2022
■誰の声で伝える
++++
「シノ、私って本当にグレートフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズとしてやれてるのかなあ!?」
「急にどうした? つか星ヶ丘のステージの相談か」
対策委員の会議後、海月と飯を食いに星港の街をぶらつく。適当に入った店で席に着くなり、グラスの水を飲み干して言ったのがこれ。結構な剣幕なだけに、ステージの方でまたいろいろ悩みを抱えてるのかなと想像する。
「あ、ううん。ステージの方は、それなりにちゃんとやれてるから大丈夫」
「ならどうした」
「班の打ち合わせだよ。ほら、対策委員の会議でもどんな感じでやってますかーみたいな感じで報告し合うじゃん」
「そうだな。もしかして会議では言ってなかっただけで去年の萌香みたいな、すげーヤベーのが班にいるとか?」
「今のところそんな感じじゃないんだけど」
「じゃ何だよ」
「頑張って会議を回そうとしても、全然会話が続かないんだよ……沈黙だよ沈黙!」
「お前の班って誰がいたっけ? つか副班長誰だよ」
「サキ」
「あー……サキかー…! え、えっと……他に2年いたっけ?」
「千颯」
「星大かー……。それでグレートフル何とかを気にしたのか」
「話し合うこと自体はちゃんと話し合えてるんだけど、沈黙の時間に圧があると言うか。1年生たちもみんなそれぞれ口数が少ないし、口数が少ないからこそのオーラみたいな物があって踏み込みにくくて。でも2年生がサキと千颯だから必要以上に賑やかにするタイプでもないじゃん、私1人でべちゃべちゃ喋って場を回すのがもーうホントにしんどい! そもそもサキとどーやって会話を成立させたらいいのかがわかんない!」
「班にすがやんタイプの人間が1人いればよかったんだろうけどな」
「私以外全員静か! ホントどうにかして!」
海月の悩みは班の打ち合わせをどう回したらいいのかということだったらしい。他の班員はサキを筆頭にたまたま必要以上に喋らないメンバーが偏ってしまったらしく、意見を求めてもあまり出ないし、雑談が少ないので班員の人となりなんかもまだよくわからないんだそうだ。
こんな時は他の2年を頼りたくなるモンだけど、サキは俺たちといる時はまあまあ喋るようにはなったけど外じゃ基本的に静かなままだし、千颯に限らず星大の人はしっかりしてはいるけど盛り上げ役っていうイメージはない。班を盛り上げるために海月が孤軍奮闘しているという状況のようだ。
対策委員の会議で話すようなことではないからと言ってこうやって飯に引き摺って来られたんだけど、対策委員には各大学から集まって来てるんだし、班員の取説的な物をもらうためにも会議の場で相談した方が絶対に良かったと思う。今ここでこの話をされても俺はサキの扱い方しか教えてやれない。
「ちなみにだけど、その沈黙って険悪って感じではない、よな?」
「険悪ではないんだよ多分」
「険悪じゃないならそういう物として受け入れてやってくのがベターなんじゃないか? 最低限の意思疎通だけはちゃんとやれるようにしてさ」
「って言うか、私だって実際そんなめちゃくちゃうるさいタイプじゃないのに頑張ってうるさくしてるんだよ!?」
「いや、つかお前それグレートフル何とかじゃない方の根暗っつーか内気な地の方だろ? 外じゃグレートフル何とかで売ってるんだからくららはうるせーってイメージを持たれてたとしてもしゃーねーだろ」
「私だって喋んなくていいんなら喋りたくないし!」
「お前そんなんでよくステージMCなんかやってんな」
「私は水鈴ちゃんへの憧れだけでステージに立ってるから!」
去年は各大学のうるさい奴代表みたいな連中がエージ先輩の班にぶち込まれた。そうして集まったのが俺、海月、まつり、雨竜の4人だ。当時は本当にうるさいだけだった俺たち4人だけど、今じゃ俺は対策委員の議長だし、まつりは頭の回転が早くてミキサーの技術もある上ステージの台本まで書けると評判だ。雨竜はサキと青敬勢曰く、最近になって音に対するセンスが伸びて来たとのこと。
海月は1年の今頃からステージに立って実戦経験を積んで来た。グレートフル何とかとして、その大袈裟な二つ名か何か知らないけどそんなようなモンに恥じないような実力を付けるために日頃から練習しているとか。インターフェイスでの評価はともかく、星ヶ丘の中じゃ他の2年アナより経験も練習量も段違いなんだからとは言うものの、如何せん地が根暗……じゃなくて内気で引っ込み思案っていう。
「それはそうとさあ、サキと千颯にはもうちょっと声を出してほしい。うるさくしろとは言わないから」
「それは本人たちにそう言うしかなくね?」
「サキにはシノからも言ってもらえたりしない?」
「お前が自分で言った方がいいぞ。サキが口数少ないのは元々物静かっていう本人の性格もあるけど、口下手で言葉選びが苦手だからキツイ言葉で人を不愉快にさせたくないしって気持ちもあるみたいだから」
「ああー……私どっちかと言えばメンタル弱い方だからその情報なかったら何か言われた時点で1人反省会だったかも」
「サキに海月はメンタル弱っちいから言葉選びに気を付けろとか言ったら余計喋らなくなるし、サキに関してはお前が多少のことは気にしないようにするしかないかなとは」
「何かもう私挙動不審すぎて怒らせてないよねって不安もある。千颯はともかくサキって表情も変わんないじゃん。それに対策委員の会議でもとりぃとくるみが言ってたじゃん、サキは口数が少ないだけでかなり気が強いって」
「あのな海月、サキは何か問題があったらその時にその当人にズバッと言う奴なんだよ。何も言われてねーなら今のところお前の班運営に問題はない」
「本当にそうならいいけど」
「まあ、一応サキに副班長の仕事はどうか的なことをチラッと探りは入れてみるけど、あんま期待はすんなよな」
「うん、ありがと」
同期6人で話してても夏合宿のことで愚痴めいた話は誰からも出て来てないから今のところ大丈夫だとは思うんだけどな。でも、言えないだけで、何かしらの問題があるのかもしれない。それらを全部潰すことは出来ないにしても、対策委員の議長として知っておくべき物もいくらかはありそうだ。
「そう言えばシノ、インフルはもう大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ありがとな。あ、いや、その節はご迷惑をおかけしましたにもなんのかな」
「対策委員的にはくるみと当麻がしっかりやってくれてたし全然大丈夫だったよ」
「全然大丈夫って言われても、俺の存在意義じゃねーけど、ちゃんと仕事出来てんのかなって気になる」
「そーゆー意味じゃないし!」
end.
++++
千颯は多分ササ当麻ラインのクールなしっかり者枠次点って感じ。旧4班では楽しくしてるけど、基本は落ち着いてるっぽい。
サキと殿は相性いいだろうな的な話はあったけど、班が静かなら静かなりの悩みも出てきた様子。
言いたいことはちゃんと自分で言いなさいよとアドバイスするシノ。海月には結構親身な感じ。
(phase3)
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「シノ、私って本当にグレートフルマスターオブセレモニー兼ステージミューズとしてやれてるのかなあ!?」
「急にどうした? つか星ヶ丘のステージの相談か」
対策委員の会議後、海月と飯を食いに星港の街をぶらつく。適当に入った店で席に着くなり、グラスの水を飲み干して言ったのがこれ。結構な剣幕なだけに、ステージの方でまたいろいろ悩みを抱えてるのかなと想像する。
「あ、ううん。ステージの方は、それなりにちゃんとやれてるから大丈夫」
「ならどうした」
「班の打ち合わせだよ。ほら、対策委員の会議でもどんな感じでやってますかーみたいな感じで報告し合うじゃん」
「そうだな。もしかして会議では言ってなかっただけで去年の萌香みたいな、すげーヤベーのが班にいるとか?」
「今のところそんな感じじゃないんだけど」
「じゃ何だよ」
「頑張って会議を回そうとしても、全然会話が続かないんだよ……沈黙だよ沈黙!」
「お前の班って誰がいたっけ? つか副班長誰だよ」
「サキ」
「あー……サキかー…! え、えっと……他に2年いたっけ?」
「千颯」
「星大かー……。それでグレートフル何とかを気にしたのか」
「話し合うこと自体はちゃんと話し合えてるんだけど、沈黙の時間に圧があると言うか。1年生たちもみんなそれぞれ口数が少ないし、口数が少ないからこそのオーラみたいな物があって踏み込みにくくて。でも2年生がサキと千颯だから必要以上に賑やかにするタイプでもないじゃん、私1人でべちゃべちゃ喋って場を回すのがもーうホントにしんどい! そもそもサキとどーやって会話を成立させたらいいのかがわかんない!」
「班にすがやんタイプの人間が1人いればよかったんだろうけどな」
「私以外全員静か! ホントどうにかして!」
海月の悩みは班の打ち合わせをどう回したらいいのかということだったらしい。他の班員はサキを筆頭にたまたま必要以上に喋らないメンバーが偏ってしまったらしく、意見を求めてもあまり出ないし、雑談が少ないので班員の人となりなんかもまだよくわからないんだそうだ。
こんな時は他の2年を頼りたくなるモンだけど、サキは俺たちといる時はまあまあ喋るようにはなったけど外じゃ基本的に静かなままだし、千颯に限らず星大の人はしっかりしてはいるけど盛り上げ役っていうイメージはない。班を盛り上げるために海月が孤軍奮闘しているという状況のようだ。
対策委員の会議で話すようなことではないからと言ってこうやって飯に引き摺って来られたんだけど、対策委員には各大学から集まって来てるんだし、班員の取説的な物をもらうためにも会議の場で相談した方が絶対に良かったと思う。今ここでこの話をされても俺はサキの扱い方しか教えてやれない。
「ちなみにだけど、その沈黙って険悪って感じではない、よな?」
「険悪ではないんだよ多分」
「険悪じゃないならそういう物として受け入れてやってくのがベターなんじゃないか? 最低限の意思疎通だけはちゃんとやれるようにしてさ」
「って言うか、私だって実際そんなめちゃくちゃうるさいタイプじゃないのに頑張ってうるさくしてるんだよ!?」
「いや、つかお前それグレートフル何とかじゃない方の根暗っつーか内気な地の方だろ? 外じゃグレートフル何とかで売ってるんだからくららはうるせーってイメージを持たれてたとしてもしゃーねーだろ」
「私だって喋んなくていいんなら喋りたくないし!」
「お前そんなんでよくステージMCなんかやってんな」
「私は水鈴ちゃんへの憧れだけでステージに立ってるから!」
去年は各大学のうるさい奴代表みたいな連中がエージ先輩の班にぶち込まれた。そうして集まったのが俺、海月、まつり、雨竜の4人だ。当時は本当にうるさいだけだった俺たち4人だけど、今じゃ俺は対策委員の議長だし、まつりは頭の回転が早くてミキサーの技術もある上ステージの台本まで書けると評判だ。雨竜はサキと青敬勢曰く、最近になって音に対するセンスが伸びて来たとのこと。
海月は1年の今頃からステージに立って実戦経験を積んで来た。グレートフル何とかとして、その大袈裟な二つ名か何か知らないけどそんなようなモンに恥じないような実力を付けるために日頃から練習しているとか。インターフェイスでの評価はともかく、星ヶ丘の中じゃ他の2年アナより経験も練習量も段違いなんだからとは言うものの、如何せん地が根暗……じゃなくて内気で引っ込み思案っていう。
「それはそうとさあ、サキと千颯にはもうちょっと声を出してほしい。うるさくしろとは言わないから」
「それは本人たちにそう言うしかなくね?」
「サキにはシノからも言ってもらえたりしない?」
「お前が自分で言った方がいいぞ。サキが口数少ないのは元々物静かっていう本人の性格もあるけど、口下手で言葉選びが苦手だからキツイ言葉で人を不愉快にさせたくないしって気持ちもあるみたいだから」
「ああー……私どっちかと言えばメンタル弱い方だからその情報なかったら何か言われた時点で1人反省会だったかも」
「サキに海月はメンタル弱っちいから言葉選びに気を付けろとか言ったら余計喋らなくなるし、サキに関してはお前が多少のことは気にしないようにするしかないかなとは」
「何かもう私挙動不審すぎて怒らせてないよねって不安もある。千颯はともかくサキって表情も変わんないじゃん。それに対策委員の会議でもとりぃとくるみが言ってたじゃん、サキは口数が少ないだけでかなり気が強いって」
「あのな海月、サキは何か問題があったらその時にその当人にズバッと言う奴なんだよ。何も言われてねーなら今のところお前の班運営に問題はない」
「本当にそうならいいけど」
「まあ、一応サキに副班長の仕事はどうか的なことをチラッと探りは入れてみるけど、あんま期待はすんなよな」
「うん、ありがと」
同期6人で話してても夏合宿のことで愚痴めいた話は誰からも出て来てないから今のところ大丈夫だとは思うんだけどな。でも、言えないだけで、何かしらの問題があるのかもしれない。それらを全部潰すことは出来ないにしても、対策委員の議長として知っておくべき物もいくらかはありそうだ。
「そう言えばシノ、インフルはもう大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。ありがとな。あ、いや、その節はご迷惑をおかけしましたにもなんのかな」
「対策委員的にはくるみと当麻がしっかりやってくれてたし全然大丈夫だったよ」
「全然大丈夫って言われても、俺の存在意義じゃねーけど、ちゃんと仕事出来てんのかなって気になる」
「そーゆー意味じゃないし!」
end.
++++
千颯は多分ササ当麻ラインのクールなしっかり者枠次点って感じ。旧4班では楽しくしてるけど、基本は落ち着いてるっぽい。
サキと殿は相性いいだろうな的な話はあったけど、班が静かなら静かなりの悩みも出てきた様子。
言いたいことはちゃんと自分で言いなさいよとアドバイスするシノ。海月には結構親身な感じ。
(phase3)
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