2022

■村の憩い場

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 ちーっとした山間の村の憩いの場になっている喫茶店、そのテレビに映し出されているのは夏の高校野球。山浪代表の試合がこの後夕方からあるンで何となく客も多いような感じ。パブリックビューイングでも始まるのかっつーノリすけど、村の溜まり場なンでね。知る人ぞ知る店なンでここを目当てに余所の人もたまに来るンすけど、今日は近所の人が多いスね。

「はー、今日も暑いねー。リツ坊、スイカはあるかい?」
「今朝森田のジローさんが持って来たヤツが冷やしてありヤすよ。切りヤす?」
「おーう、切ってくれー」

 こんな感じで村の人は適当に注文をしヤすし、自分の家で作った作物を適当に持ち込むことも多々スわ。スイカを切り、カウンターに出しておくと一瞬で無くなりヤす。都会からコーヒーを目当てに来てる客からすればこういう光景が物珍しいみたいスけどね。少ぉーしコーヒーにこだわってるだけの村の溜まり場なンでね。

「りっちゃんサン、朝からずーっと働いてるンすか」
「働いてるっつっても野球見ながら村の人と喋って適当に料理してるだけスからね。これで時給発生してるとかまァまァオイシイ仕事スよ」
「確かに緩いっちゃ緩いっていう。これに慣れたら普通のチェーン店とかじゃやれないっすね」
「間違いないスわ。エージ、何か飲みヤす?」
「あ、それじゃあアイスコーヒー下さいっす。ブレンドはおまかせで」
「へーい」

 エージは違う村とは言え山浪の山間部基準ではまあまあ近場に住んでるンで、近所で美味いモンが食べたくなった時にはこうしてウチの店に来ることがありヤす。ありあわせの材料で適当に美味しいものを作るにはどうしたらいいか、というようなことはたまに聞かれたことがあるンすけど、タカティの部屋でその技術を生かせたらっつーコトらしースね。

「りっちゃんサンくらい野球を知ってたら、高校野球とか見ててももっと面白いんすかね?」
「野球を知ってるっつってもそこまでスよ。やってたワケでもないスし。ちょっと見るのが好きな程度ス。エージは野球はあんましスか」
「それこそちょっと見たことがある程度っす。昨日とかハナが地元があーだこーだLINEで言ってたすけど」
「あー、昨日の緑風代表はなかなかっシた」
「そーゆーのが俺にはわかんないんすよね。実際どうだったんすか?」
「菜月先輩の持論にはなるンすけど、スポーツは守備だ、っつーのを思い出すゲームではありヤした」
「スポーツは守備。まあ、俺もバレーやってんでそれはわかるっす」
「守備のミスから結構余計な点を与えてた感があったスわ。それが無ければまだ惜敗と言えてたかもしれないスね」
「ふーん、そういう感じだったんすね」

 言っても高校生の全国大会なンで、プロのそれと同じレベルを求めるのもどうかとは思うンすけどネ。緊張感だとか、暑さだとか。気持ちや環境に左右される物が地方大会よりはある程度大きいとは思いヤすし。

「らっしゃっせー。ああ! 殿とパロじゃないスかァー。殿、本当に来てくれたンすね」
「時間が、取れました」
「やあやあ、あざすあざす。えーと、席がないスね。悪いンすけどエージのトコに相席おなっしゃーす」

 簡易パブリックビューイングスポットになっているからか、今日はいつもより客が入ってヤすからね。エージだったら一応インターフェイスの人間スし、相席させてもまァ問題ないッしょう。エージは初心者講習会で講師もやってたそうスし、見たことくらいはあるはずスからね。

「エージ、ウチの1年の殿とパロす」
「パロこと玉野千歳です」
「勝川要です」
「緑ヶ丘の中津川栄治っす。つか、わざわざ向島からこの店に来たのかっていう」
「殿がりっちゃん先輩から誘われたそうなんです。4年生の先輩がサークルに遊びに来たときに、殿はりっちゃん先輩から気に入られたみたくって。僕は殿の付き添いって感じで、即興で出て来るらしい美味しい料理も楽しみにして来ました」
「律先輩、これを」
「おー、いい野菜スねー! バイト先の規格外スか?」
「そうです。使ってください」
「ありがたく使わせていただきヤす。トマト・キュウリ・ナス・ピーマンあたりの基本的な夏野菜はよく貰いヤすが、トウモロコシとズッキーニは熱いスねェー」

 トウモロコシとズッキーニは何かしら加熱なり調理なりをする必要がありヤすね。まァ、何でもやろうと思えば出来る環境ではあるンで考えるだけ考えておきヤしょう。トウモロコシはそのまま茹でるなり焼くなりするだけでも美味いスけど。

「向島は4年生が結構遊びに行くような感じなんすか?」
「たまに悪ふざけに行く程度スよ。緑ヶ丘の4年はあまり来ないンすか?」
「そうっすね。まあ、4年生は就活とかもありますし、忙しいのかなとは。つか悪ふざけに行くって安定っすね」
「人見知りの1年生を襲えって頼まれたり、うまい棒レースを開いたりした程度ス」
「人見知りを襲うって、4年生のノリでそれをやってその1年大丈夫だったんすか」
「で、その後ツッツは大丈夫だったンすか?」
「えっと、夏合宿ではそれなりに頑張れてるみたいです。同じ班に奏多先輩とすがやん先輩がいるっていうのが大きかったみたくって」
「すがやんがいるなら勝ち確スわ」
「その辺すがやんが強すぎんだよな。ウチにいても思う。パロは心配なさそうだけど、殿はその辺どうだっていう。デカいってだけでビビって近寄れない奴もいるべ?」
「……本当に、最低限かと」
「殿の班は班長さん以外みんな口数が少ないそうなんです。最低限の意思疎通は出来ているそうですが、口数を増やせないことや体が大きなことで威圧感を与えてしまうのがペアを組んでいる班長さんに申し訳ないなという気持ちがあるみたいです。殿はミキサーとしても頑張っていますし、細やかな気遣いの出来る優しい人なので、僕はみんなにそういう面を知って欲しいと思うんですけど……」
「そっか。でも今から小さくはなれねーしなあ。でも、実力を付けつつあって細やかな気遣いが出来るなら、デカいってのはこれ以上ない武器だべ」
「そうなんですか?」
「パロ、考えてみ? 殿がどっしりと構えててたら、背中を預けたくなるべ?」
「確かに。間違いありませんね!」
「口数が少ないのも、落ち着いてるって風に見えるべ。ペアの相手に威圧感として捉えられてるデカさを、貫禄だとか、安定感として捉えられるようにペア練とかでやってくんだよ。無理に口数を増やさなくても、アナウンサーの様子を見てちゃんと構えれば信頼してもらえるべ。番組やる上で、不安が一番の敵だっていう」

 エージも今じゃあインターフェイスを代表する3年になったンだなァとしみじみしヤすね。自分は持ち前の恰幅で貫禄がーと言われがちでしたが、殿ほどデカくないンで多少飄々してるくらいでちょうど良かったンすが。ドアを潜らないと建物に入れないくらいだと、いるだけで威圧感になりかねないンすね。

「俺みたいなチビからすればデカいってのはただただ羨ましい」
「本当ですよね。僕もあと10センチは大きくなりたかったなと思います」
「やァー、ワンチャンまだ背が伸びる可能性はありヤすよ。個人差こそありヤすが。そーゆーワケで夏野菜トーストす」
「あざっす。美味そうだべ」
「本当ですね!」
「や、殿からもらった野菜を適当に切って適当に炒めてチーズぶっかけて焼いただけの手抜きトーストすよ。素材が良けりャ、大したことをしなくても十分美味くなるンすよ」


end.


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恐らくはTKGが実家に帰っているであろうこの期間、エイジは主に実家の方で過ごしてるんだろう
りっちゃんとエイジはナノスパ比でまあまあ近場に住んでいる。2人とも山浪の山の方としか言ってなかったけど
殿とパロのコンビは殿の口数の少なさを完全にパロが補完してるような感じなんだなあ

(phase3)

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