2022

■いつも通りに

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 サークルの無いとある日、2年の同期6人で集まって話をすることになった。多分主な話題は夏合宿の班割りが決まってどうなるとかそんなようなことになると思う。サークルの場でも班割りは発表されて、先輩たちも今年は単純に人数が多いねと驚いているようだった。
 第1学食2階、大きな木製の机には6人が相席することが出来る。先に来ていたのはくるみとすがやん。サキはもう少ししたら来るとのこと。陸とシノはと訊ねると、わからないけど一緒には来るんじゃないのかなと。

「あーっ、ササ、シノおそーい」
「ゴメン、もうみんな来てたのか」
「ゼミの方でいろいろ話し合いとかあってよー。で? そっちはどんな話してた?」
「夏合宿の班のこととかかな! ササが来たらお願いしなきゃって思ってることもあったし!」
「え、俺に?」
「ササには当麻から連絡行ってない?」
「あ、北星のこと?」
「そう! 北星にもササはこういう感じの子だからねって紹介はしといたけど、ササにも北星のことをちゃんと紹介しとこうと思って! 会話にとっかかりが必要だから」
「当麻はよっぽど北星がアレだったらシバいていいって言ってるけど、北星ってそんなにアレなのか」
「動画関係の話だとか、ミキサーの機材関係の話の時はむしろしっかりしてるし頼れるんだけど、それ以外がちょっと。高木先輩は自分と似たタイプだから番組の心配はしなくて大丈夫って言ってたけど、班長業はほぼ初めてだろうしちょっと心配かもねって」
「あー……高木先輩タイプと言われると何となくわかってしまうような気がする」
「それで北星のことをよく知ってるくるみが陸に紹介を?」
「そう!」

 そう言ってくるみはスマホを取り出す。北星のことを語るには映像関係の時はしっかりしてるとかコーヒーで溺れるとかそういう人物像じゃなくて、実際に作った作品を見てもらうのが一番だし、北星自身もそれを見てもらうのが嬉しいと思うからと。北星のことをわかってるくるみだからこその紹介の仕方だなと思う。
 実際、当麻が私、陸、すがやんの3人の中から副班長を誰にするか選ばせた時も、誰のことも良く知らないからわからないと言ったそう。インターフェイスの活動なら緑ヶ丘のメンバーはそれなりに顔が通りそうだけど、北星にとっては映像の活動をしているかどうかが全て。最終的に陸が選ばれたのも、今後ゼミで映像の勉強をする可能性があるよっていうのが決め手だったそうだ。

「ササって彩人と仲が良いでしょ? 彩人に協力してもらって作ったミュージックビデオっていうのもあるから! それを見たよっていうので会話のきっかけにもなると思うんだよ」
「その話は彩人からも聞いてるし、作品も何回か見たよ」
「あっそうなんだ! じゃあ話が早いね!」
「あと映像関係の話で言えば最近では玲那おすすめの特撮作品とかを見てるから、映像効果のことだとか、撮影手法とかはちょっと気になってたんだ。北星ならそういうのも知ってたりするかな?」
「知ってると思う! 知らなくても調べてくれる人だよ」
「でも、あんまり映像の話で盛り上がり過ぎても肝心のラジオの話には入ってけないんじゃね?」
「ササの天然ボケが炸裂しても、みちるちゃんが何とかしてくれるって信じた編成になってるから大丈夫!」
「みちるがいるなら大丈夫だな」

 みちるは陸と彩人の関係のことも知っているそうだし、その関係でいろいろ深いところまで突っ込んで話したことがあるけど、いろいろな意味で最適な人選だなとは私も思う。くるみを巡るライバル(?)のみちるだからこそ、北星にはズバズバ行けるというのもある。私からも陸さんがやらかしたらシバいてくださいと伝えておこう。

「当麻と言えば、私は当麻と一緒の班なんだよね」
「当麻とレナが一緒とか、達観し過ぎなんよ」
「でも1年生が4人で比較的多いみたいだから、その辺でどうなるかだよね」
「1年は本当に未知数だよなー。どんな子がいるんだろうって、すげーワクワクするし」
「でもすがやんは向島の子は大体知ってるんでしょ」
「向島はなー。でも、他のトコの子は全然知らないから」
「この子はどういう子? 勝川、君になるのかな?」
「ああ、殿な! サキとは相性いいと思う。口数は少ないし表情の変化には乏しいけどその場の雰囲気はしっかり楽しんでるし」
「ああ、そうなんだ。分かり合えそうだね」
「体はすげーデカいし顔も厳ついけど面倒見がいいし基本的に優しいんだよ。あとすげー料理上手」

 口数が少なくて表情の変化に乏しいけど、その場の雰囲気をしっかり楽しんでいるというのは最初期のサキそのものだ。あの頃から見るとサキは物凄く口数が増えたと思うし表情もわかるようになってきたと思う。私たちはズバズバ言っても大丈夫なメンバーだなっていう信頼が生まれたんだとするなら嬉しいんだけど。

「すがやん、私の班にいる牛山君? っていうのはどんな子?」
「うっしーはすげー濃い。ある意味すげー向島らしい」
「あらそう、濃いのか」
「何だっけ、確か自称イキリ陰キャのお喋り袋だったかな? 趣味がアニメマンガゲームっていう典型的なオタクで、一番特筆すべきなのは高卒で1年間働いてた経験かな。だから歳は俺たちとタメなんだよ」
「そうなんだ。でも趣味の点で話が合う可能性はあるね」
「口と態度だけで能力が伴わない奴が地雷らしいけど、レナならその辺は心配しなくて大丈夫かなとは」

 すがやんによれば、うっしーの社会人時代のブラックな話はなかなか壮絶なのです、的な話を春風がしているそうだ。キャラの濃いお喋り袋的なキャラクターに対して私が引きそうだという印象を抱かれがちではあるけど、実際私自身興奮すると口数の増えるオタクなのでその程度じゃ全然引かないんだよね。

「すがやん、俺のところにいる鷹来君は?」
「ジュンはクールでしっかり者っていう第一印象を抱かれがちなササタイプかな」
「俺タイプ」
「でも、そんな印象を抱かれがちって、実際は違うの?」
「いや、実際クールでしっかりもしてるんだけど、春風によれば完璧超人にちょっとしたコンプレックスを抱いてしまってるっぽくて、野坂先輩とか奏多とか、ああいうタイプの人たちが謙遜してるのが地雷らしい」
「えーっ!? ササも完璧超人タイプじゃん! 大変!」
「あれっ、でも松兄ってビッグマウス系じゃないっけ? 俺って凄いからな~的な」
「うん。あの人が謙遜してる画が想像出来ないんだけど。気持ち悪い。聞いてて吐きそう」
「サキ、お前はなあ。えっと、サークルの現場で野坂先輩とどっちがより超人かみたいな件になったときに、お前のがヤバいし俺はそんなでもねーよ的な感じで言ってたっぽい」
「陸さんそのうちやらかすし完璧じゃないですって春風から言ってもらおうか」
「それが、完璧超人に対するコンプレックスをササと一緒にすることで荒療治をしましょうと、春風が敢えてそこにぶつけたそうなんだよ」
「春風、やるね」

 たまに垣間見るジュンの黒い部分はうっしーがまっくろジュンジュンと言って茶化しているようだけど、そのおかげで丸みを帯びたように思う、とは春風(すがやん)談。ササはどっちかと言えば真っ白だもんなーとはシノとくるみが言うけど、陸さんも時と場合によっては十分真っ黒ですよとは。実際には言わないけど。

「自分のトコに来た子もそうだけど、ウチの1年が誰のトコに散ったかってのも問題ではあるよなー」
「それ! 人数の都合上同じ大学で被るとかもまあまあ出ちゃったけどね。あたしの班にも琉生がいるし」
「琉生はパッと見でビビられないか? 大丈夫かな」
「深青がいるから調和は取れると思うよ!」
「あー」

 琉生は真っ白な髪にV系とスチームパンクを融合させたような感じのファッションが特徴的な子だ。最初にMBCCに来たときには軽音とか美術部じゃなくて? とみんなビックリしてたけど、トークをしてみると結構ゆったりと喋るものだから、高木先輩やちむりーといったのんびり系の性格の人と仲が良いような感じ。
 ただ、第一印象はやっぱり実際の性格より先に見た目で抱かれがちだから。それこそさっきの向島の大きな子の話じゃないけど。V系とかパンク系のファッションは、そういう文化が頭になければ派手とか怖そうっていう印象は来るかなと。ただ、インターフェイス的には去年の時点で深青っていう本物がいるので驚きも和らぎそうだ。

「中はどこ行ったっけ?」
「え~っと、七海の班だね。2年生は彩人と雨竜がいるね」
「あの自称詐欺師が何をしでかすかが問題だな」
「その3人が特別占いどうこうっていうのは聞いたことがないから大丈夫だとは思うけど」
「占星術って広義に見たら古代から続く天文学の一種だし、春風のところに行かなくて良かったなと心から思ってる」
「すがやんが彼氏をしている」
「まっくろジュンジュンに殴られてしまえ」
「それは本当に勘弁してくれ」

 人に殴られることにはちょっとしたトラウマが生まれた陸さんだし、例のやらかしの件から完全にすがやんとの強弱関係が生まれたような感じ。みちるもワンチャン手が出るタイプ(しかも星ヶ丘の武闘派)だし、陸さんの牽制には事欠かないよなあ。

「そう言えば高木先輩が言ってたけど、青女にも占いキャラの子がいるんだって?」
「ああ、らしいな。中は占いを科学とコミュニケーションの一環として見てるのに対して、青女の子はガチなスピリチュアルがどうしたこうしたっていうタイプらしくって、ある意味では対極を行くような感じ」
「いろいろいるんだなー……さすがインターフェイス」
「そういや周はどこ行った?」
「周は……えーっと、とりぃまつりの2年2人班だな」
「周ってどんな子って春風から聞かれてさ、最初の印象としてあるのが野球好きじゃんな」
「そうだね」
「まつりも野球見てるっぽいし、野球の勉強しようかなって言い出してるんだよなー」
「向島だったら野球好きな人も多いし勉強するにはいいんじゃない? 奈々先輩も野球好きだし」
「奈々先輩はちょっと過激だから奏多に教えてもらうってさ」
「松兄って野球見てるんだ。そんな印象なかったけど」
「奈々先輩の話を聞いてライトに見始めたんだって。サンダースが負けた次の日に荒れた奈々先輩をいなせるのは奏多だけだから本当に助かるとはカノン談」
「そういやシノの班はどんな感じなの。さっきから静かだけど」
「あー、俺はなー。班がどうこうってよりも対策委員だとか合宿全体の方をちゃんとしなきゃなーっつって、いや、班の方も2年のラジオ系が俺だけだからちゃんとやんなきゃなのはわかるんだけど、どうもこう、班に意識がまだ行かないっつーか」
「対策委員の議長ならではの悩みか」
「シノ、対策委員のことだったらあたしもみんなもいるんだからー。北星じゃないけどちゃんと頼ってよー?」
「わかってる。ありがとな」
「MBCCでもインターフェイスでも、機材関係だったら俺も力になれるよ」
「あ、インターフェイスの機材関係の話はマジで連係したい。今度また話そう」
「学業のことなら俺がいるし心配しなくて大丈夫だからな」
「テスト前はマジで頼むぜ相棒!」

 対策委員の議長は、やることも多そうだけど議長だけに責任も大きくなりそうだなとは思う。くるみも他の人もいるからとは言うけど、それでもトップがシノであるのは事実だから。対策委員以外の私たちも協力出来ることはするし、合宿やサークル以外の点でも、陸のようなサポートの仕方もある。

「でも、そうだよなー。対策委員は自分の班だけじゃなくて合宿全体の運営もあるんだもんなー。そりゃ大変だ。講師の人との打ち合わせがあったりもするんだろ?」
「その辺はまた今年もダイさんにお願いしてて、ここだけの最新情報としては、映像関係の話も始まったから、ダイさんが知り合いの映像やってる人にちょっと喋ってもらおうかーっつって紹介してくれて。で、その人とコンタクトを取り始めたって感じ」
「えっ、そうなの? あたし講師をダイさんにお願いしたところまでしか知らなかったよ」
「あ、これは次回の会議で発表する予定の内容だったから対策委員もまだ全員は知らない話だったんだよ」
「逆にシノと誰が知ってる話だったんだよって感じだけど」
「俺とカノンと当麻と北星かな。ダイさんとの話は向島の人間がいると早いし、映像の話するときはやっぱ青敬勢の知識が必要で。実際そのクリエイターの人の映像を見て専門的なことがわかったのは北星だったから、その人との話は北星にメインでやってもらおうと思ってて」
「やっぱり北星って凄いなー。でもそうだよね。普段の映像のお仕事でもメールとかでビジネス的なやり取りはしてるし、大人の人との話だって実はあたしたちの中で一番慣れてる可能性だってあるもん」
「副班長としての陸は北星がコーヒーで溺れないように見守る程度でいい可能性もあるね」
「だとすると俺も気が楽になるんだけど。リーダーとか班長なんて柄じゃないし」
「あたしも一応対策委員なんだけど、今のところ何にも出来てないよね。補佐役なんだとは思ってるけどさあ」
「くるみに期待してんのはモチベーターとかムードメーカー的な役割だから。あと必要物資の買い出しで支出を抑える買い物術」
「それだ! 対策委員の財布事情は定例会、っつーかインターフェイス全体の財政事情にも直結する!」
「勉強しまっせ!」

 春風からチラッと聞いたけど、映像に関係のない話でふにゃふにゃした様子の北星を「頑張ろ~」という気にさせるのはくるみの何気ない一言だったりするから、映像分野のエースのモチベーションを保つという大きな仕事はちゃんとやれてるみたいなんだよね。もちろん本人は何も気付いてないんだけど。
 どちらかと言えばくるみもMBCCでは映像分野の方で期待されてる感があるし、青敬勢と仲が良いということで今後のサークル内での活躍に期待したいところ。今のところまだガッツリ映像での活動をやろうって話にはなってないけど、もしそういう話になるとするならくるみのノウハウは絶対に必要になるから。

「夏合宿となると俺は結構無力だなあ」
「すがやんは対策委員じゃないし全然大丈夫だよ」
「いや、時と場合によっては割と真面目にすがやんに第2ドライバーを頼む可能性はある」
「え、マジで? 聞いといて良かったー」
「ほら、ドライバーは当麻がいるけど対策委員の人数の割に車が1台しかないから、もしかしたらな? 極力自分たちでどうにかするようにはするけど」
「そういうことだったら言ってくれれば全然動くぜ!」
「すがやんにも役割が振られたら、いよいよ私が本当に無力になったんだけど」
「レナはいつも通りでいいんじゃない」
「いつも通り?」
「いつもみたくみんなを冷静に見守って、空回ってる人がいれば適切な指示をくれたり、不思議な説得力のある言葉をかけてみんなを落ち着かせたり。レナなら何とかしてくれる、レナがいるから大丈夫って、俺たちみんな思ってるところはある」
「そうだよ! サキだけじゃないよ! あたしだってレナのこと大好きだし、頼りにしてるからね!」
「みんながみんなフル回転してても、なかなか上手くいかないもんだなってのは思うよなー。何だかんだ夏は俺とサキも定例会で忙しくなるだろうし、MBCCの中のことはレナにお任せになるかも」
「すがやん!? 俺もいるんだけど」
「ササはシノの勉強見てやんないといけないだろ」
「名誉ある仕事だ」
「うん、そうだね。私も私に出来ることをやるよ」

 それが何なのかはまだわからないけど、とりあえず今のところはサキの言うように、いつも通りで。

「あ、そうだ陸さん」
「はい」
「北星との会話でワンチャン特撮の話聞けそうだったら聞きたいことまとめて渡すんで代理質問お願いします」
「わかった」
「ここぞとばかりにレナが通常運転かましてきたね」
「そっかー! レナはそうやって紹介すればよかったねー! 失敗したー!」
「でも私は北星をシバくことは出来ないから、副班長はやっぱり陸さんじゃないと。そうじゃないとみちるは入れられなかったし」
「あそっか。じゃ結果オーライかな!」
「よーし、合宿頑張るぞー!」
「シノ、頑張れー!」
「お前も頑張んの」


end.


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ここの同期はいつだってわちゃわちゃしている。学年が上がってサキやレナがよく喋るようになったかもしれない。
現状まだ話の上では出てきていないフェーズ3MBCCの1年生にもちょっとキャラ付け。そのうち話にも出て来るかな?
サキが奏多に辛辣なのもお決まりになりつつあるけどすがやんは一応まだ窘めてるようですね

(Phase3)

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