2022

■自由の夏

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「ふあ~、あついねー」
「ホントだねー」

 テストも終わって、MBCC的には夏合宿に向けてそれぞれが動いていくっていう感じになっている。対策委員のシノ先輩とくるみ先輩は日々バタバタ走り回ってるのか、会議で決まったことなんかがちょこちょこサークルのLINEに乗ってくる。
 俺たち1年生5人もそれぞれの班に散って、それぞれのペアで番組を作っていく。細々とした情報交換は今までもしてたけど、実戦練習が増えてくるのはこれかららしいし、夏合宿の前には特別練習日なんてのもあるそうだ。

「でだ! 俺たち5人が集まってすることと言えば、より綿密な情報交換と作戦会議だ!」
「凛斗、やる気まんまんだねー」
「あたし、イチゴのかき氷に練乳とソフトクリームトッピングしようっと」
「おっ、それじゃあ俺は抹茶にしよっかなー」
「聞けよちむりー、中!」
「あー、このエリアはここが出てくるか……今年はわかんないなー」
「周! お前も何見てんだ!」
「高校野球の各地の代表校と戦力分析の記事ですけど? 夏にやることなんかそれしかなくない?」
「1人の時にやれ!」
「凛斗は熱すぎ」
「夏なのに、暑苦しいねー」

 悪い奴らじゃないけど各々が好き勝手にやってる感じが強くてまとまりもクソもないんだよな、俺らの同期って。で、連中を何とかまとめようと大声出してたら俺は熱血で暑苦しいキャラになっちまってるし。
 ちむりーは甘い物に目がなくて話を平気で脱線させるし、周は野球の調べ物とかをしててそもそも話に乗ってきてないことも多々。中はよくわかんねー奴だし、琉生は話を聞いてるんだろうけどのんびりしすぎてて本当に聞いてんのかって不安になる。

「琉生、その格好暑くない?」
「暑いけどー、おしゃれは気合いー。あと、服の中に風を送るファンつけてるから、何もしないよりマシー」

 琉生は真っ白な髪にスチームパンク、とかなんかそういう感じのジャンルっていうのか俺にはよくわかんないけどそういう世界観のファッションをしている。今も長袖だし暑そうだけど、汗ひとつかいてない。体温調節機能バグってんじゃないのか。

「実際、半袖で肌を直射日光にさらすより、長袖でいるくらいの方が暑くないみたいな説もあるとかないとか。日焼けは大敵だって」
「周お前今の話聞いてたんだな」
「ちな今の情報はどこで聞いた話?」
「野球関連の記事。そもそもの日焼けを防止することもだけど、肌は化粧水でケアすることも大事だって見た」
「お前そんなに野球ばっかりで班でちゃんとやれてんのかよ」
「お生憎様。副班長が野球経験者で話が通じる人だし、班長さんも班に2人野球好きがいるならって言って勉強を始めてくれてますし」
「ええー……何つー都合いい展開」

 でも、野球ならちょっと見る人の1人や2人くらいは全然いるもんな。ウチでもハナ先輩が高校野球限定だけど結構気にして見てるらしいし。でも周はプロアマ問わず結構幅広くチェックしてんだよな。

「琉生は、その格好でみんなにすぐ覚えてもらえそうだし、いいねー」
「覚えられるけど、怖がられることもあるよー」
「今の班ではどんな感じよ」
「自分の他に、星ヶ丘の深青先輩って人がー、ゴリゴリのV系ファッションでー、すっごくかわいーんだー」
「えっ、そんな美少女がいる感じ!? いいね~」
「中~? 一応言っておくけどー、深青先輩はー、背がササ先輩くらいある男の人だからねー」
「なーんだ、野郎かよー」
「でも、ウィメンズファッションだしー、見た目は美少女だよー」
「いやいや、見た目美少女でも中身は野郎なんだろ? そんなん実質詐欺じゃねーか」
「中、自称詐欺師でしょ? そのくらいのことで詐欺じゃないかって怒るのは、詐欺師としてはまだまだねえ」
「あーもーちむりーに言われちゃ己の未熟さを認めるしかねえ。や、どんな美少女よかちむりーがかわいーんだよ。俺としたことがそんなことをうっかり失念してた。灯台下ナントカよ。ちむちむかわよ」
「はいはい」

 中は謎にちむりーをめちゃくちゃ気に入ってて、マスコット的な愛で方をしてんだよな。ササ先輩とレナ先輩っていうサークル内カップルもいるからそういう進展もあるんじゃないかってみんな一瞬は考えたけど、しばらくしてそういうんじゃないなこれはってみんな気付いた。
 ちむりーはちむりーでおっとりしてるし、全然怒らない。諭し方も説得力と包容力の塊としか言いようがなくて、先輩たちからも聖母って言われてる。頭もめちゃくちゃ良くて、テスト前は同じ学部学科の俺と中はお世話になってたし。

「どーする中、夏合宿で他校の男がちむりーとお近付きになろうと近付いてきたら」
「は!? 周お前言って良いことと悪いことがあるぞ!」
「心配しなくても、大丈夫だよ」
「ちむりーお前自分がどんだけかわいいか理解してないだろ!」
「くるみ先輩が言ってたけどー、インターフェイスの行事で仲良くなって、実際に付き合う人も本当にいるってー」
「琉生!? お前そんな恐ろしいことを事実といえあっさり言ったな!? 安心してくれちむりー、そういう輩は俺が口で追い払うからな」
「彼女かー。俺もいつかはほしーなー」
「凛斗は暑苦しいところを直した方がいい」
「それな」
「いや、お前らにどうこう言われる筋合いはねーし。大体誰のせいで暑苦しい扱いされてると思ってんだ」
「責任転嫁しないで欲しい」
「それなー」
「あと中は人の言葉に乗っかって責任を回避しないで」
「ひゅーっ、手厳しい」
「あたしケーキも食べたいなあ」
「いいねー。たべよー」
「どれにしよう? 悩む~」
「ちむりー、シロネーロシェアしよーぜー」
「いいよ、一緒に食べよう」

 こんな感じの愉快な面々が、それぞれの班で問題を起こさずにちゃんとやれてんのか。同期でこれだけ心配になるんだから、先輩たちは俺のことも含めてもっと心配してるんだろうな。心配されないように頑張りたいんだけど。


end.


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フェーズ3のMBCC1年生5人がちゃんと喋ってるのは多分初めて。2、3年生と比べるとすごく自由度が高い。

(phase3)

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