの可愛いアニメ見せてもらってー、向島のジュンくんて子が作ったんだよーって聞いてー、話してみたかったんだー」
「ああ……終わりだ……本当に広がってる……」
「ジュン、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです」
「大丈夫ー?」
「あ、いや、俺の事にはお構いなく」
他校の人と交流できるかどうか不安になってたけど、いざ話しかけられたら話しかけられたで不安しかないというのは贅沢なんだろうか。そうか、受け身だとこういうことになるのか? いや、って言うかそもそもあのファイルがどこまで出回ってるのかっていう話で! インターネットこわい!
「そろそろ講習が始まりまーす! 席についてくださーい」
「あー、ざんねーん。もっとお話したかったのにー。また後でねー」
「……ササ先輩、俺はどうしたら」
「琉生自体は悪い子じゃないから」
end.
++++
やっぱりすぐにはコミュニケーションが苦手?なのは克服できないジュン。
でもアナウンサーではあるのだから話すこと自体は特に苦手ではないとは思うのだけど
(phase3)
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いよいよインターフェイス夏合宿が始まった。合宿は3日間の日程で行われるそうで、1日目は主に講習を、2日目の夜からは班で作った番組のモニター会という物が始まる。モニター会では番組をみんなの前で発表して講評を受けたり、番組を聞いて気付いたことなんかが書かれたモニター用紙という物が渡されたりするそうだ。
講師を務めるのはMMPのOBのダイさんという方で、3年連続で講師をやっているだけあって合宿の勝手も下手な現役よりわかっているようだ。俺たち一般参加者はと言えば、参加費を払って施設のオリエンテーションを受け、荷物を部屋に持って行ったりと合宿序盤の動きをしているなという実感がある。
「ササ先輩、今からの講習は書く物があれば大丈夫そうな感じですか?」
「そうだね。あと今年は映像の仕事をしてる人が特別講習をしてくれるそうだけど、多分それも書く物だけで大丈夫だと思う」
「映像の講習ですか。やっぱり、それってインターフェイスでも映像の活動を拡大していく流れだからですか」
「そういうことじゃないかな。緑ヶ丘とか向島はまだまだサークルの中で本格的に映像の活動、って感じではないと思うけど、聞いておいて損はないはずだし」
「そうですね」
「ところで、違う大学の人とはもう交流した?」
「交流と言える交流はまだですね。ウチのメンバーだとジャックやパロ、あとうっしーが積極的なんですけど、俺は自分からガツガツ行けなくて。消極的だと埋もれますよね」
「その辺りは個々人の適性もあるから何とも言えないけど。自分から行けなくても誰かが話しかけてくれるパターンもあるし。まあ、チャンスは案外あるよ」
講習までのわずかな時間にも他校の人と交流をしている人もいるようだった。ウチのメンバーはどうしてるかなと周りを見渡すと、コミュニケーションが得意なグループの3人はさっそく知らない人と会話に花を咲かせている。一方で、控えめなグループの殿、それからツッツの様子を見てみれば。
「殿が女子と話をしてる…!?」
「ああ、あれはウチのちむりーだね」
「何の話をしてるんだろう」
「殿はウチじゃ料理上手って評判だから、もしかしたらお菓子作りはやってますかーみたいな質問をしてるのかもしれない。ちむりーは甘い物が好きな子だから」
「殿は確かに料理が上手いですからね……緑ヶ丘でも評判なんですか」
「すがやんがそう言ってたけど」
「やっぱすがやん先輩なんだよなあ」
その手の話の出所がどこなのかと辿ると大体すがやん先輩なんだよなあ。特にMMP情報で言えば他校の人では一番精通してるし。カノン先輩風に言えば半分MMPなだけあって。で、あの人はまたポジティブな人だから、人の評判にしてもプラスプラスにして広めるんだよなあ。悪いことでもないけど、それで期待値が上がり過ぎてもプレッシャーだ。
「ツッツもすがやん先輩のお世話になってたようで。本棚作りを手伝ったとか」
「ああ、LINEに写真上がってたけど凄い本棚だったよ。俺もオーダーメイドで作って欲しいと思ったくらいだし」
「殿とツッツはコミュニケーションが得意じゃない仲間だと思ってたのに、この合宿では他校の人と楽しそうにしてるみたいだし、俺はどうしたらいいやら」
「ジュンも大ちゃんやならっちとは普通に喋ってると思うけど。あと北星とみちるにあれだけ気に入られたのは単純に凄い。俺らの学年の中でも特に癖が強い2人だと思うけど」
「合宿が始まったばっかりでこんな話を聞いてもらってササ先輩には本当に申し訳ないです」
「気にしないでいいのに」
合宿が終わる頃には違う大学の、違う班の人とも話すことが出来ているだろうか。とりあえず、1日目は講習が本題だ。
「ササせんぱーい」
「琉生。どうした?」
「あっ、いた~。向島のジュンくん! お話したいと思ってたんだー」
「えっ…? 何で…?」
「琉生、自己紹介はした方がいいと思うけど」
「あー、そうだー。緑ヶ丘の万谷琉生だよー、よろしくー」
いきなり名指しで話してみたいと思っていたと言われても、困惑しかないんだけど。俺に用があると言ってやって来たのはライトノベルかアニメの世界から飛び出て来たような雰囲気の人だ。スチームパンクっていうんだっけ、蒸気機関とかをモチーフにした退廃的なファッションって。髪も真っ白に脱色してあるし、顔も……これは化粧でそのように作ってるのか? ああもうわからない!
「あっ! 名札にもあの可愛い子いるー」
「え? ああ……。……えっ!?」
「くるみ先輩からー、あの可愛いアニメ見せてもらってー、向島のジュンくんて子が作ったんだよーって聞いてー、話してみたかったんだー」
「ああ……終わりだ……本当に広がってる……」
「ジュン、大丈夫?」
「大丈夫じゃないです」
「大丈夫ー?」
「あ、いや、俺の事にはお構いなく」
他校の人と交流できるかどうか不安になってたけど、いざ話しかけられたら話しかけられたで不安しかないというのは贅沢なんだろうか。そうか、受け身だとこういうことになるのか? いや、って言うかそもそもあのファイルがどこまで出回ってるのかっていう話で! インターネットこわい!
「そろそろ講習が始まりまーす! 席についてくださーい」
「あー、ざんねーん。もっとお話したかったのにー。また後でねー」
「……ササ先輩、俺はどうしたら」
「琉生自体は悪い子じゃないから」
end.
++++
やっぱりすぐにはコミュニケーションが苦手?なのは克服できないジュン。
でもアナウンサーではあるのだから話すこと自体は特に苦手ではないとは思うのだけど
(phase3)
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