2022
■ソウルマイキッチン
++++
「いっちー先輩ご無沙汰してまーす! 改めましてご結婚おめでとうございます!」
「いらっしゃい。さ、たくさん用意してるから上がって上がって」
「お邪魔しまーす」
大学を卒業してからは初めてになるかな、果林がうちに遊びに来た。ただ遊びに来たと言うよりは就活に関する大事な話があるという風には聞いてるけど、果林が来るならご飯に気合を入れたくなりますよね。というワケで今日は久々に本気を出せてめちゃくちゃ楽しい。来てもらうのにわざわざ俺の休みの日を指定したくらいだしね。
「千葉ちゃんいらっしゃーい」
「慧梨夏さんもその節はお世話になりました!」
「今日は千葉ちゃん来るからってカズもすっごい気合入れてくれてるから! どんどん食べてね」
「それを楽しみに来てるんですよ~! いっちー先輩のごはんが久し振りに食べられる喜び! 慧梨夏さんはこれが毎日なんですよね? 羨まし過ぎます!」
「いいでしょ~」
「いいなぁ~」
就活を始めた果林が目星を付けたのは慧梨夏と同じ、イベント関係の業界だった。対策委員だとか佐藤ゼミの活動を経て、自分はこうやって何かを為すために走り回ってるのが好きで、これからもやっていきたいことなんだなって思ったとか何とか。それで何社かOB訪問をした中に慧梨夏がいたって感じですっかり仲良くなったみたいだ。
「お箸が5膳ってことは、あと2人来る感じですか?」
「そう。せっかく気合を入れて作った料理だしね。絶対来て欲しい人が1人と、果林をお祝い……でいいんだよね?」
「あっはい、ありがとうございます、今日の本題は就職終わりましたって話です」
「だよね。一緒にお祝いしたい人が1人と」
そうこうしてたらインターホンが鳴った。どっちかな? はーいと玄関に出たら2人ともだったからこれは好都合。
「伊東、来たぞ」
「カズ、伊東さんお疲れ」
「カオちゃんプチ残業お疲れー」
「高ピー先輩と朝霞P先輩が一緒に登場とか変な感じしますねー。大学時代これといった接点ありました?」
「コイツがいるってことが完全に嫌な予感しかしねえ」
「だーいじょうぶだって。俺は明日東都だしそこまで飲むつもりないから」
「お前の大丈夫ほど信用ならない言葉はねえ」
噂にはチラッと聞いたけど、最近拳悟主催の飲みの場で高ピーはカオルに結構してやられたみたいで完全にトラウマの滲んだ顔をしてるよね。果林が言うように大学時代は目立った接点はなかったように思うけど、社会人になってからはちょこちょこ顔を合わせてるみたいだし。仲良くなると案外良コンビになりそうだけどな。
「果林の内定のお祝いってことでめっちゃ気合入れたから。高ピーもカオルも今日はどんどん食べてね」
「これって弁当サブスクの晩飯権消費?」
「ノーカン」
「マジか。あざっす」
「俺は明日休みだからな、しこたまやるかな」
「アタシも夏休み中の学生なんでしこたまやりまーす」
「俺は明日普通に出勤なんで程々にやりまーす。じゃ、どうぞー」
「いただきまーす!」
ここからが俺の戦いだ。お酒に関してはMBCCの無制限飲み制度で好きにしてもらう感じだけど、料理だね。めちゃくちゃ食べる高ピーと果林の2人がいて、何気に延々と食べ続けるカオルもいるからね。久々に楽しいよね、この戦争じみた宅飲みの雰囲気。って言うかこれをやるために家選びではキッチンにこだわったとも言える。
「伊東がずっと台所に籠ってる感じが懐かしいな」
「ホントですよねー」
「ずっと台所にいさせるのも申し訳ない感がちょっとあるけどな」
「へーきへーき。カズはここ最近で一番楽しんでるし燃えてるから。うちとカオちゃんのお弁当作りもそれはそれで楽しいけど、高崎クンと千葉ちゃんっていう猛者とリアルタイムで戦ってる感が必要なんだよやっぱり」
「ああ、それで果林、就活終わったって?」
「そうなんですよ! 慧梨夏さんと朝霞P先輩のいる御社にお世話になりまーす!」
「弊社ですか!」
「おめでとう!」
聞こえて来た話に、これは楽しくなりそうだねと思う。もちろん同じ会社に入ったからってそう都合よく同じ部署とかチームにはならないとは思うけど、知った子がいるっていうのは何となく心強い感じがあるからね。でも慧梨夏とカオルの様子を見てると大変なりに楽しそうだし、果林もやっていけるんじゃないかなとは思う。
「果林がイベントか」
「アタシは朝霞P先輩みたく自分がゴリゴリに企画を打ち立てるってタイプじゃないですけど、そうやって上がって来た物を実現するために現場を走り回ってたいんですよねー」
「なるほどな。確かにお前は企画ってよりそれより後ろのイメージはある」
「就活終わりってことは、今から残りの大学生活は悠々自適だねえ。千葉ちゃんはさすがに単位ほぼ取っちゃってるでしょ?」
「ですねー。夏休みの間に1回紅社にでも行って来ようかなって計画は立ててますけど」
「紅社かー。1回ゆっくり観光したい土地ではあるよなー。でも何で紅社?」
「前にノリでタカちゃんと長い休みに1回遊びに行くから美味しい物食べに連れてってねって話をしてたんですよ。そのタイミングを取るなら今だなって思って」
「ああ、高木か。そういやアイツどうしてんだ」
「それなりに元気にやってるんじゃないですかね? 今年はゆっくり実家に戻れるみたいですし」
「ああ、インターフェイス関係の行事はもうノータッチか」
「さすがに3年生にもなればそうなりますよ」
「アイツが3年か」
「そうですよ~、タカちゃんも3年生ですしシノが対策委員の議長やってる時代なんですから」
「あ!? 今年の議長は智也か」
あのシノが対策委員の議長をやってるって聞くと何だか感慨深いね。今の2年生の子たちが来たときには俺たちも引退済みだったからそこまでガッツリとした絡みはなかったけど、シノに関してはまあまあ強烈な最初の印象があるからね。その印象が結構そそっかしかったり落ち着きがなかったっていうのもあって、俺も高ピーと同じくらい驚いてるよね。
「とりあえずだし巻き卵と~、豚の角煮と~、パリパリチーズフライで~す」
「いいねえ」
「さすがですいっちー先輩わかってる!」
「とりあえず最低限食う分を確保しといてっと……」
「おい朝霞お前明らかに取り過ぎだろ」
「いや、ちゃんと食う分を取った。それ以上いちゃもん付けるならお前の持って来たビールを片っ端から飲み尽してもいいんだぞ」
「それだけは絶対にやめろ。やった瞬間窓から放り投げるからな」
「投げれるモンなら投げてみろ。お前の首にしがみついて離れてやらねーからな」
「ふざけんなこのクソコアラが」
「高ピー先輩と朝霞P先輩がしょーもないことで結構バチバチなんですよねー」
「食の恨みをお前がしょうもないとか言えた筋か」
「果林にだけは言われたくないよなあ」
「って言うか朝霞P先輩、会社の周辺にアタシが満足出来そうなお食事処とかってありますかね? お昼とか」
「悪い、俺カズの弁当食わしてもらってるから結局ランチのことはあんま詳しくないんだよな」
「ズルい人がもう1人いた! いっちー先輩のごはん週5とかで食べてる人にここのごはんを譲る気ないでーす」
これは果林のペースが上がりそうな感じかな? もちろん対応出来るように用意はしてるから、どんどん上げてもらっていいんだけどね。臨むところです。って言うか高ピーとカオルだよ。本当にしょうもないことでバチバチだよなあ。まあ、この程度ならまだ可愛い程度なんだろうけどね。
「慧梨夏、これ運んでくれる? 順番ミスった感はあるけど」
「はーい。サラダですよー」
「おっ、いいね」
「サラダ食べまーす」
「次はコロッケが出て来る感じだね」
「宮ちゃん、ネタバレ厳禁だぞ。何が出てくんのかなって楽しみにする時間も楽しいんだぞ」
「大変申し訳ありませんでした!」
end.
++++
高崎の中でPさんがもう完全にクソコアラ。後日慧梨夏がこれ見よがしにコアラのマーチとか食べてるといい。
高崎がこの場のネタバレを嫌う感じがカンDの音楽祭ネタバレ厳禁くらいの理不尽さをちょっと感じる
(phase3)
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「いっちー先輩ご無沙汰してまーす! 改めましてご結婚おめでとうございます!」
「いらっしゃい。さ、たくさん用意してるから上がって上がって」
「お邪魔しまーす」
大学を卒業してからは初めてになるかな、果林がうちに遊びに来た。ただ遊びに来たと言うよりは就活に関する大事な話があるという風には聞いてるけど、果林が来るならご飯に気合を入れたくなりますよね。というワケで今日は久々に本気を出せてめちゃくちゃ楽しい。来てもらうのにわざわざ俺の休みの日を指定したくらいだしね。
「千葉ちゃんいらっしゃーい」
「慧梨夏さんもその節はお世話になりました!」
「今日は千葉ちゃん来るからってカズもすっごい気合入れてくれてるから! どんどん食べてね」
「それを楽しみに来てるんですよ~! いっちー先輩のごはんが久し振りに食べられる喜び! 慧梨夏さんはこれが毎日なんですよね? 羨まし過ぎます!」
「いいでしょ~」
「いいなぁ~」
就活を始めた果林が目星を付けたのは慧梨夏と同じ、イベント関係の業界だった。対策委員だとか佐藤ゼミの活動を経て、自分はこうやって何かを為すために走り回ってるのが好きで、これからもやっていきたいことなんだなって思ったとか何とか。それで何社かOB訪問をした中に慧梨夏がいたって感じですっかり仲良くなったみたいだ。
「お箸が5膳ってことは、あと2人来る感じですか?」
「そう。せっかく気合を入れて作った料理だしね。絶対来て欲しい人が1人と、果林をお祝い……でいいんだよね?」
「あっはい、ありがとうございます、今日の本題は就職終わりましたって話です」
「だよね。一緒にお祝いしたい人が1人と」
そうこうしてたらインターホンが鳴った。どっちかな? はーいと玄関に出たら2人ともだったからこれは好都合。
「伊東、来たぞ」
「カズ、伊東さんお疲れ」
「カオちゃんプチ残業お疲れー」
「高ピー先輩と朝霞P先輩が一緒に登場とか変な感じしますねー。大学時代これといった接点ありました?」
「コイツがいるってことが完全に嫌な予感しかしねえ」
「だーいじょうぶだって。俺は明日東都だしそこまで飲むつもりないから」
「お前の大丈夫ほど信用ならない言葉はねえ」
噂にはチラッと聞いたけど、最近拳悟主催の飲みの場で高ピーはカオルに結構してやられたみたいで完全にトラウマの滲んだ顔をしてるよね。果林が言うように大学時代は目立った接点はなかったように思うけど、社会人になってからはちょこちょこ顔を合わせてるみたいだし。仲良くなると案外良コンビになりそうだけどな。
「果林の内定のお祝いってことでめっちゃ気合入れたから。高ピーもカオルも今日はどんどん食べてね」
「これって弁当サブスクの晩飯権消費?」
「ノーカン」
「マジか。あざっす」
「俺は明日休みだからな、しこたまやるかな」
「アタシも夏休み中の学生なんでしこたまやりまーす」
「俺は明日普通に出勤なんで程々にやりまーす。じゃ、どうぞー」
「いただきまーす!」
ここからが俺の戦いだ。お酒に関してはMBCCの無制限飲み制度で好きにしてもらう感じだけど、料理だね。めちゃくちゃ食べる高ピーと果林の2人がいて、何気に延々と食べ続けるカオルもいるからね。久々に楽しいよね、この戦争じみた宅飲みの雰囲気。って言うかこれをやるために家選びではキッチンにこだわったとも言える。
「伊東がずっと台所に籠ってる感じが懐かしいな」
「ホントですよねー」
「ずっと台所にいさせるのも申し訳ない感がちょっとあるけどな」
「へーきへーき。カズはここ最近で一番楽しんでるし燃えてるから。うちとカオちゃんのお弁当作りもそれはそれで楽しいけど、高崎クンと千葉ちゃんっていう猛者とリアルタイムで戦ってる感が必要なんだよやっぱり」
「ああ、それで果林、就活終わったって?」
「そうなんですよ! 慧梨夏さんと朝霞P先輩のいる御社にお世話になりまーす!」
「弊社ですか!」
「おめでとう!」
聞こえて来た話に、これは楽しくなりそうだねと思う。もちろん同じ会社に入ったからってそう都合よく同じ部署とかチームにはならないとは思うけど、知った子がいるっていうのは何となく心強い感じがあるからね。でも慧梨夏とカオルの様子を見てると大変なりに楽しそうだし、果林もやっていけるんじゃないかなとは思う。
「果林がイベントか」
「アタシは朝霞P先輩みたく自分がゴリゴリに企画を打ち立てるってタイプじゃないですけど、そうやって上がって来た物を実現するために現場を走り回ってたいんですよねー」
「なるほどな。確かにお前は企画ってよりそれより後ろのイメージはある」
「就活終わりってことは、今から残りの大学生活は悠々自適だねえ。千葉ちゃんはさすがに単位ほぼ取っちゃってるでしょ?」
「ですねー。夏休みの間に1回紅社にでも行って来ようかなって計画は立ててますけど」
「紅社かー。1回ゆっくり観光したい土地ではあるよなー。でも何で紅社?」
「前にノリでタカちゃんと長い休みに1回遊びに行くから美味しい物食べに連れてってねって話をしてたんですよ。そのタイミングを取るなら今だなって思って」
「ああ、高木か。そういやアイツどうしてんだ」
「それなりに元気にやってるんじゃないですかね? 今年はゆっくり実家に戻れるみたいですし」
「ああ、インターフェイス関係の行事はもうノータッチか」
「さすがに3年生にもなればそうなりますよ」
「アイツが3年か」
「そうですよ~、タカちゃんも3年生ですしシノが対策委員の議長やってる時代なんですから」
「あ!? 今年の議長は智也か」
あのシノが対策委員の議長をやってるって聞くと何だか感慨深いね。今の2年生の子たちが来たときには俺たちも引退済みだったからそこまでガッツリとした絡みはなかったけど、シノに関してはまあまあ強烈な最初の印象があるからね。その印象が結構そそっかしかったり落ち着きがなかったっていうのもあって、俺も高ピーと同じくらい驚いてるよね。
「とりあえずだし巻き卵と~、豚の角煮と~、パリパリチーズフライで~す」
「いいねえ」
「さすがですいっちー先輩わかってる!」
「とりあえず最低限食う分を確保しといてっと……」
「おい朝霞お前明らかに取り過ぎだろ」
「いや、ちゃんと食う分を取った。それ以上いちゃもん付けるならお前の持って来たビールを片っ端から飲み尽してもいいんだぞ」
「それだけは絶対にやめろ。やった瞬間窓から放り投げるからな」
「投げれるモンなら投げてみろ。お前の首にしがみついて離れてやらねーからな」
「ふざけんなこのクソコアラが」
「高ピー先輩と朝霞P先輩がしょーもないことで結構バチバチなんですよねー」
「食の恨みをお前がしょうもないとか言えた筋か」
「果林にだけは言われたくないよなあ」
「って言うか朝霞P先輩、会社の周辺にアタシが満足出来そうなお食事処とかってありますかね? お昼とか」
「悪い、俺カズの弁当食わしてもらってるから結局ランチのことはあんま詳しくないんだよな」
「ズルい人がもう1人いた! いっちー先輩のごはん週5とかで食べてる人にここのごはんを譲る気ないでーす」
これは果林のペースが上がりそうな感じかな? もちろん対応出来るように用意はしてるから、どんどん上げてもらっていいんだけどね。臨むところです。って言うか高ピーとカオルだよ。本当にしょうもないことでバチバチだよなあ。まあ、この程度ならまだ可愛い程度なんだろうけどね。
「慧梨夏、これ運んでくれる? 順番ミスった感はあるけど」
「はーい。サラダですよー」
「おっ、いいね」
「サラダ食べまーす」
「次はコロッケが出て来る感じだね」
「宮ちゃん、ネタバレ厳禁だぞ。何が出てくんのかなって楽しみにする時間も楽しいんだぞ」
「大変申し訳ありませんでした!」
end.
++++
高崎の中でPさんがもう完全にクソコアラ。後日慧梨夏がこれ見よがしにコアラのマーチとか食べてるといい。
高崎がこの場のネタバレを嫌う感じがカンDの音楽祭ネタバレ厳禁くらいの理不尽さをちょっと感じる
(phase3)
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