2022
■お兄さんの目線で
++++
「おお~っ、ここが向島大学の拠点! ひっろー!」
「ここに来るまでが遠いっつーのが玉に瑕だけどな」
「この棚すっごー!」
「それはツッツ作の収納カウンターだな」
「つっつん凄いねえ!」
インターフェイス夏合宿に向けて班だのペアだのでの打ち合わせやら練習やらをしておけ、という感じでちとせ率いるウチの班もちょこちょこやってはいる。まあ、みんながみんな集合出来る日っつーのはそこまで多くないから、そういう合間を縫ってペア練習をしたりするのがいいんだろう。向舞祭もあるし盆明けまではバタバタしてるからな。
今年のインターフェイスは人数が増えた上に1年が既に実戦デビューしてる向島に注目、みたいな風に言われてるそうだ。でも1、2年10人のうち夏合宿経験があるのはかっすーだけだ。レベルを上げるのに実戦は確かに大事だけど、それでも合宿の番組っつーのがどういう感じで行われてるのかとかの情報が無いと立ち行かないんだよな。
今日は俺がペアを組んでいる星ヶ丘のアナウンサー・きぬと機材を触りたいというツッツを引き連れて練習に来た。すがやんは春風と旅行に行ってるし、ちとせも忙しいやらで今日は都合が付かないらしい。ま、俺ときぬのペア練が出来りゃ大した問題じゃない。夏合宿の通例? 今日は知ったこっちゃねえ。
「しっかしまあ、お前はこの山道を登って来たのにバカみたいに元気だな」
「松兄が体力ないんじゃないです?」
「こう見えてバドミントンやってんだぞ。基礎体力ならウチのメンバーの中じゃ1、2を争うはずだぜ」
「え……奏多先輩がバドミントンをやってたのって、MMPに入る前の話じゃ…?」
「バドサーから籍は抜いてないし曜日被ってない日とかたまに行ってんだぜ? 一応月3くらいでは」
「そうだったんですね」
「じゃあ何で松兄は体力ないんですかね?」
「だから俺が体力ないんじゃなくてお前がバカ元気なだけだっつーの」
「まあ松兄はきぬよりおじさんだからしょーがないっかー」
「それはそうだな。お前がストレートの大学1年なら今年19だろ? 一方俺は今年22。俺ら年代の3コ差はでけーからなあ」
「ぁえ!? 松兄そんな歳!?」
「そーよ。ほら、免許証」
「ホントだー。松兄? 松おじじゃん!」
「おじ言うな」
「えっ、大学入るのに2浪!? 結構高望みしてた感じなんですー?」
「ヒッ…!」
「きぬ、お前それ俺だからいいけどウチのメンバーにガチ地雷っぽいのいるから合宿の現場じゃ気を付けろよ。ぶっ殺されてもクレームは一切受け付けねーからな。あと俺は2浪じゃなくて1浪だし高校の時に長期入院で1年遅れたのも含んでるからな」
人の地雷を踏み抜いてもバカだから許される、とかいうのは人の思考や行動が操作されてる創作物ならではのあるあるだけど、現実はそうはいかない。踏み抜いた地雷は爆発するし、それで正面からキレられればまだマシだろう。静かに見限られて後はどれだけ徳を積んでも足蹴にされる未来が見える。
うっしーの言うところの“まっくろジュンジュン”の顔が浮かんでいるのか、ツッツもバツが悪そうな顔をしている。まあ、ジュンに関しては俺と野坂さんを含めてもウチにガチ天才がいないのがまだ救いなんだろうけど。俺はバランスよく何でも出来るだけで、出来るようになるまでの努力は必要とするからな。つかよくよく考えたら俺も星大受けて落ちてる同士だろっつーのにアイツは。
「ツッツ、機材立ち上げっかー」
「やります」
1・2年のミキサーの中じゃ堅実に力を付けてんのが俺で、なかなか面白い音使いをするのがツッツだという評価を奈々さんはしているらしい。ツッツがたまに適当な曲を流して遊んでるのを聞いてるとスタジアムDJとかそういう風にも見えて来るし、確かにコイツはセンスがあるのかなとは思う。
「そーいやきぬ、こないだ星ヶ丘はステージだったろ」
「そーなんですよきぬのステージデビューだったんですよ!」
「すがやんとチラ見しに行ったから知ってはいるけどよ」
「見に来てくれたんだったら声かけてくれれば良かったのにー!」
「それはそれで邪魔だろ」
「えー、やんさんも来てくれてたんだ!」
「まーアイツは泣く子も黙るフッ軽だからな。なーツッツ」
「え、あ、はい。そうですね、すがやん先輩は本当に」
「やんさんの彼女さんってどーゆー感じの人なんですか? 松兄の話聞いてるとすっごいラブラブって感じじゃないですかあ」
「俺の評価には幼馴染みバイアスがかかるからなあ。ツッツの評価の方が案外すがやんに寄ってんじゃねーか? ツッツ、春風ってどんな奴だと思う?」
「えっ、俺に聞きますか…?」
「聞くまできぬは絶対練習しないからさ」
「あー、はい、そうですね。えっと、春風先輩は清廉潔白という感じの人で、真面目で、立ち振る舞いに凛とした雰囲気があるかなと。星や宇宙が好きだから綺麗な物が好きなロマンチストなのかなと最初は思ったけど、どちらかと言えば科学的で現実的な側面から宇宙を捉えてるようにも思います。あと食べっぷりが羨ましいです」
「へー、春風の一般評ってそんな感じなんだな」
「あ、えっと、俺の個人的な見解です」
「真面目で食べっぷりがいいのかー」
「端折り方」
「いや、大体合ってんだろ」
「やんさんと彼女さんて普段どんなデートとかしてんですかね!」
「川行って自分で釣った魚食ったり、今行ってる旅行は星空を楽しめる遺跡だっつってたし、屋外アクティビティが多いらしいけどな」
「これはやんさんのイメージまんまでしたね」
すがやんがフッ軽だとか、春風のイメージだとか、そういうことを聞いてるとツッツも知ってる奴相手に対してはちょっとずつ慣れてきたのかなっつーのが見えて来るな。きぬみたいな奴がガンガン来たら絶対引くかなと思ったけど、思ったよりはちゃんと受け答え出来てるし。荒療治に一定の効果があったのかもしれないな。
「奏多先輩、機材はセット出来てますし、あとはゲインです」
「おっし、サンキューツッツ。じゃ、そろそろやるぞきぬ。クソ暑い中ここまで来て何もしないで帰るとか不毛すぎんだよ」
end.
++++
星ヶ丘のきぬちゃんがどんな感じで喋るのかを確かめたかっただけの話。ぴょんぴょんしてそうだとは思ったけど
まっくろジュンジュンはMMPみんなヒュッてなったしそれはツッツも例外ではなかったのである
(phase3)
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「おお~っ、ここが向島大学の拠点! ひっろー!」
「ここに来るまでが遠いっつーのが玉に瑕だけどな」
「この棚すっごー!」
「それはツッツ作の収納カウンターだな」
「つっつん凄いねえ!」
インターフェイス夏合宿に向けて班だのペアだのでの打ち合わせやら練習やらをしておけ、という感じでちとせ率いるウチの班もちょこちょこやってはいる。まあ、みんながみんな集合出来る日っつーのはそこまで多くないから、そういう合間を縫ってペア練習をしたりするのがいいんだろう。向舞祭もあるし盆明けまではバタバタしてるからな。
今年のインターフェイスは人数が増えた上に1年が既に実戦デビューしてる向島に注目、みたいな風に言われてるそうだ。でも1、2年10人のうち夏合宿経験があるのはかっすーだけだ。レベルを上げるのに実戦は確かに大事だけど、それでも合宿の番組っつーのがどういう感じで行われてるのかとかの情報が無いと立ち行かないんだよな。
今日は俺がペアを組んでいる星ヶ丘のアナウンサー・きぬと機材を触りたいというツッツを引き連れて練習に来た。すがやんは春風と旅行に行ってるし、ちとせも忙しいやらで今日は都合が付かないらしい。ま、俺ときぬのペア練が出来りゃ大した問題じゃない。夏合宿の通例? 今日は知ったこっちゃねえ。
「しっかしまあ、お前はこの山道を登って来たのにバカみたいに元気だな」
「松兄が体力ないんじゃないです?」
「こう見えてバドミントンやってんだぞ。基礎体力ならウチのメンバーの中じゃ1、2を争うはずだぜ」
「え……奏多先輩がバドミントンをやってたのって、MMPに入る前の話じゃ…?」
「バドサーから籍は抜いてないし曜日被ってない日とかたまに行ってんだぜ? 一応月3くらいでは」
「そうだったんですね」
「じゃあ何で松兄は体力ないんですかね?」
「だから俺が体力ないんじゃなくてお前がバカ元気なだけだっつーの」
「まあ松兄はきぬよりおじさんだからしょーがないっかー」
「それはそうだな。お前がストレートの大学1年なら今年19だろ? 一方俺は今年22。俺ら年代の3コ差はでけーからなあ」
「ぁえ!? 松兄そんな歳!?」
「そーよ。ほら、免許証」
「ホントだー。松兄? 松おじじゃん!」
「おじ言うな」
「えっ、大学入るのに2浪!? 結構高望みしてた感じなんですー?」
「ヒッ…!」
「きぬ、お前それ俺だからいいけどウチのメンバーにガチ地雷っぽいのいるから合宿の現場じゃ気を付けろよ。ぶっ殺されてもクレームは一切受け付けねーからな。あと俺は2浪じゃなくて1浪だし高校の時に長期入院で1年遅れたのも含んでるからな」
人の地雷を踏み抜いてもバカだから許される、とかいうのは人の思考や行動が操作されてる創作物ならではのあるあるだけど、現実はそうはいかない。踏み抜いた地雷は爆発するし、それで正面からキレられればまだマシだろう。静かに見限られて後はどれだけ徳を積んでも足蹴にされる未来が見える。
うっしーの言うところの“まっくろジュンジュン”の顔が浮かんでいるのか、ツッツもバツが悪そうな顔をしている。まあ、ジュンに関しては俺と野坂さんを含めてもウチにガチ天才がいないのがまだ救いなんだろうけど。俺はバランスよく何でも出来るだけで、出来るようになるまでの努力は必要とするからな。つかよくよく考えたら俺も星大受けて落ちてる同士だろっつーのにアイツは。
「ツッツ、機材立ち上げっかー」
「やります」
1・2年のミキサーの中じゃ堅実に力を付けてんのが俺で、なかなか面白い音使いをするのがツッツだという評価を奈々さんはしているらしい。ツッツがたまに適当な曲を流して遊んでるのを聞いてるとスタジアムDJとかそういう風にも見えて来るし、確かにコイツはセンスがあるのかなとは思う。
「そーいやきぬ、こないだ星ヶ丘はステージだったろ」
「そーなんですよきぬのステージデビューだったんですよ!」
「すがやんとチラ見しに行ったから知ってはいるけどよ」
「見に来てくれたんだったら声かけてくれれば良かったのにー!」
「それはそれで邪魔だろ」
「えー、やんさんも来てくれてたんだ!」
「まーアイツは泣く子も黙るフッ軽だからな。なーツッツ」
「え、あ、はい。そうですね、すがやん先輩は本当に」
「やんさんの彼女さんってどーゆー感じの人なんですか? 松兄の話聞いてるとすっごいラブラブって感じじゃないですかあ」
「俺の評価には幼馴染みバイアスがかかるからなあ。ツッツの評価の方が案外すがやんに寄ってんじゃねーか? ツッツ、春風ってどんな奴だと思う?」
「えっ、俺に聞きますか…?」
「聞くまできぬは絶対練習しないからさ」
「あー、はい、そうですね。えっと、春風先輩は清廉潔白という感じの人で、真面目で、立ち振る舞いに凛とした雰囲気があるかなと。星や宇宙が好きだから綺麗な物が好きなロマンチストなのかなと最初は思ったけど、どちらかと言えば科学的で現実的な側面から宇宙を捉えてるようにも思います。あと食べっぷりが羨ましいです」
「へー、春風の一般評ってそんな感じなんだな」
「あ、えっと、俺の個人的な見解です」
「真面目で食べっぷりがいいのかー」
「端折り方」
「いや、大体合ってんだろ」
「やんさんと彼女さんて普段どんなデートとかしてんですかね!」
「川行って自分で釣った魚食ったり、今行ってる旅行は星空を楽しめる遺跡だっつってたし、屋外アクティビティが多いらしいけどな」
「これはやんさんのイメージまんまでしたね」
すがやんがフッ軽だとか、春風のイメージだとか、そういうことを聞いてるとツッツも知ってる奴相手に対してはちょっとずつ慣れてきたのかなっつーのが見えて来るな。きぬみたいな奴がガンガン来たら絶対引くかなと思ったけど、思ったよりはちゃんと受け答え出来てるし。荒療治に一定の効果があったのかもしれないな。
「奏多先輩、機材はセット出来てますし、あとはゲインです」
「おっし、サンキューツッツ。じゃ、そろそろやるぞきぬ。クソ暑い中ここまで来て何もしないで帰るとか不毛すぎんだよ」
end.
++++
星ヶ丘のきぬちゃんがどんな感じで喋るのかを確かめたかっただけの話。ぴょんぴょんしてそうだとは思ったけど
まっくろジュンジュンはMMPみんなヒュッてなったしそれはツッツも例外ではなかったのである
(phase3)
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