2022
■Transcending History
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「あっ、野坂先輩来てもらってあざっす!」
「カノン、これが例のヤツ。一応不備が無いか確認してもらうのに1部刷って来たからとりあえず見てくれ」
「あざーっす!」
野坂先輩に頼んでいたのは対策委員の都合。夏合宿で必要になるアレの制作だ。俺はインターフェイスじゃアナウンサーとしてやってるからアレというのがどういう物か実はよく知らないんだけど、ミキサーのみんなはアレの話になった瞬間ざわついたり青ざめてたりしてたし楽しいイベントではないというのはわかる。
「ちなみに難易度は今年こそ満点を出させないレベルだな。今の2年ミキサーで言えば、言わずと知れた頭脳派のサキや去年の1年トップ通過のシノ辺りが今年も上位に食い込んで来るだろうと見てるけど」
「いや~、案外奏多がダークホースとして食い込んで来るんじゃないかと俺は信じてるんですけど、どーっすかね?」
「確かにワンチャンあるけど、インターフェイス歴的な部分でどうかなとは」
そう、アレというのは夏合宿恒例ミキサーテスト。毎年その代を代表するミキサーの先輩にテストを作ってもらってるそうなんだ。今年は我らが野坂先輩に作ってもらうのがいいだろうと満場一致で決定したので俺が代表で依頼して作ってもらったってワケだ。
代々テストを作る先輩は、その年を代表するミキサーに満点を出させないレベルで問題を作っているらしい。今のインターフェイスだったらやっぱ緑ヶ丘の高木先輩とかが代表格になんのかなと思う。初心者講習会で講師を務めたくらいだし。でも合宿には参加しないので、表現は悪いけど今の2年だと誰を潰すべきか、というのを考えていたとのこと。
「あ、そうそう。今年のテストはパソコンが試験範囲になってたから、問題自体はタカティにも協力してもらって作ったんだよ」
「えっ、そーなんすか!?」
「番組におけるパソコンの扱い自体は俺もある程度は分かるけど、やっぱその辺は最新事情を拾った方がいいだろうし」
「そうっすね。あと何かインターフェイスのMDストックもいつの間にかほとんどファイル化が終わってたとかで当麻がビビってたっす」
「その辺はさすがタカティだとしか言いようがないんだけど、だからこそパソコンの範囲の問題を監修してもらうのには相応しいだろ」
「違いないっすね」
パソコン範囲の問題はきちんと画面がキャプチャーされた図が載っていたりするし、結構丁寧に作られてんなーっていう印象がある。これまでの問題を見たことがないから何とも言えないんだけど。そーいや対策委員の議事録とかにミキサーテストの過去問って保存されてんのかな?
「パソコンが範囲に入って来るならますます奏多が強いっすね」
「ああ、何か定例会でシステム担当になってるんだろ。サキを定例会の度にブチ切れさせてるみたいな噂は聞くけど」
「あー、奏多とサキの掛け合いはもう挨拶みたいなモンなんで、すがやんすら軽くスルーし始めてますよ」
「すがやんがスルーすんならマジで挨拶なんだな。ちょっと安心した」
「そう、そんで、定例会だけじゃなくてMMPの方でもパソコン関係は大体奏多が担当してるんすよ! ダイさんに頼んで送ってもらってる昔のMDとかもほぼ全部奏多に変換してもらってますもん」
「昔のMDを送ってもらってるだって?」
「そうっす。昔の番組なんてのはどんだけあってもいいっすからね! 古いのだと第3代とか、それっくらいまで集まってるっすよ」
「いや、それは手伝ってやった方がいいと思うけど。あれだけの作業を1人にやらせるとかラブ&ピース以外の何物でもない」
「マジすか。じゃあ合宿が終わったら俺も少しずつ手伝った方がいいっすねー」
「つか、奈々が全部奏多に投げてるような感じなのか?」
「や、昔の番組を集めてんのはマジで俺の独断なんで、奈々先輩はまだ知らない可能性もワンチャン」
「知ってる物だとばかり思ってた。合宿が終わって落ち着いてからでいいから一応奈々にも話は通しとけな。オープンキャンパス関係で集まる機会はあるだろ。学祭は結構OBの人たちが遊びに来るし、その時に話が通じてなかったら大変なことになりかねない」
「そうっすね。すんません、話しときます」
何か事を起こす時にはちゃんと代表に話を通しなさいというのを改めて注意され、今度からはちゃんとしないとなーと反省をする。問題はそれをいつまで覚えていられるかだ。思いついた次の瞬間にはもうビュッと動き出してたいっていうか。奈々先輩に伝えるっていうことがスコーンと頭から抜けちまうんだよなー。
サークルの現場とかだと大体鳥ちゃんや奏多がツッコミを入れてくれるから何とかなってる感があるけど、俺1人になるとそーゆーところの分別じゃないけど、動き出す前に一旦考えるってことが出来ないんだよな。今はまだ大きなトラブルにはなってないけど、これからのことを考えたら直さなきゃいけないクセだよなー、来期のことも考えたら。
「一通り目は通したんすけど、誤字とかもないと思いますし、こんな感じでいいと思います」
「難易度はどう?」
「う~んって感じっす。俺が今アナウンサーモードだからだとは思うんすけど」
「そうか。ならこれで行こう。まあ、俺が問題を作ってるんだからMMPメンバーは余裕で合格して然るべきだな」
「ええ~……どうっすかねえ…?」
「いや、俺の現役の時より今の方が真面目に練習してんだからペーパーテストだろうとやれて当然だろ、意味がわからない」
「多分俺知ってるんすけど、野坂先輩の基準でペーパーテストを語っちゃいけないんと思うんすよ!?」
「それを知ってて俺に問題制作を頼む方が悪い」
「まあ野坂先輩ってそういう人っすよね!」
「これまでの先輩方もみんなこのテストの問題制作に関しては心を鬼にして下さってたんだぞ。俺が温いことをしてどうする。決して一定数はちゃんと罰ゲームが出るようになんて思っていないぞ」
「出るようにって思ってるんすね」
「いや、俺も一昨年対策委員の時に聞いてドン引きしたんだけど、このミキサーテスト自体が余興のような物で、罰ゲームを受ける人を見て楽しむ目的で始まったそうなんだ」
「ええー……昔って今よりプロ意識が高くってメチャクチャ殺伐としてたんじゃないんすか?」
「うーん、だからこその息抜き要素だったのかもしれないし、その辺のことはもう知る由もないんだけど。ミキサーテストがある程度の難易度になってる理由はこれでわかったな」
「わかったっす……」
鳥ちゃんとかが聞いたら卒倒しそうな理由だけど、やっぱり物事には歴史があるんだなーっつーのはわかった。あと、ウチの4人にはぜひとも頑張って欲しいし、何となくだけどジュンはアナウンサーで良かったような気がする。
「まあ、今年の問題が鬼だなんだと言われても、タカティの手が入ってる時点で俺だけが悪いワケじゃないとは主張しておいてくれ」
end.
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今年の問題制作はもちろんノサカ。ノサカ基準のペーパーテストとか想像したくもない。
(phase3)
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「あっ、野坂先輩来てもらってあざっす!」
「カノン、これが例のヤツ。一応不備が無いか確認してもらうのに1部刷って来たからとりあえず見てくれ」
「あざーっす!」
野坂先輩に頼んでいたのは対策委員の都合。夏合宿で必要になるアレの制作だ。俺はインターフェイスじゃアナウンサーとしてやってるからアレというのがどういう物か実はよく知らないんだけど、ミキサーのみんなはアレの話になった瞬間ざわついたり青ざめてたりしてたし楽しいイベントではないというのはわかる。
「ちなみに難易度は今年こそ満点を出させないレベルだな。今の2年ミキサーで言えば、言わずと知れた頭脳派のサキや去年の1年トップ通過のシノ辺りが今年も上位に食い込んで来るだろうと見てるけど」
「いや~、案外奏多がダークホースとして食い込んで来るんじゃないかと俺は信じてるんですけど、どーっすかね?」
「確かにワンチャンあるけど、インターフェイス歴的な部分でどうかなとは」
そう、アレというのは夏合宿恒例ミキサーテスト。毎年その代を代表するミキサーの先輩にテストを作ってもらってるそうなんだ。今年は我らが野坂先輩に作ってもらうのがいいだろうと満場一致で決定したので俺が代表で依頼して作ってもらったってワケだ。
代々テストを作る先輩は、その年を代表するミキサーに満点を出させないレベルで問題を作っているらしい。今のインターフェイスだったらやっぱ緑ヶ丘の高木先輩とかが代表格になんのかなと思う。初心者講習会で講師を務めたくらいだし。でも合宿には参加しないので、表現は悪いけど今の2年だと誰を潰すべきか、というのを考えていたとのこと。
「あ、そうそう。今年のテストはパソコンが試験範囲になってたから、問題自体はタカティにも協力してもらって作ったんだよ」
「えっ、そーなんすか!?」
「番組におけるパソコンの扱い自体は俺もある程度は分かるけど、やっぱその辺は最新事情を拾った方がいいだろうし」
「そうっすね。あと何かインターフェイスのMDストックもいつの間にかほとんどファイル化が終わってたとかで当麻がビビってたっす」
「その辺はさすがタカティだとしか言いようがないんだけど、だからこそパソコンの範囲の問題を監修してもらうのには相応しいだろ」
「違いないっすね」
パソコン範囲の問題はきちんと画面がキャプチャーされた図が載っていたりするし、結構丁寧に作られてんなーっていう印象がある。これまでの問題を見たことがないから何とも言えないんだけど。そーいや対策委員の議事録とかにミキサーテストの過去問って保存されてんのかな?
「パソコンが範囲に入って来るならますます奏多が強いっすね」
「ああ、何か定例会でシステム担当になってるんだろ。サキを定例会の度にブチ切れさせてるみたいな噂は聞くけど」
「あー、奏多とサキの掛け合いはもう挨拶みたいなモンなんで、すがやんすら軽くスルーし始めてますよ」
「すがやんがスルーすんならマジで挨拶なんだな。ちょっと安心した」
「そう、そんで、定例会だけじゃなくてMMPの方でもパソコン関係は大体奏多が担当してるんすよ! ダイさんに頼んで送ってもらってる昔のMDとかもほぼ全部奏多に変換してもらってますもん」
「昔のMDを送ってもらってるだって?」
「そうっす。昔の番組なんてのはどんだけあってもいいっすからね! 古いのだと第3代とか、それっくらいまで集まってるっすよ」
「いや、それは手伝ってやった方がいいと思うけど。あれだけの作業を1人にやらせるとかラブ&ピース以外の何物でもない」
「マジすか。じゃあ合宿が終わったら俺も少しずつ手伝った方がいいっすねー」
「つか、奈々が全部奏多に投げてるような感じなのか?」
「や、昔の番組を集めてんのはマジで俺の独断なんで、奈々先輩はまだ知らない可能性もワンチャン」
「知ってる物だとばかり思ってた。合宿が終わって落ち着いてからでいいから一応奈々にも話は通しとけな。オープンキャンパス関係で集まる機会はあるだろ。学祭は結構OBの人たちが遊びに来るし、その時に話が通じてなかったら大変なことになりかねない」
「そうっすね。すんません、話しときます」
何か事を起こす時にはちゃんと代表に話を通しなさいというのを改めて注意され、今度からはちゃんとしないとなーと反省をする。問題はそれをいつまで覚えていられるかだ。思いついた次の瞬間にはもうビュッと動き出してたいっていうか。奈々先輩に伝えるっていうことがスコーンと頭から抜けちまうんだよなー。
サークルの現場とかだと大体鳥ちゃんや奏多がツッコミを入れてくれるから何とかなってる感があるけど、俺1人になるとそーゆーところの分別じゃないけど、動き出す前に一旦考えるってことが出来ないんだよな。今はまだ大きなトラブルにはなってないけど、これからのことを考えたら直さなきゃいけないクセだよなー、来期のことも考えたら。
「一通り目は通したんすけど、誤字とかもないと思いますし、こんな感じでいいと思います」
「難易度はどう?」
「う~んって感じっす。俺が今アナウンサーモードだからだとは思うんすけど」
「そうか。ならこれで行こう。まあ、俺が問題を作ってるんだからMMPメンバーは余裕で合格して然るべきだな」
「ええ~……どうっすかねえ…?」
「いや、俺の現役の時より今の方が真面目に練習してんだからペーパーテストだろうとやれて当然だろ、意味がわからない」
「多分俺知ってるんすけど、野坂先輩の基準でペーパーテストを語っちゃいけないんと思うんすよ!?」
「それを知ってて俺に問題制作を頼む方が悪い」
「まあ野坂先輩ってそういう人っすよね!」
「これまでの先輩方もみんなこのテストの問題制作に関しては心を鬼にして下さってたんだぞ。俺が温いことをしてどうする。決して一定数はちゃんと罰ゲームが出るようになんて思っていないぞ」
「出るようにって思ってるんすね」
「いや、俺も一昨年対策委員の時に聞いてドン引きしたんだけど、このミキサーテスト自体が余興のような物で、罰ゲームを受ける人を見て楽しむ目的で始まったそうなんだ」
「ええー……昔って今よりプロ意識が高くってメチャクチャ殺伐としてたんじゃないんすか?」
「うーん、だからこその息抜き要素だったのかもしれないし、その辺のことはもう知る由もないんだけど。ミキサーテストがある程度の難易度になってる理由はこれでわかったな」
「わかったっす……」
鳥ちゃんとかが聞いたら卒倒しそうな理由だけど、やっぱり物事には歴史があるんだなーっつーのはわかった。あと、ウチの4人にはぜひとも頑張って欲しいし、何となくだけどジュンはアナウンサーで良かったような気がする。
「まあ、今年の問題が鬼だなんだと言われても、タカティの手が入ってる時点で俺だけが悪いワケじゃないとは主張しておいてくれ」
end.
++++
今年の問題制作はもちろんノサカ。ノサカ基準のペーパーテストとか想像したくもない。
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