2022

■Previous Synopsis

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「ダイさんお疲れさまです!」
「お疲れー。何か頼んだ?」
「あ、まだっす」
「そっかそっか」

 対策委員の会議とは別件で、ダイさんと会わせてもらってる。それというのも、MMPでも進めてる番組の音声ファイル化についての話だった。ウチも緑ヶ丘に倣ってパソコンを導入して、手持ちの番組や音源を奏多にファイル化してもらってる。だけど、ファイル一覧を見るとどーも物足りないって言うか。
 その原因はわかっていた。MMPの昼放送はMDに録音した物を学食の機材で再生する形を取っていた。そうなったのも割と最近の話で、その前は生放送でやっていたそうだ。生放送時代もMDで同録を録りながらやっていたとか。だけど、番組を記録したMDはサークル室に保管するんじゃなくてミキサーがそれぞれ持っているらしく、散り散りバラバラ状態。
 4年生の先輩が持っている番組は何とかかき集めることが出来たけど、それ以前の番組となると俺にはどうしようもない。この間卒業していった先輩たちはみんなアナウンサーだから昼放送の音源はあまり持っていないだろうとは4年生の先輩たちが言っていた。だけど過去の番組には興味しかない。そこで、使わせてもらっているのが大先輩との縁だ。

「はいカノン。これがブツね」
「ありがとうございます。いつも思うんすけど、ダイさんが丁寧にいつの誰の番組か書いてくれるんで本当に助かってます」
「それが現役の子たちのためになるなら大した労力じゃないよ」
「中見ていーすか?」
「どーぞどーぞ」
「えっと…? これが第6代の頃の3年生のシロさんて人のディスクで…? こっちが、3代! 結構前っすねー」
「俺が5代の頃の3年だから、第3代って言ったら俺の2個上になんのかな。馬場ちゃんとか啓ちゃんの代の」
「へぇ~……サークルに歴史ありっすねー。そしたら今って、第10代の記念すべき代なんすね!」
「そうだねえ。一時はどうなるかと思ったけどサークルの勢いも盛り返すどころか一気に越えてった感があるし。頑張ってるよねえ」

 俺がダイさんにお願いしたのは、歴代の先輩たちが持っている番組を収録したディスクを良ければ送ってもらえませんかということだった。思い出とか記念として持っていたい人もいるのかもしれないけど、正直今の時代でMDを聞き返すかと言えば、微妙なところだ。それでダイさんに頼んで俺じゃ手の届かない人たちに声をかけてもらってるんだ。
 声はかけてみるもので、結構な枚数のディスクが送られて来た。ファイル変換なんかはこちらでやるのでとにかくブツを、と頼んだ結果だ。奏多からは何でブツをそのまま送らせるんだとクレームを受けたけど、文句を言いながらも何だかんだ変換作業をやってくれているので本当に助かっている。昼放送に限らずファンフェスや夏合宿、そしてスキー場DJの物まであって最高だぜ!

「ダイさんご無沙汰でーす」
「お久し振りです」
「うぉわっ、圭斗先輩! ご無沙汰してます!」
「相変わらず元気そうだね、カノン」
「圭斗先輩が何で?」
「俺が呼んだの。せっかくだしね。カノンってマーとは面識あったっけ? 去年の夏合宿には行ってるっしょ?」
「や、ちゃんと話したことはないっすね」
「じゃあ今紹介しとくよ。カノン、これが第7代MMPの代表会計だったミキサーのマー」
「僕や菜月さんが時折村井のおじちゃんと言っていた悪乗り発生の根源、その人だよ」
「噂の! えっと、自分は2年の春日井希って言います。DJネームはカノンっす」
「カノンのこともおじちゃんは噂には聞いてるよ。俺は村井博正っつーんだよ。ま、おじちゃんとかマーとか適当に呼んでよ」

 ダイさんによれば村井さんと圭斗先輩は悪友のような感じでメチャクチャ仲が良くて、たまに会って飯食ったり飲んだりする間柄なんだそうだ。それだったらこっちにも呼びやすいやっつーことで声を掛けたら快く来てくれたって話だ。……圭斗先輩とこんな風に会ったって野坂先輩にバレたらめんどくさくなりそうだ。

「はいカノン、ダイさんから頼まれてた例のヤツ」
「僕はアナウンサーだからあまり持ち合わせてないんだけど、特殊イベントの物であればどうぞ」
「わー! ありがとうございます! へー、圭斗先輩はスキー場にも行ってるんすね!」
「スキー場に行っていたのは僕たちの学年までだね。ちなみに、僕は菜月さんと同じ班だったしMMP的にはまあまあ貴重な資料じゃないかな」
「マジっすね! さすが圭斗先輩っす!」
「ところで、今のMMPってどんな感じでやってんの? パソコンに番組取り込んでいつでも聞けるようにしてるとはダイさんから聞いたけど。つか今の3年って野坂らの下ってことは奈々しかいないんしょ?」
「そうっすね。3年生は奈々先輩だけっすけど2年は4人になりましたし、1年も6人います」
「えっ、めっちゃ大所帯ね?」
「美男美女コンビが僕たちの卒業間際に入って来たところまでは知ってたけど、さらに増えたんだね」
「そーなんすよ。技術的な練習も結構ゴリゴリやるようになりましたし」
「ナ、ナンダッテー!?」
「あと今年は4年生のミキサーの先輩たちがサークルに襲撃して来てうまい棒レースも開催されたっす。すがやんにMMPの洗礼を浴びせるんだーっつって」
「さすが、ギリギリムライズムを知ってる連中だ、やってくれたようだね。しかしまあすがやんは大分可愛がられてるようで」
「ホントっすよねえ。下手したら俺より構われてる説あるっすよ」
「ナニナニ、すがやんて誰? 1年? 2年?」
「去年ウチに人がいなさ過ぎて、緑ヶ丘から人を借りて昼放送を回してたそうなんですよ。文化交流の名目で週1で留学しに来ていた緑ヶ丘の子です。陰の空気が蔓延るウチには似付かないいい子でしてね」

 去年から今にかけてのことを村井さんに話すと、真面目にやるようにはなってるけど本質的には全然変わってないのねと安心してるような感じにも見受けられた。奈々先輩は村井さんが4年生の時の1年生で、あの子がサークルの代表としてちゃんとやってるんだねとすっごいしみじみしてるようにも見える。

「今くらいの時期だったら夏合宿なのは変わんない?」
「そっすね。でも今度の夏合宿じゃ映像についての話もちょっと入ってきますし、モニター会にはFMにしうみの人たちも見に来るって話なんす」
「やっぱインターフェイスもちょっとずつ変わってんねえ」
「FMにしうみって言うと、美奈がバイトをしているコミュニティ局だね。またどうしたんだい?」
「何か、去年緑ヶ丘の高崎先輩がやってた番組が好評だったとかで、学生番組の枠を作ることになったそうなんす。インターフェイスで興味がある人がいればっていうんで、どんなモンか見に来るそうで」
「僕たちがいなくなってからそういう話が来るんだもんなあ」
「圭斗先輩、やりたかったんすか?」
「いや、そうじゃないんだけどね」
「圭斗は定例会が外に向けた活動をやる機会を探してる時の議長だったから、自分の成果が欲しかったっつーだけの話な。やーい怠惰で定例会を財政難に陥らせた無能議長~」
「うっせえぞ村井! テキトー扱いてんじゃねーぞコラァ」
「圭斗テメー! それが先輩に対する態度かー!」
「でも圭斗先輩はウチじゃ祀られるレベルの人として語り継がれてますよ」
「どうせ野坂の犯行だろ?」
「いえ、奈々先輩すね。そんでサークル室にいるケイトくんてぬいぐるみが金運と仕事運学業運、あと恋愛運に料理の腕が伸びる神として安置されてます」
「だーっはっはっは! 愛の伝道師が出世したなあ! 恋愛運と料理はわかるけど後は何?」
「金運は向舞祭のボランティアが無償から時給制になったときの功績で、仕事と学業は就職先とか大学のパンフレットに載った人っつーアレっす」

 1年生たちとケイトくんのエピソードに圭斗先輩より上の先輩が大爆笑している。でも彼女とお金欲しさにうっしーがケイトくんを抱いてたり、ジャックが包丁を握る右腕を撫でてたりする。ジュンもテスト前には拝んでる様子だったからみんなそれぞれケイトくんに対して何らかの信仰があるみたいだ。

「とりあえず、面白いことになってるみたいだし、学祭には顔を出してみようかな」
「あっ、ぜひ来てくださいよ! 今年はロボコンの方の年なんで、鳥ちゃんも頑張ってるんすよ」
「そう言えば野坂もロボコンに出ると言っていたね。アイツの晴れ舞台だし、菜月さんにも声をかけてみるかあ」
「そんなことになったら野坂のことだし死ぬんじゃね?」
「あり得るねえ。でもロボコンと言えば2年に1度の祭典だし、燃える奴は燃えるからねえ」
「圭斗先輩も村井さんも、ワンチャン夏合宿のモニター会はどうっすか」
「僕が現在4年なら考えたけど、今年は遠慮しておくよ。合宿は普通に平日だろう?」
「あ、そうっした。フツーは働いてますよね」
「何はともあれMMPが元気そうで何よりだよ」
「この分だと来期も安泰でしょうしね」


end.


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久々の圭斗さん。あと村井のおじちゃん。この2人が揃うといつものヤツをやりたいし軽いノリで招集できるのはさすダイ
圭斗さんの怠惰で定例会の財政が危機的状況になったのは事実だけど、そのおかげで改革が進んだとも言えなくはない

(phase3)

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